待ち人は、いつも傍に‥

白樫 猫

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28話

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口に含んでいたカフェオレが外に飛び出しそうになり、必死に飲み込むと、マグカップを一旦テーブルに避難させた。

「なっ‥なんだって?」

耳を疑う。

「‥‥だから、俺、朝陽さんが好きだって言ったの」

朝陽を見つめる熱い視線は、嘘偽りないと感じるが、朝陽は、その言葉を受け取る訳にはいかなかった。

「‥それは‥お前の勘違いだ‥」

朝陽の言葉に、凛太朗は少しも驚きも焦りもしていなかった。

「うん、そう言うと思った。でもね、違うよ‥。俺は、自分の目で朝陽さんを見てる。ちゃんと自分の手で、朝陽さんを感じてる。だから、これは俺の気持ち。勘違いじゃない」

凛太朗の手が、朝陽が膝の上に置いている手にゆっくりと触れてくる。
その優しく触れる手は、朝陽の事を愛おしいと言っている様だった。
一瞬でも、嬉しいと心が躍る事に、朝陽は罪悪感を感じ、凛太朗の手を振り払った。

「‥俺も、ちょうどお前に話があったんだ‥。‥‥こんな関係は終わりだ。もう‥ここに来なくても良いから、お前は、自分の人生を歩けよ。俺達に、係わって良い事なんか一つもないだろ?」
「あ~やっぱり、そう言うと思った。朝陽さんは、臆病だからね‥」

棘のある良い方に、朝陽はカチンときた。

「はっ?なんだそれ‥俺が、お前の為に‥」
「だから、それが臆病だって言ってんの!俺の気持ちを察して?俺の将来?何それ‥朝陽さんの気持ちは?俺の気持ちは、どこに行っちゃうの?‥勝手に、俺の人生を語らないで欲しい。俺は、自分の気持ちを簡単に捨てたりしない」

ああ‥やっぱり‥真っ直ぐだ‥眩しくて目が離せない。

「‥俺は‥‥だって‥‥俺‥‥」

自分の思いを口にすることが出来ない。

「‥俺は、朝陽さんが好きだ。朝陽さんの笑った顔が、もっともっとたくさん見たい。あなたと一緒に笑って幸せを感じたい。そして触れたい‥。朝陽さんに触れてみたい‥俺の心は、誰にも変えれないよ‥俺だけのものだから‥」

凛太朗の手が、再び朝陽の握り締めた拳にそっと触れてくる。
握り込んだ指をそっと剥がし、力を抜く様にそっと自分の手で包み込む。
それを振り払う事は、もう朝陽には出来なかった。

「俺の事‥嫌い?」

俯いた朝陽の顔を覗き込むように、凛太朗は顔を近づけてくる。
整った男性っぽい顔立ちで、今は瞳が探る様に朝陽を見ている。

「‥‥っ‥」

嫌いな訳じゃない。
嫌いになれるはずがない‥だけど朝陽は言葉に出来なかった。
口を開くと涙が零れそうで、今、傍で聞いてるであろう葵の事も、目の前で自分を見つめる凛太朗の事も、どちらも大切だったから。

「‥嫌いじゃないって事で良い?」

再確認するように言われた言葉で、朝陽は小さく頷いた。

「‥うん。これで、第一関門突破だね」

その言葉の意図が分からず、朝陽が驚いた顔を凛太朗に向けた。

「なっ、なに?第一関門って‥」
「次は、葵さん‥?葵さんの番ですよ‥」

凛太朗はそう言うと、ソファの脇でずっと背を向けていた葵に向かって声を掛けた。

「‥まず、こないだの返事、聞かせてください」

キョトンとしている朝陽の横で、凛太朗が話を進めていく。

『‥俺が、我儘言っても良いのか?』

こちらを振り向いた葵が、躊躇いながらそう口にした。

「勿論です。我儘なんかじゃありません。素直な気持ちを教えてください」
『‥俺は、やっぱり‥これからもずっと、朝陽の傍に居たいんだ‥少しでも長く‥だけど、朝陽が苦しんでいる姿は、もう‥見たくない‥笑っている朝陽を見ていたい。その笑顔が、俺に向けられなくても、お前でもいい。ただ‥幸せになって欲しいんだ‥‥』

