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1巻
1-3
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「リーナ。代わりに今から僕が魔法を使う。それを見てくれるかな?」
「魔法……?」
「うん。魔法」
「見たい見たい!」
リーナは喜んでくれるけれど、ロベルト兄さんの表情は暗い。
「エミリオ、大丈夫なのか? 無理をするのは良くないぞ? 無理をしなくても、リーナの相手は俺がしておいてやる」
「大丈夫。今日はまだ練習をしてなくってさ。それに、危なくない魔法だから。ね?」
「むぅ……危ないと思ったら止めるからな?」
「うん。その時はよろしく」
心配性な兄さんに納得してもらい、僕は魔法を発動させる。
「素敵な玉、水の玉、空に浮かび我が意に従え。『水玉生成操作』」
「!?」
「何これ!」
僕の周囲に十個の水玉を作る。それぞれの色は全て違っていて、見ているだけでもリーナにとっては楽しいだろう。
「動かすよ」
僕はそれをリーナの周囲に漂わせる。
「わぁ……綺麗……」
リーナは目を輝かせて、自分の周りに浮かんでいる水玉を見ていた。そんな彼女の様子に僕は嬉しくなる。
これまでは兄らしいことは何一つできなかった僕。それが、魔法を使えば妹を喜ばせることができる。やっと、多少は兄らしいことができるかもしれない。そう思ったら、張り切らずにはいられなかった。
「こんなこともできるんだよ」
僕はそう言って、彼女の周りに水玉をもっと高速で漂わせる。それに加えて、波打つように上下運動もさせながら回していく。
「すごいすごい! お兄ちゃんすごいよ!」
「確かに……エミリオにはこんな才能があったんだな」
リーナははしゃいで喜び、ロベルト兄さんも感心したように水玉を見ている。
「他にも、こんなこともできるよ」
僕は浮かべた水玉を一度部屋の外に放り出した。
「ああ!」
リーナの悲痛な叫びが聞こえるけれど、新しいことをするために違うことをしないといけないから、少し待っていてほしい。
「リーナ。ちょっと待ってね」
「うん……分かった」
僕はもう一度詠唱をし直して、今度は、一センチメートルほどの水玉を何十個も作り出した。そして、目を閉じてイメージ通りにそれぞれを動かす。
「何それ!?」
僕の上で水玉達が形を作る。
まずは鳥だ、リーナにも分かりやすいようにちゃんと色も変えてある。
「今度は魚!? 次は犬!?」
リーナが喜ぶように水玉を生きものの形に変えまくっていく。
それから僕はリーナが満足するまで魔法で彼女を楽しませ続けた。
そんなことをしていると、はしゃぎすぎたのかリーナは僕のベッドに横になる。
「寝ちゃったね……」
「……ああ」
ロベルト兄さんはリーナを抱えて部屋を出ていこうとする。
ただ、その顔はどことなく険しい。最初の頃は普通に楽しんでくれていたのに、どうしたのだろうか。
「リーナをよろしくね」
「当然だ。俺はバルトラン男爵家を継ぐ男だからな」
「うん。分かってるよ」
「いいか? 俺は今度の父さんの狩りにもついていく。俺はそれだけの力があると認められているんだからな?」
「? 知ってるよ? 兄さんはすごいんだよね」
「エミリオ。俺はお前も守りたい。そう思っているよ」
「ありがとう。兄さん」
母さんからもロベルト兄さんはすごいという話を何度も聞いている自慢の兄だ。けれど、兄さんの表情は暗い。
「……いつかこの意味が分かる時が来るといいがな」
「兄さん?」
「今日のところは邪魔をしたな。エミリオ、無理はするなよ」
「うん。分かってるよ」
そう言って、ロベルト兄さんはリーナを連れて部屋から出ていく。
最後に言っていた言葉ってどういう意味だったのだろうか。
******
先生に教えを受けて一か月が経った。
「マスラン先生。そろそろ自分に対する治療もやってみたいのですが」
僕はマスラン先生に頼み込んでいた。これまではずっと理論の話と、人形に対する『体力増強』の魔法の練習だけだった。
基本が大事と聞かされているけれど、そろそろ次の段階に進んでも良いのではないか。そう思っていた。
試しに相談したが、マスラン先生は首を横に振った。
「エミリオ、まだ早い。人形にやることと、人にやることは同じではないんだ」
「それは分かっていますが……僕はもう人形相手に失敗することはありませんよ?」
練習を始めた頃は何度か失敗してしまうことがあったけれど、今ではもう必ず成功する。それだけの自信があった。
「それでもだ。今は焦る時じゃない。基本を極めればいつか役に立つ時がきっと来る」
「……分かりました」
「分かってくれて嬉しい。では腕に切り傷を負った患者がいた場合。その患者のどこを見る必要がある?」
「はい。それは……」
