「タコ野郎!」と学園のダンジョンの底に突き落とされた僕のスキルが覚醒し、《クラーケン》の力が使える様に ~突き落としてきた奴は許さない~

土偶の友

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2章

58話 奥底の中で

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 僕は2人に対して少しだけ黙とうをして、振り返る。

 そこにはリャーチェがのんびりとこちらを眺めていた。

「全く……使えない人形どもだねぇ」

 僕はその言葉にいらついてしまう。
 彼らだって好きで操られていた訳じゃないのに、そんな言い方をするなんて……。

 彼女はそんな僕の様子を見て驚いた表情を見せる。

「おや? あんな人形が死んだ事を悲しんでいるのかい? 甘いねぇ……。本当に甘いねぇ。でも、そんな甘さがいい。フルスタから聞いたんだろう? なら、次はお前を人形にしてやろうかね。今までのは丁度飽きていたし……ボロボロだったからね。丁度いい」
「お前……絶対に許さない」

 僕はタコの姿のまま奴に向かって突進する。

 体が大きいという事は武器なのだ。
 それを活かさない手はない。

 それに、人型のままでは、重さが無さ過ぎて風で吹き飛ばされてしまう気もするのだ。

「はは! 中々面白い絵ずらだね! 本当にそんなのであたしを殺せると思っているのかい!?」
「殺しはしないよ。〈黒神の祝福ブラックブレス〉のこと、黒蛇病のこと。しっかりとその体にでも聞かせてもらう」
「おお怖い! ならこっちにおいで? 坊や」

 そう言って彼女はあおってくるので、僕は彼女に向かって突撃する。
 こんな奴にサナを渡してしまったらどうなるか。
 不幸になる未来以外見えない。

 だからなんとしても……こいつを……最悪、刺し違えてでも……。

「【触手強化テンタクルフェイズ】!」

 僕は体の前面を強化して、奴に向かって大きな触手を伸ばす。
 奴まで後数cm。
 目の前に何かが現れた。

「クトー様」
「フェリス!」

 僕の前に飛んで来たのはフェリス。
 いつの間にか彼女が横から僕に向かって飛んでくる所だった。

「おや、あたしは無視でいいのかい? 『黒炎ルヌイプラーマ』」
「しま!」

 僕に向かって、フェリスと黒炎の両方が飛んでくる。
 そして、僕がこのまま黒炎を避ければ、確実にフェリスを焼き尽くしてしまう。

 ダメだ。
 このままでは!

「【墨吐きブラックアウト】!」

 僕は黒炎を消すようにすみを吐きつけるけれど、フェリスをかわす事が出来ない。

「あ……」
「クトー様……申し訳……ございません……」

 僕を優しく撫でるフェリスの瞳には、涙が浮かんでいた。
 次の瞬間、僕は意識を失った。



 あたしの前で巨大なタコがフェリスに撫でられて死んでしまった。

「は、クラーケンの力と言うからどれほどのものか警戒してみれば、所詮はこの程度、あの方の力とは比べるまでもない」

 そう言って彼女はサナに視線を送る。

「今回の目的も……まさかここにいるとは思わなかったけど、手に入った。後は……あのお方の元に行くだけ」

 彼女はそうつぶやいて誰を連れて行くかに視線をうつした。

******

 僕は深い……深い暗闇の底にいた。

 周囲を見回そうとしても、どこに何があるか分からない。
 上も下も右も左も、どこがどこか全く分からない。

 ここは……。いつっ。

 僕は頭を抑えようとするけれど、頭に触った感触は手ではなく、ふにょんとした柔らかい何か。
 まるで触手の様な何かだった。

 僕は……。
 触手であることを理解して、僕に何があったのかを思い起こさせる。

 確か、フェリスの両手に触られ、死んで……。
 嘘。嘘……嘘。

 僕が……死んだ?

「今はどんな気持ちだ?」
「貴方は……」

 僕の前に、真っ暗な中に、何かがいる気配を感じる。

 真っ暗で、何があるかは分からないはずなのに、確かにそこにいるのだ。
 彼は面倒そうに言って来る。

「だから言ったのだ。我に任せておけと。我が全てを消し去って安寧あんねいをもたらしてやると。貴様の敵を消してやると言っただろうが」
「ふざけるな。レイラまで殺そうとしたのに何が敵を消すだ。信じられるか!」

 僕は感情の赴くままに彼に対して牙を向く。

「……そうやっていつまでも我から目を背けるつもりか?」
「……なに?」
「我が貴様の為にしてやると言っているのだ。我の言葉は正しい。これまで……我が関わって来た者は皆不幸になった。だから、全てを沈めてしまえばいい。そうすれば、誰も傷つかない」
「そんなことない! 僕はサナと一緒に……幸せになる! サナの黒蛇病を治療し、これからも一緒にいるんだ!」
「……それは出来んよ。我の力を貴様が振るえるという事がバレた時、その力は貴様に絶望をもたらす。見るがいい」

