不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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4章

74話 スタンピード・下

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 ギガントバジリスクが3体同時に現れた。

 このままでは……。
 そう思っていた所に、フィーネさんが叫ぶ。

「エミリオ殿! ジェラルド様と一緒に侵入して来たギガントバジリスクの対処を!」
「でも」
「急いで!」
「分かった!」

 僕は外に待機させていた氷の板に乗り、師匠の方へ向かう。

 フィーネさんは他の人にも叫び、指示を伝える。

「ラウル! レイア! 奥にいるギガントバジリスクを抑えて! 2人がかりでいい! 目の前のは無視!」
「畏まりました!」
「……仕方ない!」

 2人は直ぐに指示に従って奥から溶解性ようかいせいの毒を吐いてくる奴の元に向かう。

「我が騎士たちよ! バルトラン男爵領の兵士達よ! ここが生き死にを決める時! 命を賭ける時である! 目の前のギガントバジリスクを何としても打ち滅ぼせ!」
「おお!」

 残った1体は彼女の指示で戦うようだ。

 僕はその声を後にして、師匠の元に向かう。

「師匠!」
「おれが奴を仕留める。手伝え」
「はい!」

 師匠はそう言いながら、黄金の剣を作り出していた。

 僕もそれに習い、氷の剣を作り出す。

「エミリオ。おれが前に出る。生き残ることがお前の仕事だ。わかったな?」
「はい。師匠。師匠の後ろを守り抜きます」
「任せた」

 師匠はそれだけ言うとギガントバジリスクに向かって走っていく。

 僕も師匠の背中を守る為に続いた。

 師匠は僕の倍以上の速度でギガントバジリスクに向って行き、魔法を使う。

「動くな、止まれ、逃げること能わず。土の縄で汝は繋がれる『土の拘束アースバインド

 ボゴォ!

「ジュロロロロロロロロ!!??」

 ギガントバジリスクの足元から土の縄が何百という数飛び出し奴の体を拘束する。
 奴は慌てて引きちぎろうとするけれど、その拘束力はかなりの物で逃げるに逃げられない。

 ただ、このままでは不味いと思ったのか、体中から毒を出している。
 このままだと屋敷全体が毒まみれに……。

「エミリオ!」
「はい!」
「奴の注意を引け! 30秒でいい!」
「分かりました!」
「任せたぞ! 岩よ飛び出し天空へと登れ『岩の隆起ロックバルジ』」

 ドヒュン!

 と物凄い音を立てて、師匠は空に打ち上げられていく。
 打ち上げられて……というよりは自分で登っていった。
 というのが正しいように思うけれど、とりあえず上空高くにいる事は分かった。

 僕は師匠に任されたんだ。
 相応ふさわしい様にやらなければ。

「行け!」

 僕は手に持っている氷の剣に魔力を注ぎ、ギガントバジリスクを更に拘束するよう伸ばす。

「ジュロロロロロロロロ!!??」
「まだまだ行くよ!」

 僕は更に魔力を込めて剣を操作し、奴の視線を僕に固定する。
 きっと師匠には何か考えがあるはず、奴の視線を僕に釘付けにさせなければならない。

「ジュロロロロロロロロ!!!」

 しかし、それは諸刃の剣、奴は思い切り僕に向って毒を吐いてくる。

 でも、それは予想できた事。

「氷よ、板と成り我が意に従え『氷板操作アイスボードコントロール』!!!」

 大きな氷の板を目の前に何枚も作り出し毒を防ぐ。

 僕は毒が氷の板を抜けないのに安心して、上空に目をやると信じられない光景が映っていた。

***ジェラルド視点***

 上空から見ると、屋敷の戦闘は激化の一途いっと辿たどっていた。

 砦に取り付き、今にも乗り越えようとしているギガントバジリスク。
 これはカヴァレ辺境伯の娘が抑えようとしているけれど、難しいだろう。

 あそこは騎馬は強いが、城壁での守りは得意ではない。
 しかも、魔術師をほとんど連れてきていないのが致命的だ。

 騎士や兵士、既に半数以上が毒に侵され、身動きが取れていない。
 崩壊はしていないようだけれど、それも時間の問題。

 森の中の為にレイアやラウルの様子は分からない。
 ただ、すぐに倒して来ることは難しいだろう。

 その現状を確認して、今やらなければならない事を決める。

 まずは屋敷の中に入った奴を速攻で倒すことだ。
 奴は毒をばらまく。
 少しでも奴が毒をばらまく隙を与えれば、唯一の休憩場所である屋敷がもっとも危険な場所に変わってしまう。
 だから、多少の損害……自身が傷つくことになっても、真っ先に倒さなければならない。

 必殺の一撃を与えるため、おれは獄虫火草を飲む。

「不味いな……」

 しかし、体中に魔力が満ちてくるのが分かる。

「やるか」

 体に魔力が満ちた事を確認して、おれは自身が放てる最高の魔法を詠唱する。

「巨人はいずこ、巨人を殺せ。我が力は巨人を屠る為、わが命は巨人を八つ裂きにする為。全ての巨人を滅ぼすべし『巨人殲滅剣ジャイアントスレイヴ』」

 おれは自身の何十倍もある大きな剣を作りだし、屋敷の中にいるギガントバジリスク目掛けて向う。

 奴は……この一撃で殺す。

******

 上空には英雄の話でも聞いた事のないような剣が生まれていた。
 そして、それは僕の前にいるギガントバジリスクに向って落ちて来ている。

「ジュロ??」
「あ」

 やつは僕の視線に気付いたのか、視線を何とか上にあげる。

「ジュロロロロロロロロ?????」

 奴のその光景には驚いたのか、何としてでも全力で逃げようと暴れまわる。

「させるか!」

 僕は更に魔力を込めて、奴の動きを拘束し続ける。

「ジュロロロロロロロロ!!!!!?????」
「逃がすかぁああああああ!!!!!!!!!」

 僕は魔力を込められるだけ込めて、奴を拘束し続ける。
 待つこと十数秒。

ドッゴオオオオオオオオオオン!!!