こんなケースバイケースの状況を叩き込まれているのだ。そんな問答を何回も行っていると……
コンコン。
扉がノックされる。
「どうぞ」
先生が僕の代わりに答えると、扉が開かれた。
「遅れて申し訳ありません。旦那様の見送りに行っていました」
入ってきたのは母さんだ。先生との魔法の練習をしている時は、いつも母さんが付き添いをしてくれている。
ここまで小走りで来たのか、少し息が上がっている。
「どうしたの? 母さん」
「旦那様が今日は狩りに行かれたのでその見送りにね」
「ああ、あの」
確か少し前にロベルト兄さんが同行すると言っていた件だろう。
それを聞いて、マスラン先生が母さんに尋ねる。
「私はついていかなくても良かったのですか?」
「マスラン先生。そのお気遣いはありがたく思います。私も最近魔物が出ているという話を聞いているので心配していたのですが、旦那様は、護衛もいるし心配はない。そう仰って……」
母さんは心配そうな表情をしているけれど、父さんには伝わらなかったのだろう。
マスラン先生も仕方ないといった表情になり、口を開く。
「なるほど、では授業を再開しようか」
「はい」
それから、僕達はいつもの授業に戻る。
******
その日の夜。
月明かりが屋敷を照らし、夕食を食べている時に周囲が騒がしくなった。
「なんだろう……」
何かが起きているのは分かるけれど、僕が自分から行くことはできない。こんな時に健康な体があればと思ってしまう。
メイドを呼ぶベルを鳴らすべきかどうかと迷っていると、母さんが血相を変えて部屋に入ってきた。
「エミリオ! 起きている!?」
「か、母さん? 起きてるよ。ご飯を食べていたから」
「そう! 食べたらじっとしていて」
「いいけど……何かあったの?」
僕は切羽詰まった顔の母に聞く。
「狩りから帰ってきたメンバーが大怪我を負っているの。急ぎ町の回復術師を呼びに行っているけど、それまで保つか……」
「そんな!? 狩りに危険はないって……」
「予想外のことが起きたらしいの。狩りの途中に想定外の魔物が現れ……撃退はしたけど、怪我人が多数出ているそうよ。エミリオ。今夜は忙しくなるわ。メイドはできるだけ呼ばないようにして、ここでじっとしていてね」
母さんはそう言って部屋から出ていこうとする。
僕はその背を呼び止めた。
「待って母さん!」
「どうしたの?」
「僕も……僕も力になるよ! この時のために魔法の練習をしてきたんだもん! 少しだけでも、僕に手伝わせてほしい」
「でも……」
「一秒を争うんでしょ!? 迷っている暇はないよ!」
「……分かったわ。今はマスラン先生が陣頭指揮を執っているの。お話を聞いてくるから、待っていてね」
「うん」
母さんは部屋から飛び出していく。
しばらく待っていると、頭から血を流している筋骨隆々の男が部屋に飛び込んできた。茶髪の角刈りで動きやすい冒険者の格好をしている。
「誰!?」
僕は思わず叫んでしまう。
冒険者の男は血走った目をしており、今にも襲い掛かってくるかもしれないと思ったからだ。
しかし、相手にそんなつもりはなかったようだ。
「失礼しました。あなたはエミリオ様でお間違いないですか?」
「そうですが」
「では、失礼します」
「え? え?」
彼は僕をお姫様抱っこすると、そのままどこかへ走っていく。
到着したのは食堂らしき部屋だ。そこではメイド達が動き回り、人が何人か床に横たわっている。
数えてみると七人だった。彼らは冒険者のような動きやすい服装だが、少しだけ豪華な鎧をつけている人もいた。皆苦しそうに呻いていたり、体を押さえたりしている。
「先生! 連れてきました!」
冒険者の男が声をかけた相手はマスラン先生だ。
先生は一番奥の人に回復魔法をかけているところだった。先生は僕の方を見たあとに、すぐに目の前の人に視線を戻す。
「エミリオ。今はただこの場の空気を感じなさい。誰が横になっていて、どう傷ついているのかを理解するように」
「はい」
僕は先生に言われた通りに、横たわっている人達の顔を見る。手前には、とても……とても見知っていて、親しい人達の姿があった。
「父さん! ロベルト兄さん!」
僕は父さんと兄さんの痛ましい姿に衝撃を受け、冒険者の男の腕から降りて二人に駆け寄ろうとする。
「あ、動くな!」
けれど、冒険者の人に簡単に押さえられてしまった。
「離して! 父さん! 兄さん!」
僕に今、何ができるかは分からない。
父さんと兄さんがどこを怪我しているのかも分かっていない。でも、側に行かなければならないと思った。
冒険者の腕の中で暴れていると、母さんが僕の元に来た。
「エミリオ。今は黙りなさい」
「母さん! 父さんと兄さんが!」
「分かっています!」
「!?」
母さんの思わぬ大声に僕は驚き声を失う。
