不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

文字の大きさ
43 / 129
4章

55話 やってしまいましたね

しおりを挟む
やまいは待ってくれない。今からだ」

 師匠はそう言って、治療の準備をテキパキと進めている

 そうだ……今すぐにでも……やらないといけないんだ。

「エミリオ。彼女をベッドに寝かせてくれ」
「分かりました」

 僕は彼女を魔法でベッドに運び、ゆっくりと降ろす。

「出来ました」
「よし。では直ぐに行く。来るか?」
「行きます」

 体力は正直怪しい。
 けれど、師匠が今から行く。
 師匠の治療している姿を見ることは、僕自身の病を治療することに必ず役に立つ。

 それに、師匠に抱えてもらっている間に、少しは体力も回復している。
 きっと行けるはず。

「では血を」
「はい」
「彼女への注射は両方おれが打つ。いいな?」
「はい」
「彼女の中に入ったら今度も最初はその場にいろ。詳しい事は中で話す」
「わかりました」

 それから3分も経たない内に師匠が準備を整え、彼女の腕に注射を2回打つ。

「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ『体力増強ライフブースト』」

 そのまま師匠は『体力増強ライフブースト』を彼女に使った。

「先に行くぞ」
「はい」
「我が意識は欠片、依代に宿り新たな自我を為せ『生命憑依ライフ・ポゼッション』」

 師匠が詠唱を唱えてサッサと彼女の中に入って行く。
 僕も詠唱を唱えて入り込む。

 体が引き伸ばされるような感覚を味わい、目を開けるとそこは真っ赤な……血管の中だった。
 ただ、コクラの人形に入った時よりも格段に広い。

 周囲を通り抜けていく赤血球もかなりの大きさがあって、やっぱり人形とは全く違う。

「師匠は……」

 周囲を見回すけれど、そこに師匠の姿はない。
 暫く待つと師匠が目にもとまらぬ速さで現れた。

「師匠!」
「こっちだ! ついてこい!」
「はい!」

 師匠は速度を維持したまま飛び去っていく。

 僕も置いて行かれないように出来るだけ速度を出す。
 師匠は速いけれど、僕がなんとかついて行ける速度だった。

 数十分も飛び続けると、師匠が僕の方を見て話してくる。

「今回の敵はどんなのかまだ分かっていない。もしも、無理だと思ったらさっさと魔力を切れ。そうすれば元の体に戻れる」
「でも治療が……」
「無理に戦って、周囲の体を傷つけたらその方が患者にはダメージがデカい。引き際を覚えるのも大切だ」
「分かりました」
「それと本体、おれ達の体の方だが、そっちでも何かあったら直ぐに帰れ。本体が無事な事が何よりも必須だ」
「はい。師匠」
「おれの勘が正しければそろそろ着く。場所は……心臓のあたりだな」
「心臓ですか……それは」
「いたぞ」
「!?」

 少しした所にそれはいた。

 真っ黒い、僕の体以上の大きさを誇っている。
 体の構造的にはトカゲが近いだろうか。

「あれが……」
「そう。あれが敵性の細菌または病原菌びょうげんきんと呼ばれる物だ。あんな形は……あまりはないが」

 それは血管の壁に向かって、ひたすらに攻撃を繰り返している。
 数は20~30はいるだろうか。
 揃いも揃って同じ場所を狙っている為、壁もかなり削れて、血もれだしている。

「あれは……どうしたらいいんでしょうか」
「決まっている。奴らを消し去ればいい」
「し、しかし……ここは……」

 ここは女性の体の中。
 魔法を使ってしまえば、師匠が言った通りそれは彼女の体を傷つけることと同義だ。

「何、病を治すにも体力がいる。そう言っただろう」
「え? はい」
「そして、病も治せる程の回復術師は皆強い。そう言っただろう」
「え? は……はい??」
「見ているといい」

