不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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1巻

1-2

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 それからおよそ一か月後。元々の用事を終え、仕事の初日がやってくる。
 私は現在、教え子がいるという部屋の前に立っていた。

「この中です。息子をお願いします」

 男爵はそう言うと、そそくさと去っていく。
 自分の息子だろうに、どうしてこんなにも淡泊たんぱくなのか。

「ま、それならそれで才能がないって言いやすいか」

 私はそう判断して、扉をノックする。

「どうぞ」

 部屋の中から女性の美しい声が聞こえてきた。

「失礼します」

 病弱な子供ということなので、驚かさないようにゆっくりと扉を開け――

「なんだ……これ……」

 そして、眼前に広がる光景に絶句してしまった。
 部屋の中には何十個もの水の玉が空中を漂っていたのである。
 しかも、水の玉は床に落ちたり壁に当たったりする前に方向を変え、それぞれがぶつからずに移動している。

「これは……」

 目の前の光景がにわかには信じられなかった。
 間違いなく、これらは魔法の産物だ。
 しかし、これだけ多くの水の玉をあやつる? そんなことは、私に魔法を教えてくれた師匠でもできるかどうか……


 空中に浮かぶ水の玉を見て呆然ぼうぜんとしていると、先ほどの女性の声が聞こえて私は我に返った。

「あの、どちら様ですか?」

 ベッドの脇にあるイスに腰掛けている綺麗な銀髪の女性。彼女は困ったように眉根まゆねを寄せ、こちらを見つめている。
 ベッドに座る少年――彼が教え子だろう――も女性と同じ銀髪だったが、こちらは彼女に比べて少し短い。顔つきは隣の女性に似て美形だった。線が細いこともあり、少女と間違えてしまいそうなほどである。
 私が観察していると、彼がすっとこちらを見つめ返してきた。
 真っ赤なその瞳は私を射貫いぬくようで、少し驚く。
 そして、私は慌てて自己紹介を始めた。


 ******


「……私の名前はマスラン。バルトラン男爵の依頼を受け、ご子息であるエミリオ君の教育をしに来ました」

 僕の前に現れたのは、かなり背の高い黒髪の男性だった。服装はすすけた旅装りょそうで、回復術師というよりは旅人のように見えた。
 でも、父さんが呼んでくれたのだ、間違っているはずがない。

「あなたが先生ですか! ごっ、ごほごほ」

 僕は嬉しくなって身を乗り出そうとするけれど、体調があんまり良くなくていてしまう。

「だ、大丈夫ですか!」

 マスランと名乗った男性が僕の側に近付いた。

「ごほっ! ごほごほ」

 バシャバシャバシャ。
 咳のせいで魔法に使っていた集中力が途切れ、空中に浮かべていた水の玉を維持できなくなる。

「ごほっ……ごほ……すいません。あ……」

 謝りながら顔を上げると、マスランさんは僕が維持できずに落とした水の玉を思いっきり被り、全身びしょれになっていた。

「す、すみません!」

 あわてて謝ったけれど、彼はずぶ濡れになってもお構いなしに僕を見つめ続けていた。

「あ、あの……」

 僕が声をかけると、やっと気が付いたように自分の服を確かめ、それから口を開く。

「あ、ああ。気にするな。この程度は問題ない」
「で、でも……」
「そんなことよりも、先ほどの魔法。君が使ったのかな?」
「え? 浮いていた水の玉は確かに僕の魔法ですが……」
「もう一度……いや、同じものでなくてもいい。もっと簡単なものでも、何か見せてくれるか?」
「着替えなくていいんですか?」
「それを見たら着替えてくる」
「わ、分かりました」

 よく分からないけれど、僕の魔法を見たいらしい。
 父さんと母さんがひそかに話していた時のことを思い出す。もしも僕に才能がないと判断された場合は、この教育を辞退されてしまう。だからできる限りの魔法を使わなくては。
 何が良いかと考えてから、詠唱を始める。

