飛んで火に入る火取蟲

白樫 猫

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花を貪る胡蝶は蜘蛛の網にかかる

13話

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離れに続く扉を開き渡り廊下に出ると、今日は蛇腹のガラス窓が閉まっていた。

「へぇ~閉まると、こんな感じになるんだな~」

葉月が興味津々と歩いていく。
確かに雨風が当たらず、離れに行くのにも楽そうだが、あの火災の時は、これだけ囲まれていては煙が抜けず、籠っていただろう。
中央まで進み、ガラス窓を確認すると、そこから左右に開く様に持ち手が付いていた。
おそらく優紫はここから窓を開き、外に凜乃を運んだのだろう。

「何か分かったのか?」

足を止めまじまじと見ている神代に、葉月が声を掛ける。

「‥いや」
「‥そうか‥」
「‥なんでいつも、お前は俺任せなんだよ!たまには自分の脳みそを使ってくれ」

急に神代の口調が変わった。
葉月はいつも思う。
神代は二重人格‥いや三重人格だと。

「聞いてるのか?だいたいお前は、俺の助手だろ?」

ブツブツと文句ばかり垂れている神代を、一度冷静な目で見て、理解しようと思う。

「‥はぁ~やっぱり、無理だ‥」
「おいっ!何が無理なんだ!心の声が駄々洩れしてるぞ!」

不機嫌な顔にさらに深く皴が寄り、こめかみがピクピクと脈打っているのが見える。

――あっ‥ヤバい‥。

葉月の頬の皮膚がチリッと痛みを発する。
それはまるで静電気に触れたみたいな痛み。

「朱雀!!」

ふっと憑き物が取れた様に、神代の視線が葉月に落ちる。

「‥‥ああ‥悪い‥」

神代は眼鏡をずらし、目頭をグッと抑える。

「気を付けろよ‥」
「‥‥お前が‥言い過ぎだろ‥‥」
「‥悪かった‥ごめん‥」

少しだけ神代の声に脆弱さを感じ、葉月は素直に謝った。
そして目頭を押さえている神代の手を握ると、その開かれた瞳を真っ直ぐに見つめる。
赤く染まった瞳が美しくて、葉月はふわっと笑う。

「隠さなくていいから、誰もいないし‥」

葉月がそう言うと、神代は大きく息を吐き出し眼鏡を直し、先を行く葉月の後ろをついて行った。
神経を尖らせていると、どうも力の制御が難しくなる。
特に、葉月が傍に居ると、気の緩みが出る。
甘え‥。
自分でも分かっているが、こうやって正気に戻してくれる存在が居る事に、自分が慣れつつあるのだ。

アトリエに入ると、まだ燃えた後のキナ臭い匂いが充満していた。

「何か見たかったのか?」

葉月の言葉に返事は無く、神代は前回よりも、より細かく入念に周りを見ていた。
そして本棚の前に来ると、ほとんどが炭になっているが、燃え残っている本を手に取る。

「ほら、見てみろ‥」

その声に反応し、神代が手に持っている本に視線を落とす。

「‥なんだ?」

なんとなく燃え残っている表紙の字が見えたが、それは先程、書斎にあった絵画の本とまったく同じものだった。

「あれ?‥同じ?」

パラパラと捲ると、写真こそは挟まってはいなかったが、中身も同じものだと分かる。
そして、その本を元に戻すと、その隣には1冊のアルバムがあった。
アルバムの外表紙は焼け、中の写真は熱で色が変色しているが、誰かは確認できる。
それは、豊成と和弘が幼い頃のアルバムで間違いないようだった。
何故、この1冊だけが、ここにあるのかは分からないが、中身は、家族で旅行に出掛けた時の写真や、幼い頃の兄弟の写真が綺麗に並んでいた。
神代は、あるページで手を止めた。
そこには、親子4人で海水浴に来ている写真だった。
幼い二人は手を繋ぎ、楽しそうに砂浜を走っている。
その場所‥長く弓なりの海岸は、九十九里浜ではないだろうか‥神代は、先程の和弘の描いている絵を思い出した。
そして一枚のスナップ写真の両親を見ると、先程は豊成に似ていると思った凜乃は、若い頃の豊成の母親にそっくりだった。
豊成も小柄な体格をして、目鼻立ちがしっかりとしている顔つきで、母親に似たのだと分かる。
そして、和弘は明らかに父親に似ていた。
アルバムをそっと元に戻すと、神代は立ち上がり何かを考え込んでいる様だった。

渡り廊下を戻り、ガラス窓の真ん中を開き、外に出ると、神代は外からアトリエの方へと向かい、ちょうど出窓の付近に来ると、キョロキョロと草むらの中を見回している。

「なんか探し物?」

後ろから付いてきた葉月が聞くと、ああ‥とそっけない返事が返ってくる。
何を探しているのか分からないが、葉月も一緒に草むらを探し出した。
この周辺は、あまり手入れされていないのと、時期的な事もあり草がずいぶん伸びていた。
見つからないのか、もう一つの出窓の方へと向かうと、窓の傍には割れたガラスが散らばっていた。
再び探し出した神代の周辺を見回すと、葉月の視線にキラッとなにかが光っているのが見えた。
葉月は近づき、よく見てみる。

「あっ‥朱雀‥これ」

神代を呼び、そのものを指さした。
その声に、神代が草を踏みながら近づいてくると、ポケットからハンカチを取り出し、それを包みながら持ち上げた。
鍵だった。
おそらくアトリエの鍵だ。
可愛らしいウサギのキーホルダーが付いている。

「なんで鍵がここに‥?」

葉月の言葉に、何も答えることなく、神代はそれをポケットにしまった。

「おいっ、持って行くのかよ‥」
「ああ、もうアトリエに鍵はいらないだろ?」
「そうだけど‥」

不審がる葉月の言葉など聞いていない様に、渡り廊下に戻ると、屋敷へと入っていく。

「ああ、キヨさんにも、話を聞かなくちゃな‥」

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