都会を抜け出して地方で始めた農業~頻繁に呼びに来てくれる可愛い子はもしかして脈ありなんですか?~

土偶の友

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弱肉強食

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 俺は餌の山から一握り掴みとり、そっとリスたちの前に置く。

 するとリスたちは脱兎のごとく駆け出し、俺が置いた餌に群がっている。その様はまるで強盗だ。己の欲しいものを力ずくで奪い口に含んで持ち去る。力の無いものはただ奪われるだけ。そんな荒廃した世界を思わせる惨劇がそこにはあった。

「これはちょっと……」
「可愛いー」
「え?」

 俺は彼女のセリフが理解できない。もしかして彼女はそんな世界に行ったら髪型を特徴的にして、ヒャッハーと叫びながら火炎放射器をぶっぱなすような連中なのだろうかと。

 しかし、彼女は普通だった。

 手のひらにリスを一匹乗せ、そのリスにひまわりの種を与えている。

 種を与えられたリスは嬉しそうにカリカリと食べていた。

「ん? どうしたの?」
「何でもない」

 俺にはあんなに恐ろしい様を見せつけてくるリスたちに恐怖しながら、他にリスはいないのか見回す。

 すると、恐ろしい世界で取り残された、餌にありつけなかったリスがじっと俺の顔と残っている山を見つめていた。

 そのリスの残された感じは俺の心を撃った。

「お前も一人なのか」
「キュル」

 俺とリスは暫く見つめ合った後に俺はそっとヒマワリの種を差し出す。

 そのリスはゆっくり俺に近づいてきて俺が差し出した種をそっと受け取った。そしてそのまま俺の目の前で皮を剥いで食べている。

「か、かわいい!」

 俺は驚きでいきなり撫でそうになる。しかし、相手は出会ったばかりのか弱い獣。俺が勢いよく手を差し出せば、それは巨人の叩きつけと思われても仕方がないだろう。

 そう思われてしまっては取り返しがつかなくなる。たたきつけを繰り出してくる人と、仲良くなれるものか。

 俺は餌の山から少しだけ取り、それを手のひらの上に乗せる。そしてその手をリスの目の前に驚かれないよう優しく差し出した。

「キュルルル」
「そんな目で見つめるな。お前と俺の仲だろう? 遠慮せずに食え」
「キュルルルルルル!」

 俺が言うとリスは喜んで突進してくる。そして俺の目の前で食べ始める。

 ひまわりの種の殻などがぽろぽろ落ちているが、それはそれで見ていてとても可愛らしい。幼子が一生懸命食べようと、口の周りにつけているのと同じ感覚だろうか。

「よしよし。一杯食べろよ……」

 俺はそう言ってリスの頭を優しく撫でる。

 リスはそれを受け入れてくれたのか、自ら頭を指に擦り付けている様などもう堪らない。

俺は暫くそうしていた。動物を飼うってのはこんなにも愛しい気持ちになるのだろうか。そんな思いがこみあげてくる。ペットを飼う人の気持ちがわかってきた。一人だと世話とかが大変だろうと思って飼っていなかったが、検討してもいいかもしれない。

「ねぇ、いいの?」
「ん? 何がだ?」

 彼女がちょっと困ったように眉を寄せ、俺の方を見ている。

 何か困ったことが起きたのだろうか? 俺は仏の微笑みを彼女に向ける。何かあれば話してほしい。今の俺ならば仏の顔も3度所か7回は行ける気がする。

「餌が持ってかれてるけどいいの?」
「え?」

 俺はその一言を聞いて餌が山と載っていた皿を見る。そこには、さっき最初に餌を全て奪っていったリスたちが群がり、ほとんどの餌を口の中に入れていた。

 さっきまで目の前のリスに餌を上げることに夢中になっていた俺は、その餌がめちゃくちゃ持っていかれていることに気付かなかったのだ。

「ちょ、お前ら。返せ」

 といってもリスに言葉が通じるはずがない。捕まえようと伸ばした手も野生の感に気付かれて逃げられてしまった。

 そこには皿の上に山と積まれていた餌はほとんど無くなり、見るも無残な姿になっていた。残っている餌はそれぞれ片手で数えられるほどしか残っていない。

「うぅ。何て奴らだ。俺を慰めてくれるのはお前だけ……あれ?」

 俺は心の相棒と思っていた奴を見ると、そのリスは俺の手のひらの餌を全て食べてしまったのか居なくなっていた。

「餌が無くなったらお前も居なくなるのか……」

 俺が切なくなって残っていたケーキに手を伸ばす。

「キュルルル!」
「ちょっ、ダメだって」
「ん?」
「キュルル!」

 俺はなんだろうと思って彼女の手のひらの上にいるリスを見る。

 そのリスはどこかの方を指して俺を見ていた。

 彼女はそんな俺を見て「あちゃ~」と言っている。なんだ? そっちに何があるんだ?

