不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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5章

93話 フルカさんが犯人?

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「フルカ様の為に死ね」
「え……」

 黒ずくめの人は男の声でそう言って僕に向かって剣を振りかぶってくる。

 僕は何がなんだか分からないままに魔法を発動させた。

「氷よ、板と成り我が意に従え『氷板操作アイスボードコントロール』」

 ギィン!

 目の前にはいつもの氷の板を作り、何とか敵の攻撃を弾く。

「……」

 しかし、敵はそんなことに動揺した様子もなく、お互いに視線でやり取りをすると、僕を両サイドからはさみこむようにして回りこんできた。

 僕は同時に来るこの練度に気圧けおされ、魔法の詠唱が遅れてしまう。

「あ、氷よ、板と成り……」

 魔法を発動させるには間に合わない。
 そう思った時に、部屋の扉が蹴破けやぶられた。

 バン!

「行け!」
「!?」

 そこにはシオンさんがいて、周囲にはとがった矢のような氷をただよわせていた。
 彼女は一言発すると、周囲の氷が僕の方に向かって飛んでくる。

「っち! 下がるぞ」
「……」

 2人はシオンさんの攻撃をかわして、すぐさま引き下がった。

 ヒュカカ!

 シオンさんの魔法が僕には当たらない位置に飛び、部屋の壁に突き刺さる。

 彼女のお陰で生まれた隙をついて、魔法を完成させる。

「氷よ、板と成り我が意に従え『氷板操作アイスボードコントロール』」

 僕を囲むようにして魔法が展開されると、黒ずくめの人達は眉を寄せた。

「次は命はないと思え」

 黒ずくめの人はそう言葉を残すと、ポイっと僕に向かって黒い玉を放り投げた。

「させるか!」

 シオンさんが叫び、彼女の周囲に漂っている氷の魔法で黒い球を打ち抜く。

 ブシュッ!

 次の瞬間には、黒い球が弾けて真っ黒い煙幕えんまくが周囲を一気に満たす。

「これは!?」
「シオンさん気を付けて!」
「分かっている! 凍てつく氷はかの者を守護し誓いを果たす『氷の守護アイスガードナー』」

 パキパキパキ

 僕のすぐ近くで氷が作り上げられている。
 その氷は床から山の様に作り上げられ、僕を守るようにして作られていた。

 何で僕の分を!? と思っていたけれど、煙が晴れたらその理由は分かった。

「逃げられたか」

 シオンさんの周囲にも同じ魔法が展開されていたのだ。
 彼女は自分と僕の分の魔法を解いてこちらに向かってくる。

「無事か?」
「はい。ありがとうございました」
「気にしなくてもいい。一度ヴィーの所に行くぞ」
「はい」

 僕の魔法も解いてくれて、2人でヴィーの部屋に向かう。

 彼女の部屋に入ると、以前僕の屋敷に来ていた護衛の人達がヴィーを守っていた。

「ヴィー。無事だった?」
「ええ、私は心配ありません。エミリオは?」
「大丈夫。シオンさんが助けてくれたから」
「そう……良かった。という話は後にしましょう。とりあえず、今後の話をしましょうか」
「今後の話?」
「ええ、エミリオ。貴方は命を狙われたのですよ? 今すぐにでもこの街を脱出するか……侯爵や料理ギルドを頼るか。どれかを考えねばなりません」
「侯爵を頼る……」

 そう言われた時に、暗殺者が話していた言葉を思い出す。

「あの、そう言えば……さっき暗殺者の人が言っていたんだけれど、『フルカ様の為に死ね』そう言っていたんだ」
「それは……本当ですか?」
「うん。間違いないと思う」
「それは……やはりフルカ様が? いえ、しかしそんな分かりやすく……?」

 ヴィーはぼくの言葉を聞いて首を傾げている。

 でも、彼女が考えている事も分かった。

 もし僕を暗殺するのであれば、その様に誰かの為なんて事はわざわざ言わない。
 そう言ってくるのであれば、何か理由があるのか。
 他に目的があるのか……。

 考えていると、ヴィーが口を開く。

「エミリオ。一度ジェラルド様達と合流しましょう」
「分かった」
「少し危険ではありますが、ジェラルド様達の宿まで向かいます。シオン、護衛は任せましたよ」
「はい。お任せください」
「待って。こんな夜に出ていくなんて、襲ってくれと言っている様なものじゃないの?」

 ここで師匠達を待つ方がいいのではないか。
 僕はそう彼女に聞く。

「狙いが貴方だけであるのならそれでもいいかもしれません。しかし、私たちは狙いが誰であるのか分からないのです。もしかしたら、こうやって私たちを足止めしている間に、我々とつながりのあるジェラルド様等を狙っているのかも知れません」
「そんなこと……」
「あります。それに、ここの居場所はバレているのです。脱出するにしろそうでないにしろ、一度ここから出る必要がありますから。それに、こんな夜であれば道も空いていて警戒はしやすいですよ」
「分かった。それじゃあ行こう」
「ええ」

 ヴィーの言葉に納得した僕達は、馬車に乗り込んで宿に向かう事にした。

 ただ、そのタイミングであることを思いつく。

「ヴィー。少しだけ3台の馬車に魔法をかけてもいい?」
「魔法……? 何の魔法でしょうか?」
「姿を消す魔法」
「そんな魔法が使えるのですか!?」

 ヴィーの驚きが包帯の上からでも伝わってくる。

「うん。この街に来る途中に教わったんだ。音は消せないけれど、姿を消せるのならやってみてもいいと思う」
「しかし、それでは姿が見えずに馬車同士がぶつかってしまうのでは?」