「いい? 今は先生が重傷の人を治療してくださっている。だけど、全員診るには手が足りないの。だから、あなたができることをして」
「僕が……できること?」
「そう。私達にはできないこと。あなたが何をしなければならないのか、今一度先生から習っていることを思い出しなさい」
「僕が……習っていること……」
「エミリオ、目を閉じて。ここは食堂じゃない。あなたの部屋。そこで習っていたことは何?」
僕はゆっくりと目を閉じて、先生との授業を思い出す。
『患者に切り傷があった場合はどこを診る?』
『それは……』
僕は先生との授業を一回一回思い出しながら、症例に当てはまる人を診ていく。
「切り傷のある人……いる」
先生が指揮を執っているからか、よく見ると患者さん達は皆患部が露出している。だから治療の優先順位は一目見れば明らかになる。
父さんや兄さんはよく見ればそこまで大きな怪我ではない。だから、怪我の酷い冒険者の人達を優先する。
先生もそうしているらしい。
僕は自分の中で優先順位をつけたあとに、どうやって治療をしていくかを頭の中で想像する。こういう時には、先生から学んだ基礎が役に立つ。
ハッキリとそう理解できた。
「エミリオ。私が言っていたことが理解できたか?」
「マスラン先生……」
僕の側にはマスラン先生が立っていた。
「僕にできることはあまりありませんが、それでも少しは分かりました」
「では、優先順位は」
「奥の方からこちらに向かって優先順位は低くなります」
手前の方にいる父さんや兄さんは、護衛の人達が守ってくれたのか、怪我はほとんどない。
先ほどは身内が倒れているということで慌ててしまったけれど、落ち着いてみると状況がしっかりと分かる。
マスラン先生が頷き、僕に言う。
「エミリオ。私には全員を治療するだけの魔力がない。だから、『体力増強』を全員にかけてくれないか?」
「え……でも……いいんですか?」
それはしてはいけないと言われていた。
「時間がない。不安かもしれないが、今の君であれば問題なくやれると思っている」
「……はい!」
先生の言葉が勇気をくれた。
今の僕であれば、できる気がした。
「ではまずは私が見本を見せる。私の行動をしっかりと覚えておくように」
「分かりました」
「ついてきなさい」
先生はそう言って、次に診なければいけない人に向かっていく。
僕を抱えた冒険者も、先生についていってくれた。
そして彼は、僕に話しかけてくる。
「エミリオ様……頼む。俺の大切な仲間なんだ。だから……どうか……どうか……」
「……できることを全力でやります。誰一人……分け隔てることなく」
「感謝します……!」
「エミリオ、まだ話は終わっていないぞ」
「はい、先生」
僕は先生の行うことをじっと観察した。
先生は『体力増強』を使い、それから僕の知らない魔法を唱えて治療を開始する。
先生が診ているのは緊急度の高い人だ。切り落とされたのか腕が離れていて、離れた腕はどす黒く変色している。それでも、先生はそれを繋ごうと必死に集中していた。
患部は回復魔法のせいか蠢き立ち、どことなくおぞましさを感じさせる。
「う……ごほごほ」
僕は気持ち悪くなり、更に今日は体調が悪かったのもあって咳き込んでしまう。
そんな僕の様子を見た冒険者が声をかけてくれる。
「離れるか? 体調を整えてからでも……」
「いえ。その必要はありません。いつかは見なければいけない状況なんです。それが早いか遅いかの違いがあるだけ……だから、このままでお願いします」
「畏まりました」
僕はそれから先生が行う治療を見続けた。
先生の患者に向ける視線、魔力の流れ、回復させる順番。
患者の苦しそうな表情も、彼らが動かないように体を押さえる執事の人も。
全てを学ぶために僕はできる限り見つめ続けた。
「ふぅ……これで彼の腕は大丈夫だろう」
三十分もすると先生は大きく息を吐いた。
その頃には横になっている人の呼吸は安定しており、表情も安らかなものに戻っていた。
「ありがとうございます! 先生!」
僕を抱えている冒険者の男が先生にお礼を言う。
しかし、先生の表情は険しい。
「まだだ。まだ終わっていない。エミリオ。今の回復魔法を見ていたね?」
「はい」
「次は君が『体力増強』を使うんだ。私の魔力では全員分は保たない」
「分かりました」
「多少の失敗は大丈夫。私がフォローする。エミリオ。焦る必要はない」
「ありがとうございます」
僕は先生の言葉にしっかりと頷く。
先生が見守ってくれている中、僕は集中して想像する。先生に教えてもらったことを考え、決して間違えないように、決してミスをしないように。
細心の注意を払いながら僕は想像する。イメージはしっかりとできた。それに僕は安心して、詠唱を始め、体の奥にある魔力を引っ張り出す。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ」
