待ち人は、いつも傍に‥

白樫 猫

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12話

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閉店10分前になり、最後のお客が帰ると、そろそろ閉店しようと看板を下げに外に出る。
10月になり日が沈むと、一気に気温が下がる。
白のシャツと黒のパンツとサロンエプロンだけでは寒く感じ、ブルッと震える。
看板のコンセントを抜くと、ヨイショと持ち上げ窓の下の隙間に収納する。
店内に戻ると、そこから掃除をしたり明日の仕込みをしたりと、やる事はいっぱいある。
すると、再び入り口がカランと音を立てた。

「あ~すみません‥もう閉店なんです」

テーブルを拭いていたクロスを手に持ち、入り口に居るであろうお客に声を掛けながら歩み寄る。

「‥えっ?」

思わず声が漏れる。
目の前には、先程、自分をジロジロと見ていた若い男が、立っていたのだ。

「あっ‥あの‥少し時間頂けませんか?」

少し戸惑いながら話す男に、どう返事をしたらよいのか分からない。

「えっと‥閉店なんですが‥どういったご用件ですか?」

おそらく自分の顔は強張っているかもしれないが、そんな事を気にする余裕が今の朝陽にはなかった。
その男が、朝陽の顔を見て、一瞬たじろいだようにも見えたが、諦める様子はなく再び口を開いた。

「ええ‥分かってます。少しで良いので‥お話を‥」

朝陽の心の中に、先程のよこしまな考えや、なんやかんやが一気に押し寄せるが、まさかそんな都合の良い事があるわけないし、ほんと一瞬だけ考え込んだが、すぐに返事をした。

「わかりました。先に店閉めちゃうんで‥先程の席で待っていて貰えますか?‥10分程で良いので‥」

朝陽のその言葉に、男は小さく頷くと、早歩きで先程の奥の席へと向かい、ちょこんと座った。
男が座ったのを確認すると、朝陽は閉店作業を再開した。
10分を少し過ぎた頃、ひとまず掃除だけ終わらせ、朝陽は温かいカフェオレを2つ入れ、そのマグカップを持ち、男が座っている席に向かった。
作業しながらチラチラと見てはいたが、男は視線を正面に向けたまま、一人でブツブツと何やら呟いていた。
その姿が少し怖いが、朝陽は逆に怪しい男が面白くもあった。

「‥すみません、待たせてしまって‥もしよかったら、これ飲んでください」

朝陽はそう言って、カフェオレのカップをひとつ渡して、男の正面に座った。
ペコリと頭を下げた男は、昼間来た時より、どこか顔色が悪いように見えた。

「‥で?お話って‥なんでしょう?」

朝陽がそう問いかけると、話しにくいのか男はモジモジとテーブルの上に置いた自分の両手を動かしていた。
その様子に、朝陽はカフェオレを一口飲み、話し出すのをしばらく待っていたが、どれくらい待ったのか‥おそらく5分‥くらいだろうが、待っている時間が長く感じ、朝陽もだんだんと苦痛になってくる。

「‥あの‥そろそろ話して貰えませんか?」

ついにしびれを切らした朝陽が、先程から自分の手をずっと眺めていた男の視野に入る様に、下から覗き込む。

「あっ‥すっ‥すみません」

一度、朝陽に視線を送るも、すぐに逸らしてしまう男に、何やら好意のようなものを感じ、朝陽はフフッと笑う。

「‥バカバカしいと思っても‥最後まで聞いて貰えますか?」

覚悟を決めたのか、真っ直ぐに朝陽に視線を投げ、そう言ってくる男に、朝陽はええ‥と返事をした。

「俺‥明新大学の3年生です」
「ああ‥俺も同じ大学だー。後輩だー」

それだけで、急に距離が縮まる感じがするのが不思議だ。

「あっ、橘凛太朗たちばなりんたろうと申します」
「‥井上朝陽です‥」

つい頭を下げ自己紹介をしてしまった。

「えっと‥俺は、前に井上さんが住んでいたアパートに住んでいます」
「‥えっ?‥ちょっと待って?‥あのボロアパート‥?‥んっ?ってか何で、俺がそこに住んでたの知ってんの?」

急に背筋がゾワゾワしてくる。
初対面の大学生に、自分の住んでいたアパートを知られていて、ここのカフェまで来るって‥どういう事?

「すっ‥すみません!気持ち悪いですよね?‥分かってます‥ちゃんと説明させてください!」

真剣に縋る様に言ってくる男‥橘凛太朗に押され朝陽は思わず頷いた。

「こんな事‥信じてもらえないと分かっていますが‥俺‥‥幽霊が見えるんです」

その発言に、一瞬、朝陽はキョトンと目を開き、フリーズしたが、すぐに聞き間違いだと思いなおした。

「‥んっ?」
「だから、俺‥あのアパートの102号室に居た、犬に連れて来られて、ここまで来たんです!」
「いっ‥犬?」
「はい、井上さん‥犬、飼ってましたよね?‥白くて‥柴犬っぽい大きさの‥」

何で知っているのか分からないが、誰かに聞いたに違いないと、そう朝陽は思った。

「‥アパートはペット禁止だぞ?」
「ええ、知ってます。でも‥井上さんは、飼ってましたよね。2年‥いや3年か‥それで大学4年の冬に亡くなってますよね‥老衰で、名前は‥ビル」
「なっ‥‥なんで?‥知ってる?」
「知ってます。‥その犬‥今、ここに居ますから!」

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