不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

文字の大きさ
68 / 129
5章

80話 行商人

しおりを挟む
「大丈夫ですか!?」

 僕は勢いよく吹雪の道に飛び降りた。

 ズボッ

「!?」

 勢いよく飛び降りたはいいけれど、足を雪にとられてしまい僕は頭から雪に突っ込む。

 バフっ

 服を着ていない顔や手を冷たい雪が襲う。
 つ、冷たい、体が芯から凍えてしまいそうだ。

「エミリオ様!?」
「エミリオ!?」

 サシャがすぐに降りてきてくれて、僕を助け起こしてくれた。

「あ、ありがとう……サシャ。あ、でもそこに人が」
「おれが行く」

 そう言って師匠が僕の代わりに行ってくれた。
 流石師匠だ、頼りになる。

「おい! 大丈夫か!?」

 師匠は木のそばで寝そべっている人の肩を揺する。
 すると、揺すられた人はゆっくりと起き上がった。

「んん~っと。アンタは誰だい? ちょっと寝ていただけなんだが……」
「寝ていたって……こんな吹雪の中か?」
「え? まぁ……そのうち止むだろうとは思っていたんだけどね。まさかサラザールを出て王都に戻ろうとしたんだが……こんなに吹雪くとは思っていなくて……ハハハ」
「ハハハって……そんな貴様……死ぬ気か?」
「大丈夫大丈夫。多分何とかあるから」

 そう言って旅人? の彼は笑う。
 肝が太いというか……なんというか。

 色んな意味で凄い人だと思う。

「というかこんな時期に何をしにサラザールに来たんだ? 流行り病やスタンピードのことは聞いていないのか?」
「ああ、あっしは旅の行商でね。そういう時にこそ物は売れるんですよ。だから見てください。あっしは今ほとんどの物を売ってしまいましてね。身軽なんです」

 持ってきた物が全て売れたからか、彼はとても嬉しそうに語ってくれる。
 マントとフードの下から見える彼の姿は確かにちょっとふくよかだった。

 そんな彼に僕は感謝の気持ちを持つ。
 こんな時こそ売れる。
 確かにそうだとは思う。

 けれど、サラザールでは流行り病というか、スタンピードが起きた隣の町だし、なんならこんな雪の中である。
 それを押して来てくれた彼に、感謝をしない訳にはいかない。

「あの、それでしたら、途中までご一緒しませんか?」
「え? あっしをですか? しかし……貴族様に心配させた挙句一緒に乗るというのは……」
「そうですよ。幾らなんでもそれは……」

 サシャもそれには反対のようだ。
 でも、これは彼女が言ったことでもある。
 よいことをしてくれた相手には頭を下げる。

 それに、僕たちの馬車も一応空いているんだ。
 折角ここまで来てくれた人なのだから、何かしてあげなければ。

「サシャ。彼をこのままここに置いて行くことなんて出来ないと思わない?」
「それは……」
「それに、彼はこんな時に売れる。っていう事で来てくれたけれど、裏を返せばこんな時でも来てくれた。って考えないといけないと思う」
「そうかもしれないですけど……」
「という訳で次の町か……途中までは一緒に乗って行きませんか?」
「よろしいんですかい? あっしは……その……礼儀などは分からないんですが……」
「大丈夫です。町の恩人にそんな事は出来ません」

 彼は伺うように師匠の方を見ると、師匠は仕方ないと言うように頷いてくれた。

「いいだろう」
「ありがとうございます! これで問題ありませんね!」
「え、ええ……分かりました。よろしくお願いします」
「はい!」

 こうして、2日だけではあるけれど、旅の行商人、ボルグさんが途中まで一緒に行くということになった。

 4人で馬車の中で自己紹介をした後は、僕が彼に聞きたかった事を聞きまくった。
 それは彼が旅の行商人ということで、旅のことについて沢山聞きたかったのだ。

 今まで会ってきた人は基本旅に出るという事はあんまりない人が多かった。

 だからこそ、ここでこうやって出会えたことが、幸運の様に思えたのだ。

 そんな彼の話はとても面白かった。
 人が住んでいるのか怪しい様な山奥に行き、そこでわざわざ新しい交易路を開いたという話。
 海を越えて独特の文化を形成する島国に行った話。

 信じられない程世界は広く、僕の胸を打つ話ばかりだった。

「すごいです! ボルグさんのお話をもっと聞かせて欲しいです!」
「ハハハ……すごい食いつきだな……」

 彼はそう言いつつも、満更ではなさそうに話をしてくれる。

 でも、それを止める人がいた。

「エミリオ様。流石に今日はもう遅いです。明日に差しさわりますから、今日の所はこれまでにいたしましょう」
「そんな……ダメ?」
「うぅ……そんな顔をされてもダメです。まずは楽しみにしていた食事にしますよ」
「食事!?」
「はい。旅の途中では定番のマメのスープと干し肉です」
「やった!」

