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第5章 黒尾、月下に現る
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手下との戦いから数日、甲羅谷には一見すると平穏が戻っていた。だが、兄弟もクララも、その静けさを素直に喜ぶことはできなかった。
夜ごと、谷を覆う影は濃さを増し、獣たちの鳴き声には不穏な震えが混じり始めていた。
その夜、ミクは夢の中で奇妙な気配を感じた。深い闇の中、白く冷たい月が浮かんでいる。そこに九つの尾をゆらめかせながら、巨大な影が姿を現した。
「……我が名は黒尾(こくび)」
低く響く声が、夢とも現ともつかぬ空間を震わせた。
「かつて、この谷で我を封じた者がいた……甲羅の一族の戦士だ。ゲンザブロウ――あの男の血を継ぐ者よ、貴様らがそれか」
ミクは息を呑み、夢の中でさえ甲羅が冷たくなるのを感じた。
「父を……知っているのか……!」
「知っているとも。奴の刃は我が尾をも斬り裂いた。だが、我は滅びぬ。永劫に闇と共にあり、今こそ再び目覚めるのだ」
九つの尾が一斉に広がり、空を覆った。その圧倒的な威容に、ミクは声を失った。
目を覚ますと、汗に濡れた顔をポンが覗き込んでいた。
「ミク……どうした?」
「兄ちゃん……黒尾が……夢に現れた。父さんと戦った闇の一族の長だって……」
ミクの声は震えていたが、確かに真実を告げていた。
ポンは黙り込んだ。だが、瞳には怒りと恐怖とが同居していた。
「やはり……父さんが守ったものを、今度は俺たちが守らねばならないということか」
話を聞いていたクララは顔を青ざめさせた。
「兄さんたち……もうやめてよ……また戦うの? この谷を巻き込んで……!」
その声には涙が混じっていた。ポンは妹を抱き寄せ、静かに答える。
「クララ……戦わなければ、お前も、この谷も呑まれてしまう」
その時、外から獣の悲鳴が響いた。三人は驚いて戸を開け、夜の谷を見回す。そこには異様な光景が広がっていた。森の木々が影に包まれ、枝葉が黒ずんで揺れている。普段は大人しい鹿や鳥が目を赤く光らせ、狂ったように走り回っていた。
自然そのものが黒尾の支配に侵され始めていたのだ。
「これは……夢じゃない」
ポンは低く呟き、腰の甲羅刀を握りしめた。
ミクも肩を並べ、視線を遠くの森に向ける。そこに――九つの尾が月明かりに浮かび上がった。
黒尾は姿を現した。谷を覆うほどの巨大な影、九つの尾が夜風に揺れ、冷たい光を反射する。瞳は深紅に輝き、兄弟を射抜いた。
「来い、甲羅の子らよ……父の遺した刃がどれほどのものか、我が確かめてやろう」
その声は谷全体に轟き渡り、木々も石も震えた。クララは恐怖で足を竦ませ、兄弟はただその威容を睨み返した。
いよいよ、父が遺した因縁と、兄弟が背負うべき宿命が、月下に明らかになったのだ。
夜ごと、谷を覆う影は濃さを増し、獣たちの鳴き声には不穏な震えが混じり始めていた。
その夜、ミクは夢の中で奇妙な気配を感じた。深い闇の中、白く冷たい月が浮かんでいる。そこに九つの尾をゆらめかせながら、巨大な影が姿を現した。
「……我が名は黒尾(こくび)」
低く響く声が、夢とも現ともつかぬ空間を震わせた。
「かつて、この谷で我を封じた者がいた……甲羅の一族の戦士だ。ゲンザブロウ――あの男の血を継ぐ者よ、貴様らがそれか」
ミクは息を呑み、夢の中でさえ甲羅が冷たくなるのを感じた。
「父を……知っているのか……!」
「知っているとも。奴の刃は我が尾をも斬り裂いた。だが、我は滅びぬ。永劫に闇と共にあり、今こそ再び目覚めるのだ」
九つの尾が一斉に広がり、空を覆った。その圧倒的な威容に、ミクは声を失った。
目を覚ますと、汗に濡れた顔をポンが覗き込んでいた。
「ミク……どうした?」
「兄ちゃん……黒尾が……夢に現れた。父さんと戦った闇の一族の長だって……」
ミクの声は震えていたが、確かに真実を告げていた。
ポンは黙り込んだ。だが、瞳には怒りと恐怖とが同居していた。
「やはり……父さんが守ったものを、今度は俺たちが守らねばならないということか」
話を聞いていたクララは顔を青ざめさせた。
「兄さんたち……もうやめてよ……また戦うの? この谷を巻き込んで……!」
その声には涙が混じっていた。ポンは妹を抱き寄せ、静かに答える。
「クララ……戦わなければ、お前も、この谷も呑まれてしまう」
その時、外から獣の悲鳴が響いた。三人は驚いて戸を開け、夜の谷を見回す。そこには異様な光景が広がっていた。森の木々が影に包まれ、枝葉が黒ずんで揺れている。普段は大人しい鹿や鳥が目を赤く光らせ、狂ったように走り回っていた。
自然そのものが黒尾の支配に侵され始めていたのだ。
「これは……夢じゃない」
ポンは低く呟き、腰の甲羅刀を握りしめた。
ミクも肩を並べ、視線を遠くの森に向ける。そこに――九つの尾が月明かりに浮かび上がった。
黒尾は姿を現した。谷を覆うほどの巨大な影、九つの尾が夜風に揺れ、冷たい光を反射する。瞳は深紅に輝き、兄弟を射抜いた。
「来い、甲羅の子らよ……父の遺した刃がどれほどのものか、我が確かめてやろう」
その声は谷全体に轟き渡り、木々も石も震えた。クララは恐怖で足を竦ませ、兄弟はただその威容を睨み返した。
いよいよ、父が遺した因縁と、兄弟が背負うべき宿命が、月下に明らかになったのだ。
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