「ぐぅ! いっつぅ!」
「立ち上がれ。『体力増強』……!?」
僕は詠唱の途中で思いっきり動揺してしまった。完璧だと思っていたイメージが、苦痛に歪む声を聞いて、一瞬で崩れ去ってしまった。
しかも、その失敗したイメージのままに詠唱が完成してしまう。
「ぐっはぁ!? ぁが……」
目の前の患者が苦しみだす。僕の回復魔法のせいで、僕が失敗してしまったせいで……
どうしていいのか分からなくなり、目の前が真っ白になる。
すると、マスラン先生が詠唱を始めた。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ。『体力増強』」
「ぐ……ふぅ……」
先生が『体力増強』を唱えると、それは成功し、僕の失敗した魔法を打ち消した。
「先生……僕……僕……」
「エミリオ」
「……はい」
「気にするな……とは言わない。けれど、回復魔法は人の生死に直結する。決して油断するな。驕るな。毎回、この魔法に失敗したら自分も死ぬ、そう思うほどの覚悟を持って魔法をかけなさい。それができないなら……回復術師になることは諦めなさい」
「……はい」
僕は諦めた方が良いだろうか。
才能があると褒められて喜び、僕なら人形以外にも……人にも簡単に魔法をかけられると驕っていた。でも、それは間違いだった。
いざ本番になっても、僕は何もできない。ただ抱えられているだけの子供だ。そう思っていると、マスラン先生が僕の方に向き直る。
「すまないエミリオ。もっと前から人に魔法をかける練習をさせておけば良かったのだが……」
「そ、そんな……こと……」
「さあ、覚悟ができたら次もお願いできないだろうか」
「でも……僕……失敗して……」
マスラン先生は僕にニコリと微笑んで続ける。
「大丈夫。今のを見ていただろう? 私がちゃんとフォローしてあげるから。それとも、私の腕が信じられないか?」
「……信じられます」
僕の失敗をフォローしてくれた先生は……すごい回復術師だ。だから、先生の言うことであれば信頼できる。
「だろう? であれば、次は大丈夫だね?」
「……はい」
「よろしい。では、私は少し集中する」
そう言って先生は目の前の患者に集中しだす。
僕は大丈夫。そう言ったけれど、心の中では不安で圧し潰されそうだった。失敗したせいで目の前の人が苦しんだ。僕がミスしたせいで……僕が……上手くできなかったせいで……
このまま時が止まってほしい。もしくは、誰か他の回復術師がやってきて、助けてくれないか。
僕は願う。
しかし、そんなことは起きず、僕を抱えている冒険者に話しかけられた。
「少しいいか」
「……はい」
怒られると思った。
俺の仲間を苦しめて、なんてことをしてくれたんだ……と。
身構えていると、彼の僕を抱く腕に力が籠った。
「こいつらは……小さい頃から俺達と一緒に冒険者になった奴らなんだ。気のいい奴らで……頼りになる……だから……頼む。助けてくれ。いや、ください」
「……」
彼はそう言って頭を下げた。
僕をこんなに軽々と持ち上げる大人が、僕に頭を下げる。それはどうしてだろう。
僕が彼らを助けられるかもしれないからだ。僕の力で、ここに横たわっている人達を助けることができる。
今まで僕はずっと寝たきりで、多くの人に助けられてきた。
母さんや、父さんや兄妹。メイドの人達にも、ずっと助けてもらってきた。
そんな僕でも、恩返しと言えるか分からないけれど、できることがある。なら、やらないわけにはいかない。僕が……僕が助けるんだ。僕を助け続けてくれた皆のために。
「任せてください」
自然と口からそう言葉がこぼれていた。
絶対に治す。
それができなくても、僕ができることは全力でやる。
「すぅ……」
僕は息を大きく吸い、目を閉じる。
この場に寝ている人達を一人一人思い浮かべ、元気になるようにこれでもかとイメージを強めていく。深く……深く奥の奥にまで潜って力を引っ張り上げる。
この場の人達全てを救うように、僕の力でできる限りの力を注ぎ込む。
イメージは固まった。あとは詠唱し、奥底から魔力を引き出すだけだ。
僕は目を開けることなく、詠唱を口にした。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ。『体力増強』」
体の奥底から急激に力が引きずり出される感覚を味わう。今までにないほどの多くの魔力を持っていかれる。けれど、それで皆が助かるなら安いもの。
「……」
僕は虚脱感に耐え、イメージを決して崩さないように気を付ける。
皆が元気になる。いや、僕が元気にしてみせる。今の僕にできること、僕がやるべきことはそれだけだから。
少しして、僕は成功したことを確信して目を開ける。そこには、僕の方をじっと見つめる人達がいた。
