不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

文字の大きさ
39 / 129
4章

51話 サングレ

しおりを挟む

「さて、それではいいかな?」
「はい!」

 僕の部屋にはいつものマスラン先生ではなく、ジェラルド師匠が座っている。

 先生は既に屋敷から出て行った事を既に聞かされていた。
 先生との挨拶は昨日の内に済ませていたので、寂しいけれどしょうがない。
 それに、今の僕は病を治療する為の魔法を習得する必要がある。

 そのことに全力を向けなければならないのだ。

「それでは病をどうやって治療するかの説明からしよう」
「お願いします」
「病の治療にはサングレを使う」

 サングレ、それは目で見えるかどうかと言うレベルに小さい銀色の玉だ。

 師匠はそれをてのひらの上に出して見せる。

 僕には目を凝らしてもキラリと見えるかどうかと言ったレべルの代物だった。

「これが……」

 マスラン先生から話は聞いていたけれど、実物を見たのはこれが初めてだ。

「そうだ。次に、これに患者ではなく、治療する側の血を染み込ませる」
「はい」
「これは血を染み込ませると更に小さくなるからな。これを患者に入れる」
「はい」
「そして、治療する側が患者の体内に入ったサングレを依代よりしろにし、患者の体内に入る」
「本当なんですね……」
「ああ。そして、体内に入り、体内の方から病の元になっている病原菌びょうげんきんや傷を見つける。そして、それを治療する。後は治療を始めて数時間でサングレは溶けてなくなるので、魔法を切って現実世界に帰って来て患者に何も無ければ治療は完了だ」
「分かりました」

 マスラン先生から聞いていたことの説明と一緒だ。
 だけど話を聞いたのと、実際に行なうことではまるで難易度は違う。

「さて、それでは、今回はサングレに意識を乗り移らせる。という所までやる。それが出来れば……2級回復術師としての実力はある」
「そうなのですか?」
「ああ、病を治すのはそれだけ難しい。依代にしたサングレに意識を飛ばす。それがまず難しいのだからな」
「なるほど……」
「まずは何でもいいが……針の方が痛みは少ないからおススメだな」

 師匠はそう言って親指に針を突き刺し、血がにじみ出てくる。

「これをサングレに染み込ませ……」

 師匠はにじみ出てきた本当に少量の血を、サングレの上に垂らした。
 そして、それをそのまま小さな皿の上に垂らす。

「よし。これでいいな。まずは意識を自身の依代に飛ばす為の魔法だ。しっかりと聞いておけくように」
「はい」

 師匠はそう言ってからベッドの隣のテーブルに、皿を置く。
 それから目を閉じて集中し始めた。

「我が意識は欠片、依代に宿り新たな自我を為せ『生命憑依ライフ・ポゼッション』」

 師匠が詠唱を唱えると同時に、意識を失ったかのように背もたれに体を預ける。
 それから数秒もすると、師匠は意識が戻ったかのように動き出した。

「見たかい?」
「見ましたけど……どういう感じでやるのでしょうか?」
「何、難しいことはない。自身の血とサングレに自身をそのまま飛ばすようなものだ。やってみればわかる」
「わ、分かりました」

