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ハナツオモイの章

4.竜狩り

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蓮也・ヘティス一行は森の道を進む。
するとポコーの言っていた通り、遠くに二体のジャイアント級ドラゴンが見え、4人のパーティが戦っている。
その周囲には、ドラゴンにやられた戦士たちが数十名、横たわっており、逃げていく者も多数いる。

この時代、ジャイアント級のドラゴンには軍隊がいるとされており、冒険者やギルドレベルが行うクエストではないとされている。この場合のクエストは、ドラゴンの撃破ではなく、ドラゴンを遠くへ追い払うのがクエストであると思われる。

ポコー
「あれはアイアンドラゴンだポコ!もう一体はポイズンドラゴンだポコ!」
「アイアンドラゴンは、そんじょそこらの物理攻撃や魔法攻撃は効かんポコ!」
「ポイズンドラゴンは、毒霧がヤバイだポコ!
蓮也
「なるほど、一体は硬そうだな。もう一体は、正面からだと危険そうだが、側面から攻撃できればいけそうだ。二体同時は流石の俺でも無傷では済まないかもしれないが、まずは戦ってみるか」

ヘティスは蓮也の表情を見ると、今までの無感情・無表情とは違い、何か高揚している感じがした。

ヘティス
(この人、さっきまでは感情を表に出さなかったけど、戦うことを恐れないどころか、何か楽しんでいる感じがするわ・・・。私たちがMMORPGの狩りを楽しむ感覚に似てるかも・・・。やっぱ少し異常よ!)

と話していると、向こうからパーティが逃げてくる。
そして、その一人の若い青年が息を切らしながら蓮也に話しかけた。

プロキオン
「・・・す、すみません!あなたの姿からして高名なナイト様とお見受けしました。ドラゴンを追い払うことに苦戦してまして、少し加勢していただけないでしょうか?」
蓮也
「何者だ?」
プロキオン
「私はギルマスのプロキオンと申します。私たちはフラワリングビレッジから依頼を受け、村の道を塞ぐ二体のドラゴンを追い払うクエストを遂行しているところです」
蓮也
「なるほど、助けてもいいが、条件がある」
「指揮は私が行う。そしてドラゴンを倒した時の報酬は山分けになるがいいか?」
プロキオン
「この人数で倒すだなんて無理です・・・!ドラゴンを軽く叩いて遠くに今誘導していますが、それでも多くのパーティが戦闘不能に陥ってしまっている状態なのです・・・!」
蓮也
「ならば俺一人であのドラゴンを撃破するからお前たちは退いていろ」
プロキオン
(こ、この人、一人でジャイアント級ドラゴンを倒すとか、無茶苦茶だ・・・。しかも、二体もいるのに・・・。けど、凄い自信・・・。と、とりあず、ここは一致団結しないと・・・)
「わかりました・・・。どの道、私たちのレベルではこのクエストは不可能なので、是非その条件でお願いします!」
蓮也
「どのようなパーティを編成している?各自のジョブと役割と属性を教えろ」
プロキオン
「まず私がファイターで指揮兼アタッカーです」
「そこにいるファイターのアルカスが壁役のディフェンダーです」
「そちらのプリーストがスピカと言い、メインはヒーラーですがサブでプロテクションもできます」
「そして、メイジのミラクで、魔法属性は冷属性です」
蓮也
「わかった、最低限の戦闘はできそうだな」
「それでは各自にミッションを伝える」

蓮也の号令によって場の空気が引き締まった。

蓮也
「まずメイジは敵左翼に回り込みつつ、遠隔魔法で引きつけよ。冷属性なら氷結の足止めしつつ一定の距離を保て」
ミラク
「任せてぴょんw」
蓮也
「ディフェンダーは敵左翼に回り込み、メイジへの攻撃をガードせよ」
アルカス
「了解だぜ!」
蓮也
「プリーストはディフェンダーをプロテクション及び回復魔法で遠隔にてサポートせよ」
スピカ
「かしこまりました!」
蓮也
「お前たちがアイアンドラゴンを引き離した隙に、私がもう一体を仕留める」
「アタッカーでありフィニッシャーは全て私がやる」
「陽動・誘引による各個撃破だ」
プロキオン
「あの・・・、ボクは何をすれば・・・」
蓮也
「私の指令後、プロキオンは副官として指揮を取れ。積極的に攻撃はするな。アイアンドラゴンを誘き寄せ膠着状態をつくるのが目的だ」
プロキオン
「わかりました・・・が、ポイズンドラゴンを一人でおやりになるのですね。あのドラゴンの毒霧はかなりキツいので気を付けてください。私たちは近くことすらできませんした」
蓮也
「わかっている。全て想定内だ」
蓮也
「それでは、ミッションを開始する」