 俺は不思議に思ってそちらを見る。そこにはさっき俺から大量の餌を奪っていったリスと俺が相棒だと思ったリスが仲良く餌を分け合っていた。

 いや、そのいい方だと確実に語弊がある。分け合っていた、ではなく献上させていた。が正しそうだ。俺が餌を渡したリスは他のリスを一列に並べ、それぞれからヒマワリの種やクルミを奪い取っている。そう、俺が相棒だと思ったやつこそが、あの集団のボスだったのだ。

「ああ、なんてこった」

 俺はソファに脱力して座り込む。もう何もやる気が起きないと言っても過言ではない。

「ほら、元気出してよ。これあげるから」
「何!?」
「ほら、あーん」

 これは、これはいわゆるカップルがよくやる愛の確認作業というやつではないのか!?

 彼女は自身のフォークにケーキを取り、それを俺に向けて差し出している。その意味するところは俺に食べろという以外にあるはずがない。

 さっきまで「お前も一人なのか」と黄昏ていた俺がバカの様に感じる。そうだ、こんな事をしてくれる彼女がいて、一人ぼっちを感じていいはずがない。

 そして、俺は秒で、いや刹那でやる気を取り戻し、その勢いだったらパン食い競争は最速だろうレベルで彼女のケーキに食らいつく。

「わ」
「もぐもぐ」
「す、凄い勢い」
「うん。旨いな。このケーキは凄くうまい」

 それに他の意味でもうまい。

「その内かわいい子が見つかるから元気出して。ねー」
「キュルル」

 彼女とリスが仲良さそうにしている。ふふふ、しかしはい、あーんをやった俺にはその程度の精神攻撃は通用しない。目の前で女子同士がはい、あーんをやってもてぇてぇを感じるくらいで、嫉妬の炎に包まれることなどないだろう。

「はい、あーん」

 彼女は今度はリスにやっているようだ。俺も本音を言えば飛び出したいが、流石にリスから奪うほど精神は病んでいない。

「にしてもそのリスはメスなのか可愛いな。女の子同士だと仲良くできるのか?」
「この子? ちょっと待ってね」

 そう言って彼女はリスの胴体を持ち上げて後ろ足の間を探っている。その動作にはためらいがない。はしたない子というか作業感覚のようだ。

「この子オスだよ?」
「何だって!?」

 さっきまで女の子同士だと思っていたら違う? しかも男女の仲になろうとしているなんて許せない。種族の違いを弁えろ。

 俺もちゃんとリスに見せつけてやらねばならない。そう思って残っていたショートケーキをちょっと多めにとって彼女に差し出す。

「はい、あーん」
「え? ちょっと、何で?」
「いいから、はい」
「い、いいよ……。恥ずかしいし」

 彼女は今更恥ずかしさを覚えたのか食べようとはしない。

「遠慮せずに。こっちも美味しいぞ。さっきはチーズケーキしか食べてなかっただろ?」
「そうだけど、普通に頂戴よ」
「ダメー、ほら。欲しいんでしょ? あーん」
「もう……何でそんな……あーん」

 彼女がパクっと食べてくれる。その表情は恥ずかしいのか真っ赤になっていた。

 俺はその表情を満足げに見て、リスにお前に出来んのか? これが? と挑発めいた視線を送る。

「キュルルル! キュル!!」
「わ、どうしたの?」

 リスは何かに怒り狂ったかのように泣きわめき、手に持ったヒマワリの種を彼女の前に差し出している。

 しかし、彼女にヒマワリの種を食べる習慣は存在しない。どこぞのネズミ家の連中とは違うんだよ!

「きっともっと寄越せって言ってるんじゃないかな?」
「え? そうなの? 結構あげてて、もういらなそうだと思ったけど……」
「キュルル! キュル!」

 リスはヒマワリの種を持って必死に彼女に訴えかけているが通じることはない。はは、ざまあねえぜ。所詮獣と人様では住む領域が違うんだよ。

 俺はそう上から目線で見ていると、リスはさっきまで叫んでいたのに鳴くのを唐突にやめる。そして俺に怨みがましい視線を向けると彼女の方へトコトコと歩いていく。

 ん? 素直に負けを認めて戻って行くのか? はは、負け犬どころか負けリスってか、傑作だぜ。

 とか思っていたら、リスはとんでもない行動に移りだした。
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