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火を恋う青蛾は焔に焼かれ
19話
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葉月が病室を出て行くと、響はすぐに携帯で検索を始める。
大石や葉月は、あの事件の事を何も話してはくれないが、あの事件はどう解決したのか、心配だった。
日時と大まかな場所を検索してもヒットしない‥権守の会社、市原興業を検索してもヒットしなかった。
あの事件は、世間では存在していなかった。
そして、もう一度、市原興業の権守獅道と検索すると、市原興業の役員として名が上がっている。
「‥獅道さん」
響はダイヤルボタンを押し、番号を入力していく。
何かの時の為にと、獅道の携帯の番号は暗記していた。
入力の途中で、どうしてか指が震えてくる。
――拒否されたらどうしよう‥そんな奴、知らないと言われたらどうしよう‥。
そんな事を考えると、震えが止まらなくなる。
番号を入力し、あとは通話ボタンを押すだけ‥それなのに、押すことが出来ない。
――声だけでも聞きたい‥そう、声を聞いたら、電話を切ろう‥。
そう自分を納得させ、震える指先で通話ボタンを押した。
ドキドキと胸を高鳴らせ、携帯を耳にあてると、すぐに『お客様のお掛けになった番号は、現在使われておりません‥』とアナウンスが始まった。
「‥‥うそ‥」
自分の耳を信じられなくて、何度も番号を確認するが、間違ってはいない。
――ああ、やっぱり自分は捨てられてしまった‥。
響は携帯を投げつけると、ガシャンと音を立て床に落ちた。
そして、布団を頭からかぶり、叫び出したい声を何とか抑えた。
心が破裂しそうだった。
翌日、葉月はいつもの様に響の病室に向かっていた。
ナースステーションの前を通ると、看護師に呼び止められた。
「一応、耳に入れておきますが、今日、黒須さん体調が悪いのか、布団をかぶって出てきませんでした。食事も食べてません。‥何かあったんでしょうか‥?」
昨日まで、順調に回復していただけに、看護師の顔に影が差し、心配そうな顔をしている。
だが、葉月には、それも想定内だった。
「分かりました‥ご心配かけて、すみません。少し話してみますね‥」
そうニコリと笑うと、看護師はホッとした様に、お願いしますと頷いた。
昨日、携帯を渡した事で、おそらく獅道と連絡を取ろうとしたはずだ、だけど、獅道はすでに番号を変えている筈だから、当然、連絡は取れない。万が一、会社に掛けたとしても、取り次がないように通達している筈だから、話をすることは出来ない。
可哀そうだけど、これが現実だと、分かってもらうしかない。
葉月は、病室の前で深呼吸すると、勢いよく扉を開けた。
「ヤッホー!」
いつもの調子で入っていくと、看護師が言っていた通り、布団に包まっている。
「おや?どうしたのかな?響君?お腹が痛いのかな?」
ふざけた調子で話しても、何の反応もなく、微動だにしない響に、少し不安になる。
布団の上から、チョンチョンと突いてみても反応なし、これは手強いかもしれない。
意を決して、葉月は布団を少しだけ捲った。
中には、響が小さく丸まり、こちらをキッと睨みつけていた。
「止めろ!」
激しく怒り、再び布団を引っ張り潜り込む。
「‥どうした?」
優しく布団の上から撫でる。
「‥大丈夫だから、話してごらん‥」
ふと見ると、ベッドサイドに昨日の携帯が乗っていて、その画面がバキバキに割れていた。
落としたのか‥故意に投げつけたか‥おそらく後者だろう。
そう考えた葉月は、やはり、獅道に連絡を入れたのだと、確信した。
「なに?今日は、おへそが曲がっちゃった?」
「どれどれ‥確かめてあげようかな‥?ふふっ‥」
葉月はそう言うと、布団の中に手をズボッと突っ込むと、響の身体をコチョコチョと擽りだす。
「‥っ‥‥止めろ!」
布団の中から聞こえる激しい抵抗の声に、ビクッとして葉月はすぐに布団から手を出した。
身体に触れられるのは、やはり嫌かもしれないと、あっさりと引き下がり、安易に触れてしまった事に反省する。
「オイ‥響‥話してくれよ。じゃなきゃ、分かんないよ?飯も食ってないんだろ?」
再び、布団の上からアプローチしてみるが、やはり効果なし。
「はぁ~‥‥権守獅道に連絡したのか?」
その言葉に、ビクッと身体が動いた。
「そうか‥で?電話が通じなかったのか?」
居心地悪そうに、身体を動かしている。
「‥で?お前はどうしたいの?」
これは反応なし。
「‥ただ‥声が聞きたかっただけなのに‥‥」
反応あった!
