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花を貪る胡蝶は蜘蛛の網にかかる
6話
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「もうひとつ、最近、あの火災の他に、ボヤ騒ぎなどはありませんでしたか?些細な事でも構いません」
真剣な神代の表情に、颯馬の顔が少しだけ曇る。
「‥ボヤ‥と言う事ではないのですが、キヨが、ゴミの中から燃えたスケッチブックを見つけました」
「スケッチブック‥それは、和弘さんのモノですか?」
「‥はい、キヨが和弘さんに聞いたところ、間違って燃えてしまったから、捨てて欲しいと言われたそうです」
「‥それは、あの火災の後?」
眼鏡の奥から痛いくらいの視線が颯馬を見つめているのが分かる。
「‥はい、あの火災の1週間程後です」
「‥ふむ」
神代は再び考え込んでしまった。
「今日は、他のご家族は皆さん留守の様ですが‥一度お会いして話を伺いたいのですが、いつならよろしいですか?」
「‥はい、今日は‥日曜で学校は休みなのですが、凜乃はバイオリンのレッスンで、優紫は空手の練習と忙しくしておりまして、母も和弘さんも、出掛けている様子で‥申し訳ありません」
なんとなく歯切れの悪い話しぶりに、神代は眼鏡をクイッと直す。
「東条さん、もう一度、ご家族とお話しして下さい。協力が得られない様なら、これ以上調査する事は出来ませんから‥」
おそらく家族には、探偵事務所に依頼する事を言っていないか‥もしくは反対されているかどちらかだろうと、神代はそう感じていた。
神代の言葉に、颯馬の視線が左右に揺れる。
「はい‥分かりました。少し時間を下さい。お願いします」
隠し事がバレた子供の様に分かりやすい態度に、神代は初めてクスッと笑った顔を見せた。
「大丈夫です‥待ってますから‥」
東条の屋敷を出ると、神代は後ろに立っている大石の方を向いた。
「大石さん‥1月から現在まで、この3ヶ月の間に、この付近でボヤ騒ぎ‥もしくは不審火などなかったか、調べて貰えますか?」
その言葉に、大石が眉にキュッと皴を寄せる。
「‥分かった。少し時間を貰う。なんせ管轄が違うもんでね‥」
その言葉に、神代はフワッと笑顔を向けた。
いつも仏頂面をしないで、こうやって笑っていてくれればいいのに‥と、葉月と大石は心の中で思っていた。
「‥で?わざわざ休みの日に、私に同行して、よっぽど暇なんですね‥大石さんは」
厭味ったらしく言われ、先程の可愛い笑顔はどこに行ったのやらと、大石はゴリゴリと頭を掻いた。
「はぁ~そうやって憎まれ口をきいて、後で俺に泣きつくなよ‥」
そう話している間に、呼び出したタクシーが到着したようで、2人が乗り込むと、大石は自分は車で来たからと手を上げて去って行った。
東条颯馬から再び連絡があったのは、それから10日ほど経った頃だった。
ようやく家族の同意を言えたので、もう一度、屋敷へ来て欲しいとの要望で、神代は了承した。
4月に入ってすぐの頃だったので、学校は春休みなのだろう、前回と同じ様に屋敷に付き応接室に案内された時には、家族全員がソファに腰掛け神代の到着を待っていた。
「ああ、神代さん‥葉月先輩、お待ちしておりました」
颯馬がソファから立ち上がり、二人を出迎えると、家族みんなが一斉に立ち上がる。
神代と葉月が自己紹介をし頭を下げると、颯馬が爽やかな笑顔を見せた。
「早速ですが紹介します。母です」
一番奥の颯馬の隣に掛けている、綺麗だが冷たそうな印象のある女性が、優雅な身のこなしでお辞儀をすると、神代の顔を冷たい目で見据えた。
「東条玖美子と申します。今回、颯馬さんの依頼を引き受けて下さったとか‥主人の事を知りたいという気持ちは、私も同じですが‥もう主人はこの世におりません‥くれぐれも、主人の名を汚す事だけは、なされませんよう、注意されて下さい‥」
意志の強そうな声色で発せられる言葉に、本当は協力などしたくないのだとの含みが込められていた。