ミッションが開始された。

蓮也
「まずメイジ、冷気魔法の範囲攻撃にて、アイアンドラゴンの片足を交互に狙い、足止めしつつ左翼に周り、しばらく誘引せよ」

蓮也の司令通り、ミラクが冷気魔法でアイアンドラゴンを左翼方向へおびき寄せる。

ミラク
「ブリザード!」
「さあ、こっちよ!ドラゴンちゃん!けど、あまり近づかないでね!」

アイアンドラゴンはミラクに向かって行こうとする。もう一体との距離を引き離すため、蓮也はタイミングを測っている。

蓮也
「今だ!ディフェンダーは足止めせよ!積極的に攻撃はするな」
「プリーストはディフェンダーをプロテクションにて後方支援せよ」

全身を鎧に身を包んだアルカスが大きな盾を持って、アイアンドラゴンとミラクの間に割って入る。そして、アイアンドラゴンはアルカスに対し強襲する。その攻撃をアルカスは鋼鉄の盾で何とか防ぐが、防ぐことで精一杯である。

アルカス
「くぅ~、なんて重い攻撃だ!シールドで何とか受けたけど押される~!」
スピカ
「これでもプロテクションを全開でかけています!耐えてくださいませ!」

蓮也
「この状態で各自耐えよ。副官は、全体のバランスを調整しつつ、ディフェンスを重視せよ」
プロキオン
「了解です!が、貴方は一人で大丈夫なのでしょうか?普通の人間には無理だと思います・・・」
蓮也
「普通の人間には無理だろうな」
プロキオン
「それでは貴方は普通の人間ではないと・・・何者なのでしょうか」
蓮也
「神の力を受け継ぐ者だ」
プロキオン
「神の力・・・」

指示を終えた蓮也は右翼方向を見る。

蓮也
(あのポイズンドラゴンの毒霧に真っ正面がから突っ込むと、息を止めても目をやられる。目を閉じて攻撃しても急所を外す可能性がある。側面攻撃しかない)
「ヘティスは右翼方向へ回り、敵を誘き寄せよ」
ヘティス
「え~!なんで私がやるの?こんなか弱い乙女があんな化け物と戦えるわけないでしょ?それに何でアンタに命令されなきゃいけないわけ~?」
蓮也
「戦う必要はない。おびき寄せるだけだ。近づいたら目を閉じて呼吸はするな。できるだけ長く息を止め続けろ」
ヘティス
「無理、無理、無理、無理よ~!」
蓮也
「お前がそうしなければ、あの者たちはいつまで耐え切れるかわからない。それでもいいのか?」
ヘティス
「だって、見てよ!毒霧吐いてるじゃないの!あんなの無理よ~!」
蓮也
「大丈夫だ。私が必ずお前を守る。約束する」

蓮也はヘティスの手を握り見つめた。
ヘティスは頬を赤めて、手を振り払う。

ヘティス
「わかったわよ!やるわよ!けど、約束よ!ぜーったい私を守ってよ!」
蓮也
「必ず守る。約束しよう」
「あのドラゴンは毒霧を吐く。しばらく息を止めていれば大丈夫だ。その間に私が倒す」
ヘティス
「そんなの危ないじゃない!吸っちゃったらどうするの!」
「どれだけ息を止めれるかわからないし!」

と言いつつヘティスはヘパイトスを見る。

ヘティス
「ねぇ、ヘパ」
ヘパイトス
「なんでしょうか?」
ヘティス
「3Dプリンターでガスマスクを作って。色は緑で、女の子がつけても可愛いヤツにして!急いでつくって!」
ヘパイトス
「かしこまりました」
「しばらくおまちください」

ヘパイトスは背負っていたランドセルのようなものを地面にいた。超高速3Dプリンターである。素材はヘパイトスの体内にあり、腹部からチューブで繋ぎ、3Dプリンターを可動させる。

ヘパイトス
「志向性を読み込んでいます・・・」
「システムの設定・・・」
「形状の設定・・・」
「カラーを設定しています・・・」

シナスタシス&4Dシステム社製の最新式超高速スマート3Dプリンターは、人間が抽象的に指示したものをAIロボットが予め設定された志向性を基に判断し、要求されたアイテムを超スピードで作成する。

ヘパイトス
「お待たせしました。ヘティス専用ガスマスク・緑・可愛いが完成しました」
ヘティス
「んー、ガスマスクだからあまり可愛くないわね・・・色はいいけど」
「とりあえず、死にたくないから、このガスマスクを我慢してつけるわ」
蓮也
「なるほど、マスクで顔を覆うというのか」
「ところで、そいつはアルケミスト(錬金術師)なのか?」
ヘティス
「この子はそんなのじゃなくてロボット!なんでも色々と作れちゃうの!てゆーか、アンタ、あんなでっかい毒吐くバケモノを目の前にして、なんでそんなに冷静でいられるの!」
蓮也
「まあ、いい。ヘティス、囮役を頼む!」
ヘティス
「・・・わかったわよ!」

と言って、半分やけくそになってヘティスは走り出した。それを追って汎用性AIロボットのヘパイトスは危険信号を鳴らす。

ヘパイトス
「有害物質を感知!危険!危険!」
ヘティス
「わかってるわよ!だからガスマスクを作ったんだって!それに、私だってこんなことしたくないんだから!」
「ブーバ、キキは待機よ!」
ブーバ
「うちらは戦力にならんワン」
キキ
「そーニャン、ならんニャン」
ヘティス
「もー!何で私だけこんなことしなきゃならないの!MMORPGでMOB狩りは腐るほどやったけど、リアルでなんかやりたくなーい!」


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