鬼天の悪魔 (おにがみのあくま)

HANABI

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記録03

少年

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 最近見かけるあの子は、どこかに連れていかれたかと思えば、ボロボロになった状態で帰ってくる。そして牢屋に入れられ、あの子は奥の隅っこに寄せて座る。俺は見ていられないと思いつつも、どうもあの子が気になってしまう。
 首枷を付けられてる俺とは違い、彼女は首枷を付けられていない。しかしちぎれた鎖で繋がれた手枷と、檻から逃げられないよう足に繋がれた足枷を見れば異常だと気づいていた。
だから誰も近寄り難く、あの子に食べ物を持ってくる姿はあまり見たことがない。あの子の姿は健康そうに見えるけど、お腹のすく音が微かに聞こえる。
俺は耐えきれず自分が持っているパンを半分にちぎりながら、檻の元へ走っていった。
「…名前なんだっけ、五十番?って呼ばれてたな。おーい五十番~!そんな隅っこにいないでこっち来なよ!美味しいもの分けてあげるからさ!」
なるべく怖がらせないよう明るく声をかける。すると、暗い中からゆっくり彼女が現れた。その子の目には何も感情が読み取れず、死んだような目をしていた。
俺は何かを言いかけたが、咄嗟に頭の中の内容を変えて
「…これ、あげるよ。盗んできたんだ。へへ」
と盗んだ訳ではないのに思わず嘘をついて誤魔化してしまった。
 ちぎった半分のパンを持ったまま、そっと彼女の前に差し出す。彼女は何も言わず、差し出されたパンを両手で受け取り、不思議そうに俺の顔を見上げていた。
「そうだよな、立ったまんまじゃ食えねぇよな…座って一緒に食べよう。」
見本を見せるように彼女の目の前に座り、彼女が座るのを待つ。見よう見まねで後から彼女も座る。何も知らないのかな…なんて思いながら俺から先に食べて見せた。
彼女は口を小さくゆっくり開く。お腹すいてるはずなのに、欲張らずに少しずつ食べていた。
俺は食べながら自分の周りについて話したり、彼女のことについて聞いてみたりした。だけど彼女は何も口に出さなかった。
お互い食べるスピードが違っていたから先に俺の方が完食してしまった。食べた後は、奴隷としての仕事に戻らなきゃいけない…俺はどうしようと焦ってしまう。
すると彼女はいきなり食べるのをやめ、檻の中から手を出し始めた。手の角度が俺の首に近づこうとしていたから、少し警戒しつつその手に近寄った。
(首輪を気にしているのか…?)
「カチッ」と何かが外れた音がして下を向く。すると俺の首に付けられていた首枷が下に落ちていった。
首枷を外された瞬間、俺はひどく動揺していた。
悪魔である俺にとって、それは有り得ないことだったからだ。
気づけば、下を向いていた顔を上げていた。

目の前に映る彼女の顔は、微かに微笑んでいた。

それは一瞬の出来事だった。
次の瞬間、人間の声が脳に響き、その微笑みも、温度も、すべてが霧散した。
俺はただ、逃げることしかできなかった。
 
 あれから俺は、人間に見つからないようあちこちに身を潜めながら、周囲の様子をうかがっていた。首枷を外され、自由の身になったからだ。
もっとも、俺は最初からそこまで危険視されていなかったのか、手枷も足枷も、最初から付けられてはいなかった。
自由の身になったとはいえ、俺には逃げ場を知らなかった。
だから、隠れるしかなかった。
 未だに、あの子が気になってしまって遠くからあの檻を確認している。あの子は首枷の外し方を知っていた。それは本当はありえないことで、理解できないところでもあった。
何も知らなさそうなあの子が危険視されてるのは余程の力があるのか、あるいは大きな存在が関わっているのか…
聞いたことあるのは上位悪魔よりも大きな存在の悪魔と契約している人間が、数多くの下僕を使い、この地獄のような場所を作ったとか。そんな大きな存在に目を付けられてるんじゃないかと嫌な考えが過ぎった。
どうにか助けられないかと考えながら、逃げて外の世界に出ることも、考える余裕もない俺は、隠れながらも食べ物を盗み、彼女の様子を気にする毎日を過ごしていた。
 ある日のことだった。いつも通り隠れることしかできない俺は、ずっとこのままなのかと膝を立てながら座り、落ち込んでいた。そんな中、聞き覚えのある人間の声が聞こえてくる。檻の前にいた時に、脳に響いたあの声だった。まさかと思い、その声に、思わず顔を向けた。
あの子だ…あの子が今人間達に連れていかれそうになってる。どこに向かってるのか分からないが、いつも行く場所じゃないことは確かだった。俺は呆然と動けないまま見つめていると、ふと、彼女と視線があった。
視線があった彼女は、こちらに顔を向けあの時よりも表情が緩んだように微笑んだ。その目は優しかった。
その表情を見た瞬間、胸の奥が掻き乱されて
考えるより先に彼女のもとへ駆け寄っていた。
不意に、視界が揺れた。
頬に走る痛みとともに、血の味が口に広がる。
人間が咄嗟に俺を殴ったのだ。
頬に血が滲む。彼女を見上げながら、安心させようと俺は微笑んだ。言葉は出せなかった。
俺の顔を見た彼女は、目の瞳孔が開き酷く傷ついた表情をした。その直後、彼女の目は裂けるような瞳孔に変わって、瞬きする間もなく、彼女の爪は長く伸び、勢いよく人間達を次々引っ掻いていく。傷つけられた人間たちは次々倒れていき、彼女を目で必死に追いかけていくと、彼女は一度止まって俺の方を何も言えない目で見ては素早く走っていく。
俺は「待って…!」と言い追いかけようとするも、後から追いかけて来た人間に捕まり彼女を引き止めることはできなかった。
もう二度とここには戻ってこないだろうと、俺の頭の中にはその言葉しか残っていなかった。
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