「ええ、そのつもりです‥」
神代が言葉を返す。
玖美子のいきなりのジャブに颯馬が苦い顔をしながら、隣の男に視線を送る。
「東条和弘です。豊成の弟です。先週、初めて颯馬がこんな依頼をしたと聞いて、私としても驚いていますが‥お手柔らかにお願いしますよ。もちろん、私に協力出来る事があれば、いつでもどうぞ。では、私は失礼して‥この後は少しやる事がありまして‥」
「和弘さん、後で部屋に伺っても‥?」
立ち上がり応接室を出て行く和弘の背に、神代が声を掛けると、笑顔を向けられた。
「ええ、もちろん‥お待ちしております」
年齢の割に爽やかな笑顔で返され、作られた笑顔だと神代は思う。
視線を皆の方に向けると、玲華の隣に座っていた少女がチラリと視線を上げた。
「東条凜乃です。4月から高校2年生になりました」
内気な性格なのか終始俯いている小柄な少女は、腰に届く程長く艶のある髪を下ろし、チラリと覗いた瞳は大きく頼りなげで、小ぶりな鼻とふっくらと色づいた唇、まるでお人形さんのような顔立ちだった。
前回、颯馬から話を聞いたところによると、あの火災以降、あまり体調が良くないとの事だったが‥。
「お兄様、私も部屋で休んでいてもよろしいでしょうか?少し眩暈がするので‥」
俯いた視線を颯馬の方に向け、おずおずと申し出る凜乃に、心配そうに玲華が立ち上がる。
「大変‥それでは私が部屋までお連れしましょう」
凜乃の視線が玲華に向けられ、小さく頷くと、凜乃は柔らかな所作で立ち上がる。
「では、後ほど凜乃さんの部屋にも、伺ってよろしいでしょうか?」
同じ様に神代が口にすると、凜乃は恭しく頷いた。
玲華が凜乃を伴って応接室を出て行くと、すぐに最後に残った少年が待ちくたびれたとばかりに発言する。
「俺は、東条優紫、今年から高校1年生。俺は、父さんの事を知りたいと思ってる。だから、あんたにも協力する。以上、後で部屋に来いよ」
神代が口を開く前に、優紫はあっさりと部屋を出て行った。
「申し訳ありません‥あんな口の利き方をして、なんだか、ちょうど反抗期でして‥」
優紫の無作法を颯馬が頭を下げ詫びてくる。
「いえ、大丈夫ですよ。むしろ協力的で助かります」
真剣な神代の表情に、颯馬の顔が少しだけ曇る。
「‥ボヤ‥と言う事ではないのですが、キヨが、ゴミの中から燃えたスケッチブックを見つけました」
「スケッチブック‥それは、和弘さんのモノですか?」
「‥はい、キヨが和弘さんに聞いたところ、間違って燃えてしまったから、捨てて欲しいと言われたそうです」
「‥それは、あの火災の後?」
眼鏡の奥から痛いくらいの視線が颯馬を見つめているのが分かる。
「‥はい、あの火災の1週間程後です」
「‥ふむ」
神代は再び考え込んでしまった。
「今日は、他のご家族は皆さん留守の様ですが‥一度お会いして話を伺いたいのですが、いつならよろしいですか?」
「‥はい、今日は‥日曜で学校は休みなのですが、凜乃はバイオリンのレッスンで、優紫は空手の練習と忙しくしておりまして、母も和弘さんも、出掛けている様子で‥申し訳ありません」
なんとなく歯切れの悪い話しぶりに、神代は眼鏡をクイッと直す。
「東条さん、もう一度、ご家族とお話しして下さい。協力が得られない様なら、これ以上調査する事は出来ませんから‥」
おそらく家族には、探偵事務所に依頼する事を言っていないか‥もしくは反対されているかどちらかだろうと、神代はそう感じていた。
神代の言葉に、颯馬の視線が左右に揺れる。
「はい‥分かりました。少し時間を下さい。お願いします」
隠し事がバレた子供の様に分かりやすい態度に、神代は初めてクスッと笑った顔を見せた。
「大丈夫です‥待ってますから‥」
東条の屋敷を出ると、神代は後ろに立っている大石の方を向いた。
「大石さん‥1月から現在まで、この3ヶ月の間に、この付近でボヤ騒ぎ‥もしくは不審火などなかったか、調べて貰えますか?」
その言葉に、大石が眉にキュッと皴を寄せる。
「‥分かった。少し時間を貰う。なんせ管轄が違うもんでね‥」