 個人的にはこの料理も食べてみたかった。
 いや、食べたこと自体はあるのだけれど、こうやって旅先で食べる。
 ということをやりたかったんだ。

 夜になる頃には吹雪きも収まり、はらりはらりと雪が落ちてくる程度になった。

 僕達は5人で火を囲み、一緒に食事をとる。

 僕は念願だった旅先での干し肉に噛みつく。

「……」

 歯を何度立てても千切れず、中々に固い。
 そんな事をやっていると、サシャが笑いながら教えてくれた。

「エミリオ様。いきなり食べるのは固くて難しいので、スープで少しふやかしてから食べるのがいいですよ」
「そうなんだ!」

 僕は言われた通りにして干し肉を食べる。

「……うん。これはこれで」

 美味しい。
 とは決して言わない。
 けれど、こうやって1つの火を皆で囲み、同じ食事をする。

 本で読んだ英雄たちがやっていたようで、自分も……そんな英雄の1人になれたようで少し嬉しい。

 僕はそんな思いに胸を満たされながら、食事を食べきった。

「ふぁ……」

 そんな事をしていると、ふと眠気が襲ってくる。
 サシャが僕の隣に座った。

「エミリオ様。そろそろ寝ましょう。馬車の中で準備していますので」
「ううん。僕……今日はここで寝たい……」
「しかし……ここは寒いですし、魔物が出るかもしれませんよ」
「サシャが守ってくれるんじゃないの……」
「それは……そうですが……」
「お願い……サシャ」

 僕はそう言って眠りに落ちた。

******

***サシャ視点***

「もう……エミリオ様……。私はエミリオ様を馬車で寝かせて来ます」
「いいのか? 一緒に寝たいと言っていたが」
「主の命と天秤てんびんにはかけられませんよ」

 私は、エミリオ様を馬車の中に戻す。

 馬車から戻ると、そこではジェラルド様とボルグという男がしんみりと酒をたしなんでいた。
 御者は後からの警戒の為に寝たのだろう。

「サシャ嬢もどうだ?」
「いえ、私は遠慮しておきます」
「そうか」
「はい」

 ジェラルド様とそう話した後に、ボルグさんが口を開く。

「それで、本当にあっしなんか一緒に乗って良かったんですかい? どう見てもいいとこのお坊ちゃんでしょう。名前から考えると、バルトランの……」
「なんでもいいではないですか。エミリオ様はエミリオ様です」
「……そうですかい。野暮やぼな事を言いましたな。それにしても、いい方だ。あっしの様な平民にあんな風に話かけて来るなんて」
「ええ、エミリオ様は……とてもお優しい方ですよ。多くの人を平等に救いたい。素晴らしい方です」
「へぇ……そりゃぁ……凄い。よくそんな方がこんな時に旅をしているもんで」
「色々と事情があるのですよ」
「そうですかい。というか、あっしは話をするだけでいいんですかね? もう少し何かした方がいいかと思ったんですが……」
「エミリオ様が優しさでそう言っただけですからね。問題ないと思いますよ」
「そうですかい。でも……このままというのは……ちょっとありますね。何か出来たらいいんですが」
「その気持ちだけで十分だと思います」

 そんな会話をしながら、夜は更けて行く。

 ただ、決して油断はしない。
 エミリオ様が誘った手前、彼に何かすることは出来ない。
 それに魔物もまだここでは出るかもしれない。

 万が一の事を考えて、私は警戒を続ける。

******

 翌朝。

 僕達は朝食を取り、馬車に乗って移動を開始する。
 今日はいい天気で、雪に日差しが反射してとても明るい。

 僕達はいつものように馬車に乗り、移動を開始する。

 そんな移動の仕方を見て、ボルグさんは驚いた様に話す。

「これは……凄いですね。昨日、あっしはこの馬車は魔道具なのか? と思っていたんですが……。まさか魔法に乗せてやっていたとは……」
「ふふん。もっと褒めてもいいのですよ?」

 サシャがまるで自分のことの様に話す。
 それには一応理由があって、僕は魔法を使えない。
 という設定を守ってくれているからだ。

「ええ……あっしも……多少魔法の心得がありますが……ここまでは……」
「え? ボルグさんも魔法が使えるんですか!?」
「はい、といっても戦闘用という感じではなく、緊急用……という感じではあるんですが……」
「緊急用?」

 僕がそう首をひねった時、御者の声が馬車の中に響く。

「魔物です! 警戒!」
「!?」

 馬車の中に居た者全員に衝撃が走った。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。