飛んで火に入る火取蟲

白樫 猫

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火を恋う青蛾は焔に焼かれ

21話 ≪火を恋う青蛾は焔に焼かれ~終話~≫

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「まったく、お前は‥何度、言えば分かるんだ‥」

ブツブツと言いながらヨレヨレの白衣を着た白髪の老人が、獅道の足を眺めていた。
獅道の足からは真っ赤な鮮血が滴っており、それを見た老人が再び溜息を付いた。

「はぁ~歩くなとは言わん。だが‥暴れるな!」

そう言って、血が溢れている傷口に消毒薬をぶっかける。
獅道の腿には石塚が打ち込んだ銃創が開き肉が見え、老人が何度縫い合わせても、再び傷を開きやってくる。
これが何度目だろうと、老人が頭を抱えた。

「‥悪いな、じいさん」

ニヤリと笑う獅道の頬には、撃たれた傷がまだ残っていた。
この男に、痛覚はあるのだろうかと、老人は首を捻る。
かなり痛いはずだ。
ぶっかけた消毒液と滲んでくる血液を拭うと、麻酔もなく糸が付いた針をピンセットを使い器用に縫い始めた。
チラリと老人が獅道を見上げると、顔色一つ変える事なく、縫われていく傷口を見ていた。

「‥痛くないのか?」

老人が聞くと。

「‥大丈夫だ」

そう言って再びニヤリと笑う。
初めは当然 局所麻酔を打っていた老人だが、何回目か分からなくなる頃からは、麻酔をかける事を止めた。
この闇医者‥老人のささやかな抵抗なのかもしれない。
縫い終わりガーゼを当てると、きっちりと包帯を巻きながら、傍に立っていた男に老人が口酸っぱく注意をする。

「もう、来るなよ!こいつが暴れようとしたら、抑え込め!分かったな!」

いきなり自分に向けられた言葉に、隣の男は苦笑いを浮かべた。
どう考えても、獅道を抑え込むなんて、誰にも出来ない、無理に決まっている。
それを分かって言っているのか‥このジジイは‥。
包帯が終わると、獅道は笑いながら立ち上がる。

「‥また頼むよ、じいさん」

そう言うと、部屋を出て行った。
その後姿に、老人がチッと舌打ちするのが聞こえ、獅道は再びクスリと笑った。

何の変哲もない古びた一軒家。
そこで老人は裏の人間を相手に、医者のまねごとをやっていた。
腕はいいので、こうやって訪れる人間は沢山いるし、何より、裏の人間は口さえ噤んでいれば、金払いは良い。

獅道は、その古びた家を出ると、ポケットから煙草を取り出し口に銜えた。
その瞬間、ポッと明るい火玉が目の前に現れ、煙草に火を点けた。
獅道は、驚いた様に顔を上げ、遠くに停まっている白い車を見つめ、フワリと笑顔を向けた。
そして煙草を胸いっぱい吸い込むと、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
先程から、目の前の止まっている黒塗りのベンツの扉を、飯田が開け、獅道が乗り込むのを待っていたが、いつもならすんなり乗り込むはずの獅道が、もう一服、煙草を吸い上げた。
そして、再び美しく整った唇から煙を吐き出すと、後部座席に乗り込んだ。
獅道を乗せた車は、滑る様に走り出し、街中へと消えて行った。



「ああ‥獅道さんが‥獅道さんが、生きてる‥」

遠くに停まった白い車の中で、響は涙を流していた。
古びた家から出てきた獅道の姿を見て、感極まって泣き出した。
そして煙草を口に銜えた時、響は自分の力を使い、火を点けた。
自分の存在に気が付いたのか、チラリとこちらを見た獅道の姿を、響は目に焼き付ける様に見つめた。
フワリと笑った獅道に、窓ガラスに張り付いていた自分も、つられるように微笑みを浮かべた。

「‥獅道さん‥愛してる‥愛してるよ‥」

そう呟いた響の言葉は、獅道に届く事は無い‥。
獅道を乗せた車が、ゆっくりと走り出した後、響は両手で顔を覆う。
もう‥二度と会う事もない愛しい人の面影を、少しでも瞼に残しておくように‥‥。

運転席の大石が、自分の甘さに苦笑いを浮かべ、大きく溜息を付くと、ゆっくりと車を発車させた。

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