「それなのに‥やっぱり、俺は捨てられたんだな‥大石さんやお前は良いように言ってくれるけど、獅道さんは、やっぱり俺がいらないんだ‥。ほんと、俺‥なんで今まで気が付かなかったんだろ‥そんなんなら、俺、工藤さんの次でも‥傍にいるだけでも、良かったのに‥なんで、たくさん‥我儘言って、俺‥毎日‥幸せで、楽しくって‥こんな風に捨てられるなら‥‥初めから、拾われてなきゃ良かったとか‥‥どうせなら、一番、幸せな時に‥いっそ、殺してくれよ‥とか、俺‥いつの間に、こんなに未練がましくなって‥なんで、こんな事‥‥苦しいんだよ‥苦しくて、死んじゃいそうになるくらい‥会いたい。獅道さんに‥‥会いたいんだ‥」
始めはゆっくりと言葉を選んで話していたのに、最後の方は悲痛な叫び声になる。
布団の中で泣いているのか、小刻みに布団が震える。
「‥そうだな‥会いたいよな‥」
こんなにも誰かを愛せるなんて、本当は幸せな事なのかもしれない。
だが、その幸せを捨てても、響自身の人生を歩いて欲しかった獅道の気持ちも、葉月は少しだけ分かる気がした。
愛するが故のすれ違いに、もどかしさを感じる。
涙と共に、すべて忘れられたらいいのにとさえ思うが‥多分、それは無理だろう。
頭では納得しても、心が納得できないのだから。
葉月は少しでも響の痛みが軽くなる様に、ずっと布団の上から撫でていた。
どれくらい時間が経ったのか、布団の中の震えが、いつの間にか止まっていた。
「‥お前、本当に権守獅道が好きだったんだな‥」
ぼそりと口に出した言葉に、小さな返事か聞こえた。
「‥うん」
「そっか‥なら、そいつの考えている事、分かるんじゃないの?‥権守獅道は、大切だと言っている人を、あっさりと捨てる奴なのか?‥そんな冷たい人間なのか?」
「‥っ‥‥ちがう‥」
「俺も、一度しか会ってないけど、お前の事を本当に‥大切にしていると感じた。それは絶対だ‥」
「‥‥」
「すべて、お前の為に、お前が自分の人生を、自分の足で歩く為に、あいつは手を放したんだよ‥そこには、お前への愛情が、たっぷりと詰まってんだよ‥分かるだろ?」
「‥‥‥」
「大好きだった人と、別れるのは辛いし、お前は突然、こんな事になったから、別れも言えなかった‥だから、今は辛くて苦しくて‥お前の言う通り、未練がましい自分が嫌になるかもしれない‥だけどさ、その気持ちが‥お前が苦しんでいるそれが全部、お前が、あいつを好きだったっていう証拠なんじゃないの?誰かを好きになる事が、悪い訳じゃない。だから、その気持ちを否定するなよ‥会わない方が良かったなんて、そんな悲しい事言うなよ‥苦しかったら、たくさん泣いて良いんだ。誰かの胸が欲しかったら、俺が貸してやるから‥だから、一人で抱え込むなよ‥」
「‥うっ‥‥っ‥‥」
嗚咽が聞こえたと思ったら、ガバッと布団から飛び出し、泣き顔の響が葉月の胸の中に飛び込んできた。
「うわ~ん‥うっ‥ううっ‥わ~ん‥‥」
まるで、子供のように泣きじゃくっている響の背を、葉月は優しく撫でた。
大石や葉月は、あの事件の事を何も話してはくれないが、あの事件はどう解決したのか、心配だった。
日時と大まかな場所を検索してもヒットしない‥権守の会社、市原興業を検索してもヒットしなかった。
あの事件は、世間では存在していなかった。
そして、もう一度、市原興業の権守獅道と検索すると、市原興業の役員として名が上がっている。
「‥獅道さん」
響はダイヤルボタンを押し、番号を入力していく。
何かの時の為にと、獅道の携帯の番号は暗記していた。
入力の途中で、どうしてか指が震えてくる。
――拒否されたらどうしよう‥そんな奴、知らないと言われたらどうしよう‥。