なんて執着だ‥と葵は思う。
死んでもなお、忘れられず、傍に居たいと我が儘を言い、そして幸せになれと苦し紛れに言ってしまう。
本当は、この手で幸せにしたかったはずなのに‥。

「‥分かりました」

そう凛太朗が返事をした時、朝陽は自分の知らない所で、どんな会話をしていたのか、気になってくる。
そんな探るような眼をしている朝陽に、凛太朗が顔を向けた。

「‥朝陽さん、俺も‥葵さんも、朝陽さんが大好きです。朝陽さんは、どっちが好きですか?」

ギョッとする質問だった。
そんなの選べるはずがない。

「ちなみに‥葵さんは、今、そこに居ます」

凛太朗はそう言って、ソファの前を指さした。

「‥‥葵」

思わず口から名が零れる。

「‥どっちが好きですか?」

再び答えを求められ、朝陽は瞳を揺らす。
決められない‥選べない‥。

「‥じゃあ、どっちも好きって事で、良いですか?」

あっさりとそんな言葉が凛太朗の口から聞こえ、朝陽は目を見開いた。

「‥‥どっちもって‥なんだよそれ‥」
「クスクスッ‥だって、そういう事でしょ?」

まぁ、確かにそういう事ではあるが‥と、楽しそうに笑う凛太朗の姿に、深く考え込んでいた自分がおかしいのか、分からなくなり、思わず笑ってしまう。

「ふふっ‥なんだよそれ‥」
「良いんです‥それで‥俺も葵さんも‥」

凛太朗は、そう言うと朝陽の頬を優しく撫で上げる。

「朝陽さん、好きです‥ずっと、傍に居ます‥」

慈しむ様な視線を向けられ、朝陽はドキッと胸が高鳴り、頬が熱くなる。

「‥りっ、凛太朗‥」
「朝陽さん‥俺、本当は‥すっごく、キスして抱きしめたい気分です‥だけど、今日は‥葵さんに譲ります。でもね、忘れないで下さい。俺も‥一緒に居るって、葵さんと俺は、一心同体ですからね‥」

頬に触れた指が、探る様に撫でる。
艶やかな声にドキドキと心臓が音を立てる。

「なっ‥なに?‥どういう事‥?」

口の中が渇き、呼吸が苦しくなる。

「そういう事です‥葵さん‥いいですよ‥」

フワッと笑う凛太朗が優しくて、朝陽は思わず凛太朗の頬を両手で挟み込み、自分の唇を押し当てた。
一瞬、凛太朗が脱力したと感じたあと、朝陽は荒々しく抱き寄せられた。

「‥んっ‥‥ふぅ‥‥」

触れた唇が開くと、待っていたかのように舌が滑り込む。
それは朝陽の舌を絡めとり、自分の口内へと吸い込みクチュリと音を立てた。
絡みついた舌は、生き物のように口内を蠢き、朝陽の上顎をザラリと舐めると、抱き寄せた手がギュッとシャツを掴む。
互いの唇から絡め合った舌が覗くと、どちらかの唾液が透明な糸となり離れていく。
鼻先が触れるほどの至近距離で、互いの瞳を見つめている。

「‥葵」
「‥うん、朝陽‥‥」

葵の瞳から、スッと涙が零れ落ちた時、それを朝陽は唇で触れた。
あの切れ長の瞳ではないが、その男らしい瞳の奥で光る情愛は、それが葵だと語っている。
そして朝陽は、また零れ落ちる涙に口づけをした。


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