不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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4章

58話 模擬戦?

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 色々な事があった次の日。
 僕は午後から庭に来ていた。

 午前中は師匠と一緒にコクラの人形の中に入り、細胞がどの様なものか勉強していた。

 しかし、午後からは師匠は町に行くので、午後からは庭で体力をつけろ。
 そう言われたのだ。

「誰に習うんだろう……【宿命の鐘フェイトベル】の人たちかな? それとも、サシャとか? でも仕事があるはずだしなぁ」

 そう思って待っていると、紫髪の女性が現れた。
 彼女は片手に木製の剣を持っている。

「貴方は……」
「昨日は済まなかった。アタシはレイア。ジェラルド様に言われて今日から君に剣を教えることになった」
「レイア……」

 昨日の事を思いだすと少し体がふるえる。
 夢に出てきそうな突進だったからだ。

「どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです。でも、どうして師匠は貴方に?」
「あー先に話しておきたいんだが、アタシと話す時は堅苦かたくるしい敬語は無しだ。それに、アタシは教える事が上手くない。見て覚えるか、体で覚えるか……なんなりしろ」
「分かりました」
「それじゃあまずは……ほれ」

 彼女はそう言って木剣を放り投げてくる。

「わわっ!」

 僕は慌てながらも何とかキャッチに成功する。

「振ってみろ」
「うん」

 僕はそれから窓から見ていた兄さんの真似をして振る。

「ど、どうでしょうか……かな」
「ダメだな。素質の前に筋力が圧倒的に足りていない。まずはそこからか……」
「すいません」
「謝る必要はない。誰だって最初は初心者だ。それと、魔法は使えるんだったな?」
「はい。それなりには使えると思っています」
「なら。魔法から教えよう」
「え? 魔法?」

 体力をつけるんじゃないの?
 そう思ったけれど、レイアは関係ないとばかりに話を進める。

「使える属性はなんだ?」
「水属性だけだけど……」
「水か。確か……こうだったかな」

 レイアはそう言って目を閉じる。
 そのまま、何かを思いだすようにして、魔法の詠唱を始めた。

「氷雪の剣と成りて敵を抉れ、その血を持って我が誉とする『氷雪剣生成クリエイトアイスソード

 レイアが魔法を使うと、彼女の手には氷で出来た剣が形作られていく。

 それは氷で作られた剣で、見ているだけでとても美しい。
 周囲との温度差があるからか、白い冷気がこぼれ出ていた。

 レイアはそれを見て、軽く振った。

 シャリィィィィン

 すずが鳴ったような綺麗な音が聞こえた。

「それは……?」
「これは見たままの水属性の剣だな。他の属性。土よりはもろいし、火よりは火力は出ない、風のように見えずらい訳でもない」
「あの……あんまり強くなさそうに感じるけど……」
「だが、メリットがある。それは、戦っている最中に変形させる事が出来る。他にも、この剣で切りつけられた相手は動きが阻害そがいされる」

 彼女はそう言いながら剣を振り、その先端から何か氷の玉を発射する。
 それは地面に落ち、その周辺を凍らせた。

「そんな効果があるんですね」
「普通の剣で練習することもいいが、魔法を使うのだろう? 実戦で使う剣で慣れた方がいい。勿論、アタシやジェラルド様のような人がいる近くでないといけないがな」
「なるほど……」

 レイアの話を聞いて納得する。

「という訳で、まずは使える所から……と言ってもアタシと一緒にいる時は基本的に木剣を振る練習からだな。今すぐにでも使えれば別だが……」
「やって見てもいい?」
「いいが……難しいぞ?」
「やってみる」

 僕はたった今見たばかりの魔法をしっかりと頭の中で作り上げる。

 同じように……レイアが作った物と同じものを想像で作った。
 後は体の奥から魔力を引っ張り出すだけだ。

「これか」

 僕は頭の中で作り上げた後に、魔法の詠唱を始める。

「氷雪の剣と成りて敵を抉れ、その血を持って我が誉とする『氷雪剣生成クリエイトアイスソード』」

 僕の右手の中に少しだけひんやりするものが作られて行くのが分かる。
 数秒もするとそれは確かに剣の形となり、レイアが持っているものと全く同じものが出来た。

「出来た!」
「……」
「レイア?」
「あ……いや……。そんな……たった一度見ただけで……か?」

 彼女は目を丸くして僕が作った物を凝視ぎょうししている。

「あ、でもまだまだ完璧とは言えないです。作るまでに時間がかかりますし、他にもレイアの様に発射出来るか……」
「そんな物は後々でいい。最初のその形を作れることが重要なのだ」
「そ、そう……だね」
「そうだ、とりあえず……模擬戦もぎせんと行くか」

