不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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5章

82話 レストラリア

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 僕達の馬車の移動は師匠が交代してくれて、城門の中に入っていく。
 チェックの時にちょっと不思議そうにされたけれど、師匠の名前を出したら問題なかった。

 城門をくぐり抜けると、そこは別世界だった。

「らっしゃいらっしゃい! こっちの焼き鳥は美味いよ!」
「ウチのスープは格別だよ! オークの骨から取った出汁が絶品さ!」
「ここの揚げ物は揚げたてジューシーだ! あふれる肉汁はとまることを知らないぜ!」

 門をくぐり、入ってすぐに大声で客を呼ぶ声が聞こえてくる。

 街並みはアップトペルとは比べ物にならない。
 というか、比較していいのかどうかすら分からない。

 建物は基本的に2階以上だし、道もアップトペルの倍以上は広い。
 更に、建物の前には所せましと食事の屋台が出ていて、そのどれもが繁盛はんじょうしている。

「これは……どこを通ればいいんだろう……」
「こっちだ」

 師匠がそう言って、馬車をゆっくりと動かしてくれる。

 師匠が進む道は、先ほどの道を進むのでは無く、一度違う方に曲がってからだった。
 その道は静かだけれど、道行く人は高級そうな服を着ている人と、馬車しか通っていない道だ。
 出店などは出ていないけれど、両サイドの店はどこも高級感がただよう。

「さっきと雰囲気が違うね」
「ああ、こっちが貴族や商人等が通る道だな。先ほどの道は平民や観光客が通る道だ」
「わざわざ分けているんだ」
「元々は一緒だったらしいが、この街の規模が大きくなるに連れて分けるようにしたらしい」
「でも貴族の方をさっきの道にしないって大丈夫なんですか? 入ってすぐの道を平民に渡す。というのはあまり喜ばれないかと思うのですが」

 サシャが師匠に聞く。

「最初は反発もあったそうだがな。ここの領主が強引に押し切り、今の様に発展してしまえば反発は消えていったらしい。貴族は貴族でそちら専用の道や店を作ることによってきちんと住みわけが出来るようになったからな」
「結構やり手の方なんですか?」
「そうでなければここまで発展せん。ここまで発展しても今なお、この街の食事をより良くしようと常に食べたりしているらしい」
「それは……すごいんですか?」
「まぁ……発展しているのだ。それ以外の言葉ない」
「それもそうですね」

 それから僕達は宿を取り、領主の館に御者を伝令として送る。

 師匠は僕達に向かってこう提案してきた。

「それでは領主の館に行くのは夜くらいになるだろう」
「夜ですか?」
「ああ、来るように言われてはいたが、先ほども言ったがここの領主は忙しい。伝令で何時くらいに来る。という事を言っておかねばどうせ会えん」
「ではそれまでは……」

 僕がそう聞くと、師匠はニヤっとして口を開く。

「今日1日くらいは観光でいいだろう。ここが美食の街と呼ばれる所以ゆえんを体感するといい」
「本当ですか! やった!」
「私も! 私も一杯食べたいです!」
「食い過ぎんようにな」
「はい!」

 僕とサシャは揃って師匠に返事をした。

 それから、僕達は色々な店を回る。

 まずはさっき気になっていた屋台等だ。
 僕は屋台の店主に声をかける。

「これは……何ですか?」
「へい! これはハンバーガーというものでさぁ! パンにひき肉をまとめた物を挟んで食べるんでさぁ!」
「へぇ! すごい! こんなのもあるんだね! 食べてもいい?」

 僕はサシャに伺う様に聞くと、師匠が少し待ったをかけてきた。

「エミリオ。他にも色々な店があるんだぞ? そんなすぐに食べていたら本当に食べたい店で食べられなくなる」
「でも……」

 僕は目の前の鉄板でじゅぅぅぅぅといい音をたて、鼻の奥をガツンと殴って来るような臭いに我慢できない。
 そんな恨めしそうな視線をその料理に向ける。

「はぁ……仕方ない。店主、それを1つ。3等分にしてくれるか?」
「へい! かしこまりました!」

 店主はそんな要求されるのに慣れているのか、1つのハンバーガーを綺麗に3等分した。
 そして、それぞれを僕達の前にすっとおく。

「お待ちどう!」

 サシャが支払いをしてくれるのを見て、僕は首を傾げる。

「フォークやナイフは?」
「それは手でもって食べるんでさぁ! パンを持てば汚れないでしょう?」
「なるほど!」

 僕は言われるままにパンを持ち、それにかぶりつく。

「んんんんん~~~~!!!」

 口の中には肉に肉汁が溢れ出て、それがパンと絡まり合って奇跡的な味を実現する。
 屋敷のシェフの料理はどれも美味しいと思っていたけれど、これを味わった後だと物足りなく感じてしまう。

「美味しい! 美味しいよ! 師匠もサシャも食べてみて!」

 僕は目を輝かせながら師匠とサシャに勧める。

 2人は苦笑しながらもそれを食べ始めた。

「うむ。やはりここの食事は格別だな」
「こんなに美味しいのは初めてです」

 そんな会話をしていると、店主の人が嬉しそうに答えてくれる。

「なんだい。もしかして今日ここに来たばかりかい?」
「はい!」

 僕も何故か返事に気合が入る。

「そうかいそうかい。ここの料理の秘密はなオークなんだよ」
「オーク?」
「ああ、ここら辺ではオークが出やすくってな。そのオークを狩って街の食料にしているんだ。近くで狩るから安く手に入るし、安定供給できて量も多いから色んな料理を試すことも出来る。それもこれも、オークを料理を作って料理の技術を発展するように計らってくれた領主様のお陰だよ」
「そうなんですね」