「素敵な玉、水の玉、空に浮かび我が意に従え。『水玉生成操作アクアボールコントロール』」

 僕は最近練習していた魔法を使った。
 先ほど使っていた魔法と同じものだけれど、今度はもっとレベルを上げる。
 まずは色。魔力を操作して水の色を変えるのだ。かなり苦労したけれど、練習し続けたおかげで様々な色に変化できるようになっている。
 その次は大きさだ。これは注ぎ込む魔力の量を調節して行う。もちろん、色も大きさも具体的に想像することを忘れずに。
 七色の大小異なる水の玉を三十個近く浮かび上がらせた。
 僕はそれらを操り、思い思いに動かす。
 大きさをそろえたり、〇型や△型、◇型などの形に作り変えたりしてみる。
 そこまで細かい形は作れないけれど、最近は大分できるようになった。
 チラリと二人の方を見ると、母さんは嬉しそうに水の玉を見ていて、マスランさんは口をポカンと開けていた。
 良かった。
 落胆らくたんはされなかったみたいだ。

「もう……いいでしょうか?」

 魔法を使いすぎると精神的な疲労が溜まってくる。肉体の疲れはないけれど、精神的に疲れすぎると体調を崩す。一時期寝る間もしんでやっていたら実際にそうなった。

「あ、ああ。もう十分だ」
「では外に出しますね」

 水の玉全てを外に出し、人がいない場所でただの水に戻す。
 それから僕はうかがうようにマスランさんを見た。

「あの……それで、僕は……どうでしょうか……」
「……まぁ、及第点きゅうだいてんかな。俺――ごほんっ、私が教えてやればきっと上達するだろう」
「本当ですか!?」
「任せておきなさい。ああ、それとあなたは男爵夫人とお見受けしますが。少しお願いがありまして、私を屋敷に寝泊まりさせていただけないでしょうか? 少々予定というか、事情が変わりましてね」

 マスランさん……いや、マスラン先生は突然母さんにそう言った。

「え、ええ。構いませんけど……」
「それは良かった。では、今日は町の宿に泊まるので、明日から住めるようにしていただけると助かります」
「分かりました。準備をさせておきます」

 先生はそれだけ母さんに言うと、僕に再び向き直る。

「それで、エミリオ君。君は……どれくらい魔法の勉強をしているのかな?」
「どれくらい……? 一か月前からですが」
「っ!? 本当に? 嘘を言っているわけではないんだろうね?」
「え? ええ、本当です」
「一か月……」

 何か問題でもあるのだろうか?
 先生が少し遠い目をしているような気がする。

「分かった。今日のところは一度帰らせてもらう。着替えもしたいからね。それに、回復魔法の練習に必要なものも持ってこなければ」
「え? もう行かれるのですか?」
「ああ、君は体を休めておきなさい。それか、無理しない範囲で魔法の練習をやっておくこと。それがいい」
「分かりました。魔法の練習は楽しいので、ずっとやっています」
「楽しい……?」
「はい? 楽しくないですか?」
「私が子供の頃は体を動かす方が……いや、すまなかった」

 先生は途中まで話し、不用意な発言だと思ったのか、そう謝ってくる。
 でも、僕は気にしない。

「謝らないでください。僕は想像の世界に入り込めることがとても楽しいんです」
「そうか……その前向きさが君の才能かもしれないな……まぁ、なんでもいい。明日からよろしく頼むよ」
「はい! よろしくお願いします!」
「では失礼する」

 そう言って先生は部屋から出ていった。
 先生を見送ったあと、母さんが話しかけてくる。

「かなり慌ただしい方ねぇ……」
「うん。でも、良い人そうで良かった」
「ええ、あれだけやる気のある方なら、きっと大丈夫よね」
「早く……回復魔法の練習をやりたいな……」