 彼女はそう言ってニヤリと獰猛どうもうな笑みを浮かべる。
 まるでこれから狩りをするハンターとでも言うような表情をしていて、正直狙われている様で怖い。

 昨日の突進を思い出す。

「え? ええ、流石にいきなりは……」
「何を言う。模擬戦の様に戦う予行演習は必要だ。さあ! 行くぞ!」
「え!? ちょ、ちょっと待って!?」
「ならん!」

 彼女はそう言うとそのまま氷の剣で切りかかってくる。

 このままだと僕は!
 急いで魔法を使う。

「氷よ、板と成り我が意に従え『氷板操作アイスボードコントロール』」

 ギィン!

 彼女の剣を僕の氷の板で受け止める。

「ほう! 中々の反応速度だ! だがこれならどうだ!」

 彼女は氷の剣を何度も何度も氷の板に叩きつけ、これでもかと壊そうとして来る。

「ま、待ってください! いきなりなんて!」
「敵は待ってくれない! いいからやれ! でなければ死ぬだけだ! この実戦と似た戦いこそアタシの授業と言ってもいい! むしろこうやって戦うことによって必要な体力がつくんだ!」
「そんな乱暴な!」

 別に僕は戦いの為に体力をつけたい訳じゃないのに!

 かと言ってレイアの攻撃を受けるわけにはいかない。
 なので、僕は氷の板を何とか動かして彼女の攻撃を防ぎ続けた。
 ただ、ドンドンと鋭くなっていく彼女の攻撃に氷の板だけではしのぎ切れなくなってくる。

「そ、そろそろ……無理……」

 パリィン!!!

「割れたな! 後はその剣さえ飛ばしてしまえば!」
「! 大きくなって!」

 レイアに氷の板を割られ、そのまま剣を振り降ろしてくる。

 僕はそれに対抗するように、剣に魔力を込めて大きくした。
 レイアの言葉が確かなら、こうやれば彼女を牽制けんせいできるかもしれないからだ。

「っ!?」

 僕の持つ剣が爆発的に大きくなり、彼女は慌てて飛びのいた。

「やるじゃないか……。ここまで出来るとは思わなかったよ」
「そ、そろそろ止めませんか? 僕は体力をつけたいだけなんです!」

 僕は体力をつけたい。
 戦う力よりも、これが大事なことだと思う。

 でも、彼女はそれを受け入れてはくれなかった。

「なに、後少しだけ。後少しだけ戦うだけだ。おっと、せっかくだ。アタシももっといい物を使わせてもらう。火炎の剣と成りて敵を燃やせ、その血をもって我が誉とする『火炎剣生成クリエイトフレイムソード』」
「炎の剣……」

 レイアは魔法を詠唱すると、炎の剣を生み出した。

 氷の魔法を正面から溶かそうとしているらしい。
 でも、僕もこんな所でやられる訳にはいかない。

「氷よ、板と成り我が意に従え『氷板操作アイスボードコントロール』」

 僕も彼女が近付いてくる前に魔法をもう一度張って迎え撃つ。
 今度はさっきよりもかなり魔力を込めたので、さっきの様に簡単に壊されることはない。

 でも体力をつける為の先生だと聞いていたのにこんなことになるなんて。

「行くぞ! エミリオ!」
「出来れば普通の体力をつけることにさせて欲しいな!」
「アタシから生き残れたらやってやる!」
「嘘でしょう!?」

 ハードルが高すぎる。
 そんなことを思う暇もなく、レイアが僕に向かって突撃してくる。

 僕は魔法を前に出して全力で受けようとした。
 そこに……。

金属防壁アイアンウォール

 目の前に、1枚の鉄の壁が出現した。

「っつ!」
「これは?」

 レイアは慌てて下がり、声が聞こえた方を見る。

「レイア嬢……。何をやっているのか。お聞きしてもいいか?」

 僕もすぐにそちらを見ると、鋭い視線の師匠がレイアをにらみつけていた。
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