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11話
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店の入り口の扉がカランと音を立て開いた。
『いらっしゃいませ~』と、いつもなら落ち着いた声を掛けているのに、その時は、目の前のお客さんの光景に目を奪われ、次の言葉が出てこなかった。
「いらっ‥‥えっ?‥」
朝陽は郊外でカフェを営んでいた。
あの時からの夢だったと言えば聞こえはいいが、最後は意地になっていたのかもしれない。
駅から少し歩くそのカフェは、落ち着いた住宅街の奥に位置するため、日曜日の今日、昼過ぎは近所のおじ様やおば様方が、世間話に話を咲かせている時間帯でもある。
店内にはジャズが流れ、落ち着いたロッジ風の木のぬくもりを感じさせる店構えで、テーブル席が20席程と、カウンター席が5席あるくらいの、ちいさなカフェAOIは、ほどほどに繁盛していた。
そんな昼下がりに入ってきた若い男が、カウンターに立っている朝陽を見た瞬間に、バタンと大きな音を立て、入り口の扉に張り付いたのには、店内中が驚くのも無理はない。
「だっ‥大丈夫ですか?」
慌ててカウンターから走り寄り、扉に張り付いている男の傍に寄ると、男は気を取り直したのか、額に滲み出る汗を手で拭った。
「あっ‥すみません、ちょっと、驚いたもので‥ははっ‥」
引き攣った笑いをしながら、必死に落ち着こうとしているので、朝陽はあえてそれ以上は聞かなかった。
「そ‥そうですか。席にご案内しますか?」
朝陽は、もしかしてこの客は体調不良なのか?とも考え、一応、客かどうか確認するために声を掛けてみた。
「は‥はいっ‥」
呼吸を整えたみたいで、返事をした男は、店内にジロジロと目を走らせ、そして眉を寄せた。
怪訝な顔をしている男の前を、ゆっくりと歩き、一番奥の落ち着いた席へと案内すると、周囲の驚いていた客達も、その様子を見て安心したのか、視線を外し、自分達の会話に戻っていく。
「‥こちらへどうぞ、ご注文決まりましたら、お声かけて下さいね~」
「あっ‥はい」
男は暑いのか、歩きながら着ていたカーディガンを脱ぎ、汗を垂らしている額を袖で拭うと、朝陽の後ろを気にしながら返事をした。
その様子に、少し違和感を感じるが、朝陽は背を向けカウンターにおしぼりとお冷を取りに行った。
男は、その朝陽の背をジッと見つめ、そして大きく溜息を付いた。
「‥暑いですか?」
お冷とおしぼりを出した時、まだ額に大粒の汗をかいている男に、朝陽は声を掛けたが、先程から、ずっと見られているような視線を感じていた。
「‥いっ‥いえ、大丈夫です‥ハハッ‥」
渇いた笑顔を向けられ、営業スマイルを向けた朝陽は、再びカウンターへと戻る。
男は朝陽が出した水を、一気に飲み干すと、温かいおしぼりで顔を拭い、大きく溜息を付き、ようやく席に置いてあるメニューを広げた。
朝陽は、先程の男の視線の意図を考えていた。
実際、朝陽は目つきが悪く、小さな頃から悪人面と言われ続け、道を歩けば睨んだだの、因縁を付けられる事が多々あった事も事実。
だが、28歳になった今では、自分でも落ち着いてきていると感じていたのに、あの男の反応を見て、もう少し笑顔が足らなかったのか‥と心配していた。
ようやくメニューを眺めている男に注意しながら仕事を進めていると、ようやく男がこちらを向き手を上げた。
「‥は~い」
出来るだけ優しい声で返事をして、いそいそと駆け寄る。
「お決まりですか?」
優しく‥優しく‥笑顔で‥。
「あっ、カフェオレと‥ミックスサンド‥」
オドオドとしている男に、しつこいくらい笑顔で返す。