 まずはやってみよう。
 それで失敗した時に師匠から話を聞けばいいだけなのだから。

 僕は先生からもらった新しい針で自分の指を刺す。

「いて」
「すぐに慣れる」

 それから師匠からサングレをもらい、それに自身の血を垂らす。
 皿の上にそれを垂らし、僕は目を閉じて集中する。

 僕自身を飛ばす。
 どうしたらいいのだろうか。
 そう考えた時に、いつもやっていることに気が付く。

 僕はこの部屋から飛び出して、色々な場所に行きたい。
 そんな風にずっと……ずっと思っていた。

 だからその移動先をこのサングレに変えるだけだ。
 僕なら出来る。
 きっと出来るに決まっていた。

 師匠の詠唱を完璧に復唱する。

「我が意識は欠片、依代に宿り新たな自我を為せ『生命憑依ライフ・ポゼッション』」

 僕の意識がグン! と飛び出すような感覚がして、サングレの方に向かう。
 そしてそのまま目を開けると、周囲はうっすらと明るい赤色の中にいた。

「ここは……?」

 僕は赤い中に立っている……というよりも、浮かんでいるようだ。
 縦横どこを見ても赤く、どこに進むべきかも分からない。

「っていうか……どうやって帰ろう……」

 魔力をこのまま切ってしまっても大丈夫だろうか。
 それとも帰る時用の魔法があったりするのだろうか。

 分からない。
 でも、ここで間違えると大変なことになるかもしれない。

「どうしようか……うわ!」

 考えていると、周囲を凄い衝撃が襲う。

「なに何々?」

 周囲全てが揺れ、流されてしまいそうになるほどの衝撃だ。
 どこに行くのかも分からず不安が押し寄せる。

「エミリオ!」

 不安になっていると、師匠の声が聞こえる。

「師匠!?」
「ああ、まさか……初めての魔法で成功するとは思わなかったぞ」

 師匠は僕の方に向かって浮かんできながらそう言って来る。
 いつもは無表情なその顔も今は驚きを浮かべていた。

 ああ、今の衝撃は師匠が僕の血の上に師匠の血を垂らした衝撃だったのかな。

「僕もまさか成功するとは思わなかったです。マスラン先生には失敗してはならない。という事は強く習っていたんですが……」
「それは実際に治療をする時の話だろう? 初めて使う魔法には関係ないのだが……まぁいい。なにはともあれ、成功を喜ぼう。ここまで才能があるとは思わなかった」
「はい! ありがとうございます!」
「ただ、いきなりここまで出来たんだ。丁度いいから次の練習もやるぞ」
「次の練習ですか?」
「ああ、体内ではこの様な浮かんだ感覚のまま動くことになる。だから、その感覚の練習だ。これも中々うまく行かずに、つまずくことの多い部分だ。頑張れよ」
「わかりました」

 師匠にはそう言ったけれど、心の中では自信があった。

 宙に浮かぶ練習。
 それは以前1人で練習していて、出来る様になっていたからだ。
 あの感覚のままできっといいに違いない!

 僕はあの時の感覚を思いだしながら、縦横無尽じゅうおうむじんに動き回る。
 ただし、あんまり速度を出すと怖いのでゆっくりだけれど、それなりの速度は出せたと思う。

「どうでしょうか?」
「これは……驚いたな。初めてでここまで出来るようになるなんて……」
「本でこの練習もしておくといい。そう習いましたから」
「なるほど。かと言って、本を読んだだけでは出来ない物だが……取りあえず戻ろう。これなら次にいった方が早そうだ」
「あ、そうでした。僕……この状態からの戻り方が分からなくて……」
「戻る時は繋がっている魔力を切るといい。それで戻れる」
「分かりました」

 僕は師匠に言われるままに魔力を切ると、すっと元の体に戻って行く。
 視界はいつものベッドにいる僕に戻った。

「今のが……」
「ああ、今のがサングレに意識を飛ばすということだ」
「はい」
「これは普通は出来る様になるまで1年で出来るようになるだけでも早い。というか、一生できない者すらいる」
「一生……」
「人はその自己の存在を体に求める物。魂の在処はただ一つ……とな。その考えが間違っている訳ではない。それは人として正しいし、至って普通だ。だが、それを越えなければ、常識の向こう側を目指さなければ回復術師としての腕は上がらない。この事を肝に命じておけ」
「常識の向こう側を……」
「そうだ。これから理解できない様な事を何度も起こすことになるだろう。それも全て先人達が時には命を賭けて見つけて来た道だ。感謝はしろとは言わないが、全て学ぶ気持ちは忘れるな」
「はい。分かりました」

 過去の人たちが人を治療したい。
 そんな思いを持っていたからこそ、こんな……こんな人の体内に入るなんていうことを見つけたのだろう。

 そんな先人達に感謝し、僕は……もっと多くの人を助けに行きたい。
 僕が1人決意をしていると、師匠が話しかけてくる。

「よし。決意も決まった事だ。早速中に入ってみよう」
「な、中……ですか?」
「そうだ。サングレに意識を飛ばせるのであれば、何も問題はない。いいな?」

 師匠との付き合いは浅いけれど、彼の口調は本気だったように思う。

 もう……僕は人の体の中に入るっていうこと!?
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。