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花を貪る胡蝶は蜘蛛の網にかかる
7話
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皆が立ち去ってしまったので、応接室に残ったのは、妻の玖美子と颯馬、そして神代と葉月だけになってしまった。
「では、奥様に少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
突然始まった神代の言葉に、玖美子の膝の上に丁寧に揃っている両手に力が入るのが見えた。
そして神代の隣では、いつもの様に葉月が手帳を取り出した。
「‥はい。私に分かる事でしたら‥」
ひと呼吸おいてから、神代が口を開いた。
「ご主人は、普段から煙草を吸われていたのですか?」
「いえ、日常的ではありませんでした。ただ‥たまにふと思い出したかの様に吸う事がありました。そんな事なら止めてと何度も話はしていたのですが、止める事は難しいようで‥でも、吸う時は必ず外で吸っていました。いつもは、中庭の椅子に座って‥」
「ああ、玄関ホールから見える中庭ですか?」
玄関ホールから見える中庭には、低い庭木や花壇の他に、ラタン素材で出来たテーブルとソファが並んでいた。
「ええ、あそこでいつも煙草を吸っていました。‥だから何故‥和弘さんのアトリエで煙草を吸ったのか‥私には分かりません‥」
「そうですか‥ご主人は、よく弟さんのアトリエへ足を運ばれるんですか?」
「‥‥‥‥私の知る限りでは、あまり行くことはないです」
だいぶ答えるのに間が開いた様に見えたが、それに気が付かない振りをしているのか、神代は立て続けに話を切り出す。
「では、あの火災の日、玖美子さんはどちらにいらっしゃいましたか?」
尋問のような言葉に、玖美子の目が一瞬鋭くなった様に感じたが、すぐに元に戻り、過去を思い出すように、そこから見える庭に視線を送り遠くを見つめた。
「‥あの日は‥友人と一緒に、昼食を食べる約束をしておりました。家を出たのが‥‥11時30分頃だったかしら、帰宅したのは‥17時頃‥帰ってきたら家の前に消防車や救急車が沢山停まっていて‥どれだけ驚いたことか‥まさか、主人が‥あんな事に‥‥」
あの日の出来事を思い出しているのか、玖美子の唇にギュッと力が入る。
「あの日、ご主人は、家にいらっしゃったのですか?」
その質問に、玖美子の視線が少し揺れた。
そして、答えにくいのか、少しだけ間があった。
「‥はい‥颯馬からお聞きでしょうが、主人は、あの頃‥体調が思わしくなく、仕事も休みがちになっておりました。あの日‥主人が午後に友人と会う約束をしているから、君もゆっくりしておいで‥と送り出してくれ、主人が、以前のように笑っていたので‥私もホッとして‥あなたも気晴らしに、ゆっくりしてくれば‥と話したのを覚えています」
そう語った玖美子の瞳からは、今にも雫が零れ落ちそうになっていた。
「‥あの事故の後、ご家族皆さんの様子はどうですか?何か変わった事とかはありませんか?」
もしや家族を疑っているのかと言わんばかりに、玖美子の瞳に怒りが差す。
「何をお考えになっているのかは存じませんが、そんな事はありません」
「いえいえ、疑っている訳ではなくて、例えば‥娘の凜乃さんが退院された後も、体調を崩しやすいとか‥そんな事ですよ‥」
神代がフォローを入れるも、言い訳らしく聞こえるのか、玖美子は大きく息を吐き出し不信感を隠そうともしない。
「確かに、凜乃は体調を崩しやすくなりました。ですが、それは当然の事でしょ?火災に巻き込まれ、意識を失ったところを助けられたのですから‥」
「助けたのは、優紫さんだと聞きましたが‥」
「ええ、そうです。あの時、優紫が居てくれて本当に良かった‥。もし居なかったらと考えると‥ゾッとします。娘まで失っていたらと思うと‥‥」
玖美子は目元を赤く染め唇を震わせていた。
「話は戻りますが、他の方で変わったと思う方はいませんか?」
泣きそうな玖美子に対し、何のフォローもなく立て続けに質問する神代に、いつもの事だと分かってはいたが、葉月は隣で小さく溜息を付いた。
「‥‥神代さん!これ以上、私が話す事はありません!」
玖美子はそう言うと、怒りを露にした顔で立ち上がった。
「あっ、部屋に戻りますか?それでは後程、書斎を拝見させて頂きたいので、伺いますから‥」
淡々と話す神代に、玖美子は返事もせずに応接室から立ち去って行った。
応接室には颯馬だけが残った。
「あのさ‥毎回言うのも何だけど、もうちょっと‥優しさってかさ‥思いやり‥?持てないかな~?」
葉月が神代の背中をポンポンと叩きながら、耳元でそう言うと、何故だ?と言わんばかりの神代の顔がこちらを向く。
「はぁ~こりゃダメだ‥」
