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記録06
ぬくもり
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聞き覚えのない音、
眩しい光、
ゆっくり聞こえてくる足音、
何か温かいものに包まれながらあゆまはゆっくり目を覚ました。
ここがどこなのか、頭がぼんやりして、なにも追いついていない。
その温かいものを持ち上げて目で確かめる。うっすらと残っている記憶が頭に語りかけた。
……布団だ。
そんな名前がなにを表しているのか、あゆまはまだ自分の中で起こっていることを理解できていなかった。
でもまだあの頃の優しさを体は覚えているらしい。
思わず泣きそうになり、あゆまは目を抑えた。
「ツーツーピー、ツーツーピー…」
高く鳴るその音を聞くたび、なぜかあゆまを心地よくさせた。
…起きなきゃ、また呼ばれる…
頭には五十番と呼ぶ声が聞こえてくる。でも体が言うことを聞かない。
まだこの温もりを感じていたいと言っているようだった。
このままだと、硬いもので叩かれる。
そう思った瞬間、あゆまの体は震えて気づけば縮こまっていた。
「おや、おはよう。雪も止んで今はさほど寒くないから、起きあがってもいいよ。」
優しくかけてくる声にあゆまは布団から顔を出す。
「…いい声だねぇ。こういうのはヤマガラっていう鳥の鳴き声なんだ。怖くない、怖くない。」
声の主は蛇を首に巻いている男、巳波だった。
あゆまは安心したように息を吐く。巳波の顔を伺いながら、ゆっくりと起き上がった。
「ふ…はははっ、ひどい寝癖だねぇ。よし、まずは顔を洗おうか。」
手を引っ張られ、されるがまま巳波の後ろを歩く。
眠ってしまったあの時は暗かったのに、今あゆまの目の前には光をたたえた青が広がっていた。
「着いたよ。ほら、ここに乗って。」
言われるがまま置いてある台の上に乗った。
ふと、前を向く。すると磨かれた金属の板のように、自分の顔がぼんやり写っていた。
懐かしい顔だ。あゆまはしばらく写っている自分を見つめていた。
巳波は木で作られた桶に水を張ってあゆまの前に置いた。
「今の寒さにこの水は少々堪えるが、我慢しておくれ。」
巳波は水を手で掬いあゆまの顔につける。慣れているのか、あゆまは動かなかった。
「後はこの逆立った髪を梳かそうか。動かないでおくれ。」
「すぐ終わる。痛いことはしないからね。」
そう言いながらあゆまの髪を梳かしていく。
あゆまは前にも誰かに同じことをされたことある気がして、気持ちが少し温まった。
気がつけば、あゆまの頬には涙が伝っていた。
目の前には美味しそうな匂いとともに、食べ物が並んでいる。あゆまは運ばれた食べ物に涎を垂らしながら、じっと見つめていた。
部屋の外から近づいてくる足音が聞こえた。あゆまが音がする方へ顔を向けていると、戸が開いてぶっきらぼうに男が顔を出した。
青い髪、おでこに角。
耳に金色のものがぶら下がり、目元には四角いなにかがかかっている。有鬼だ。
「…なんだ、食わんのか。」
有鬼はあゆまの前に座り、様子を伺っていた。
言われたあゆまは慌てて食べ物に手を出す。それを見た有鬼が急いであゆまの腕を掴んだ。
「馬鹿者!誰が味噌汁に手を突っ込めと言った⁉︎これだから餓鬼はッ」
怒鳴られたあゆまはきょとんとしながら有鬼を見つめる。
有鬼は熱さに気づかないのかと違和感を持ちながら、台所にいる巳波を大声で呼んだ。
「……あぁ、そうだったか、あゆまは匙の使い方も知らなかったんだねぇ。私は悪魔がどうやって食事をしているのか知らなかったんだ。許しておくれ。」
そう言いながら、あゆまの赤くなった手を水につける。
なにをやっても微動だにしないあゆまに対して、二人の頭に嫌な考えがよぎる。
この子は“麻痺“しているのだと。
なんとか最後まで食べさせ、巳波はあゆまと向き合うように座る。あゆまも真似して正座をした。
「昨日の続きを聞きたい。あゆまは、どうやってこの世界に来たのかい?」
あゆまは一度巳波の顔を見た後、顔を伏せて言った。
「……わかんない。逃げてたから…」
そばで聞いていた有鬼は眉を顰め、巳波はなにも口に出さなかった。
「まだこの時間は、小鳥たちが木に留まっているだろうから見てみようか。」
あゆまの手を引き、廊下まで連れていく。
「座布団を用意してあげるから、そこに座りなさいね。」
とあゆまを用意した座布団に座らせ、巳波は少し距離を取り、有鬼を呼んだ。
「有鬼も気づいているんだろう?…あの子は奴隷だ。」
「正直、手枷とかだけでは判断つかなかったんだけどね」
巳波は一拍置いてから、有鬼に顔を向ける。
「……まだ続いているとは、皮肉なものだ。しかもあいつはガキ。いくら悪魔とはいえ、子供の奴隷は聞いたことがない。」
「私が見るにあの子は、三、四の歳くらいだと思うんだけど…あの慣れてしまった体を見ると、歳と割に合わないんだよね。」
そして、服を脱がせた時の背中の大きな傷。まるでそこに羽根があったかのように
…剥がされた後に見えるなんて口が裂けても言えなかった。
「よし、あゆまはお前に任せることにした。いい機会だしね。」