マスラン先生も、僕を抱えている冒険者も、動き回っていたメイド達も僕のことを見ていた。
「魔法……?」
「うん。魔法」
「見たい見たい!」
リーナは喜んでくれるけれど、ロベルト兄さんの表情は暗い。
「エミリオ、大丈夫なのか? 無理をするのは良くないぞ? 無理をしなくても、リーナの相手は俺がしておいてやる」
「大丈夫。今日はまだ練習をしてなくってさ。それに、危なくない魔法だから。ね?」
「むぅ……危ないと思ったら止めるからな?」
「うん。その時はよろしく」
心配性な兄さんに納得してもらい、僕は魔法を発動させる。
「素敵な玉、水の玉、空に浮かび我が意に従え。『水玉生成操作』」
「!?」
「何これ!」
僕の周囲に十個の水玉を作る。それぞれの色は全て違っていて、見ているだけでもリーナにとっては楽しいだろう。
「動かすよ」
僕はそれをリーナの周囲に漂わせる。
「わぁ……綺麗……」
リーナは目を輝かせて、自分の周りに浮かんでいる水玉を見ていた。そんな彼女の様子に僕は嬉しくなる。
これまでは兄らしいことは何一つできなかった僕。それが、魔法を使えば妹を喜ばせることができる。やっと、多少は兄らしいことができるかもしれない。そう思ったら、張り切らずにはいられなかった。
「こんなこともできるんだよ」
僕はそう言って、彼女の周りに水玉をもっと高速で漂わせる。それに加えて、波打つように上下運動もさせながら回していく。
「すごいすごい! お兄ちゃんすごいよ!」
「確かに……エミリオにはこんな才能があったんだな」
リーナははしゃいで喜び、ロベルト兄さんも感心したように水玉を見ている。
「他にも、こんなこともできるよ」
僕は浮かべた水玉を一度部屋の外に放り出した。
「ああ!」
リーナの悲痛な叫びが聞こえるけれど、新しいことをするために違うことをしないといけないから、少し待っていてほしい。
「リーナ。ちょっと待ってね」
「うん……分かった」
僕はもう一度詠唱をし直して、今度は、一センチメートルほどの水玉を何十個も作り出した。そして、目を閉じてイメージ通りにそれぞれを動かす。
「何それ!?」
僕の上で水玉達が形を作る。
まずは鳥だ、リーナにも分かりやすいようにちゃんと色も変えてある。
「今度は魚!? 次は犬!?」
リーナが喜ぶように水玉を生きものの形に変えまくっていく。
それから僕はリーナが満足するまで魔法で彼女を楽しませ続けた。
そんなことをしていると、はしゃぎすぎたのかリーナは僕のベッドに横になる。
「寝ちゃったね……」
「……ああ」
ロベルト兄さんはリーナを抱えて部屋を出ていこうとする。
ただ、その顔はどことなく険しい。最初の頃は普通に楽しんでくれていたのに、どうしたのだろうか。
「リーナをよろしくね」
「当然だ。俺はバルトラン男爵家を継ぐ男だからな」
「うん。分かってるよ」
「いいか? 俺は今度の父さんの狩りにもついていく。俺はそれだけの力があると認められているんだからな?」
「? 知ってるよ? 兄さんはすごいんだよね」
「エミリオ。俺はお前も守りたい。そう思っているよ」
「ありがとう。兄さん」
母さんからもロベルト兄さんはすごいという話を何度も聞いている自慢の兄だ。けれど、兄さんの表情は暗い。
「……いつかこの意味が分かる時が来るといいがな」
「兄さん?」
「今日のところは邪魔をしたな。エミリオ、無理はするなよ」
「うん。分かってるよ」
そう言って、ロベルト兄さんはリーナを連れて部屋から出ていく。
最後に言っていた言葉ってどういう意味だったのだろうか。
******
先生に教えを受けて一か月が経った。
「マスラン先生。そろそろ自分に対する治療もやってみたいのですが」
僕はマスラン先生に頼み込んでいた。これまではずっと理論の話と、人形に対する『体力増強』の魔法の練習だけだった。
基本が大事と聞かされているけれど、そろそろ次の段階に進んでも良いのではないか。そう思っていた。
試しに相談したが、マスラン先生は首を横に振った。
「エミリオ、まだ早い。人形にやることと、人にやることは同じではないんだ」
「それは分かっていますが……僕はもう人形相手に失敗することはありませんよ?」
練習を始めた頃は何度か失敗してしまうことがあったけれど、今ではもう必ず成功する。それだけの自信があった。
「それでもだ。今は焦る時じゃない。基本を極めればいつか役に立つ時がきっと来る」
「……分かりました」
「分かってくれて嬉しい。では腕に切り傷を負った患者がいた場合。その患者のどこを見る必要がある?」
「はい。それは……」
こんなケースバイケースの状況を叩き込まれているのだ。そんな問答を何回も行っていると……
コンコン。
扉がノックされる。
「どうぞ」
先生が僕の代わりに答えると、扉が開かれた。
