転生幼女はお願いしたい~100万年に1人と言われた力で自由気ままな異世界ライフ~

土偶の友

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2巻

2-2

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「それに、わたしのけっか……ごにょごにょ魔法ってすごいんですよね。それを使えば、安全に見て回ることはできると思うんです」
「サクヤ。風の結界を張ったから普通にしゃべってもいいぞ」
「ウィン。ありがとう」

 ウィンは魔法で周囲を囲ってくれたらしく、普通に喋る。

「ということでお前達、俺達はパルマの村に行く。旅に必要な物は何かあるか? 人間に……サクヤに必要な物はやはり準備をしておきたいからな」
「ま、待ってください、ウィン様。本当に行くつもりなのですか? その……ウィン様の望まない結果になるかもしれないのですよ?」

 クロノさんは、もしかすると変わり果てた村の姿にショックを受けるのではないかと心配してくれているようだ。

「それでも、このまま何も知らないままでいるよりは確かめたいのだ。それに、せっかくだ。クロノもついてこい」
「え? お、おれもですか?」
「ああ、ちょうど……したがっていただろう?」

 ウィンはそう言って、クロノさんを誘う。
 その意味をリオンさんは測りかねているみたいだったけれど、わたしには分かる。
 クロノさんが以前、稽古けいこをつけてほしいと言っていたのだ。盗賊がいっぱい出るなら、その訓練になるぞ……とウィンは言いたいのだろう。
 クロノさんは少し経ってから頷く。

「分かりました。それではおれも行きましょう」
「兄さん!?」
「リオン。お前は残ってもいいぞ」
「えぇ……いや、僕も行く。兄さんを一人にはできないよ」
「でも、こっちの仕事があったんじゃないのか?」
「それはちゃんと終わらせてる。だから行くよ」
「そうか。助かる。リオン」

 仲睦なかむつまじく笑っているクロノさんとリオンさん。兄弟仲がいいのはいいことだ。
 わたし達は準備するものがないらしく、すぐに出発することになった。
 正確にはリオンさんの準備が万端ばんたんだったので特に何もすることがなかっただけだけど。
 なので、さっきに広場に戻ったわたし達は、寝ていたプロフェッサーを起こし、酒を飲んでいた先生にはあいさつをしてから出ていくことにした。

「という訳でプロフェッサー。わたし達はちょっとパルマの村に行ってきます」
「はぁ? 宴が終わったと思ったらパルマの村に行く? 何を考えているんだか……仕方ない。ついてこい」
「はぁ」

 わたし達は素直にプロフェッサーに従って歩き出す。
 その間、先生はなぜかリオンさんにずっと話を聞かせていた。

「いいかい? パルマの村とそこまでの道で出る魔物は十種類。そして、それらのうち半数は昼、もう半数は夜に活動をする奴らなんだ。そいつらは特に問題ない。でも、問題はそこから少し離れた所にいる奴でね? かなり強力な毒を……」

 と、パルマの村の近くに出る魔物の情報を、これでもかとリオンさんに詰め込んでいた。
 そうして辿たどり着いたのは、プロフェッサーの家だった。

「あの……ここで何を……」
「いいから来い」

 そう言ってプロフェッサーは、家の中に入り、奥に入っていく。
 わたし達もついていくと、プロフェッサーは魔道具をクロノさんにぽいぽいと投げて渡す。

「クロノ。それは〈炎の壁〉の魔法が入っている。何かあった時はそれを使って壁にして逃げろ。それからこっちのは〈風のきば〉だ、不意打ちに便利だな。それから……」
「あ、あの、なんでこんなにも魔道具をくれるんですか?」
「あ? やる訳ないだろう。貸すだけだ。減っていたらその分だけ代金は貰う」
「えぇ!? な、なんでですか?」

