「タコ野郎!」と学園のダンジョンの底に突き落とされた僕のスキルが覚醒し、《クラーケン》の力が使える様に ~突き落としてきた奴は許さない~

土偶の友

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2章

55話 その頃サナは

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 クトーがネクロウルフを討伐する少し前。

 サナは、フェリスと一緒に〈守護獣の兜ガーディアンヘルム〉に囲まれて森に入って行くところだった。

「ねぇ……フェリス。私、本当にこんな場所に居ていいのかしら?」

 彼女は自分の車いすを押してくれるフェリスに話かける。

「大丈夫よ。サナ。彼らはとっても信頼出来る方々。わたくしの手袋もリャーチェ様が作って下さったのよ」
「そっか……。でも、こんなに前は少し……」

 サナは不安を感じていた。

 世間的にはAランク冒険者は強い。
 桁違いに強い。

 そう言われているけれど、それを確かめる事はほとんど出来ないのだ。

 だから、こうやって先頭に自分がいることに不安を覚えるのは至極当然の事だった。

 それから少しして、急に前方が騒がしくなる。

「何……?」

 サナは目をらしてみようとするけれど、森の木々にはばまれて見ることは出来ない。

 そんな不穏ふおんな空気が流れていても、サナの周囲の人々の足は止まることはない。

 周囲の様子を見回して、問題ないかと思った矢先

「アオオオオオオオオオオオン!!!」
「!?」

 サナの近くで狼の遠吠えが聞こえてきた。

 彼女よりも後ろにいる生徒や、先生達は警戒して足を止めているけれど、フェリスが押す車いすは止まることがない。

 サナは慌ててフェリスを止める。

「フェリス! 止まって! 何かいるわ!」
「何言ってるの? 〈守護獣の兜ガーディアンヘルム〉の方々がいるんだから問題ないわよ。見て、彼らも普通でしょう?」

 サナは視線をそちらに向けると、確かに、ただハイキングに来たという様な面持ちで彼らは歩き続けている。
 だけれど、流石にクトーに行くのを止めるように言われていた手前、彼女は危険な目は出来る限り回避しようとした。

「フェリス……私、やっぱり帰ります」
「サナ。大丈夫。貴方はこれから安全に管理されますから。問題ありません。傷一つつけることはありません。お約束します」
「フェリス?」

 サナは不安に思い後ろを振り向くと、そこには、生気の抜けた目をしたフェリスがぼんやりと前を見つめていた。

「フェリス!」

 サナは素早く体をひねり、フェリスのほほを叩く。

 スパン!

「?」
「フェリス! しっかりして!」

 サナはフェリスの異常を見抜き、正気を取り戻そうとするけれど彼女の表情は変わらない。

「もう、何をするの? 痛いわ」
「フェリス! しっかりして!」
「サナ様。お止め下さい。フェリス様はその程度では変わりませんから」
「フルスタさん……」

 サナを止めるのはフルスタ。
 彼女は優しくそう言うと、フェリスを治療する。

「『癒やせヒール』」

 フェリスのほほが治療され、赤くなっていたのがすっかり良くなった。

「これは……どういう事ですか」

 サナは全力で警戒する。

 けれど、所詮は一学生の警戒。

 Aランク冒険者パーティの前では警戒ですら無かった。

「あう……」

 サナはいつの間にか後ろにいたリャーチェに眠らされ、意識を失う。

 そんなサナを、フェリスは真っすぐに運び続けた。

「気を付けて、大事な……大事な方なのだから」
「はい」

 フェリスは進み、そしてリャーチェが言葉を放つ。

「行け」
「アオオオオオオオオオオオン!!!」

 リャーチェが言葉を放つと同時に、彼らの周囲からネクロウルフ3体が同時に現れた。

「魔物が出たぞ!」
「〈守護獣の兜ガーディアンヘルム〉は!?」
「先頭だ! そちらは彼らに任せろ!」

 教師陣はそう言って任せるけれど、〈守護獣の兜ガーディアンヘルム〉はネクロウルフに一切構うことなく進み続ける。
 そして、なぜかネクロウルフ達も、そんな〈守護獣の兜ガーディアンヘルム〉を襲うそぶりすら無かった。

