不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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5章

95話 侯爵の屋敷へ

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「ヒヒィーン!」
「上手くいったのかな?」

 僕がつぶやくと、サシャが答えてくれた。

「そのようですね。ヴィクトリア様の策はとても素晴らしいです」
「本当だよ。助かった」

 僕達は、先ほど宿で話し合っていたメンバーで走ってスケルトン侯爵の屋敷まで来ていた。
 それは、ヴィーの策だった。

 ヴィーの策はこうだ。

 先ほどから敵に狙われていると考えるべきで、馬車で行ったら恐らく狙われてしまう。
 ならば、馬車をおとりにしてしまえばいい。

 馬車を宿の側に停めておき、僕達はその馬車に乗ったフリをする。
 それから新たに『氷の鏡像アイスミラージュ』で僕達を囲み、馬車から降りる。
 しばらく馬車にはその場で待機させ、時間を稼ぐ。

 その隙に僕達がスケルトン侯爵の屋敷まで徒歩で来るという策だ。
 ただ、僕はサシャに、ヴィーはシオンさんに抱えられて走ったから早くこれた、というのがあったけれど。
 後は徒歩であれば音もほとんど発生しないしね。

 この策にも穴はある。
 敵が僕が使った『氷の鏡像アイスミラージュ』を見抜けないのなら意味はないのだ。
 けれど、それが見抜けないなら、別に徒歩で行ってもなんら問題は無い。

 という事を乗り越えて、僕達は到着したのだ。

「それでは行くぞ」
「はい」

 師匠が『氷の鏡像アイスミラージュ』の幕を取り、姿をさらして門番に近付く。

「フルカ殿に呼ばれてきた。門を開けろ」
「ど、どこから現れました? 今……いきなり浮かんだ様に見えたのですが……」
「そんな事は後でいいだろう? 緊急で呼ばれたのだ。早くしろ」
「は、はは! 畏まりました!」

 師匠は門番の口を封じて門を開けさせる。

「降ろしますよ」
「うん。ありがとう。サシャ」
「いつでもいたしますから御自由に。こうやっているのも嬉しいので」
「……」

 屋敷の中に入ると、サシャが僕を下ろしてくれた。

 ただ、恥ずかしいのでそろそろ1人でちゃんと走れるようになりたい。

 少し離れた所ではヴィーもシオンさんから下ろしてもらっている。

 僕達は屋敷の中を進み玄関まで行くと、そこにはスケルトン侯爵の家老ヴェリスさんがいた。

「……」

 僕達は警戒心を高めて彼に近付いて行く。
 大丈夫だと思う。
 フルカさんはそんな事をする人ではない。
 そう思っていても、彼女の周りがやっている可能性もある。

 でも……ヴェリスさんはディッシュさんを尊敬している様に感じた。
 だから、そんな事は考えていないと思い、僕達は向かった。

 そうしていると、ヴェリスさんが僕達に気が付き、大きく手を振って叫ぶ。

「お待ちしておりました! こちらです!」

 早く来い。
 彼は言外にそう言っていた。

「行こう」

 僕は覚悟を決めて言い近付いていく。

 そんな僕達を見て、ヴェリスさんは怒ったように言う。

「お早くお願いします! フルカ様がお待ちです!」
「!」

 僕はそう聞いて居ても経っても居られなくなり、駆けだそうとした。
 けれど、僕の手を師匠ががしっと掴む。

「師匠?」

 僕はなぜ止めるのかと責めるような視線を向ける。

 しかし、師匠はとても冷静で、返してきた。

「エミリオ、お前が彼らを信じたい気持ちは知っている。だが、もし仮にも奴らが敵だった場合、取り返しがつかなくなる。あせるな」
「師匠……」
「お前は魔法をいつでも唱えられる様に準備しておけ」
「いいんですか?」
「緊急事態だ。それくらいは許してくれる」
「分かりました」

 僕は師匠の言葉に返し、氷の板をいつでも使えるようにしておく。
 想像は既に終わっていて魔力もつなげているので、後は詠唱を素早く唱えるだけだ。

 そう考えながら師匠について行くと、ヴェリスさんが叫ぶ。

「なぜ歩くのですか!? 侯爵様はすぐそこなのですよ!?」
「悪いな。こちらにも怪我人がいるのだ。このメイドが先ほど階段から転げ落ちて足の骨を折ってしまった」
「へ? ちょ? ジェラルド様?」
「(おれに合わせろ。敵を油断させる為だ、後ゆっくりと進み警戒する時間を作る)」
「……」

 サシャは今まで普通に歩いていたのに足を痛そうにして歩き出した。

「痛いです……早く治療して欲しいんですけど!」
「今は我慢だ。侯爵の元に着いたら治療してやる」
「いえ、ここに来るまでになぜ治療して来なかったのですか? 回復術師が2人もいるのですよね?」
「……」

 ヴェリスさんが疑いの目でサシャと師匠と僕を見ている。

 そして、彼の言う通りだと僕も思う。

 でも、警戒するべきところもあった。
 それは、どうして彼が僕達の中に回復術師が2人もいる事を知っていたのか。
 ということだ。

 サシャが言うように、ルゴーさんと彼らが繋がっていた可能性が高くなってしまったように思う。

 あ、いけない。
 あんまり意識を他のことにらすと魔法のイメージが崩れてしまう。

「それよりヴェリス殿! 早く案内してくれ!」
「貴方方を待っていたのですが……」
「すぐに行く」

 そんなやり取りをしながらも、僕達は彼の側に行く。

 彼は僕達に背を向けて屋敷の中に入っていった。

 僕達は以前通った道と同じ方へ進み、侯爵の元に急ぐ。

「こちらです」

 ヴェリスさんはそう言って侯爵の部屋の扉を開けて、僕達を誘う。

 僕達は扉を開けて待つヴェリスさんの側を通り、部屋の中に恐る恐る入る。

 警戒している最中、それは起きた。

「お前達! よく来た!」
「!」

 僕はこの時全てを警戒し過ぎていた。
 自分の判断でいいとは思っていたけれど、それでも、どこか心の中で不安があったのかもしれない。
 先ほどのヴェリスさんの言葉もそうだ。
 不安は警戒心を高め、僕はやってしまう。
 そう攻撃されると感じて、魔法を発動させていたのだ。