「はい、カフェオレはアイスとホット、どちらがよろしいでしょうか?」
「‥じゃあ、アイスで」
「畏まりました。アイスカフェオレとミックスサンドですね‥少々お待ちください」
深々と数多を下げカウンターへと向かう‥んーやっぱり視線を感じるような気がするのは、気のせいだろうか‥と、朝陽はチラリと肩越しに振り返ると、バチッと男と目が合った。
「はっ‥ははっ‥」
ニコリと再び笑顔を向け、早歩きでカウンターに戻るが、ドキドキと心臓が煩い。
朝陽は聞いてきたオーダーを手際よく準備するが、手は動いていても視線がたまにチラリと男へ向けられる。
やはり気になるのだ。
どこか憎めないというか‥なんだろう‥と、分からない気持が込み上げ、いつしかフフッと朝陽から笑い声が漏れた。
完成したアイスカフェオレとミックスサンドを男が待っているテーブルに運ぶ。
「お待たせいたしました」
テーブルの上にキチンと並べると、男がジッと朝陽を見ている事に気が付き、あからさまな視線に、思わず頬が赤くなりそうになるのを、手で隠した。
「‥あの‥なにか?」
「いっ‥いえ、ここは何時までですか?」
食い入るように見ていた視線をゆっくりと逸らすと、男が聞いてきた。
「ああ、お店は19時までです」
「あっ、そうですか‥」
視線を自分の手に移した男に、ペコリと頭を下げ、朝陽は再びカウンターへと戻る。
そして再び始まる動悸に、何故だか分からないが、見てはいけないと思いつつも、視線があの男に行ってしまう。
男は、おそらく大学生くらい‥20代前半か‥もしくは10代?いや‥それは止めてくれ‥。
白のTシャツに黒のデニムを履いて、長身で程よく筋肉が付いている身体をしており、短髪で男らしい端正な顔立ちをしていた。
いけないと分かっていても、品定めの様に視線を送り、ゴクリと生唾を呑む。
「いや‥ダメだから‥」
小さく自分を戒めるために呟いた。
『いらっしゃいませ~』と、いつもなら落ち着いた声を掛けているのに、その時は、目の前のお客さんの光景に目を奪われ、次の言葉が出てこなかった。
「いらっ‥‥えっ?‥」
朝陽は郊外でカフェを営んでいた。
あの時からの夢だったと言えば聞こえはいいが、最後は意地になっていたのかもしれない。
駅から少し歩くそのカフェは、落ち着いた住宅街の奥に位置するため、日曜日の今日、昼過ぎは近所のおじ様やおば様方が、世間話に話を咲かせている時間帯でもある。
店内にはジャズが流れ、落ち着いたロッジ風の木のぬくもりを感じさせる店構えで、テーブル席が20席程と、カウンター席が5席あるくらいの、ちいさなカフェAOIは、ほどほどに繁盛していた。
そんな昼下がりに入ってきた若い男が、カウンターに立っている朝陽を見た瞬間に、バタンと大きな音を立て、入り口の扉に張り付いたのには、店内中が驚くのも無理はない。
「だっ‥大丈夫ですか?」
慌ててカウンターから走り寄り、扉に張り付いている男の傍に寄ると、男は気を取り直したのか、額に滲み出る汗を手で拭った。
「あっ‥すみません、ちょっと、驚いたもので‥ははっ‥」
引き攣った笑いをしながら、必死に落ち着こうとしているので、朝陽はあえてそれ以上は聞かなかった。
「そ‥そうですか。席にご案内しますか?」
朝陽は、もしかしてこの客は体調不良なのか?とも考え、一応、客かどうか確認するために声を掛けてみた。
「は‥はいっ‥」
呼吸を整えたみたいで、返事をした男は、店内にジロジロと目を走らせ、そして眉を寄せた。
怪訝な顔をしている男の前を、ゆっくりと歩き、一番奥の落ち着いた席へと案内すると、周囲の驚いていた客達も、その様子を見て安心したのか、視線を外し、自分達の会話に戻っていく。