「遅れて申し訳ありません。旦那様の見送りに行っていました」
入ってきたのは母さんだ。先生との魔法の練習をしている時は、いつも母さんが付き添いをしてくれている。
ここまで小走りで来たのか、少し息が上がっている。
「どうしたの? 母さん」
「旦那様が今日は狩りに行かれたのでその見送りにね」
「ああ、あの」
確か少し前にロベルト兄さんが同行すると言っていた件だろう。
それを聞いて、マスラン先生が母さんに尋ねる。
「私はついていかなくても良かったのですか?」
「マスラン先生。そのお気遣いはありがたく思います。私も最近魔物が出ているという話を聞いているので心配していたのですが、旦那様は、護衛もいるし心配はない。そう仰って……」
母さんは心配そうな表情をしているけれど、父さんには伝わらなかったのだろう。
マスラン先生も仕方ないといった表情になり、口を開く。
「なるほど、では授業を再開しようか」
「はい」
それから、僕達はいつもの授業に戻る。
******
その日の夜。
月明かりが屋敷を照らし、夕食を食べている時に周囲が騒がしくなった。
「なんだろう……」
何かが起きているのは分かるけれど、僕が自分から行くことはできない。こんな時に健康な体があればと思ってしまう。
メイドを呼ぶベルを鳴らすべきかどうかと迷っていると、母さんが血相を変えて部屋に入ってきた。
「エミリオ! 起きている!?」
「か、母さん? 起きてるよ。ご飯を食べていたから」
「そう! 食べたらじっとしていて」
「いいけど……何かあったの?」
僕は切羽詰まった顔の母に聞く。
「狩りから帰ってきたメンバーが大怪我を負っているの。急ぎ町の回復術師を呼びに行っているけど、それまで保つか……」
「そんな!? 狩りに危険はないって……」
「予想外のことが起きたらしいの。狩りの途中に想定外の魔物が現れ……撃退はしたけど、怪我人が多数出ているそうよ。エミリオ。今夜は忙しくなるわ。メイドはできるだけ呼ばないようにして、ここでじっとしていてね」
母さんはそう言って部屋から出ていこうとする。
僕はその背を呼び止めた。
「待って母さん!」
「どうしたの?」
「僕も……僕も力になるよ! この時のために魔法の練習をしてきたんだもん! 少しだけでも、僕に手伝わせてほしい」
「でも……」
「一秒を争うんでしょ!? 迷っている暇はないよ!」
「……分かったわ。今はマスラン先生が陣頭指揮を執っているの。お話を聞いてくるから、待っていてね」
「うん」
母さんは部屋から飛び出していく。
しばらく待っていると、頭から血を流している筋骨隆々の男が部屋に飛び込んできた。茶髪の角刈りで動きやすい冒険者の格好をしている。
「誰!?」
僕は思わず叫んでしまう。
冒険者の男は血走った目をしており、今にも襲い掛かってくるかもしれないと思ったからだ。
しかし、相手にそんなつもりはなかったようだ。
「失礼しました。あなたはエミリオ様でお間違いないですか?」
「そうですが」
「では、失礼します」
「え? え?」
彼は僕をお姫様抱っこすると、そのままどこかへ走っていく。
到着したのは食堂らしき部屋だ。そこではメイド達が動き回り、人が何人か床に横たわっている。
数えてみると七人だった。彼らは冒険者のような動きやすい服装だが、少しだけ豪華な鎧をつけている人もいた。皆苦しそうに呻いていたり、体を押さえたりしている。
「先生! 連れてきました!」
冒険者の男が声をかけた相手はマスラン先生だ。
先生は一番奥の人に回復魔法をかけているところだった。先生は僕の方を見たあとに、すぐに目の前の人に視線を戻す。
「エミリオ。今はただこの場の空気を感じなさい。誰が横になっていて、どう傷ついているのかを理解するように」
「はい」
僕は先生に言われた通りに、横たわっている人達の顔を見る。手前には、とても……とても見知っていて、親しい人達の姿があった。
「父さん! ロベルト兄さん!」
僕は父さんと兄さんの痛ましい姿に衝撃を受け、冒険者の男の腕から降りて二人に駆け寄ろうとする。
「あ、動くな!」
けれど、冒険者の人に簡単に押さえられてしまった。
「離して! 父さん! 兄さん!」
僕に今、何ができるかは分からない。
父さんと兄さんがどこを怪我しているのかも分かっていない。でも、側に行かなければならないと思った。
冒険者の腕の中で暴れていると、母さんが僕の元に来た。
「エミリオ。今は黙りなさい」
「母さん! 父さんと兄さんが!」
「分かっています!」
「!?」
母さんの思わぬ大声に僕は驚き声を失う。
「いい? 今は先生が重傷の人を治療してくださっている。だけど、全員診るには手が足りないの。だから、あなたができることをして」
「僕が……できること?」
「そう。私達にはできないこと。あなたが何をしなければならないのか、今一度先生から習っていることを思い出しなさい」