「後は任せる」
「アオオオオオオオオオオオン!!」

 まるでリャーチェの言葉に従うように、ネクロウルフは返事をする。

「行く」

 〈守護獣の兜ガーディアンヘルム〉のメンバー3人と、フェリスとサナ。
 5人のメンバーはそのまま真っすぐに歩いて進む。

 そして、暫くすると、少し広い空き地に出た。
 彼らは止まり、後ろを振り向く。

「出て来い! いるのは分かっている!」

 カスクが大声で叫ぶと、彼らの正面にジェレが降り立った。

 彼女は自分からは喋らないが、この時ばかりは話しかけた。

「なぜ彼女を連れ去る」
「そりゃ言う必要のあることか?」
「理由がわかれば止めないかもしれない」
「ほう? 本当か?」
「本当」

 当然嘘。
 ジェレは少しでも時間を稼ぐ為にこうしているに過ぎない。

 カスクは暫く考える振りをして答える。

「んーまぁ……。教える訳ねぇよなぁ! でもま、お前には効かないらしいからな。ここでサッサと死んでもらうぜ」
「断る」
「断ってもいいが、お前が死ぬっていう結果は変わんねぇよ! はぁ!」

 カスクは常人が反応出来ない速度で剣を抜き放ち、ジェレに切りかかる。

 しかし、ジェレには当然の様にかわされてしまう。

「っち! すばしっこいな」
「遅い」
「クソが! ちまちましやがって。もっとこいや!」

 カスクは怒鳴るけれど、ジェレは関係ないとばかりにサナが遠くにいかないようにだけ気を付けながらカスクの攻撃を躱し続ける。

 暫くはこうやって時間を稼ぎ、学園からの増援が来るのを待つつもりなのだ。

 ただ、それもどこまで出来るか怪しいところではある。

 ジェレは確かに元Aランク冒険者だが、相手も同じAランク冒険者。
 しかも数の上では1対3なのだ。

 出来るだけ回避に専念し、疲労を誘うように立ち回った。



「おらぁ!」

 ドゴン!

 カスクが振りかぶった大剣が地面をえぐり、土くれを飛ばしまくる。
 そんな戦いをかれこれ1時間は続けているけれど、カスクは一向に疲れた様子を見せなかった。

 ジェレはそんな状態にありながら、援護も何もせずにずっとカスクとジェレの戦いを見ている他の者を警戒する。

(おかしい……。ここまで露骨に時間を稼いでいたら私の狙いはバレているはず……。どうして逃げない? 何か理由がある?)

 彼女の狙いは時間稼ぎだけれど、相手もまるで自分の望みと同じように行動していることに不安を感じ始めていた。

 それから暫くした所で、異変は起き始めていた。

 ピシリ

「!?」

 ジェレのつけている真っ白い仮面にヒビが入ったのだ。

「お……やっと時間稼ぎも終わりそうか?」
「ええ……大分かかったわね。でも、まだ油断しないで」

 カスクが気軽そうに言うけれど、リャーチェはそんな彼を戒める。

「何をした」

 ジェレが問いただすと、カスクは笑いながら答える。

「ハハ! 決まってんだろう? お前を俺達の手駒にしようと思ってな。その真っ白い仮面。精神攻撃を無効化出来るんだろ? そんなもの持ってる奴なんて中々いねーから苦労したぜ。ま、後少しって所か? 腕の立つ連中は幾らいてもいい。俺達のパーティに加えてやってもいいからよ」
「それで……」
「そうだぜ。こうやってこの場所で時間稼ぎをしてくれたお陰で、お前をこっちに引き込む事が出来そうで安心したぜ」
「っ!」

 ジェレは急いでその場の離脱を計った。
 このまま敵に洗脳されるのは最悪だ。

 サナを奪われる所か学園長達にすら正確な情報がはいらないかもしれない。

 ドン!

「っ!!!???」

 ジェレは固い透明な壁に阻まれて、それ以上戻れなくなる。
 そんな彼女の元に、カスクはまたも笑いながら近付いて来た。

「ハハハ。フルスタが何もしていないと思ったか? ここら一体に結界を張っていたんだよ。俺達はAランク冒険者。ただただお前の時間稼ぎに付き合う訳ないよなぁ!」
「っ!」
「オラオラ! さっさと食らえや! そしたらてめぇの面おがんでやるからよぉ!」

 カスクは大剣を使うのではなく、両手で連打をジェレに放ち続ける。

 ジェレはカスクの攻撃を躱そうとするけれど、見えない壁がどこにあるのか分からずに動きが邪魔されて何発か攻撃を貰ってしまった。
 その拍子に、右目が見えるくらいに仮面が砕け落ちる。

「へぇ。意外とかわいいじゃねぇか。今晩ベッドに呼んでやるよ!」
「っつ!」

 ジェレはカスクの攻撃を何とか躱し、何か策はないかと考える。

(どうしたら……どうしたらいい……。私は……私は……)

 ピシ……パキ……

 ジェレは絶対絶命の状況で、背後の見えない壁にヒビが入る音を聞いた。

「こっちからサナの気配がする……」
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