 師匠はそう言って1人で前に進み、魔法を使う。

「金剛の剣と成りて敵を刻め、その血をもって我が誉れとする『金剛剣生成クリエイトアースソード』」

 師匠が魔法を唱えると、その手には金色の剣が作り出される。

「それは……」
「決まっている。敵を刻む為にあるのだ」
「師匠!?」

 師匠はそれだけ言うと敵に向かって突撃していく。

 その姿は僕達に向かって来たあの女性も真っ青になるほどの鋭さだ。
 敵は壁を攻撃するのに夢中で師匠の接近に気付いていない。

 師匠は不意打ち上等とばかりに、敵をその剣で切り刻んでいく。

「すごい……」

 師匠が一振り振るえば、簡単に敵が切り裂かれていく。

 敵も師匠に気付いて反撃をしようとするけれど、師匠の速度は圧倒的だ。
 このまま簡単に敵を倒してしまう。
 そう思っていたら、師匠が何も攻撃を受けていないのにいきなり吹き飛んだ。

「師匠!?」
「ぐっ! これは!?」

 師匠は、上に向かって視線を送っていた。

******

「ふんふふんふん」

 サシャはその時、鼻歌を歌いながら客間に向かっていた。

 アンナからエミリオとジェラルドを急いで呼んで来るように、そう言われたからだ。
 女性も連れて来ていたけれど、一体何をしているのだろうか。

 そんな軽い気持ちを持ちつつも、きっと優しいエミリオの事。
 彼女の怪我が新たに見つかり、治しているのだろう。
 そう思っていた。

「エミリオ様。よろしいですか」

 コンコン

 一応ノックをして、返事を待つ。

「……」
「エミリオ様?」

 しかし返事がない。
 でも、確かに部屋の中には人がいる気配がする。

 彼女は扉に耳を当てて、中の様子を探った。

「3人……静かだけど、ちゃんといる……よね」

 3人がいる事は確認出来る。
 ただ、彼らの呼吸は浅い。

「これは……何かあったら……」

 サシャは顔を蒼白そうはくにしながらも、扉を開けた。

「失礼します!」

 急いで中に入ると、そこには先ほどの汚い格好、魔物の血だろうか、返り血で汚れたままの女性がベッドで寝ている。
 そして何よりも、その前に2人がイスにもたれ掛かるようにしてぐったりとしているではないか。

「エミリオ様!」

 サシャは慌ててエミリオに駆け寄る。

「エミリオ様! エミリオ様!?」

 悲鳴にも近い声を上げ、彼女はエミリオに声をかけ続ける。
 しかし、エミリオは目を覚まさない。

「そんな……」

 そこで彼女は隣にいる男に目をつけた。

「おい! ちょっとそこのお前! エミリオ様の師匠なんでしょう!? エミリオ様に何をしたんですか!」

 サシャはこの時あせっていた。
 大切なエミリオが動かない。
 それだけで彼女にとっては大事件だった。

 因みに彼女は病の治し方を知らなかった。
 彼女は生まれてから風邪一つ引いたことなく、怪我を数回した程度だった。

 更にエミリオの治療の時も、サシャのドジが発生したら危険と思われた為にアンナによって離されていた。

 だから、サシャは……やってしまった。

「おいこら狸寝入たぬきねいりかましてるなんて!」

 彼女はそう言いながらジェラルドの胸倉むなぐらを掴み揺する。
 ただ、それではジェラルドは目を覚まさない。

「いい度胸しているじゃありませんか! 私の前でのんきに寝ている事は許しませんよ!」

 スパァン!

「早く起きてください!」

 スパァン! スパァン! スパァン!

 彼女は何度も……何度もジェラルドをはたき続ける。

「早くエミリオ様を助けてください!」

******

「師匠!?」
「ぐっ! これは……おれは一度戻る! 無理そうなら諦めて戻れ! 戦えそうならやってみろ! この女の体は丈夫だ! 多少のことでは死なん!」
「え? 師匠!?」
「倒せたら壁は『回復魔法ヒール』で治療しろ!」

 そう言って師匠は魔法を解除して、元の体に戻って行く。

 僕の前には戦う気満々の敵がじっとこちらを睨みつけている。

「嘘……でしょ?」

 師匠が敵をほとんど倒してくれたとはいえ、5体は残っている。
 しかも、奴らは全員が怒り狂った様にして僕の方に向かってきた。

「どうするの……これ……」
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。