 ******


 翌日。
 僕の部屋にはたくさんの荷物を持ったマスラン先生。
 母さんもいつもの位置でイスに座っている。
 先生は母さんを気にしながらも、口を開く。

「さて、それでは回復魔法の授業をやっていこうか」
「はい。先生……ごっほ! ごほごほ……すいません……先生」
「……気にするな。少し実際に見せようか」

 先生は荷物を床に置き、僕に近付いてくる。そのまま僕の胸に手を当てて、ささやくように優しく話す。

「ゆっくりと息をして、じっとしていて。まずは私の回復魔法を見せるからね」
「よろしくお願いします」

 先生はそれから目を閉じて集中し、呪文を詠唱した。

の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億いくおくの者よ立ち上がれ。『体力増強ライフブースト』」

 先生が僕に回復魔法を使うと、体が緑色にうっすらと光り、力がみなぎってくるのが分かる。今なら自力で起き上がることもできそうだ。
 僕は腕に力を入れて、体を一人で起こす。今まではこうすることすらできなかった。腕を支えにしようとしても、支えにならなかった。それが今は支えられる気がする。これが力が入るっていうことなのかな。
 僕はそのまま体を起き上がらせた。

「エミリオ……」
「母さん……僕……僕……」
「いいのよエミリオ。あなたは……これからずっとずっと元気になるのだから」
「うん……分かったよ。母さん」

 母さんは嬉しそうに涙を流してくれる。
 僕も感極まって涙が溢れそうになるのを止めた。これから回復魔法をマスラン先生から習うのだ。泣いている場合ではない。

「先生。これは……どういった魔法なんでしょうか?」

 僕は先生に向き直って聞く。

「それよりも寝るといい。その魔法もずっと効果が続くわけじゃない」
「分かりました」

 僕はベッドに横になり、先生をじっと見つめる。
 先生はイスに腰を下ろして話し始めた。

「今の回復魔法は『体力増強ライフブースト』といって、対象の体力を向上させる。今みたいにな。そして、回復術師がもっとも多く使う魔法だ。これを使わないのは……研究者か藪医者やぶいしゃくらいだ」
「そんなにも使う魔法なのですか?」
「ああ、風邪を引いている時はこれだけで済ませることも多い。他にも怪我を治したり、病を治す時に患者の体力を増やしておいたりするために使う。患者の体力は多い方が良いだろう? だから、ほぼ全ての状況で使うことになる。回復術師にとって必須の魔法だ。分かったか?」
「はい。分かりました。でも、聞いてもいいでしょうか?」
「なんだ?」
「風邪を引いた時はこれを使うだけなんですか? 多くの方がかかると思うんですが……」

 風邪を引く人は多い。
 僕も風邪を引いた時には回復術師を呼んで治してもらっていたはず。
 すると、先生は僕にこう質問してきた。

「答えるのは簡単だが……風邪を治すのと切り落とされた腕の接合せつごう、どちらが難しいと思う?」
「それは腕の接合では……」

 風邪を引く人はいくらでもいるけれど、腕を切り落とされる人なんてそうそういない。だから、腕の接合の方が難しいと思う。
 先生は淡々と答える。

「正解は風邪を治すことだ」
「!?」
「どうしてか分かるか?」
「いえ……分かりません」
「いいか、回復魔法とは、基本的にはのことを言う。だから、切り落とされた腕は魔法で復元しやすい。断面をくっつけるということをすればいいだけだからな」
「はい」
「しかし、風邪は違う。元の状態に戻すためには、体内にいる体の活動を邪魔するものを倒さなくてはならない。それは普通に回復魔法を使うだけではできない。つまり、別の行動が必要になるんだ」
「……そうだったのですか」
「ああ、だから風邪を治す方が難しいし、何より金額が高い」
「金額が?」
「そうだ。腕を接合するよりも金額は圧倒的に高い。そんな金額を平民や……他にもくらいの低い貴族もだが、わざわざ払うと思うか? 数日安静にしていれば治るのに」
「確かに……」
「だからこそ、『体力増強ライフブースト』を使って耐える者が多いんだ」
「分かりました」