 シオンさんがそう聞いてくる。

 それに反対するのはヴィーだ。

「いえ、音は消せないのですよね?」
「うん」
「ならばその音で判断してもらいましょう。家の御者はそれくらい出来るでしょうから、しかし、魔法を使っている姿を見せるのは良くありませんね。エミリオ。馬車の中へ」
「うん? それでどうするの?」
「シオンが外で魔法を使っている様に見せて下さい。よろしいですか?」
「分かった」

 僕はそれから馬車に乗って、馬車の中から詠唱を始める。

「光の意思を変え、闇の嘆きを消す。全てが真実とは限らない『氷の鏡像アイスミラージュ』」

 シオンさんが僕の近くで詠唱を繰り返し、僕がいる馬車を魔法の幕で包む。

「凄い……。これが姿を消す魔法ですか? 綺麗ですね」
「うん。あ、でもあんまり強く触ると壊れちゃうらしいから、気を付けてね」
「分かりました」

 それから前後2台の馬車も魔法で幕を張って師匠とサシャがいる宿に向かう。

 魔法を使ったお陰か特に襲撃されることも無く、無事に宿に辿り着いた。

 僕達は馬車をヴィーの護衛の人達に任せて、急いで師匠の元に向かう。

「師匠!」
「どうしたエミリオ」

 師匠の部屋に入ると、師匠はベッドに座って本を読んでいた。

 僕は焦って師匠に話す。

「あ、あの、僕……暗殺をされかけました」

 自分で言っていて信じてもらえるのか不安に思ってしまった。

 しかし、師匠は信じてくれる。

「何!? 詳しく話せ」
「はい!」

 そうして説明しようとした所で、サシャが部屋に入ってくる。

「エミリオ様。どうされました? 暗殺……とは穏やかでは無いですよね?」

 サシャはその自慢の耳で聞いていたのか、そう言ってくれる。

 僕は2人に今日あった事を話した。
 その上で、2人の意見を聞く。

「2人は……フルカさんが……僕を殺そうとしていると思う?」
「怪しいとは思うが……。正直その理由が思いつかん」
「理由ですか?」

 師匠は考えながら話してくれる。

「そうだ。エミリオは回復魔法を使える。という事をフルカ殿は知らないはずだ。その為に仮面をつけていたのだろう?」
「それは……そうですが」
「それに、もしもディッシュ殿を殺すつもりであるのなら、先におれを殺しに来るとは思わんか?」
「確かに……」

 そう考えて行くと、フルカさんが僕を殺そうとするのは確かに分からない。

 でも、サシャがそこに口を挟む。

「しかし、フルカ様が他の方と手を組んでいた場合はどうですか?」
「手を組んでいた場合?」
「ええ、例えば、ルゴー様とフルカ様が手を組んでいて、エミリオ様の情報を流していたとしたら、どうされます?」
「それならどうして師匠をここに呼んだの? 自分では治せない。そう思ったからなんじゃないの?」
「ジェラルド様の実力を知っていて、その上で治せない。そう思ったからでは?」
「……」
「ジェラルド様はとても有名です。その腕前も……。であれば、彼では治せないという事もある程度は把握しておられた」
「うん」
「しかし、そこにイレギュラーが起きた」
「イレギュラー?」
「そう。エミリオ様です。この間ルゴー様はエミリオ様を弟子に誘うくらいには実力を出してしまったと思います」
「あ……でも、僕がルゴーさんに見せた魔法はそこまで威力はなかったよ?」

 僕がそう聞くと、師匠が答える。

「だがエミリオ、お前の年齢とこれからの伸びしろを考えたらあるいは……と考えたのかもしれん」
「そう……なんでしょうか?」

 そして、サシャが続きを話す。

「おほん。兎に角、それを見たルゴー様がフルカ様に話し、もしかしたらスケルトン侯爵様の治療が出来るかもしれない。そんな風に思われたら……どうでしょうか」
「そんな……そんなこと……」

 無いと思う。
 フルカさんもルゴーさんもそんな人ではないと言いたい。

 でも、料理ギルドのエデッセ子爵も言っていた。
 フルカさんはディッシュさんよりも街を大切に思っていると。

 僕が悩んでいると、サシャは更に続ける。

「エミリオ様。もし彼らが手を組んでいるのであれば、危険です。今すぐにでもこの街を脱出することをおススメします」
「それは……」
「迷っている暇はありません。ヴィクトリア様もエミリオ様の説得をお願いします」
「……私は」

 ヴィーがそう言って口を開いた時に、部屋の外でどたどたと走る音が聞こえてきた。
 その足音に、僕達は皆警戒を強める。

 こんな分かりやすいのは暗殺者はいないだろうが、兵士が来るのかもしれない。
 そう思ったからだ。

 ドンドンドン!

「誰だ!」

 師匠が大声で聞くと、扉の向こうの人は答えた。

「私はスケルトン侯爵の代理の者です!」
「何の用だ」
「開けて頂けないでしょうか。大きな声では言えませんので」
「……」

 師匠は僕達に視線を向けて警戒しろと伝えてくる。

 僕は見えないように氷の板を張り、何かあった時に備えた。

 皆の準備が完了した事を師匠は見ると、代理の人に許可を出す。

「入っていいぞ」
「失礼します!」

 そうして入ってきたのはスケルトン侯爵の元にいた執事の1人だった気がする。
 彼は扉をしめて一礼すると、師匠に向かって頭を下げた。
 そして、重大な事を話す。

「フルカ様より緊急でお伝えしろと伝言を預かって来ました。ディッシュ・スケルトン侯爵様が意識不明になっており、緊急で治療を施して欲しい。よって、至急侯爵家に来てくれとの事です」

 彼が持ってきた情報は、僕達を悩ませるのに十分な情報だった。
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