「氷よ、板と成り我が意に従え『氷板操作アイスボードコントロール』」

 誰にも破られないような固い固い氷の板。
 厚さ50cmはある様な自立できる程のものだ。
 それを、目の前の声を発した相手と僕をさえぎるようにして出現させる。

 ズン!

「……」
「……」
「……」

 その場を沈黙が支配する。

「なぜいきなり魔法を使われたのですか?」
「すいません!」

 ヴェリスさんの一言で僕は謝り、魔法を天井付近に飛ばす。

 少し落ち着けば声をかけられただけだと分かるのに、つい焦ってしまった。

 すると、僕に声をかけてくれた人が誰か分かる。

「さて、ワシの弟子にしようと考えていたが……。拒絶と考えていいのかのう?」
「違うんですけど違わないんです!」

 そこにいたのはルゴーさんだった。
 彼がたまたま扉の近くにいて、僕に声をかけてくれたらしい。

 ただ、彼がいたということは、僕の情報を知っていたのも彼から……ということなのだろうか?
 であればやはり繋がって?

 ルゴーさんはじとっとした目で見ていたけれど、すぐに僕と師匠に声を飛ばす。

「いいから早く入って準備しろ!」
「はい!」
「分かった」

 僕は弾かれるように、師匠はゆっくりと部屋の中に入って行く。

 部屋の中にはいつもの様にきしむベッドで寝ているディッシュさんと、その隣でぐったりをしているフルカさん。
 後は僕に声をかけてくれたルゴーさんがいるだけだった。

 一応、師匠に確認をする。

「(師匠。怪しいですか?)」
「(その様子には見えないが……。サシャ)」
「(なんですか。足の骨が折れたのに治療もされずに歩かされて痛いのですが)」
「(……屋敷の中に怪しい足音は聞こえないか?)」
「ええ、安全かと思います。あくまで、今のところは……ですが」

 サシャがヴィーにも聞こえるように話す。

 良かった。
 さっきは疑ってしまったけれど、やっぱりフルカさん達はそんな事をしていないんだ。
 でも、だとしたら誰が……。

「早くせんか! ワシはお前さん方が来るのを待っておったんじゃぞ!? フルカは先に行って時間を稼いでおる! 急げ!」

 考え事をする前に、ルゴーさんに叱られてしまった。

「すぐ行きます!」
「……入ろう」

 こうして僕達はルゴーさんに促される形で準備をする。

 そうしている間に、ヴィーがサシャ達に指示を出す。

「サシャ。貴方はその隠密性を生かして周囲を警戒。敵が来そうな雰囲気があればすぐに知らせて」
「畏まりました」
「シオン。貴方は万が一の事を考えて彼らを守る魔法を展開。その後はここで守りなさい」
「ヴィクトリア様はどうされるのですか?」
「私には出来ることがありません。彼らと一緒に中で何かあった時に備えておきます」
かしこまりました」
「何か……とはなんでしょうか?」

 ヴィー達の話が分からないのか、ヴェリスさんが聞いている。

「いえ、万が一を考えているだけです。お気になさらず」
「……」

 そう言われて納得は出来ないのだろうけど、それでも飲み込む大人な対応をしてくれた。

「エミリオ! 行くぞ!」
「あ、はい!」

 僕は師匠に言われてディッシュさんの体内に入る魔法を唱えようとする。

 しかし、ルゴーさんに止められてしまった。

「エミリオ! あの入り口上に作った氷の板はそのままにするな! 危険すぎる!」
「あ! すいません!」

 僕はそれを適当に動かし、扉1枚半ほど開いていた所に立てかけた。

「あ……」
「どうかされました?」

 ヴェリスさんが不味そうな顔をしていたので聞いてみる。

「それが……」
「いいから行くぞ! そんなことは後だ!」
「は、はい!」

 ヴェリスさんの言葉をルゴーさんがさえぎり、早く入れとうながす。

 なので、僕はディッシュさんを助ける為に中に入った。

「ヴェリスさん! 詳しい事は後で聞きます! 我が意識は欠片、依代に宿り新たな自我を為せ『生命侵入ライフ・エンター』」

 僕は準備を整えて、急いでディッシュさんの中に入る。

******

***襲撃者サイド***

 俺達は急いで屋敷へ直接つながっている秘密のルートを進む。

 まさかあんな初歩的な陽動に引っかかるとは、戦闘のプロはいないと思って舐めていた。

「狙いは分かっているな? 小僧だけでいい。それ以外は最低限にしろ」

 俺は返事を聞かずにルートを駆ける。
 主と侯爵の付き合いは長い。
 その過程で知ったルートで、あまり使いたくはないが今回は仕方ない。

 小僧を殺すことが目的なのだから。

「そろそろだ。行くぞ」

 そう言って、俺達は足音を立てずに扉を蹴り破り中に入ろうとしてその扉を蹴りつけた。

 ガン!

「ん? 開かない?」

 俺達が入ろうとした扉は、何かに塞がれているのか開かなかった。
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