その言葉に、神代はフワッと笑顔を向けた。
いつも仏頂面をしないで、こうやって笑っていてくれればいいのに‥と、葉月と大石は心の中で思っていた。
「‥で?わざわざ休みの日に、私に同行して、よっぽど暇なんですね‥大石さんは」
厭味ったらしく言われ、先程の可愛い笑顔はどこに行ったのやらと、大石はゴリゴリと頭を掻いた。
「はぁ~そうやって憎まれ口をきいて、後で俺に泣きつくなよ‥」
そう話している間に、呼び出したタクシーが到着したようで、2人が乗り込むと、大石は自分は車で来たからと手を上げて去って行った。
東条颯馬から再び連絡があったのは、それから10日ほど経った頃だった。
ようやく家族の同意を言えたので、もう一度、屋敷へ来て欲しいとの要望で、神代は了承した。
4月に入ってすぐの頃だったので、学校は春休みなのだろう、前回と同じ様に屋敷に付き応接室に案内された時には、家族全員がソファに腰掛け神代の到着を待っていた。
「ああ、神代さん‥葉月先輩、お待ちしておりました」
颯馬がソファから立ち上がり、二人を出迎えると、家族みんなが一斉に立ち上がる。
神代と葉月が自己紹介をし頭を下げると、颯馬が爽やかな笑顔を見せた。
「早速ですが紹介します。母です」
一番奥の颯馬の隣に掛けている、綺麗だが冷たそうな印象のある女性が、優雅な身のこなしでお辞儀をすると、神代の顔を冷たい目で見据えた。
「東条玖美子と申します。今回、颯馬さんの依頼を引き受けて下さったとか‥主人の事を知りたいという気持ちは、私も同じですが‥もう主人はこの世におりません‥くれぐれも、主人の名を汚す事だけは、なされませんよう、注意されて下さい‥」
意志の強そうな声色で発せられる言葉に、本当は協力などしたくないのだとの含みが込められていた。
「ええ、そのつもりです‥」
神代が言葉を返す。
玖美子のいきなりのジャブに颯馬が苦い顔をしながら、隣の男に視線を送る。
「東条和弘です。豊成の弟です。先週、初めて颯馬がこんな依頼をしたと聞いて、私としても驚いていますが‥お手柔らかにお願いしますよ。もちろん、私に協力出来る事があれば、いつでもどうぞ。では、私は失礼して‥この後は少しやる事がありまして‥」
「和弘さん、後で部屋に伺っても‥?」
立ち上がり応接室を出て行く和弘の背に、神代が声を掛けると、笑顔を向けられた。
「ええ、もちろん‥お待ちしております」
年齢の割に爽やかな笑顔で返され、作られた笑顔だと神代は思う。
視線を皆の方に向けると、玲華の隣に座っていた少女がチラリと視線を上げた。
「東条凜乃です。4月から高校2年生になりました」
内気な性格なのか終始俯いている小柄な少女は、腰に届く程長く艶のある髪を下ろし、チラリと覗いた瞳は大きく頼りなげで、小ぶりな鼻とふっくらと色づいた唇、まるでお人形さんのような顔立ちだった。
前回、颯馬から話を聞いたところによると、あの火災以降、あまり体調が良くないとの事だったが‥。
「お兄様、私も部屋で休んでいてもよろしいでしょうか?少し眩暈がするので‥」
俯いた視線を颯馬の方に向け、おずおずと申し出る凜乃に、心配そうに玲華が立ち上がる。
「大変‥それでは私が部屋までお連れしましょう」
凜乃の視線が玲華に向けられ、小さく頷くと、凜乃は柔らかな所作で立ち上がる。
「では、後ほど凜乃さんの部屋にも、伺ってよろしいでしょうか?」
同じ様に神代が口にすると、凜乃は恭しく頷いた。
玲華が凜乃を伴って応接室を出て行くと、すぐに最後に残った少年が待ちくたびれたとばかりに発言する。
「俺は、東条優紫、今年から高校1年生。俺は、父さんの事を知りたいと思ってる。だから、あんたにも協力する。以上、後で部屋に来いよ」
神代が口を開く前に、優紫はあっさりと部屋を出て行った。
「申し訳ありません‥あんな口の利き方をして、なんだか、ちょうど反抗期でして‥」
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