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花を貪る胡蝶は蜘蛛の網にかかる
4話
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「では、早速ですが、現場を見させて頂いてから‥と言う事でよろしいですかね?」
神代は、すぐにいつもの顔に戻り、冷たく言い放つ。
「‥はい、それで結構です‥案内します」
応接室を出て再び玄関ホールを抜け、更に奥の廊下をずっと進むと、正面に大きな扉が見えてきた。
その扉を開くと、渡り廊下が伸びており、正面には離れとみられる建物が2棟並んでいた。
「この廊下は、普段ガラス戸が閉まっていますが、今日は、天気が良いので、換気の為に開けています」
言われてみると、渡り廊下の右側は壁で一般的な腰上からの窓が付いているが、左側にはサッシが嵌められており、渡り廊下の入り口には蛇腹の窓が畳まれていた。
蛇腹のガラス戸を閉めると、雨風も防げるのだろう。
「なるほど‥」
大石が納得するような返事をしながら、後ろからついて歩く。
渡り廊下の突き当りの、二つの棟には、それぞれ扉があるようだ。
「こちらの右の扉は、凜乃‥私の妹の防音室があります。妹はバイオリンを習っておりまして、その為に父が増築しました。‥そして左側がアトリエです。ここが火災のあった場所です。事後の後、そのままにしていますので、煤が付くかもしれません。もしよければ、こちらに履き替えて下さい」
アトリエの扉には煤が付き、開きっぱなしになっていた。
その手前に、外履き用にサンダルが並べられていたので、3人は遠慮なくそれに履き替えると、アトリエの入り口に立った。
全体を見渡すと、20畳ないくらいの広さだろうか、入り口から見て正面と左側に大きな出窓があり、光が差し込んでいるが、今は窓ガラスが割れ無残な姿になっていた。
壁紙は燃えてしまったのだろうか、中のコンクリートが剥き出しになり黒ずんでいる。
床はフローリングで奥の方は燃えて黒くなっているが、手前の方は少しだけ床がまだ残っている。
テーブルや椅子がかろうじて原型を留める様に黒く燃え残っており、右側には本棚と小ぶりなソファがあった形跡があり、ソファは中の骨組みだけが残り、本棚にある本は、少しだけ燃え残っているモノもあった。
床には燃え残った画材が散らばっており、気を付けて歩かないと踏んでしまいそうになる。
「ここに、父が倒れていそうです」
後ろから入って来た颯馬が指し示した場所は、左奥のキャンバスが炭になり重なっている場所の近くだった。
「私は、事故の前、ここがどのような状態だったかは分からないのですが、警察が和弘さんに‥あっ、和弘さんは父の弟です。聞いた時に居合わせたのですが、描き上がった絵がここにはあったそうです。そして、こちらには描いてある途中の絵が‥」
左側の出窓の脇にはイーゼルとキャンバスが3台ほどだろうか、倒れ炭になっている。
案内されながら、神代はひとつずつ丁寧に見ているが、この広さの割には、置かれている物が少ない。
きちんと整理整頓されていた様に見える。
神代は細部までじっくりと眺め、時には触れたりしていたが、10分くらい経っただろうか、クイッと眼鏡を持ち上げ、おもむろに口を開いた。
「すみません、東条さんと宮澤さんは、席を外して頂けますか?」
「‥はい、分かりました」
少し戸惑ってはいるようだが、颯馬は承諾し玲華と一緒にアトリエを出て行く。
入り口の扉は開いたままなので、中の様子は丸見えだったが、葉月と大石がアトリエの入り口まで来ると、まるで目隠しするように並んで立った。
残った神代は、迷いなく部屋の真ん中まで来ると眼鏡を外し胸ポケットにしまい、しゃがみ込むと床にペタンと掌を付けた。
一瞬、ザワッと空気が揺れ、そして神代は裸眼のまま部屋の隅々まで満遍なく見渡す。
数十秒後、神代は目頭を押さえ、たっぷり5分は微動だにすることなく、しゃがみ込んでいたが、スクッと立ち上がると、神代は眼鏡を掛けた。
同時に入り口に立っていた二人が、神代の元へと歩み寄る。
「どうだ‥?」
大石の言葉に、神代が振り向くと、その瞳が赤く光を帯びていた。
「まだだ‥神代‥」
それを注意するかのように大石が囁くと、神代は眼鏡をずらし再び目頭を抑え込んだ。
「‥葉月‥この依頼、引き受けるぞ‥」
眼鏡を掛け直し、そこから見える漆黒の瞳が、葉月の顔を見据えながら、そう口にした。
それが答えだった。
神代が眼鏡を外し床に触れアトリエ全体を見渡した時、火の流れが見えた。
始めは消防の報告通り、東条豊成の過失か故意かの煙草の小さな火、そして火はすぐに大きくなり、すべてを燃やす。
次に大きな火の力‥この火の力はコントロールが出来ていないのか、火を消そうとするが、不安定だ。