 やっぱりここの領主様はかなり好かれているらしい。
 一体どんな人なのだろうか。

 そんな事をしつつ、僕達は観光を楽しんだ。

 美食の街。
 ここはそう言われているけれど、観光の街でもある。

 3人で歩いてみたけれど、食べ物屋以外にも色々とあった。
 観光地などで色々と売っているアクセサリー等だ。

「見て見てサシャ。これってどうかな?」

 僕は似合うかな、そう思った髪留めのアクセサリーをサシャに見せる。

 サシャは不思議そうに聞いて来た。

「エミリオ様。それは女物ですよ? え? も、もしかして……エミリオ様ってそういう……?」
「ちょっと待ってサシャ。何か勘違いしてない?」
「え、いえ、していませんよ。エミリオ様はとっても美しいですから、きっと似合うとは思います」

 どこかよそよそしい笑顔を浮かべるサシャは絶対に勘違いしている。

「サシャ。これ……その……」

 ちょっとわざわざ口に出すのはそれはそれで恥ずかしい。
 そうやってどもっていると、察してくれたのかサシャが近付いて来る。

「エミリオ様……いえ、エミリ様。言いたいことは分かります。これはこうやてつけるんですよ」

 サシャは僕が持っている物を取り上げて、僕の髪に付けてくれる。
 彼女は僕の付けたそれを見て、満面の笑顔になった。

「うん! とってもお似合いですよ!」
「……」
「え、エミリオ様?」
「僕はこれをヴィーにどうかな。って思ったんだけど……」
「あー! そういう!? なるほどなるほど。私もなんだか変だと思っていたんですよ!」

 サシャはそう言いながら少しずつ僕から距離を取る。

「サシャ……もう……そんな逃げないでよ。別に怒ってないから」
「そ、そうなんですか?」
「うん。それよりもどうかな?」
「え? おにあ……ああ! もちろん! ヴィクトリア様にとっても似合うと思いますよ! はい! 何なら一緒に選んではいかがですか!?」
「それが出来たら楽しそうなんだけどね……」

 そんな風にできたら本当にいいのに。

 でも、それには乗り越えるべきハードルが高すぎる。
 まずはここにヴィーがいないといけないし、他にも彼女は暗殺者に狙われるくらいだ。
近辺の安全には注意を払わないといけない。
 それをこんな所に出てこれないだろう。

 僕はそんな風に思っていると、師匠に呼ばれる。

「エミリオ、サシャ。そろそろ行くぞ」
「え? もうですか?」
「それが送った伝令から今すぐに屋敷に来い。そう緊急で言われたそうだ」
「今すぐ?」

 空はまだ青く、日が落ちる気配はない。

 先ほどの師匠の話だと、夜になってから……という話だったけれど、何かあったんだろうか。

「とりあえず行くぞ」
「はい」
「かしこまりました」

 僕達は特に買うものもなかったので、すぐに行く準備を整えた。
 そして、師匠について行くと、そこには馬車が用意されている。

「馬車?」
「領主の代理が用意していたそうだ。乗るぞ」
「はい」

 僕達はそれに乗り、急いで屋敷に向かう。
 ただ、相当に急がされているのか、町中を走る速度にしてはかなり速い気がする。

「……」

 師匠の顔もどこか険しく、領主の体調が悪いのかもしれない。
 そう思わされてしまう。

 馬車は5分もしない内に止まるとすぐに扉が開かれる。

「それではどうぞ」
「ああ」

 師匠に続いて降りると、そこは玄関の前だった。

 ただ、驚くほどに大きい玄関だ。
 ここだけで屋敷の客間くらいあるかもしれない。
 そんな風に思ってしまうほどに広かった。

 僕達が入ると、両サイドには執事とメイドが何人も立っていて、揃って頭を下げてくる。

「ようこそいらっしゃいました。【奇跡】様。そのお連れの皆さま。主は自室でお待ちです」
「行きましょう」

 執事さんの案内で装飾の施された廊下を歩く。

「こちらでございます」
「え? もう?」

 サシャが口からそうこぼす。
 それも当然だと思う。
 屋敷に入ってから階段を登っていないどころか、まだ30歩も歩いていない。
 
「はい。主は歩く時間があったら食に時間を使う。そう仰られる素晴らしい方ですので」
「……なるほど」

 それって素晴らしいのか? という疑問が湧くけれど、それをここで聞いても意味はない。

 師匠はそんなことどうでもいいとばかりに執事を促す。

「いいから早く入れろ」
「かしこまりました」

 コンコン

「誰だ」

 中からはとても冷たい女性の声が聞こえた。

「【奇跡】の皆さまをお連れしました」
「……入れろ」
「失礼いたします」

 執事さんが扉を開けると、そこには……。

「おーふぐっ!」

 僕は急いでサシャの口を抑える。
 彼女が何を言おうとしたのかは分かったからだ。

 部屋の中には、ベッドに横たわったオークがいた。
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