 山ほど魔道具を持たされたクロノさんは悲鳴をあげる。

「なんでとは……これからパルマの村に行くのだろう? 気を付けて帰ってこい。それだけだ」
「プロフェッサー……」

 クロノさんは感動した様子で声をらす。

「だからあとは――」
「もう大丈夫です! これだけあれば絶対に無事に帰ってこれますから!」

 プロフェッサーはわたし達のことを心配してくれているらしい。

「ありがとうございます。プロフェッサー」
「……ふん。あんな危険地帯に行くなど……無事で帰ってこい」

 そう言ってプロフェッサーはわたしの頭を撫でる。
 その手つきは意外にやわらかく、ちょっと驚いてしまう。でも、嫌な感じはしなかった。

「さあ、さっさと行け」

 彼はそう言って後ろを向いてしまった。
 先生もリオンさんに知識を詰め込み終わったのか、優しい笑顔で見送ってくれる。

「無事に帰ってきてね」
「はい。ありがとうございます!」

 わたし達はプロフェッサーと先生にお礼を言って別れ、早速外に出た。
 話し始めるのはクロノさんだ。

「よし、では……最短距離を行こうと思う」
「え? せっかくサクヤちゃんが迂回うかいを提案してくれたのに?」
「ああ、その方がいいのでしょう? ウィン様」

 リオンさんが目を見開いていると、クロノさんにそう言われたウィンが頷く。

「ああ、盗賊といっても所詮しょせんはゴロツキ。兵士達とは比べ物にはなるまいよ」
「分かりました。では行くぞ」
「兄さんが言うなら……」

 リオンさんも渋々納得してくれて、わたし達は北西への道を進む。


 歩き始めて一時間くらいだろうか、ウィンが念話で話しかけてくる。

『サクヤ。結界魔法の魔道具を出せ』
『え? いいけど……』

 わたしは言われるままに魔道具を出す。プロフェッサーが作った、〈結界〉の魔法が込められた、赤いとんがり帽子の形をした魔道具だ。

『それから、結界魔法の魔道具を使わずに、自分の魔法で結界を張ってくれ。俺達とリオンの分だけでいい』
『分かった、〈結界の創生〉』

 大きさはわたし達がちょうど入る程度と、いざという時動きやすいようにリオンさんは別枠で。

「え?」

 リオンさんがそれに気付いて驚いた次の瞬間――
 ヒュンヒュンヒュン。ドスドスドス。
 地面に矢が突き刺さった。ちなみに、わたしの結界魔法には矢は当たらなかった。クロノさんは当然のように全て回避している。

「くっくっく。やるじゃねぇか。だがこの先……パルマの村のシマだってことは知っていて進んでるんだよなぁ?」

 いかにも盗賊ですと言わんばかりの、ボロを着た屈強くっきょうな男がのそりと森から出てくる。
 まさか街を出てから一時間で現れるとは思っていなかった。

「ここから先には行かせねぇ。ま、物さえ差し出せば命まではとらねぇ。さっさと置いて消え失せなぁ!」

 その男は前に出てきて、クロノさんを見る。

「ちょっとサクヤちゃん!? これどういうこと!? 僕に結界は必要ないよ!?」

 リオンさんは慌てた様子で結界をたたいたりして、出ようとしている。
 さっきの矢のことを考えれば、森の中にも結構な数の人達がいるはず。それをクロノさん一人でやれるのか……とリオンさんは心配しているのだろう。
 そんなリオンさんを尻目に、ウィンからの念話が届く。

『サクヤ。クロノに伝えろ。殺すことは許さん。そして、全て捕らえろ……とな』
『そ、そんなことを?』
『ああ、あの程度相手であればそれくらいしなければ意味はない』

 いくら訓練のためとはいえ、それは厳しいんじゃないか。そう思うけど、ウィンが決めたことだ。
 わたしは覚悟を決めてクロノさんに話す。

「クロノさん。えっと……その……殺してはいけません! それと、全員捕らえてください! とのことです!」
「なるほど……分かった。それでいこう。リオン、おれ一人で問題ない」
「兄さん!?」

 驚くほどあっさりと答えたクロノさんに、リオンさんもすごく驚いている。
 というか、クロノさんもなんでそんなにあっさりと受け入れるんだろう。
 そして、わりと放置されていた盗賊は怒りに顔を真っ赤にしている。

「てめぇら……オレ様達を差し置いていい度胸だなぁ……もういい! 全員やっちまぇ!」

 そう言うと、すぐに矢がわたし達の元に降り注ぐ。
 カンカンカンカンカンカンカン。
 しかし、わたしの結界魔法はそんなに甘くない。しかも今回は特別サービス、リオンさんの魔法を百回は受けても多分弾ける特別製だ。
 盗賊程度の貧相な矢なんて……と矢を見たけれど、結構しっかりとした作りをしているように見える。
 ただ、先端はなぜか丸まっていて、殺傷さっしょう力はなさそうだ。それと気のせいか、わたしはあんまりねらわれていない気がする。
 唯一出てきている盗賊に目線を移すと、持っている剣もかなり質のいいもののように見えた。手入れもされているのか刃こぼれ一つなく、騎士の剣と言われても納得しそうなくらいだ。