そんな事を考えると、震えが止まらなくなる。
番号を入力し、あとは通話ボタンを押すだけ‥それなのに、押すことが出来ない。
――声だけでも聞きたい‥そう、声を聞いたら、電話を切ろう‥。
そう自分を納得させ、震える指先で通話ボタンを押した。
ドキドキと胸を高鳴らせ、携帯を耳にあてると、すぐに『お客様のお掛けになった番号は、現在使われておりません‥』とアナウンスが始まった。
「‥‥うそ‥」
自分の耳を信じられなくて、何度も番号を確認するが、間違ってはいない。
――ああ、やっぱり自分は捨てられてしまった‥。
響は携帯を投げつけると、ガシャンと音を立て床に落ちた。
そして、布団を頭からかぶり、叫び出したい声を何とか抑えた。
心が破裂しそうだった。
翌日、葉月はいつもの様に響の病室に向かっていた。
ナースステーションの前を通ると、看護師に呼び止められた。
「一応、耳に入れておきますが、今日、黒須さん体調が悪いのか、布団をかぶって出てきませんでした。食事も食べてません。‥何かあったんでしょうか‥?」
昨日まで、順調に回復していただけに、看護師の顔に影が差し、心配そうな顔をしている。
だが、葉月には、それも想定内だった。
「分かりました‥ご心配かけて、すみません。少し話してみますね‥」
そうニコリと笑うと、看護師はホッとした様に、お願いしますと頷いた。
昨日、携帯を渡した事で、おそらく獅道と連絡を取ろうとしたはずだ、だけど、獅道はすでに番号を変えている筈だから、当然、連絡は取れない。万が一、会社に掛けたとしても、取り次がないように通達している筈だから、話をすることは出来ない。
可哀そうだけど、これが現実だと、分かってもらうしかない。
葉月は、病室の前で深呼吸すると、勢いよく扉を開けた。
「ヤッホー!」
いつもの調子で入っていくと、看護師が言っていた通り、布団に包まっている。
「おや?どうしたのかな?響君?お腹が痛いのかな?」
ふざけた調子で話しても、何の反応もなく、微動だにしない響に、少し不安になる。
布団の上から、チョンチョンと突いてみても反応なし、これは手強いかもしれない。
意を決して、葉月は布団を少しだけ捲った。
中には、響が小さく丸まり、こちらをキッと睨みつけていた。
「止めろ!」
激しく怒り、再び布団を引っ張り潜り込む。
「‥どうした?」
優しく布団の上から撫でる。
「‥大丈夫だから、話してごらん‥」
ふと見ると、ベッドサイドに昨日の携帯が乗っていて、その画面がバキバキに割れていた。
落としたのか‥故意に投げつけたか‥おそらく後者だろう。
そう考えた葉月は、やはり、獅道に連絡を入れたのだと、確信した。
「なに?今日は、おへそが曲がっちゃった?」
「どれどれ‥確かめてあげようかな‥?ふふっ‥」
葉月はそう言うと、布団の中に手をズボッと突っ込むと、響の身体をコチョコチョと擽りだす。
「‥っ‥‥止めろ!」
布団の中から聞こえる激しい抵抗の声に、ビクッとして葉月はすぐに布団から手を出した。
身体に触れられるのは、やはり嫌かもしれないと、あっさりと引き下がり、安易に触れてしまった事に反省する。
「オイ‥響‥話してくれよ。じゃなきゃ、分かんないよ?飯も食ってないんだろ?」
再び、布団の上からアプローチしてみるが、やはり効果なし。
「はぁ~‥‥権守獅道に連絡したのか?」
その言葉に、ビクッと身体が動いた。
「そうか‥で?電話が通じなかったのか?」
居心地悪そうに、身体を動かしている。
「‥で?お前はどうしたいの?」
これは反応なし。
「‥ただ‥声が聞きたかっただけなのに‥‥」
反応あった!