「僕が……習っていること……」
「エミリオ、目を閉じて。ここは食堂じゃない。あなたの部屋。そこで習っていたことは何?」
僕はゆっくりと目を閉じて、先生との授業を思い出す。
『患者に切り傷があった場合はどこを診る?』
『それは……』
僕は先生との授業を一回一回思い出しながら、症例に当てはまる人を診ていく。
「切り傷のある人……いる」
先生が指揮を執っているからか、よく見ると患者さん達は皆患部が露出している。だから治療の優先順位は一目見れば明らかになる。
父さんや兄さんはよく見ればそこまで大きな怪我ではない。だから、怪我の酷い冒険者の人達を優先する。
先生もそうしているらしい。
僕は自分の中で優先順位をつけたあとに、どうやって治療をしていくかを頭の中で想像する。こういう時には、先生から学んだ基礎が役に立つ。
ハッキリとそう理解できた。
「エミリオ。私が言っていたことが理解できたか?」
「マスラン先生……」
僕の側にはマスラン先生が立っていた。
「僕にできることはあまりありませんが、それでも少しは分かりました」
「では、優先順位は」
「奥の方からこちらに向かって優先順位は低くなります」
手前の方にいる父さんや兄さんは、護衛の人達が守ってくれたのか、怪我はほとんどない。
先ほどは身内が倒れているということで慌ててしまったけれど、落ち着いてみると状況がしっかりと分かる。
マスラン先生が頷き、僕に言う。
「エミリオ。私には全員を治療するだけの魔力がない。だから、『体力増強』を全員にかけてくれないか?」
「え……でも……いいんですか?」
それはしてはいけないと言われていた。
「時間がない。不安かもしれないが、今の君であれば問題なくやれると思っている」
「……はい!」
先生の言葉が勇気をくれた。
今の僕であれば、できる気がした。
「ではまずは私が見本を見せる。私の行動をしっかりと覚えておくように」
「分かりました」
「ついてきなさい」
先生はそう言って、次に診なければいけない人に向かっていく。
僕を抱えた冒険者も、先生についていってくれた。
そして彼は、僕に話しかけてくる。
「エミリオ様……頼む。俺の大切な仲間なんだ。だから……どうか……どうか……」
「……できることを全力でやります。誰一人……分け隔てることなく」
「感謝します……!」
「エミリオ、まだ話は終わっていないぞ」
「はい、先生」
僕は先生の行うことをじっと観察した。
先生は『体力増強』を使い、それから僕の知らない魔法を唱えて治療を開始する。
先生が診ているのは緊急度の高い人だ。切り落とされたのか腕が離れていて、離れた腕はどす黒く変色している。それでも、先生はそれを繋ごうと必死に集中していた。
患部は回復魔法のせいか蠢き立ち、どことなくおぞましさを感じさせる。
「う……ごほごほ」
僕は気持ち悪くなり、更に今日は体調が悪かったのもあって咳き込んでしまう。
そんな僕の様子を見た冒険者が声をかけてくれる。
「離れるか? 体調を整えてからでも……」
「いえ。その必要はありません。いつかは見なければいけない状況なんです。それが早いか遅いかの違いがあるだけ……だから、このままでお願いします」
「畏まりました」
僕はそれから先生が行う治療を見続けた。
先生の患者に向ける視線、魔力の流れ、回復させる順番。
患者の苦しそうな表情も、彼らが動かないように体を押さえる執事の人も。
全てを学ぶために僕はできる限り見つめ続けた。
「ふぅ……これで彼の腕は大丈夫だろう」
三十分もすると先生は大きく息を吐いた。
その頃には横になっている人の呼吸は安定しており、表情も安らかなものに戻っていた。
「ありがとうございます! 先生!」
僕を抱えている冒険者の男が先生にお礼を言う。
しかし、先生の表情は険しい。
「まだだ。まだ終わっていない。エミリオ。今の回復魔法を見ていたね?」
「はい」
「次は君が『体力増強』を使うんだ。私の魔力では全員分は保たない」
「分かりました」
「多少の失敗は大丈夫。私がフォローする。エミリオ。焦る必要はない」
「ありがとうございます」
僕は先生の言葉にしっかりと頷く。
先生が見守ってくれている中、僕は集中して想像する。先生に教えてもらったことを考え、決して間違えないように、決してミスをしないように。
細心の注意を払いながら僕は想像する。イメージはしっかりとできた。それに僕は安心して、詠唱を始め、体の奥にある魔力を引っ張り出す。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ」
「ぐぅ! いっつぅ!」
「立ち上がれ。『体力増強』……!?」
僕は詠唱の途中で思いっきり動揺してしまった。完璧だと思っていたイメージが、苦痛に歪む声を聞いて、一瞬で崩れ去ってしまった。
