飛んで火に入る火取蟲

白樫 猫

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花を貪る胡蝶は蜘蛛の網にかかる

16話

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大石が2度目の報告を持った来た頃には、神代の中ではある程度の考えがまとまっていた。

「‥以上が、俺が調べた事だが‥これ調べるのに、結構苦労したんだぜーもっと労われよ」

安定の仏頂面に、大石が嘆く様にソファに項垂れる。
その気持ち、分かるよ~と、先程、自分の報告を終えたばかりの葉月は、その言葉を口に出しそうになるが、心にとどめておいた。
目の前で項垂れるオジさんと、自分が同じというのが、少し許せないから。

「ああ、すみません‥考え事をしていて、大石さん、本当にありがとうございました。警察官と言う身分を存分に使っていただき、感謝しております」

心にもない事を言っていると、すぐに分るような笑みに、大石はガックリと肩を落とした。

「はぁ~いいよ別に、好きに使ってくださいよ‥俺の警察手帳なんて、安いもんですから‥ハハッ‥」

いじける様にそう言うと、葉月が出したコーヒーをゆっくりと啜る。

「クスクスッ‥まぁ、そういじけないで下さい」

今度は、ちょっと嬉しそうな神代の顔が見れて、大石の尻尾‥いや尻尾は無いが、尻尾がフルフルと喜び揺れているのが見えた気がした。

「これで、だいたいの事が分かりました。颯馬さんにアポを取り、話をしに伺いましょう‥」

神代がそう言ったところで、大石の携帯が鳴り響いた。
大石が急に警察官の顔をして、電話に出ながら立ち上がり、席を外した。

「じゃあ、俺が颯馬に連絡するよ‥」
「ああ、早い方がいいな‥」

そんな葉月と神代のやり取りの中、勢いよく大石が飛び込んでくる。

「神代!和弘が死んだ!!」





原因は睡眠薬の過剰摂取。
これから和弘の体は司法解剖に回され、検案書が出来るまでは確定ではないが、部屋には睡眠薬の空のシートが大量に見つかり、机の上には遺書まであったそうだ。

神代も、すぐさま駆け付けたかったが、警察が調べている最中に行っても具合が悪い。
すぐに颯馬に連絡を入れ、明日、伺う約束をした。
みんなの様子を聞くと、家族全員が驚き、落ち込んでいると言う事で、気落ちしない様にと、お悔やみの言葉を述べ、電話を切った。

颯馬に気落ちするなと言ったばかりだが、神代は自責の念に駆られていた。
自分には救えなかったのだろうか‥調べるのに時間が掛かり過ぎたのでは?
もたもたしていたから、和弘が死んだのだ‥。
もっと自分が早くに解決できていたなら、和弘は死なずにすんだのだろうか‥。
モヤモヤとした気持ちが、胸の奥深くにある濁り溜まっているモノを、ゆっくりと呼び覚ましてくるような感覚に、神代は身体を震わせた。
こんな日は‥‥危ない‥‥。
自分の事は自分が一番よく分かっているが、それも自分の意識があるからこそだと、神代はいつしか唇を噛み締めていた。

夕食は葉月が中華屋の出前を頼み、一緒に食べる。
食欲がないのか、神代はあまり口にせず、食べろと言うと、動いてないから腹が減らないと言い返され、不機嫌そうな神代に、これ以上言うのを止めた。
それから数時間が過ぎ、葉月がソファでゴロゴロと携帯を弄っていると、神代が足で蹴り上げてくる。

「オイ、お前は、もう帰れよ‥」

声の感じで、神代がいつもより機嫌が悪い事がすぐに分る。

「いや、今日は泊る‥」

当たり前の様に葉月がそう言うので、神代はふざけるなと声を強める。

「だって、お前ひとりに出来ないし‥」

心配かけているのが分かっているが、自分の弱みを見せたくないとの気持ちの方が大きい。

「帰れ!」
「ん―却下かな‥」

のんびりと言う葉月が鬱陶しくて、神代はフンと鼻息荒く立ち去る。

「俺は、風呂に入る」
「へいへーい。ごゆっくりー」

携帯から目も離さずに、そう言った葉月を一瞥すると、神代は浴室に消えた。




互いにおやすみ‥と言ってから、葉月はソファに横になっていた。
そこから神代のベッドが、ちょうど見える位置にある。
目を閉じると、眠ってしまいそうになるから、眠気覚ましに事件の事を考えていた。
すると、神代が眠っている筈のベッドから音がしたので、葉月は足音を立てず近づくと、神代が目を開けていた。

「眠れないのか‥?」

そっと優しい声で葉月が問いかける。

「‥眠れる訳ないだろ‥」

きつい言葉だが、声は弱々しく感じ、葉月はそっとベッドの脇に腰掛けた。

「俺が起きてるから‥眠っていいよ‥」

神代が心配している事は、分かっている。

「‥お前こそ、ちゃんと寝ろ‥」
「俺は体力あるけど、お前は体力もないだろ?明日も、東条家に行くんだろ?‥ほら目を瞑って寝ろ‥」

葉月がそう言っても、神代は目を閉じなかった。

「大丈夫‥俺が傍にいるから‥‥」

葉月の手が優しく神代の瞳に触れると、神代は除けることなく大人しく瞳を閉じた。

「お前の手は、冷たくて気持ちがいい‥」

暫くして、その手を離しても神代の瞳は開く事無く、穏やかな寝息が聞こえた。


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