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ハナツオモイの章

2.哀愁の夕日

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ある目的で旅をしているロータジアの王子・此花蓮也。彼を探して未来から来た少女ヘティス。
時は夕方に差し掛かろうとする。
食事に使用した火が篝火(かがりび)になろうとしている。
その火を蓮也は見つめている。火の光で蓮也のプラチナのような髪の毛が輝き、白い肌が照らされている。瞳は炎のように赤いが、どこか悲しげで憂いをたたえているようだ。



ヘティス
(この人、男の人なのに女の人みたいにとても綺麗・・・。そして、何かとても寂しげな目をしている。そう言えば以前、尚ちゃんに鬱っぽい人が好きって言ってたけど※1、私、引き寄せちゃったかな!それに・・・)
「ねえ、さっきから左手をあまり動かしていないけど、腕、怪我しているの?」
蓮也
「怪我はしていない。麻痺しているだけだ」
ヘティス
「ヘパイトス、ちょっと見てあげて」
ヘパイトス
「手の痺れは確率的に頸椎から手への神経が関係する可能性が高いです」
「そこで、頸椎から指先までスキャニングしましたが、器質的には異常は確認されません」
ヘティス
「身体の異常はないってことね、変ねぇ」
キキ
「その人は心が病んでるから手が動かないにゃん。何か心理的な問題を抱えているにゃん」
ブーバ
「蓮也さんの話を聴いてあげるといいわん。傾聴するだけで、ストレスが下がるから、腕は多少よくなるかもしれないわん」
ヘティス
「わかったわ」

猫のキキは心理を直感的に読み取る能力がある。というのは、キキはある心理学者の家である時期まで飼われていたが、そこでの様子を学習していた。学習と言っても、直感的な学習で、どのような心の悩みなのかが直感的に分かるというものであった。ブーバも、そこで一緒に飼われており、ブーバは心理学の論理面を学習していた。

蓮也
「何を話している?独り言か?」
ヘティス
「このコたちと話しているの!独り言なんかじゃないわよ!」
「ところで、あなた、心に悩みを抱えてるでしょ?聴いてあげるから話してよ」
蓮也
「悩みか。・・・お前には関係のないことだ」
ヘティス
「いいから話して」
蓮也
「お前に話しても意味はない」
ヘティス
「話すとスッキリするから!」
蓮也
「意味のないことをしても意味はない」
ヘティス
「何よ、人がせっかく話を聴いてあげるって言っているのに!」
(鬱っぽい人ってクールでカッコいいって思っていたけど、ケッコー面倒ね・・・)
ブーバ
「ヘティスわん、ぜんぜん傾聴になってないわん。質問したら、少し待つわん。間というものが重要わん。強引に質問しまくりは逆効果わん」
ヘティス
「だって、あの人、何もしゃべらないんだもん」
ブーバ
「話すことだけが傾聴ではないわん。相手を受け入れる気持ちをもって寄り添うようにするわん」
ヘティス
「もー、お腹も空いてきたし、ブーバと話してもイライラするわ!」
蓮也
「おい、独り言を言ってると日が暮れるぞ」
ヘティス
「だから、独り言じゃないってば!」
蓮也
「わかったから、もう行くぞ」

ブーバは心理学者のカウンセリングの様子や話し方なども聴いているから、それをヘティスに伝えているのだが、ヘティスは聴く耳を持たない。
そんな少し勝ち気な性格のヘティスであったが。

ヘティス
「いたたたたー、さっきバケモノに襲われた時に少し足を捻ったみたい・・・」
蓮也
「仕方がない、俺が乗って来た馬がある、そこに乗せてやる」

その馬は白銀に輝いており、現代のサラブレッドよりも一回りも二回りも大きく、筋肉はハガネのように鍛えられており、頭部には黄金に光り輝く螺旋状の角がある。聖獣・ユニコーンである。

ヘティス
「ユ、、、ユニコーン・・・」
(私、ゲームの世界に来ちゃったのかしら・・・)

蓮也はヘティスをだき抱え、自分の前方にヘティスを馬に乗せた。

ヘティス
(キャ、これがお姫様抱っこってのね・・・w)
(蓮也って、気難しそうだけど結構、フツーにやさしいじゃない。口は悪いけど、カッコいいし、白馬の王子様みたいだし♡)

蓮也
「いいか、馬から震い落とされないように、ちゃんと足で馬の胴体を挟め。そして手綱か鞍の持ちやすいところをどこでもいいからしっかりと持て。落ちても知らぬからな」
ヘティス
「わかってるわよ、そんなことくらい!」
(やっぱり何か言い方が上から目線でムカつくわ・・・)
(ところで、このお馬さんの角は作り物かしら?それに、恐竜の時代に哺乳動物が馬まで進化しているのかしら・・・。よくわかんないわ・・・)

蓮也はヘパイトスを普通の人間だと思って、スピードを常足にしている。一応、ヘティスのお供に気を遣っているようだ。猫のキキは足取り軽くついていく。メタボ柴犬のブーバは鈍足であるが、魔物に襲われたくないため、必死になってついていく。

ヘティス
「ねぇ、どこにいくの?」
蓮也
「フラワリングビレッジという村だ。腕のいいヒーラーがいるらしい。その者に会いに行く」
ヘティス
「ヒーラー?癒す人のことね。腕を治してもらいにいくのね」
(男の人にだき抱えられたのもはじめてだし、こんなに密着したのはじめて・・・。そして、何か不思議な感じ・・・)

沈みゆく美しい夕日が山の遠くに見える。馬の常足のリズムや音が心地よく感じる。疲れもあってか、少し安心感もあってなのか、ヘティスは少しまどろみの状態へとなっていく。その時、

ガラッ!

何かの拍子で馬体が揺れ、ヘティスの身体が馬から左方向へと落ちようとした。
咄嗟に蓮也が左手でヘティスを抱き抱える。蓮也の右手は手綱をしっかりと握っている。

蓮也
「おい、何やっている。しっかりと乗れと言っておいたはずだ」
ヘティス
「ちょっと!今、私の胸、触ったでしょ!ヘンタイ!」
蓮也
「俺はお前やそのようなものに興味はない。それより、もし、俺が助けなければ、お前は怪我するか死んでいたかもしれないぞ」

はじめて男性に胸を触られたヘティスは、少し動揺し、感情的になっていたが、相手が正論なので、さすがに言い返せない。

ヘティス
「・・・助けてくれたのは感謝するけど、アナタ、左手が動かないんじゃなかったの?ちゃんと動くじゃないの・・・!」
蓮也
「・・・」

確かに、蓮也の左腕は、多少は動くのだが、本来は痺れたままであり、殆ど動かない。蓮也も、なぜ左手が動いたのかわからず、ヘティスの言葉に対して言い返せなかった。

ヘティス
(何よ!“お前になんか興味ない”なんて失礼よ!もうウツメン男子なんか絶対好きにならないわ・・・!)

※1このことについては『ミラクルHT物語』の「コイバナ」を参照
https://www.alphapolis.co.jp/novel/548869271/757415627/episode/3382728

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