「はっははぁ! まずは一人だけいるてめーをぶったおあご!」
「遅いな」

 しかし、その盗賊はクロノさんの剣の腹で頭を横に殴られて、一瞬で気絶した。
 クロノさんは即座に森の中に飛び込んでいく。

「ぎゃぁ!」
「うわぁ!」
「おかしら!」

 そしてすぐに、そんな悲鳴が聞こえてくる。
 それに合わせるように、わたし達の方に飛んでくる矢も減っていった。
 五分ほどすると、クロノさんが森から出てくる。
 その体には傷一つなく、矢を放っていたであろう盗賊を五人ほど引きずっていた。

「これで全員だと思いますが、どうでしょうか?」

 クロノさんはそう言って、彼らを地面に落とす。全員気絶しているようだ。
 他に人がいないためか、ウィンが普通に話す。

「ふむ。確かに気配はなくなったな。しかし……六人で盗賊をするとは、さぞ腕に自信があるのだと思ったがこの程度か……」
「いえ、実際結構な腕ではあると思いますよ。ケンリスの街の兵士と同程度でしょう」
「なるほど、ではもう少し縛りをきつくしないとダメか……」
「お手柔らかにお願いしたいのですが……」
「それでは意味がない」

 わたしはその話を聞きながら結界魔法を解いた。すると、リオンさんがウィンに向かっていく。

「ウィン様、どういうことか聞いてもよろしいでしょうか?」
「結界のことか? クロノをもっと強くしてやろうと思ってな。盗賊が出たからやらせただけだ。俺が戦うことになったら、お前達が気付く前に終わっている」
「それは……でも兄さんは……」
「リオン。いいんだ。これはおれが望んだこと。だからこれでいい」

 クロノさんはそう言って、何か言いかけたリオンさんを止める。

「おれ達は強くならないといけない。だから、そのためにおれは、できることをするんだ」
「もう……勝手に決めて……せめて事前に言っておいてよ。びっくりするじゃないか」
「すまんなリオン。だがそういうことだ。これからはできるだけおれ一人に戦闘は任せてくれ」
「分かった。そういうことならね。それとサクヤちゃん」
「はい!」

 なんだろう、怒られるのかな……と、ちょっと緊張していると、リオンさんは申し訳なさそうに言ってくる。

「さっきはごめんね。結界魔法ありがとう」
「い、いえ」
「そうだぞリオン。サクヤの結界魔法があるから後ろを気にせずに突っ込めるということもあるんだからな」
「兄さんが威張いばることじゃないでしょ」
「そうかもしれんな!」

 そんなやり取りをして、わたし達は一度街に戻ることになった。
 盗賊をこのままここに放置する訳にもいかないし、パルマの村に連れていくのも、敵を返しに行くことになるから。
 わたし達は盗賊を連れて、来た道を戻り、街の衛兵に預けてまたパルマの村へと出発する。


 そして、街を再出発してから一時間半後。

『――サクヤ。魔道具を出して結界魔法』
『え? うそでしょ? 〈結界の創生〉』

 ウィンに言われて結界魔法を張った次の瞬間、先ほどと同じように矢が地面に突き刺さった。

「おいてめぇら。ここから先は通さねぇぜ?」

 そう言って出てきたのは、さっきの盗賊と同じような格好の人だ。
 しかも、今回は剣士らしき人が五人、わたし達を囲むように立っていて、森の奥には矢を構えた人もいるっぽい。
 でも、そんなことはいい。

「何人いるのここ!?」

 わたしは心から叫んだ。


「っく……てめえら、覚悟しておけよ……」

 捕らえられた盗賊の首領は、手を拘束されながらもそうつぶやく。
 今回もさっきと同じように、クロノさんが手加減しながら全員捕らえていた。
 今は再び、ケンリスの街に戻っている途中だ。
 わたしが盗賊達を観察していると、クロノさんが注意してくる。