今までだって何度も口にしてきたが、この男の仕事中の性格は治らないと半ば諦めてもいたが、毎回ハラハラさせられる身にもなって欲しいと、葉月は再び大きな溜息を付いた。
「では、奥様に少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
突然始まった神代の言葉に、玖美子の膝の上に丁寧に揃っている両手に力が入るのが見えた。
そして神代の隣では、いつもの様に葉月が手帳を取り出した。
「‥はい。私に分かる事でしたら‥」
ひと呼吸おいてから、神代が口を開いた。
「ご主人は、普段から煙草を吸われていたのですか?」
「いえ、日常的ではありませんでした。ただ‥たまにふと思い出したかの様に吸う事がありました。そんな事なら止めてと何度も話はしていたのですが、止める事は難しいようで‥でも、吸う時は必ず外で吸っていました。いつもは、中庭の椅子に座って‥」
「ああ、玄関ホールから見える中庭ですか?」
玄関ホールから見える中庭には、低い庭木や花壇の他に、ラタン素材で出来たテーブルとソファが並んでいた。
「ええ、あそこでいつも煙草を吸っていました。‥だから何故‥和弘さんのアトリエで煙草を吸ったのか‥私には分かりません‥」
「そうですか‥ご主人は、よく弟さんのアトリエへ足を運ばれるんですか?」
「‥‥‥‥私の知る限りでは、あまり行くことはないです」
だいぶ答えるのに間が開いた様に見えたが、それに気が付かない振りをしているのか、神代は立て続けに話を切り出す。
「では、あの火災の日、玖美子さんはどちらにいらっしゃいましたか?」
尋問のような言葉に、玖美子の目が一瞬鋭くなった様に感じたが、すぐに元に戻り、過去を思い出すように、そこから見える庭に視線を送り遠くを見つめた。
「‥あの日は‥友人と一緒に、昼食を食べる約束をしておりました。家を出たのが‥‥11時30分頃だったかしら、帰宅したのは‥17時頃‥帰ってきたら家の前に消防車や救急車が沢山停まっていて‥どれだけ驚いたことか‥まさか、主人が‥あんな事に‥‥」
あの日の出来事を思い出しているのか、玖美子の唇にギュッと力が入る。
「あの日、ご主人は、家にいらっしゃったのですか?」
その質問に、玖美子の視線が少し揺れた。
そして、答えにくいのか、少しだけ間があった。
「‥はい‥颯馬からお聞きでしょうが、主人は、あの頃‥体調が思わしくなく、仕事も休みがちになっておりました。あの日‥主人が午後に友人と会う約束をしているから、君もゆっくりしておいで‥と送り出してくれ、主人が、以前のように笑っていたので‥私もホッとして‥あなたも気晴らしに、ゆっくりしてくれば‥と話したのを覚えています」
そう語った玖美子の瞳からは、今にも雫が零れ落ちそうになっていた。
「‥あの事故の後、ご家族皆さんの様子はどうですか?何か変わった事とかはありませんか?」
もしや家族を疑っているのかと言わんばかりに、玖美子の瞳に怒りが差す。
「何をお考えになっているのかは存じませんが、そんな事はありません」
「いえいえ、疑っている訳ではなくて、例えば‥娘の凜乃さんが退院された後も、体調を崩しやすいとか‥そんな事ですよ‥」
神代がフォローを入れるも、言い訳らしく聞こえるのか、玖美子は大きく息を吐き出し不信感を隠そうともしない。
「確かに、凜乃は体調を崩しやすくなりました。ですが、それは当然の事でしょ?火災に巻き込まれ、意識を失ったところを助けられたのですから‥」
「助けたのは、優紫さんだと聞きましたが‥」
「ええ、そうです。あの時、優紫が居てくれて本当に良かった‥。もし居なかったらと考えると‥ゾッとします。娘まで失っていたらと思うと‥‥」
玖美子は目元を赤く染め唇を震わせていた。
「話は戻りますが、他の方で変わったと思う方はいませんか?」
泣きそうな玖美子に対し、何のフォローもなく立て続けに質問する神代に、いつもの事だと分かってはいたが、葉月は隣で小さく溜息を付いた。
「‥‥神代さん!これ以上、私が話す事はありません!」
玖美子はそう言うと、怒りを露にした顔で立ち上がった。
「あっ、部屋に戻りますか?それでは後程、書斎を拝見させて頂きたいので、伺いますから‥」
淡々と話す神代に、玖美子は返事もせずに応接室から立ち去って行った。
応接室には颯馬だけが残った。
「あのさ‥毎回言うのも何だけど、もうちょっと‥優しさってかさ‥思いやり‥?持てないかな~?」
葉月が神代の背中をポンポンと叩きながら、耳元でそう言うと、何故だ?と言わんばかりの神代の顔がこちらを向く。
「はぁ~こりゃダメだ‥」
今までだって何度も口にしてきたが、この男の仕事中の性格は治らないと半ば諦めてもいたが、毎回ハラハラさせられる身にもなって欲しいと、葉月は再び大きな溜息を付いた。
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