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第4章 尾影の襲来
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朝の谷は、いつもと変わらず静かだった。木々の葉が柔らかく揺れ、鳥たちがさえずる。しかし、ポンとミクの心にはまだ、昨夜の黒尾の囁きが残っていた。
「油断するな、ミク……」
ポンは低く呟き、甲羅を磨く手を止めた。遠くの森の影が、どこか不自然に揺れている。
その時、風の音に混ざるかすかな足音が聞こえた。葉の間を黒い影が滑り、瞬く間に谷へ降りてくる。九つの尾を思わせる影が光を吸い込み、地面に伸びては縮んだ。
「……来た!」
ミクが叫ぶ。目の前に現れたのは、黒尾の手下だった。狐の姿を模し、尾のような黒い影を幾重にもまとった獣。動きは素早く、光の下で尾が揺れるたび、不気味な波紋が空気を震わせた。
クララは恐怖で後ずさる。
「兄さん……!」
ポンは彼女を庇い、前に立った。
「離れろ、クララ。」
クララは小さく頷き、少し離れた木陰に身を潜める。心配そうな瞳で兄たちを見守った。
手下が先制攻撃を仕掛ける。尾の影を振り回し、地面をえぐるようにして突進してきた。ミクは素早く身を翻し、鋭く伸ばした爪で応戦する。ポンは甲羅を盾にしながら、重心を低くして相手の動きを読み、連携の間合いを計った。
戦闘は激しく、風と葉が渦を巻く。尾の影は曲者で、予測不能な動きで兄弟を翻弄する。だが、二人は互いの動きを信頼し、瞬時に攻守を切り替えた。ポンの甲羅刀が尾影を斬り裂き、ミクの素早い蹴りが側面から追撃する。
戦いの最中、クララは息を詰めながら声を押し殺す。涙が頬を伝い、心配で胸が押し潰されそうになる。だが、兄たちの必死の動きと目の前で見せる冷静さに、彼女は少し勇気を取り戻した。
手下は次第に疲れを見せ、動きが鈍くなる。ポンは機を見て一閃、尾の影を切り裂いた。ミクも横から飛び込み、残る尾影を封じる。手下は呻き声をあげ、黒い煙のように消えていった。
谷には静寂が戻ったが、兄弟の胸には戦いの余韻が残る。倒したのは手下の一部に過ぎず、黒尾の力はまだ完全には顕れていないことを痛感した。
「……黒尾の力、ほんの一片だけ見えたな」
ポンは遠くの森を見据え、硬く拳を握った。
「奴らは、これの序章に過ぎない」
ミクも同じ視線を送りながら、戦闘の緊張を胸に刻む。
クララはそっと近づき、兄たちの手に触れた。
「……怖かった…兄さん達ケガはしてない?…」
ポンは大丈夫と微かに笑い、クララの頭を撫でる。
「まだまだ油断はできん。だが、守る力はついてきている」
ミクも力強く頷いた。
その夜、森の奥で黒尾は静かに尾を揺らしていた。手下の敗北を知りながらも、まだ動き出す時ではないと判断したのだ。九つの尾が月明かりを反射し、闇の中で妖しく揺れた。
黒尾の視線は、確かに甲羅谷とその住人たちに向けられている。
兄弟とクララ――そして谷の平穏は、まだ守られている。
しかし、その日常は、すでに黒尾の影に囁かれていた。
「油断するな、ミク……」
ポンは低く呟き、甲羅を磨く手を止めた。遠くの森の影が、どこか不自然に揺れている。
その時、風の音に混ざるかすかな足音が聞こえた。葉の間を黒い影が滑り、瞬く間に谷へ降りてくる。九つの尾を思わせる影が光を吸い込み、地面に伸びては縮んだ。
「……来た!」
ミクが叫ぶ。目の前に現れたのは、黒尾の手下だった。狐の姿を模し、尾のような黒い影を幾重にもまとった獣。動きは素早く、光の下で尾が揺れるたび、不気味な波紋が空気を震わせた。
クララは恐怖で後ずさる。
「兄さん……!」
ポンは彼女を庇い、前に立った。
「離れろ、クララ。」
クララは小さく頷き、少し離れた木陰に身を潜める。心配そうな瞳で兄たちを見守った。
手下が先制攻撃を仕掛ける。尾の影を振り回し、地面をえぐるようにして突進してきた。ミクは素早く身を翻し、鋭く伸ばした爪で応戦する。ポンは甲羅を盾にしながら、重心を低くして相手の動きを読み、連携の間合いを計った。
戦闘は激しく、風と葉が渦を巻く。尾の影は曲者で、予測不能な動きで兄弟を翻弄する。だが、二人は互いの動きを信頼し、瞬時に攻守を切り替えた。ポンの甲羅刀が尾影を斬り裂き、ミクの素早い蹴りが側面から追撃する。
戦いの最中、クララは息を詰めながら声を押し殺す。涙が頬を伝い、心配で胸が押し潰されそうになる。だが、兄たちの必死の動きと目の前で見せる冷静さに、彼女は少し勇気を取り戻した。
手下は次第に疲れを見せ、動きが鈍くなる。ポンは機を見て一閃、尾の影を切り裂いた。ミクも横から飛び込み、残る尾影を封じる。手下は呻き声をあげ、黒い煙のように消えていった。
谷には静寂が戻ったが、兄弟の胸には戦いの余韻が残る。倒したのは手下の一部に過ぎず、黒尾の力はまだ完全には顕れていないことを痛感した。
「……黒尾の力、ほんの一片だけ見えたな」
ポンは遠くの森を見据え、硬く拳を握った。
「奴らは、これの序章に過ぎない」
ミクも同じ視線を送りながら、戦闘の緊張を胸に刻む。
クララはそっと近づき、兄たちの手に触れた。
「……怖かった…兄さん達ケガはしてない?…」
ポンは大丈夫と微かに笑い、クララの頭を撫でる。
「まだまだ油断はできん。だが、守る力はついてきている」
ミクも力強く頷いた。
その夜、森の奥で黒尾は静かに尾を揺らしていた。手下の敗北を知りながらも、まだ動き出す時ではないと判断したのだ。九つの尾が月明かりを反射し、闇の中で妖しく揺れた。
黒尾の視線は、確かに甲羅谷とその住人たちに向けられている。
兄弟とクララ――そして谷の平穏は、まだ守られている。
しかし、その日常は、すでに黒尾の影に囁かれていた。
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