 目の前にいる何かが僕の方に伸びてきて、それが頭に触れる。

 そして、僕の視界に何かが映し出された。

******

 そこは小さな浜辺の村。
 全員で100人いるかどうかという程度の村だ。

 浜辺にはサナに似た……可愛らしい少女と、その兄らしい少年と共に笑い合っていた。

 そんな2人が見ているのはクラーケン。
 山と見間違える程に大きく、実際に、クラーケンが触手を一振りしてしまえば2人の命は簡単に消し飛ぶだろう。

 けれど、クラーケンはそんな2人に何かをするでもなく、のんびりと彼らの側にいるだけだった。

 場面が一瞬で切り替わり、何日も、何年も時が進んでいく。
 でも、クラーケンと2人の関係は変わらずに、いつも……いつも仲良さそうにしていた。

 最初は怖がられていたクラーケンも、長い年月の間に村の人々とも仲良くなっていた。
 クラーケンは幸せだった。

 彼は永遠の時を生きる者。
 いずれ別れがあるとしても、こうしていられる間はその事を忘れられたのだから。

 しかし、そんな生活もずっとは続かない。

 クラーケンは海の管理人でもあった。
 海に巣くう厄介な物を退治に行く時もあり、その為に海に潜った。

 運がなかった。
 そう言う者もいるだろう。
 けれど、それはいつか起きることだった。

 その当時、世界一の軍事力を持っていた国が、クラーケンが浜辺にいるという話を聞きつけて討伐に乗り出した。
 100隻の軍艦や陸からは何万という軍勢をクラーケンがいた村に派遣した。

 しかし、クラーケンはいない。
 そして、クラーケンをかくまったとして、その村は滅ぼされ、全ての人は処刑され、クラーケンがいた浜辺に死体をはりつけにされた。

 そして、クラーケンを呼び出そうとした。

 事情を知らないクラーケンは仲の良い少女たちに会えると喜び、浜に戻るとそこには仲の良かった者達全ての死体があった。
 そして、愚かな人間共は姿を現したクラーケン共々浜辺の死体をまとめて吹き飛ばそうとした。

 クラーケンは暫く考え、こう呟いた。

「【始まりの海ビギニング・シー】」

 人間達の攻撃はクラーケンに向けられていた。

 しかし、クラーケンはそれらの事を気にした風もなく、ただ時が過ぎるのを待った。

 そして、それは突如として発生した。
 クラーケンから周囲100kmが海に水没したのだ。

 軍船も、陸の軍勢も、村も、近隣の無実の者達も全て巻き込み、海の底に沈めたのだ。

 たった1隻だけは残した。
 自分には2度と関わるな、そんな警告の意味も含めて。

 クラーケンはそれ以来二度と海上に姿を現す事はなかった。

******

 僕の視界が再び真っ暗になる。

「これで分かっただろう。我が力との関係を疑われれば同じことが起きる。人は愚かだ。何度同じ過ちを犯し、他者に罪を償わせて来たのだ」
「……」
「我の力を振るえると分かった時、貴様は……いや、貴様だけでなく、貴様にとって他の大切な者も狙われる。ならば、今のうちに沈めてしまえば問題ない。水底で安住の場を作ればいい」
「その為に他の人を海の底に沈めようとするの? それはダメだよ」
「なぜだ。貴様の願いはサナを黒蛇病から救うこと。それであるならば、他の者などどうでも良かろう」
「良くないよ。僕は……最初は確かにそう思っていた。でも、レイラに助けられたり、学園長に助けられたり、もっと多くの人に助けられて来たんだ。学園に来る前にも、いっぱい……いっぱいさ。だから、僕とサナだけの問題じゃないんだ。皆だって必死に頑張って生きているんだ。辛い事があっても、苦しい事があっても、皆……皆頑張ってるんだ。それを踏みにじる権利なんてない。僕はそんなことはしない!」
「ではどうする? 我の力を宿している貴様にあの程度の攻撃は通用しない。が、貴様だけでは勝てん」

 目の前の何かはそう問うてくる。

 僕に出来る事は少ない。
 でも、こうやってわざわざ出てきてくれたのなら、きっと……きっとこうしてくれると思った。

「僕に力を貸してくれないか? クラーケン」
「……都合が良すぎるとは思わないか?」
「だとしても、君がこうやって出てくれているのは、君はやっぱり人を信じたいからなんでしょう? だからこうやって、僕の為にしてくれる。そう言っているんだよね?」
「……」

 僕は分かっていた。
 彼が寂しさに震えていることを、海の底にいるのも傷つかなくて済むから。

 それでも、何を思ったか僕のスキルとして力を貸してくれているのだから。

「クラーケン。僕は君の事も好きだよ。君が僕の為に……サナの為にしてくれようとしていたんでしょ? どうしようとしていたかはともかく。その気持ちはとっても嬉しかったんだ」

 これは僕の本心だ。
 クラーケンは何だかんだで僕の意思を尊重してくれる。
 そんな優しい奴なのだ。

 でなければ、クラーケンがレイラを叩き潰そうとした時、僕が邪魔することは出来なかったはずだから。

「……貴様も物好きよ。我に対してそんな言い方をするとは」
「なら、どんな言い方がいいの?」
「ふっ。今のままで構わんよ。我は常に貴様を見続けてきた。もう……他人の様な気はしない。それに、あやつの気配も感じる事だしな」
「あやつ?」
「気にするな。因縁のあるやつの気配がするだけだ。それと、我の力を一時的に貸してやる。貴様で何とかして来い」
「……ありがとう」
「幸せにな」

 彼がそう言ったと同時に、僕は目を覚ます。
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