鬼天の悪魔 (おにがみのあくま)

HANABI

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外伝 02

神の子

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昔 天から一つの命が授けられた。
それは人の形をとらず、白き蛇の姿で地に降りた。
神はその存在に名を与えず、ただ一言だけを告げた。
「汝は我が使いである」
指名の意味も、いく先も示されぬまま、その命は地上へと送り出された。
後に人はそれを見て、畏れと祈りを込め、同じ言葉で呼ぶようになる。

ー神の使い、と。
 
 やがてその命は、一つの神域に導かれた。
神の気配が色濃く残る、深い森の奥へと。
そこには、人の目には映らぬ九尾が在ったと伝えられている。
人は見えぬ妖怪を神と称えながらも、目に映る白き蛇を、その神域の主として祀った。
その日から、白き蛇は名を持たぬまま、
神と人の狭間に在り続けることになる。

ーー後に「巳波」と呼ばれる存在の、始まりであった。

 やがて九尾は、力を持たぬ神の子に人の形を与えた。
「さぞ生きにくかろう。力を与えられたからには、役に立つことだな」
人の姿を手に入れたそれは、しばし動かず、ただ自らの手を見つめていた。
指があり、形があり、
大地に触れる感覚が、確かにそこにあった。

まだ幼き人の姿をした蛇を見ては、人々は果実を携え、口を揃えて祈った。
「あぁ神よ、どうか、どうか村をお救いください…」
鬼が棲むという噂に、人は恐れを募らせていた。

 九尾はその話を耳にし、蛇に見せつけるように、一人の子を連れてきた。
人の子ほどの背丈でありながら、その影は妙に歪み、
足元には、夜の匂いがまとわりついていた。

「人間を襲うかどうかは、お前が判断するといい」

それは鬼の子であった。
だが、ただの鬼ではない。
人の恐れを糧とし、闇に灯るもの――
後に“青行燈”と呼ばれる存在である。

 蛇は鬼の子と関わっていくうちに、優しさに触れ、
いつしか友と呼ぶほど、共に在ることを選ぶようになっていた。

鬼の子は人を恐れ、蛇は人を知らず。
互いに異なるもの同士でありながら、
焚き火のそばで夜を越し、言葉を交わさぬまま時を重ねた。

その姿を見て、九尾は何も語らなかった。
ただ静かに、運命が動き始めたことを悟ったという。

月日が流れるにつれ、人々が神社を訪れる回数は増えていった。
あちこちの村が、何者かによって襲われたと噂されるようになったのだ。

姿も定かでないその存在を、
人は恐れと共に「鬼」と呼んだ。

蛇には、どうしても信じがたいことだった。
鬼の子は誰かを襲うどころか、いつも蛇のそばを離れなかったからだ。

その時まで、沈黙を保っていた九尾が、初めて口を開く。
「人間は愚かだ。何も見ていないというのに、すぐに何かのせいにする」

そう言って、九尾は蛇の両眼を静かに覆った。
「お前に、よいものを見せてやろう。──人間が、いかなる生き物であるかを」
次の瞬間、蛇の視界は闇に沈んだ。

黒いものが暴れ出す姿。
逃げ惑う人間の声。
そして──人の姿をした何かが、笑いながら立っていた。

その背後には、なにも言えぬ大きな何かが立っていた。

「これは、まだ名を持たぬ未来だ」
九尾の声が、遠くで響く。
「やがて人は、この存在を恐れ、
鬼よりも深い罪を背負わせることになる」

蛇の胸に、言い知れぬ寒気が走った。
それは鬼ではない。
しかし、人の欲と恐れが生み出した──災いだった。

蛇は、その光景から目を逸らした。
だが、覆われたはずの視界の奥で、なおも未来は蠢いていた。

耐えきれぬ恐怖に、蛇の身は震え、
その震えは、やがて一つの形を成す。

白き身より分かたれた、もう一匹の蛇。
それは声を持たず、意思を語らず、
ただ主の首に巻きつき、外界を拒むように静かに息づいていた。

見ることを拒み、
知ることから逃れるために生まれた影である。
後に人はそれを、守りとも呪いとも呼ぶ。

どうしても目の前を見ることを恐れた蛇は、
布を両眼に巻きつけ、地に伏して叫んだ。

「あぁ、悍ましい……悍ましい……。
あの男が、怖くてたまらない。
なにも見とうない……なにも……」

予知の力を授かってしまった蛇は、
見ることを恐れ、両眼を覆ったまま生きる道を選んだ。

やがて成長したその蛇は、
かつて未来で見た、人の形をした災いを思い出しながら、
静かに、こう語ったという。

「いつか、あの男を倒せるよう……導き出さねばならないねぇ」
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感想 1

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みんなの感想(1件)

黎明
2026.02.12 黎明
ネタバレ含む
2026.02.13 HANABI

ありがとうございます!とても嬉しいです…!気長にやっていく予定なので続き楽しみに待っててください!

解除

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