「それなのに‥やっぱり、俺は捨てられたんだな‥大石さんやお前は良いように言ってくれるけど、獅道さんは、やっぱり俺がいらないんだ‥。ほんと、俺‥なんで今まで気が付かなかったんだろ‥そんなんなら、俺、工藤さんの次でも‥傍にいるだけでも、良かったのに‥なんで、たくさん‥我儘言って、俺‥毎日‥幸せで、楽しくって‥こんな風に捨てられるなら‥‥初めから、拾われてなきゃ良かったとか‥‥どうせなら、一番、幸せな時に‥いっそ、殺してくれよ‥とか、俺‥いつの間に、こんなに未練がましくなって‥なんで、こんな事‥‥苦しいんだよ‥苦しくて、死んじゃいそうになるくらい‥会いたい。獅道さんに‥‥会いたいんだ‥」
始めはゆっくりと言葉を選んで話していたのに、最後の方は悲痛な叫び声になる。
布団の中で泣いているのか、小刻みに布団が震える。
「‥そうだな‥会いたいよな‥」
こんなにも誰かを愛せるなんて、本当は幸せな事なのかもしれない。
だが、その幸せを捨てても、響自身の人生を歩いて欲しかった獅道の気持ちも、葉月は少しだけ分かる気がした。
愛するが故のすれ違いに、もどかしさを感じる。
涙と共に、すべて忘れられたらいいのにとさえ思うが‥多分、それは無理だろう。
頭では納得しても、心が納得できないのだから。
葉月は少しでも響の痛みが軽くなる様に、ずっと布団の上から撫でていた。
どれくらい時間が経ったのか、布団の中の震えが、いつの間にか止まっていた。
「‥お前、本当に権守獅道が好きだったんだな‥」
ぼそりと口に出した言葉に、小さな返事か聞こえた。
「‥うん」
「そっか‥なら、そいつの考えている事、分かるんじゃないの?‥権守獅道は、大切だと言っている人を、あっさりと捨てる奴なのか?‥そんな冷たい人間なのか?」
「‥っ‥‥ちがう‥」
「俺も、一度しか会ってないけど、お前の事を本当に‥大切にしていると感じた。それは絶対だ‥」
「‥‥」
「すべて、お前の為に、お前が自分の人生を、自分の足で歩く為に、あいつは手を放したんだよ‥そこには、お前への愛情が、たっぷりと詰まってんだよ‥分かるだろ?」
「‥‥‥」
「大好きだった人と、別れるのは辛いし、お前は突然、こんな事になったから、別れも言えなかった‥だから、今は辛くて苦しくて‥お前の言う通り、未練がましい自分が嫌になるかもしれない‥だけどさ、その気持ちが‥お前が苦しんでいるそれが全部、お前が、あいつを好きだったっていう証拠なんじゃないの?誰かを好きになる事が、悪い訳じゃない。だから、その気持ちを否定するなよ‥会わない方が良かったなんて、そんな悲しい事言うなよ‥苦しかったら、たくさん泣いて良いんだ。誰かの胸が欲しかったら、俺が貸してやるから‥だから、一人で抱え込むなよ‥」
「‥うっ‥‥っ‥‥」
嗚咽が聞こえたと思ったら、ガバッと布団から飛び出し、泣き顔の響が葉月の胸の中に飛び込んできた。
「うわ~ん‥うっ‥ううっ‥わ~ん‥‥」
まるで、子供のように泣きじゃくっている響の背を、葉月は優しく撫でた。
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