 僕が風邪を引いた時には、意識もなくなるほど悪化して、常に回復術師の人が回復してくれていたと聞いた。だから、違うと思ってしまっていた。
 両親が、僕のためにそんなことまでしてくれていたなんて……
 先生は更に話を続ける。

「ということで、まずは先ほどの魔法を使えるようになることだ」
「分かりました。では、自分自身にかけるということでいいんですか?」
「いや、最初から人にかけるのはリスクが高いからやらない。まずは……これだ」

 先生はそう言って自分の荷物をあさり始める。
 そして、見つけたのかすぐにそれを手に持って見せてくれた。

「それは……?」
「これは人形だ」
「そのまんまですか」

 何か意味があるものかと思ったけれど、見たままだったらしい。

「ただの人形に見えるが、これはコクラと呼ばれる魔道具だ。傷を付けても数時間したら回復する。けれど、そこに回復魔法を使えば、もっと早く回復できる。その練習のための魔道具だ。すぐには用意できるものではないので、今は私のを貸してあげよう」

 そう言って先生が貸してくれたコクラは体長二十センチメートルほどの大きさだ。全身が白っぽい人形で、服などは着ていない。ただ、質感はぷにぷにしていてちょっと人間に似ている。

「これが……」

 僕は先生から渡されたコクラを受け取る。体を鍛えていない僕にはかなり重たい。でも、これは自分で持たなければならない気がした。
 先生は僕の様子を見て満足したように言葉を続ける。

「コクラは回復術師にとって相棒のようなものだ。これを使って練習をする。コクラに何度も何度も魔法をかけて成功するまでやってもらう」
「分かりました」
「では早速やってみろ」
「先生。『体力増強ライフブースト』のイメージはどんな風にやるのがいいんでしょうか?」
「ああ、それはな」

 先生は自身が考えるイメージを詳細に話してくれた。それは僕でもイメージしやすいような、すごく事細ことこまかなものだった。

「なるほど、そんな感じなんですね」
「あくまでこれは私の考えだ。他の者に聞けばまったく違った答えが返ってくる」
「そうなんですか?」
「たとえば……こう……バギューンだ! とか言うだけの奴もいたぞ」
「それは……」

 なんと言っていいか分からない。そんな人に指導されるのではなくて助かったと思っている。

「それじゃあまずはやってみろ」
「分かりました」
「まぁ、すぐにできるもんじゃない。普通の魔法と違ってイメージもしづらい。半年かかる奴もいる。気負わないことだ」
「ありがとうございます」

 僕は隣にあるコクラの人形に向かい合い、先ほど先生に聞いたイメージを想像する。それから詠唱を間違えずに復唱する。

「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ」

 体の奥から引っ張り出し、これに相応ふさわしいような色に変えていく。
 周囲の魔力と混じり合わせ、色は……何がいいかな。緑色……
 先生の魔法では緑色にしていたから、それで行くのがいいんじゃないのかな。
 そんな風に思う。
 緑色になるように調整し、作り上げていく。それと同時に、僕の詠唱も完成する。

「『体力増強ライフブースト』」

 僕がコクラの人形に『体力増強ライフブースト』をかけると、僕が想像した通りの色に包まれていく。
 手足が揺れ、生きているわけではないのにまるで喜んでいるようだ。
 僕はしっかりとコクラが元気になったのを見届けると、魔力を切る。これで当分は何もしなくても元気になるだろう。

「……」
「……」
「……」

 僕は集中を解き、先生を見る。

「どうでしたか? 先生?」
「天才だったか……」
「え?」

 先生のつぶやきは小さくて僕の耳には届かなかった。


 ******


 マスラン先生が来てくれてから数週間。
 今日は体調がそこまで良くなかったので、一人でベッドに横になっていた。魔法の練習もやりすぎないようにと先生に言われているので、僕はベッドで一人、こんな魔法が使えたらと想像して過ごす。そんな時に、部屋の外で騒がしい声が聞こえる。