「‥こちらへどうぞ、ご注文決まりましたら、お声かけて下さいね~」
「あっ‥はい」
男は暑いのか、歩きながら着ていたカーディガンを脱ぎ、汗を垂らしている額を袖で拭うと、朝陽の後ろを気にしながら返事をした。
その様子に、少し違和感を感じるが、朝陽は背を向けカウンターにおしぼりとお冷を取りに行った。
男は、その朝陽の背をジッと見つめ、そして大きく溜息を付いた。
「‥暑いですか?」
お冷とおしぼりを出した時、まだ額に大粒の汗をかいている男に、朝陽は声を掛けたが、先程から、ずっと見られているような視線を感じていた。
「‥いっ‥いえ、大丈夫です‥ハハッ‥」
渇いた笑顔を向けられ、営業スマイルを向けた朝陽は、再びカウンターへと戻る。
男は朝陽が出した水を、一気に飲み干すと、温かいおしぼりで顔を拭い、大きく溜息を付き、ようやく席に置いてあるメニューを広げた。
朝陽は、先程の男の視線の意図を考えていた。
実際、朝陽は目つきが悪く、小さな頃から悪人面と言われ続け、道を歩けば睨んだだの、因縁を付けられる事が多々あった事も事実。
だが、28歳になった今では、自分でも落ち着いてきていると感じていたのに、あの男の反応を見て、もう少し笑顔が足らなかったのか‥と心配していた。
ようやくメニューを眺めている男に注意しながら仕事を進めていると、ようやく男がこちらを向き手を上げた。
「‥は~い」
出来るだけ優しい声で返事をして、いそいそと駆け寄る。
「お決まりですか?」
優しく‥優しく‥笑顔で‥。
「あっ、カフェオレと‥ミックスサンド‥」
オドオドとしている男に、しつこいくらい笑顔で返す。
「はい、カフェオレはアイスとホット、どちらがよろしいでしょうか?」
「‥じゃあ、アイスで」
「畏まりました。アイスカフェオレとミックスサンドですね‥少々お待ちください」
深々と数多を下げカウンターへと向かう‥んーやっぱり視線を感じるような気がするのは、気のせいだろうか‥と、朝陽はチラリと肩越しに振り返ると、バチッと男と目が合った。
「はっ‥ははっ‥」
ニコリと再び笑顔を向け、早歩きでカウンターに戻るが、ドキドキと心臓が煩い。
朝陽は聞いてきたオーダーを手際よく準備するが、手は動いていても視線がたまにチラリと男へ向けられる。
やはり気になるのだ。
どこか憎めないというか‥なんだろう‥と、分からない気持が込み上げ、いつしかフフッと朝陽から笑い声が漏れた。
完成したアイスカフェオレとミックスサンドを男が待っているテーブルに運ぶ。
「お待たせいたしました」
テーブルの上にキチンと並べると、男がジッと朝陽を見ている事に気が付き、あからさまな視線に、思わず頬が赤くなりそうになるのを、手で隠した。
「‥あの‥なにか?」
「いっ‥いえ、ここは何時までですか?」
食い入るように見ていた視線をゆっくりと逸らすと、男が聞いてきた。
「ああ、お店は19時までです」
「あっ、そうですか‥」
視線を自分の手に移した男に、ペコリと頭を下げ、朝陽は再びカウンターへと戻る。
そして再び始まる動悸に、何故だか分からないが、見てはいけないと思いつつも、視線があの男に行ってしまう。
男は、おそらく大学生くらい‥20代前半か‥もしくは10代?いや‥それは止めてくれ‥。
白のTシャツに黒のデニムを履いて、長身で程よく筋肉が付いている身体をしており、短髪で男らしい端正な顔立ちをしていた。
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「いや‥ダメだから‥」
小さく自分を戒めるために呟いた。
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