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腕がスライム

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「も、もう腕が上がらん」
「大丈夫? 流石にやりすぎちゃった? ボール返してくるね」

 彼女はそう言って俺のボールも返しに行ってくれた。

 5ゲームやって俺が当然全敗なのはいいのだが、彼女は途中から遊び始めてストライク、スペア、ストライク、スペアと交互に取って行ったり、最後の数字が123ってなるように調整していた。

 俺はスピード狂をやり始めたが、2ゲームで腕が逝ってしまって、残りのゲームは両手で転がしてい程だ。

 途中子供に『ママー何であの人両手で投げてるのー? ママでも片手なのにー』『しっ、あの人はプールでスク水を着るような変態さんよ。どんな変態行為か分からないから関わっちゃダメ』という様な事があって精神的にもダメージを負っていたのだ。

 今にして思うと彼女からのお願いを逸らすために、凄いことをやったと思う。

「返してきたよーってほんとに大丈夫?」

 彼女が帰って来るが心配してくれる。俺は体力的な疲れと精神的な疲れからイスにぐったりしていたからだ。

「あー大丈夫。行くか」
「うん」

 俺達は代金を支払ってエスカレーターで下に降りる。俺が先に乗って、その後ろに彼女が乗った。その途中。

「ねぇ」
「なんだ?」
「罰ゲームで言ってたことって私にやらせようとしたことと、もしかして一緒?」
「……」

 やばい。今更になってそのことに気付かれるなんて、何て感のいいガキなんだ。しかも人がいないこの場所でそれを言ってくるのも狙っていたのだろうか。

「ねぇ、何で黙ってるの?」

 しかも俺の横に並ぶのではなく、俺の真後ろに立っている。人間、背後に立たれるのは嫌うもの。例え一晩寝た女が相手だろうと、背後に立った相手をぶっ飛ばす奴がいるのも納得できる。俺はあの13の暗殺者とは違うけど。

 しかし、今の俺にはそんなことは出来ない。格闘技も習っていたわけではないし、今更やれる訳でもない。俺が動いた途端にやられるだろう。

「ねぇ?」
「は、はい」
「ちゃんと答えて?」
「はい……」

 もうだめだ。俺は正直にゲロるしかない。俺の性癖がバレるのと、命の天秤その2つなら簡単だ。全世界にバラされても俺は生きていける。多分。

「ちょっとだけやって欲しいかなって思ってました」
「……」
「……」

 何でだ。どうして黙るんだ。マジで怖いじゃないか。ちゃんと正直に言ったのに。

「ふーん。そう言うのが好きなんだ」
「やってくれるの? いてっ!」

 ガン!

 と音がした感触が頭の真後ろからあって、振り返ると彼女が拳を振り下ろした跡があった。

「何考えてるのよ。馬鹿」

 そう言って顔を赤くする彼女はやっぱり可愛らしかった。ほんとにやってくれないかな。

 エスカレーターを降り切って俺達は車に乗り込む。

「あ、母さんからライン来てる」
「あれ? 時間とか大丈夫?」

 彼女は自分のスマホを見てぼーっとしている。一体何が書いてあったのだろう。俺がそっと覗き込もうとすると、

 ゴン!

 いいアッパーが俺の顎に入った。

「いつつ……そこまでしなくても」

 俺は顎を擦りながら彼女を見る。

「あ、ごめん。つい……」

 覗こうとした俺も悪いがそこまでしなくても、とは思うが彼女にとっては見られたくなかったのだろう。仕方ないというか、俺が悪い。

「一体何が書いてあったんだ?」
「何でもない」
「何て?」
「何でもない!」
「そんな大声で言わなくても」
「あ、ごめん。でも、大したことじゃないから気にしないで」

 耳がキンキンする中で彼女の声はそう言っていた。後顔が少し赤くなっている気がする。冷房をつけるか。

 俺は無言で冷房をつける。

「な、何で冷房つけるの?」
「運動したから暑いのかと思って。顔真っ赤だぞ?」
「これは……その……大丈夫、大丈夫だから」
「そうか? じゃあ出すぞ」
「うん、いいよ」

 俺は車を出して、夜の道を行く。その時に一つボーリングをやっていて思い出したことがあった。

「なぁ」
「ん? どうしたの?」
「事故ったらごめんな?」
「何で!? 何があったの!?」
「いやーボーリングで腕がイカレテた事を忘れててさ……見てくれよ俺の腕、まるで老人だぜ。それでもいいか?」

 俺は演技をするように彼女の方を向いて話しかけた。因みに車は赤信号なのでブレーキをかけて止まっている。

「良くないよ! 何でそこまでボーリングに本気出すの!? 腕めっちゃぷるぷるしてるじゃん!」
「スライムみたいで可愛いだろ?」
「せめてナイト位乗っけて来ないとパーティには入れないからね?」
「手厳しい」

 よくこのネタが分かるな。俺はこの嫁選びで幼馴染にしようと思って一回選択してイベントを見た。その後にお嬢様はどうなってるんだろうと思って結婚式のイベントを見たらもう一回やるのが面倒になってお嬢様を選んだタイプだ。

 心だけは幼馴染が好き、でも体はお嬢様。他にもこのタイプはいると確信している。

「でも大丈夫なの? ここから家まで結構あるよ?」
「うーん。飯でも食ってからにするか? 今から作るの面倒だし、腕を休ませる時間が欲しい」
「いいよ。それじゃあ近くのファミレスね。最近でたばっかりのが食べたくってさ」
「そんな場所でいいのか?」
「? いいよ? どこ行く予定だったの?」
「ちょっとお高めのとこのがいいのか? って考えてた」
「そういうお高い所ってちょっと苦手でさ。色々とマナーとかドレスコードとか考えたら面倒じゃない?」
「そうなのか? それだと俺もありがたいが。結構いい場所行ってるんだな」
「そう? あんまりよく分からないけど」
「まぁ、いいか、それじゃあ少し行った所のでいいか?」
「うん。そこにしよ」

 良かった。まさか彼女がこんなに安い女だなんて思わなかった。俺も固い所とかはあんまり好きじゃないから価値が近くて楽でいい。

「ねぇ、今失礼な事思わなかった?」
「そんなことないよ。価値観が近くていいなって思っただけだよ」
「そう?」
「ああ。俺の瞳に嘘はありそう?」
「……」

 彼女はジーっとした目を向けてくる。俺はそれを耐える。

 赤信号長いな。何時になったら変わるんだ。このまま行くとオスカー賞を取っちまうぞ。

「半分しかホントの事言ってなさそう」
「あ、青信号だ。出すから気をつけろよ」

 俺はカタカタ震える手を何とか動かして車を発進させる。
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