「誰だろう?」

 先生は今日休みだし、母さんも仕事があるため夜にしか来られないと言っていた。
 となれば……
 バン!
 扉が力強く開いた。そちらを見ると、二人の人影がある。

「元気か、エミリオ」
「お兄ちゃん! 遊びに来たよ!」

 そこにいたのは僕の三歳年上の兄、ロベルトと、七歳年下の妹、エカチェリーナだった。

「ロベルト兄さん、リーナ。僕は大丈夫だよ。ごほっ! ごほごほ」
「エミリオ!」

 ロベルト兄さんが駆け出して僕の元に来る。
 彼は僕の三歳上とは思えないほど鍛え上げられた体をしていて、父に似た黒髪と黒い瞳は力強さを感じる。僕を助けてくれるその手はとても優しく、僕を大事にしてくれているのが分かった。

「お兄ちゃん! 人呼んでこようか!?」

 そう叫ぶのはリーナことエカチェリーナ。彼女は母の銀髪と水色の瞳を色濃く受け継いだ少女だ。いつもは元気いっぱいで楽しそうに走り回っているけれど、今は僕の様子におろおろとしていた。
 僕は、彼女を呼び止める。

「リーナ……大丈夫……だよ。うん。はぁ……はぁ……うん。落ち着いた」
「お兄ちゃん……」

 僕が大丈夫と言っても、彼女は心配そうな目で見つめてくる。
 二人はいつも僕のことを心配してくれる。だから、時折様子を見に来てくれることがあった。
 ロベルト兄さんが僕に声をかけてくれる。

「エミリオ。最近は魔法の勉強をしているのだろう? 調子はどうだ?」
「すごくいいよ。魔法の練習をしているのが楽しいんだ。想像通りに魔法ができた時なんて、これがやりたかったっていう夢がかなった気持ちになるよ」
「そうか。お前は魔法が好きだったんだな。知らなかった」
「仕方ないよ。昔は魔法を使うことができなかったし、それに、小さいと魔法を覚えても危ないからね」
「そうだな。だけど、いいか? これだけは忘れるなよ?」
「何?」
「俺はロベルト、バルトラン男爵家を継ぎ、守る男。だから、当然お前もその守る対象に入っている。困ったこと、大変なことがあったらいつでも俺を頼れ。何があっても助けてやるからな!」
「兄さん……そこまでのことは今はないよ。魔法を教えてもらうのが楽しいんだから」
「そうか? 魔法の練習はかなり厳しいと聞くぞ?」
「僕はあんまりそう思ってないかなぁ……今まではずっと横になっているだけだったけど、魔法を使っている方が楽しいからさ。それに、将来兄さんの手伝いもできればいいかなって思ってるよ」
「エミリオ……」

 兄さんはバルトラン男爵家の跡取りとして、毎日厳しい教えを受けていた。剣の練習から礼儀作法、領土の運営などに関してもかなりのことをやっているようだ。
 それもこれも彼がバルトラン男爵家の跡取りだから。
 兄さんはそれに誇りを持っていた。
 僕も、そんなすごく頑張り屋のロベルト兄さんが大好きだ。

「ああ、今度父さんと狩りに行くんだが、その時に魔物が出たら俺の剣で切り裂いてやるからな」
「危なくないの?」
「俺を誰だと思っている? バルトラン男爵家の長男だぞ? 俺だったら余裕だよ」
「はは、確かに兄さんならきっとやってくれるよね」
「ああ、当然だ。少し騒がしいらしいからな。楽しみだ」
「騒がしい?」

 二人で話していると、リーナが口をとがらせる。

「もう、二人してつまんない話しないで」
「おっと、それはすまんな」
「ごめんねリーナ」
「ううん。それよりも、お兄ちゃん。今日も遊べないの?」
「……ごめんね。僕は外に行くことはできないんだ」

 魔法の練習を毎日やっていると言っても、この部屋から出ることはない。けれど、ふと思いついたことがある。
 僕を心配してくれる二人に、少しだけ……安心してほしいのだ。

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