「サクヤ。そいつらは一応盗賊なんだ。そんな近付くな」
「一応ですか?」
「……ああ。一応だ」

 なんかすごく歯切れが悪い。

「どういうことです?」
「その……そいつらからはあんまり敵意を感じなかったんだ」
「敵意を?」
「ああ、ぶった切るとか、殺すぞとか、そういう感情だな」
「盗賊なのに……?」

 わたしが不思議に思って盗賊達を見ると、素知そしらぬ顔でそっぽを向いていた。

「だが一応盗賊だ。だから近付くな」
「大丈夫ですよ。ウィンもいますし、ちょっと聞きたいこともありますから」

 戻るまでにあと一時間はかかるから、聞けることは聞いておきたい。
 ウィンの背に乗る私のひざの上では、ヴァイスとエアホーンラビットが盗賊達を警戒していた。

「手を出したらダメだよ」
「ウビャゥ」
「キュイ」
「だけど、気持ちは嬉しいよ。ありがとう」

 わたしのことを守るためにこうしてくれているのだろう。そんな二体の気持ちが嬉しくて、そっと頭を撫でる。

「ウビャァァ」
「キュィィィ」

 二体はとても気持ちよさそうだ。

「それでは……え」

 わたしが首領を見ると、彼は二体をじっと食い入るように見ていた。

「あの……ちょっと聞きたいんですけど、いいですか?」
「……は! なんだいじょうちゃ……なんだ」
「なんか普通に街の衛兵みたいな口ぶりでしたけど……」
「なに言ってんだ。俺達ゃ先祖代々立派に盗賊をつとめてきてんだ」
「……」

 盗賊を立派につとめる……まぁいい。
 突っ込んでいたら終わりそうにないので、聞きたかったことを聞く。

「パルマの村はどんな所なんですか?」
「はぁ? なんでそんなこと知りてぇんだ」
「わたし達がこれからパルマの村に行こうと思っているからです。これから行く場所を知りたいって思うのはおかしいことですか?」
「ふん。そりゃあもう恐ろしい場所よ。口にするのもおぞましい」
「……え? それだけですか?」
「この世には知らない方がいいことだってあるんだよ」

 わたしは意味が分からず首をかしげる。

「あの、本当にどういうことなんですか? パルマの村はそんなにも危ない場所なんですか?」

 わたしはまたヴァイス達を見ていた首領にそうたずねる。

「そうだぞ。それはもう酷い場所でな。言葉も教えてもらえないようなやべー場所なんだ。後ろにいる奴らも口がきけないんだよ」

 彼はそう言うので、わたしが本当……? と思って後ろの盗賊達を見ると、ものすごく驚いた顔をしていた。

「ウビャ」
「キュイ」

 ヴァイスとエアホーンラビットを見ると、二体も彼らの真似まねをしているのか、なんだかめっちゃ驚いた顔をしている。普通に可愛い。
 ヴァイスなんか耳がピン! と立っていて、ちょっとウサギみたいな感じになってる。
 隣にいるエアホーンラビットといつも遊んでいるし、行動も似てきたりするんだろうか。
 このを残しておきたいけど、残念ながらカメラはない。カメラがないのがこんなにも辛いなんて……創造魔法か、神聖魔法で作れないかな。

「……」

 っていうかなんで盗賊を捕まえたはずなのにこんな空気になっているんだ。
 ヴァイスとエアホーンラビットはなんかもう盗賊達を見る目が全然厳しくないし、本当に盗賊なのか不安になってくる。
 わたしは気を取り直して、後ろの人に声をかける。

「あの、あなた方は喋れないんですか?」
「……喋れません」
「喋ってんじゃん……」

 わたしが突っ込むと、口を開いた彼は、他の人から足蹴あしげにされる。

「他の人も意味分かってるじゃないですか……」
「……」

 わたしがそう言うと、一斉に動きが止まる。
 なんなんだこれは、コントでも見せられているのか。

「あの、首領さん……って、なんでそんなにヴァイスを見てるんですか?」
「いや……なんでもない。ただ、ちょっと撫でてもいいだろうか」
「いや、ダメですよ。この状況で許せるはずないでしょ」
「ウビャゥ?」
「キュイ?」