巳波の突飛推しのない言葉に有鬼は思わず叫ぶ。
「餓鬼は嫌いだ!」
眩しい光、
ゆっくり聞こえてくる足音、
何か温かいものに包まれながらあゆまはゆっくり目を覚ました。
ここがどこなのか、頭がぼんやりして、なにも追いついていない。
その温かいものを持ち上げて目で確かめる。うっすらと残っている記憶が頭に語りかけた。
……布団だ。
そんな名前がなにを表しているのか、あゆまはまだ自分の中で起こっていることを理解できていなかった。
でもまだあの頃の優しさを体は覚えているらしい。
思わず泣きそうになり、あゆまは目を抑えた。
「ツーツーピー、ツーツーピー…」
高く鳴るその音を聞くたび、なぜかあゆまを心地よくさせた。
…起きなきゃ、また呼ばれる…
頭には五十番と呼ぶ声が聞こえてくる。でも体が言うことを聞かない。
まだこの温もりを感じていたいと言っているようだった。
このままだと、硬いもので叩かれる。
そう思った瞬間、あゆまの体は震えて気づけば縮こまっていた。
「おや、おはよう。雪も止んで今はさほど寒くないから、起きあがってもいいよ。」
優しくかけてくる声にあゆまは布団から顔を出す。
「…いい声だねぇ。こういうのはヤマガラっていう鳥の鳴き声なんだ。怖くない、怖くない。」
声の主は蛇を首に巻いている男、巳波だった。
あゆまは安心したように息を吐く。巳波の顔を伺いながら、ゆっくりと起き上がった。
「ふ…はははっ、ひどい寝癖だねぇ。よし、まずは顔を洗おうか。」
手を引っ張られ、されるがまま巳波の後ろを歩く。
眠ってしまったあの時は暗かったのに、今あゆまの目の前には光をたたえた青が広がっていた。
「着いたよ。ほら、ここに乗って。」
言われるがまま置いてある台の上に乗った。
ふと、前を向く。すると磨かれた金属の板のように、自分の顔がぼんやり写っていた。
懐かしい顔だ。あゆまはしばらく写っている自分を見つめていた。
巳波は木で作られた桶に水を張ってあゆまの前に置いた。
「今の寒さにこの水は少々堪えるが、我慢しておくれ。」
巳波は水を手で掬いあゆまの顔につける。慣れているのか、あゆまは動かなかった。
「後はこの逆立った髪を梳かそうか。動かないでおくれ。」
「すぐ終わる。痛いことはしないからね。」
そう言いながらあゆまの髪を梳かしていく。
あゆまは前にも誰かに同じことをされたことある気がして、気持ちが少し温まった。
気がつけば、あゆまの頬には涙が伝っていた。
目の前には美味しそうな匂いとともに、食べ物が並んでいる。あゆまは運ばれた食べ物に涎を垂らしながら、じっと見つめていた。
部屋の外から近づいてくる足音が聞こえた。あゆまが音がする方へ顔を向けていると、戸が開いてぶっきらぼうに男が顔を出した。
青い髪、おでこに角。
耳に金色のものがぶら下がり、目元には四角いなにかがかかっている。有鬼だ。
「…なんだ、食わんのか。」
有鬼はあゆまの前に座り、様子を伺っていた。
言われたあゆまは慌てて食べ物に手を出す。それを見た有鬼が急いであゆまの腕を掴んだ。
「馬鹿者!誰が味噌汁に手を突っ込めと言った⁉︎これだから餓鬼はッ」
怒鳴られたあゆまはきょとんとしながら有鬼を見つめる。
有鬼は熱さに気づかないのかと違和感を持ちながら、台所にいる巳波を大声で呼んだ。
「……あぁ、そうだったか、あゆまは匙の使い方も知らなかったんだねぇ。私は悪魔がどうやって食事をしているのか知らなかったんだ。許しておくれ。」
そう言いながら、あゆまの赤くなった手を水につける。
なにをやっても微動だにしないあゆまに対して、二人の頭に嫌な考えがよぎる。
この子は“麻痺“しているのだと。
なんとか最後まで食べさせ、巳波はあゆまと向き合うように座る。あゆまも真似して正座をした。
「昨日の続きを聞きたい。あゆまは、どうやってこの世界に来たのかい?」
あゆまは一度巳波の顔を見た後、顔を伏せて言った。
「……わかんない。逃げてたから…」
そばで聞いていた有鬼は眉を顰め、巳波はなにも口に出さなかった。
「まだこの時間は、小鳥たちが木に留まっているだろうから見てみようか。」
あゆまの手を引き、廊下まで連れていく。
「座布団を用意してあげるから、そこに座りなさいね。」
とあゆまを用意した座布団に座らせ、巳波は少し距離を取り、有鬼を呼んだ。
「有鬼も気づいているんだろう?…あの子は奴隷だ。」
「正直、手枷とかだけでは判断つかなかったんだけどね」
巳波は一拍置いてから、有鬼に顔を向ける。
「……まだ続いているとは、皮肉なものだ。しかもあいつはガキ。いくら悪魔とはいえ、子供の奴隷は聞いたことがない。」
「私が見るにあの子は、三、四の歳くらいだと思うんだけど…あの慣れてしまった体を見ると、歳と割に合わないんだよね。」
そして、服を脱がせた時の背中の大きな傷。まるでそこに羽根があったかのように
…剥がされた後に見えるなんて口が裂けても言えなかった。
「よし、あゆまはお前に任せることにした。いい機会だしね。」
巳波の突飛推しのない言葉に有鬼は思わず叫ぶ。
「餓鬼は嫌いだ!」
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