しかも、その失敗したイメージのままに詠唱が完成してしまう。
「ぐっはぁ!? ぁが……」
目の前の患者が苦しみだす。僕の回復魔法のせいで、僕が失敗してしまったせいで……
どうしていいのか分からなくなり、目の前が真っ白になる。
すると、マスラン先生が詠唱を始めた。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ。『体力増強』」
「ぐ……ふぅ……」
先生が『体力増強』を唱えると、それは成功し、僕の失敗した魔法を打ち消した。
「先生……僕……僕……」
「エミリオ」
「……はい」
「気にするな……とは言わない。けれど、回復魔法は人の生死に直結する。決して油断するな。驕るな。毎回、この魔法に失敗したら自分も死ぬ、そう思うほどの覚悟を持って魔法をかけなさい。それができないなら……回復術師になることは諦めなさい」
「……はい」
僕は諦めた方が良いだろうか。
才能があると褒められて喜び、僕なら人形以外にも……人にも簡単に魔法をかけられると驕っていた。でも、それは間違いだった。
いざ本番になっても、僕は何もできない。ただ抱えられているだけの子供だ。そう思っていると、マスラン先生が僕の方に向き直る。
「すまないエミリオ。もっと前から人に魔法をかける練習をさせておけば良かったのだが……」
「そ、そんな……こと……」
「さあ、覚悟ができたら次もお願いできないだろうか」
「でも……僕……失敗して……」
マスラン先生は僕にニコリと微笑んで続ける。
「大丈夫。今のを見ていただろう? 私がちゃんとフォローしてあげるから。それとも、私の腕が信じられないか?」
「……信じられます」
僕の失敗をフォローしてくれた先生は……すごい回復術師だ。だから、先生の言うことであれば信頼できる。
「だろう? であれば、次は大丈夫だね?」
「……はい」
「よろしい。では、私は少し集中する」
そう言って先生は目の前の患者に集中しだす。
僕は大丈夫。そう言ったけれど、心の中では不安で圧し潰されそうだった。失敗したせいで目の前の人が苦しんだ。僕がミスしたせいで……僕が……上手くできなかったせいで……
このまま時が止まってほしい。もしくは、誰か他の回復術師がやってきて、助けてくれないか。
僕は願う。
しかし、そんなことは起きず、僕を抱えている冒険者に話しかけられた。
「少しいいか」
「……はい」
怒られると思った。
俺の仲間を苦しめて、なんてことをしてくれたんだ……と。
身構えていると、彼の僕を抱く腕に力が籠った。
「こいつらは……小さい頃から俺達と一緒に冒険者になった奴らなんだ。気のいい奴らで……頼りになる……だから……頼む。助けてくれ。いや、ください」
「……」
彼はそう言って頭を下げた。
僕をこんなに軽々と持ち上げる大人が、僕に頭を下げる。それはどうしてだろう。
僕が彼らを助けられるかもしれないからだ。僕の力で、ここに横たわっている人達を助けることができる。
今まで僕はずっと寝たきりで、多くの人に助けられてきた。
母さんや、父さんや兄妹。メイドの人達にも、ずっと助けてもらってきた。
そんな僕でも、恩返しと言えるか分からないけれど、できることがある。なら、やらないわけにはいかない。僕が……僕が助けるんだ。僕を助け続けてくれた皆のために。
「任せてください」
自然と口からそう言葉がこぼれていた。
絶対に治す。
それができなくても、僕ができることは全力でやる。
「すぅ……」
僕は息を大きく吸い、目を閉じる。
この場に寝ている人達を一人一人思い浮かべ、元気になるようにこれでもかとイメージを強めていく。深く……深く奥の奥にまで潜って力を引っ張り上げる。
この場の人達全てを救うように、僕の力でできる限りの力を注ぎ込む。
イメージは固まった。あとは詠唱し、奥底から魔力を引き出すだけだ。
僕は目を開けることなく、詠唱を口にした。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ。『体力増強』」
体の奥底から急激に力が引きずり出される感覚を味わう。今までにないほどの多くの魔力を持っていかれる。けれど、それで皆が助かるなら安いもの。
「……」
僕は虚脱感に耐え、イメージを決して崩さないように気を付ける。
皆が元気になる。いや、僕が元気にしてみせる。今の僕にできること、僕がやるべきことはそれだけだから。
少しして、僕は成功したことを確信して目を開ける。そこには、僕の方をじっと見つめる人達がいた。
マスラン先生も、僕を抱えている冒険者も、動き回っていたメイド達も僕のことを見ていた。
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