飛んで火に入る火取蟲

白樫 猫

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火を恋う青蛾は焔に焼かれ

2話

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55階建てのマンションの最上階には、二人の男が残っていた。
男達の仕事は、獅道がこのマンションで快適に過ごせるように準備する事と、今、寝室で眠っている男の世話だった。

「朝からこえーよ」

下っ端なのか、ビクビクとした声で、もう一人の男に話しかける。
毎朝のこの報告会が怖くて仕方がないようだった。

「今日はまだましだ。昨夜のGemmaジェンマの件が片付いていたからな。あれが片付いてなかったと思うと‥」

その男はブルッと震えあがる。
Gemmaジェンマというのは、市原興業が経営しているBARの一つだ。先程、獅道に報告があったように、昨夜は、そのBARで騒ぎを起した男が居た。そいつは獅道の勢力に対抗している石塚という男の手下だったのだ。すでに捕まって処分されているだろう。

市原興業とは、会社の名をしているが裏の組織で、表向きは建築業・金融業・飲食業などの経営を、裏では武器の輸入や薬の売買にも手を出していると噂もある、関東では1・2を争うくらい規模の大きな組織ではある。
そこで権守獅道は飲食業を一手に担う幹部になっている。
組織の幹部にしては、まだ若い31歳の獅道は、恨みを買われやすかった。だが、理由なく幹部にまで成りあがったわけでなく、ハッキリとした成果が報告されている。この世界、結果が全てであるから、表立って文句は言えず、陰で足を引っ張るという姑息な手を使う輩は多い。

「俺らは、獅道さんについていこうな!」

そう言ってニカッと笑うと八重歯が見え可愛らしい顔をしている男は、新庄しんじょうという。
そうだなと笑うもう一人の男は、どう見ても特徴のない平凡な顔をしており、名は飯田いいだという。
二人はそう話を終えると、エプロンを身に着け、いそいそと部屋を片付けたり、キッチンで食事の用意をしたりと忙しそうに働いていた。
前は家政婦を雇っていたのだが、こんなむさ苦しい男しかいない職場では、なかなか続かない。そのため仕方なく下っ端の割に気の利くこの二人に白羽の矢が立ったのだ。この二人が家政婦まがいの仕事を始めて、かれこれ2年は経つ。

二人が掃除を終えそうな頃、寝室では男が目を覚ましていた。
うーんと伸びをし、ゆっくりと身体を起す。昨夜は、また気を失うまでセックスをせがんでしまった事の少しの罪悪感と、それに応えてくれた獅道の気持ちを確認できた安心感が、複雑に入り混じった感情のままベッドから立ち上がる。慣れているとはいえ、身体がギシギシと音を立てているように強張っている。

「‥っ‥いっ‥‥クソッ‥」

自業自得だと分かっていても、口から文句が出てしまう。
立ち上がった瞬間、股の間からドロリと昨夜たっぷりと注がれた精液が流れ出ると、そのゾワリとした感覚に男は眉間に皴を寄せ、そのままフラフラとシャワールームへと入っていく。

バスローブを着て寝室から出てきた男に、新庄と飯田はにこやかに挨拶をした。

「おはよっす。身体の調子はどうっすか?」

新庄の馴れ馴れし言葉に、男はふっと笑う。

「いつもの同じ‥」
ひびきさん、朝食‥いや昼食か、どうします?すぐ食べますか?」

時計を見ながら飯田が話しかけてくる。うんと頷いた響と呼ばれた男は、先程、獅道がどっしりと掛けていたソファに腰掛けた。
しばらくすると、飯田が食事を乗せたトレイを目の前に置いた。ご飯とみそ汁に卵焼き、納豆やおしんこまでそろえた和朝食だ。

「はい、いつものですよー」

目の前に出されると、響はいただきます‥と手を合わせ嬉しそうに箸を取った。
モグモグと頬張り、微笑んでいる瞳は大きく、スッと鼻筋の通った鼻に、昨夜の口づけで少し腫れているのかポッテリと赤く染まった唇。童顔で24歳という年齢には見えない可愛らしい顔立ちだった。
年齢的には、新庄が26歳、飯田は28歳と年上だが、二人はまだ組織に入って5年と短いのと、獅道の恋人という位置にいる響に、初めは敬語を使っていたが、敬語は止めてくれと響に言われ、毎日顔を合わせているうちに、ため口になりつつあった。だが、これが獅道を前にすると、きちんと敬語になるから不思議なものだ。

「俺ら、寝室の掃除しますんで、響さんはゆっくり食べて下さいねー」

そう二人は声を掛けると、先程、響が出てきた寝室へと入っていった。
初めこそ、自分達の精液が付いたシーツやら何やらを見られることに抵抗があったが、そのうちその抵抗もなくなった。

「‥ありがとう」

そう言った響は、再び箸を進めていた。

食事を終えると、シーツなど洗い物一式を抱え込んで出てきた飯田が、響に声を掛けてきた。

「そう言えば、響さんは、今日はお出掛けでしたよね?」
「‥うん。着替えたら行こうかなー車出してくれる?」
「勿論。お安い御用です」

ニコッと笑う響につられ飯田も笑顔になる。
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