おそらくこれでは消火出来なかっただろう。
神代には、それが見えた。
この場で起きた、火の流れが見えるのだ。
神代は、すぐにいつもの顔に戻り、冷たく言い放つ。
「‥はい、それで結構です‥案内します」
応接室を出て再び玄関ホールを抜け、更に奥の廊下をずっと進むと、正面に大きな扉が見えてきた。
その扉を開くと、渡り廊下が伸びており、正面には離れとみられる建物が2棟並んでいた。
「この廊下は、普段ガラス戸が閉まっていますが、今日は、天気が良いので、換気の為に開けています」
言われてみると、渡り廊下の右側は壁で一般的な腰上からの窓が付いているが、左側にはサッシが嵌められており、渡り廊下の入り口には蛇腹の窓が畳まれていた。
蛇腹のガラス戸を閉めると、雨風も防げるのだろう。
「なるほど‥」
大石が納得するような返事をしながら、後ろからついて歩く。
渡り廊下の突き当りの、二つの棟には、それぞれ扉があるようだ。
「こちらの右の扉は、凜乃‥私の妹の防音室があります。妹はバイオリンを習っておりまして、その為に父が増築しました。‥そして左側がアトリエです。ここが火災のあった場所です。事後の後、そのままにしていますので、煤が付くかもしれません。もしよければ、こちらに履き替えて下さい」
アトリエの扉には煤が付き、開きっぱなしになっていた。
その手前に、外履き用にサンダルが並べられていたので、3人は遠慮なくそれに履き替えると、アトリエの入り口に立った。
全体を見渡すと、20畳ないくらいの広さだろうか、入り口から見て正面と左側に大きな出窓があり、光が差し込んでいるが、今は窓ガラスが割れ無残な姿になっていた。
壁紙は燃えてしまったのだろうか、中のコンクリートが剥き出しになり黒ずんでいる。
床はフローリングで奥の方は燃えて黒くなっているが、手前の方は少しだけ床がまだ残っている。
テーブルや椅子がかろうじて原型を留める様に黒く燃え残っており、右側には本棚と小ぶりなソファがあった形跡があり、ソファは中の骨組みだけが残り、本棚にある本は、少しだけ燃え残っているモノもあった。
床には燃え残った画材が散らばっており、気を付けて歩かないと踏んでしまいそうになる。
「ここに、父が倒れていそうです」
後ろから入って来た颯馬が指し示した場所は、左奥のキャンバスが炭になり重なっている場所の近くだった。
「私は、事故の前、ここがどのような状態だったかは分からないのですが、警察が和弘さんに‥あっ、和弘さんは父の弟です。聞いた時に居合わせたのですが、描き上がった絵がここにはあったそうです。そして、こちらには描いてある途中の絵が‥」
左側の出窓の脇にはイーゼルとキャンバスが3台ほどだろうか、倒れ炭になっている。
案内されながら、神代はひとつずつ丁寧に見ているが、この広さの割には、置かれている物が少ない。
きちんと整理整頓されていた様に見える。
神代は細部までじっくりと眺め、時には触れたりしていたが、10分くらい経っただろうか、クイッと眼鏡を持ち上げ、おもむろに口を開いた。
「すみません、東条さんと宮澤さんは、席を外して頂けますか?」
「‥はい、分かりました」
少し戸惑ってはいるようだが、颯馬は承諾し玲華と一緒にアトリエを出て行く。
入り口の扉は開いたままなので、中の様子は丸見えだったが、葉月と大石がアトリエの入り口まで来ると、まるで目隠しするように並んで立った。
残った神代は、迷いなく部屋の真ん中まで来ると眼鏡を外し胸ポケットにしまい、しゃがみ込むと床にペタンと掌を付けた。
一瞬、ザワッと空気が揺れ、そして神代は裸眼のまま部屋の隅々まで満遍なく見渡す。
数十秒後、神代は目頭を押さえ、たっぷり5分は微動だにすることなく、しゃがみ込んでいたが、スクッと立ち上がると、神代は眼鏡を掛けた。
同時に入り口に立っていた二人が、神代の元へと歩み寄る。
「どうだ‥?」
大石の言葉に、神代が振り向くと、その瞳が赤く光を帯びていた。
「まだだ‥神代‥」
それを注意するかのように大石が囁くと、神代は眼鏡をずらし再び目頭を抑え込んだ。
「‥葉月‥この依頼、引き受けるぞ‥」
眼鏡を掛け直し、そこから見える漆黒の瞳が、葉月の顔を見据えながら、そう口にした。
それが答えだった。
神代が眼鏡を外し床に触れアトリエ全体を見渡した時、火の流れが見えた。
始めは消防の報告通り、東条豊成の過失か故意かの煙草の小さな火、そして火はすぐに大きくなり、すべてを燃やす。
次に大きな火の力‥この火の力はコントロールが出来ていないのか、火を消そうとするが、不安定だ。
おそらくこれでは消火出来なかっただろう。
神代には、それが見えた。
この場で起きた、火の流れが見えるのだ。
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