 師匠の魔法であろう巨大な剣が降り注ぎ、ギガントバジリスクを両断して地面に埋まり込んでいく。

「い、一撃」

 そう思った次の瞬間に、奴の体全体から紫の毒が周囲に向かって吐き出された。

「!?」

 僕は張っていた氷の板で防ぐけれど、師匠はもろにそれを全身に浴びていた。

「師匠!」
「……」

 師匠は魔法を切ると、そのまま紫色の毒の中に倒れ込む。

 僕は氷の板で師匠を救いだし、何もない地面に寝かせる。

「師匠! 起きてください! なんであんな無茶を! 直ぐに治療します!」

 僕はサングレを取り出し、師匠の体に入れようとする。

 けれど、それは師匠に止められた。

「待て……それは……ダメだ……」
「師匠! 何でですか!」
「周りを……見ろ」

 僕は言われた通りに周囲を見る。
 中央では回復術師が必死に毒に掛かった患者を治療していた。
 砦の上では戦っている人が半数以下になっていて、その人達もどこか紫色の毒を浴びている。

 誰も……誰も余裕がない。
 フィーネさんも自らの手に剣を握って登ってきているゴブリンを切り払っていた。

「エミリオ。おれを治療したら……どうなるか……分かるか?」
「どうなるか……ですか?」
「そうだ。もしそんな事をしていたら……。砦にいる他の者達は全員死ぬ」
「そんな……」
「事実だ……おれは全身にギガントバジリスクの毒を浴びた。これを全て消しきるには、丸1日は掛かるだろう。そんな事をしている間に、砦の上にいる者達は全員が死ぬ。そして、そうなってしまえば、おれの体内にいるエミリオ。お前も死ぬ」
「……」

 師匠は躊躇いも無くそう言った。
 自分が死ぬことは特に問題ないような……。

 そんな……分かり切ったことだと思っているような……。

 僕の想いとは関係なく、師匠は話し続ける。

「だからおれのことはいい。それよりも、砦の上にいる奴らを回復してやってくれ。マスランから聞いた。多くの者達を回復させたことがあるのだろう? それをもう一度やってくれれば、この中の何人かは生き残ることが出来る。若い者が生き、年寄りは死ぬ。それが道理じゃないか……」
「そんな! 師匠だってまだ十分に若いでしょう!」
「そんなことはない。それに……おれは……もう満足なのだ。これまで多くの者達を見て来た、多くの者達を助けて来た。だけど先輩……おれは……貴方を助けられなかったこと……未だに忘れらません……」
「師匠……」
「……」

 それから師匠は口を開くことはなくなった。

 でも、胸はゆっくりと動いている。
 だから助けるなら今だ。

 しかし、師匠が言っていたように、彼を助ければ、砦は落ちて、フィーネさんや……母さんやリーネも……死んでしまう。

 じゃあ諦めるのか?
 師匠が死ぬことを?

 認めない。
 認められる訳がない。

 たった短い時間だった。
 それだけなのに、本当に長く感じたし、尊敬もしている。
 そんな彼を助けずに、他の人を……助ける?

 師匠の命を……諦める?

「ギリッ」

 僕は唇を噛み締め、そんなことは絶対に出来ないと確信する。

「僕は……僕はまたしても諦める? 諦めないと決めたじゃないか。絶対に諦めないと……」

 そうだ。
 母さんの提案を断ったのも僕だ。
 皆を守りたいと、強引に言ったのも僕だ。

 僕がやらなければ誰がやるんだ。
 誰もいない。

 僕が……僕がやるんだ。

 でもどうやって?
 決まっている。
 師匠に習った魔法があるじゃないか。

『今は使えないだろう。しかし、きっといつか……。おれを越える時が来た時に、使えるようになっているはずだ』

 師匠はそう言っていた。
 それが今じゃないのか。
 今なんだ。
 師匠を越えるのは10年後でも、1年後でも明日でもない。

 今なんだ。

 僕は懐から獄虫火草を取り出し、全てを一息で飲み干す。
 そして、全身に魔力が満たされる事を感じながら、想像を始める。

 師匠も……砦の上で戦ってくれている人も、中央で回復を待っている人も。
 全て……全ての毒を消し去って見せる。

 僕は、詠唱を始めた。

「汝の元を呼び起す。汝と相容れぬ敵を拭い去り、蒼穹の果てへと導かん。我が祝福にて誘おう『治癒魔法キュア

 僕の視線の見える人全てが青色の輝きに包まれる。
 誰一人として例外はない。
 それどころか、視界に入っていない人ですら青く輝いている様な気がする。

 そして、それら全ての人の体から、バジリスクの毒を消し去っていく。

 僕にはその感覚が伝わってきた。
 彼らを……このバルトラン男爵領の為に戦ってくれた人達を皆癒やす。

 少しして、僕は全ての魔力を使い切って倒れる。
 でも、師匠の息づかいは安らいでいるように聞こえた。

「ああ……無事でありますように……師匠……」

砦の外では、先ほどよりも大きな地響きが聞こえていた。
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