 二体ともなんで? と首を傾げないで、なんで別によさそうな雰囲気を出すの。
 でも動きがそろっていてとても可愛い。
 そんな二体の動きに魅了みりょうされたのか、首領は懇願こんがんしてくる。

「頼むよ! こんな可愛い従魔は中々会えないし! めっちゃモフモフそうで最高じゃないか!」
「そのことに関しては同意します。ヴァイスもエアホーンラビットもウィンもみんな最高ですよ」

 わたしはこれみよがしと、膝の上の二体を抱き締める。

「あー! いいなぁ、俺もそうやりたい!」
「ダメです。っていうかそうやって人質……獣質けものじちにするつもりでしょう!?」

 わたしが見抜いてどうだと問うと、首領はポカンと口を開いてわたしを見つめていた。

「そんなひでぇことできる訳ねぇだろ」
「えぇ……」

 わたしをだまそうと演技していたんじゃないの?
 これわたしがおかしいの? 彼らって盗賊だよね? 間違えてないよね?
 そう思って彼らを見つめるけれど、やはり盗賊っぽい格好をしている。

「街に着いたぞ」
「え、もう?」

 クロノさんが街へ着いたことを教えてくれたので、詳しいことを聞けなかった。
 彼らを街の衛兵に引き渡し、またパルマの村への道を進む。

「しかし、奴らは一体なんなんだろうな」
「クロノさんもやっぱり変に思いますか?」
「ああ、さっきの会話を聞く限り、どう考えても普通の盗賊ではないだろう」
「ですよね……」

 なんというか、そこまで敵意も感じなかったし。

「だが、詳しいことはパルマの村に着くまでは分からない。これからも気を引き締めていこう」
「いや、でも二回も出たんですよ? 流石にもう……」

 カカッ!
 クロノさんの言葉にわたしが答えた瞬間、近くに矢が刺さる。

「ぐへへ、お前達、ここから先に進むとどうなるか分かっているんだろうな」

 森からまた新しい盗賊が出てきた。

「何人いるのここ!?」

 わたしは心から叫んだ。


 それからわたし達は何回も往復をした。
 パルマの村に向かって一時間もすると新しい盗賊が出てくるのだ。
 そしてその度に、クロノさんが捕まえて街に連れ帰る。

「お前達……盗賊を狩るのが好きなのか?」
「そういう訳じゃないんだがな……」

 クロノさんは何回も衛兵に盗賊を引き渡しに戻るので、そんなことを言われていた。

「嬢ちゃん、もしクロノに変な所に連れていかれそうになったら急いで戻ってこいよ? 守ってやるからな?」
「あ、ありがとうございます」
『俺が守るから不要だ』

 衛兵の人が言ってくる冗談じょうだんをウィンは真に受けて、わざわざ念話を送ってきてくれる。
 そんなことがありつつも、わたし達は再び進む。

「これ、あと何回やらないといけないんでしょうね……」

 リオンさんも往復を面倒だと思ったのか、そんなことを言い始める始末。
 空も暗くなり始めたので、今日は街で泊まるか……という意見まで出始めた。

「どうする? これだけ進まないんなら、街に戻った方がいい気がする」
「僕もそう思うかも。このまま進んでもまた盗賊が出るんじゃないのかな」
「そんな気がする……というか、なら本拠地を案内させて、そこを叩くか?」
「でも、全員が同じアジトにいるとは限らないんじゃない?」
「確かに……」

 パルマ村に行く話が盗賊退治の話にすり替わるくらいには盗賊が出続けるのだ。
 それほど盗賊に辟易へきえきしていたと思う。
 なので、わたし達は最初に考えていた通り、一度南西に行ってから北上することにした。
 すると、今までめちゃくちゃ出てきた盗賊達は全くいなくなった。
 クロノさんとリオンさんも肩の力が抜けている。

「今までなんだったんだ……」
「ほんとだよ……」

 平和になったことを証明するように、ヴァイスもエアホーンラビットもウィンの上で寝ている。ヴァイスは丸まって、エアホーンラビットは仰向けに全身を投げ出していた。
 なんでそんな寝方……と思うけれど、可愛いからそっと見ておく。あんまり見つめると気配で起きてしまうかもしれないからだ。
 ああ、今こそ本当にカメラが欲しい。ちょっと本気で考えてみるべきだろうか。


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