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発露の章

巡る不思議な因縁

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ヘティスは究極プロテクションを求め、生前のオオタネコに会うため、タイムスリップした。そこには若き日のアンドレア・エスメラルダがいたので、名前をメーティスと変え、話しかけた。すると、すぐにオオタネコが出てきたが、彼女はエスメラルダとヘティスの入門を拒んだ。



ヘティス
(もしかして、私がここに来たことで、過去の流れが変化してしまったのかしら・・・)

歴史に織り込まれていないことを過去で行うと、未来が変わってしまう可能性がある。良い方にいくならいいのだが、どうも悪い流れになっている、とヘティスは感じた。しかし、自分の取り柄は“運”だとも思っていたので、なんとなかるさの精神で常にいた。

ヘティス
(だって、私、運超いいから!)

オオタネコがヘティスをみると、彼女の様子が少し変わった。

オオタネコ
「にゃ?それはにゃんだ?」
ヘティス
「ん?」
オオタネコ
「その頭につけてるものにゃ!」
ヘティス
「これは魔法のカンザシよ。これをつけていると魔力や神聖力が強くなるの」

このカンザシはヘティスが未来のエスメラルダからもらったものである。

ヘティス
(このカンザシ、未来のエスメラルダ先生は師匠からもらったって言ってたわよね)

オオタネコ
「その赤いカンザシから感じるオーラはまさしく亡き師・オオモノノヌシものにゃ!」
「そのカンザシは三本あるとされ、選ばれし者に渡されるにゃ!その一本はネコが持ってるにゃ」
ヘティス
「ふむふむ」
オオタネコ
「因縁あればヒーリングははじまるにゃ」
「てことは、お前は選ばれし者にゃ!今すぐ破門は撤回して、入門を許すにゃ!」
ヘティス
「え~!私がにゅーもん?」
(これもマズいかも・・・。どうすれば・・・。あ、そうだ!)

ヘティスは自分の髪にあるカンザシを抜いて、エスメラルダにつけた。

ヘティス
「これをアンドレアさんにさずけーる!」
エスメラルダ 
「えっ・・・?」
オオタネコ
「この場合、どうすればいいにゃ・・・」
ヘティス
「つまり、こうよ!」
「そのお師匠さんの超特別なカンザシを身につけた私、その私からその超特別なカンザシを渡されたアンドレアさん」
「そうなると、このアンドレアさんにも、その因縁があると言えるわ!」
オオタネコ
「にゃんと!」

オオタネコはしばらく思案を巡らせる。

オオタネコ
「わかったにゃ、その代わり、入門試験をするにゃ!」
ヘティス
「にゅーもんしけん?」
オオタネコ
「そうにゃ!そのカンザシが本物なら超ヒーリングパワーがあるにゃ!」
「とりあえず、今日はここは休みにゃ。明日、患者がやってくるから、その最初にやってきた患者の治療ができたら、入門を許可するにゃ」
ヘティス
「わかったわ!そんなの楽勝よ!」
(ふふーんだ、ヒーリングはまあまあできるようになってるもんね~)
(それにエスメラルダ先生ならヒーリングの天才だから楽勝だろうしw)

ということで、ヘティスとアンドレア・エスメラルダはオオタネコの道場で一泊することとなった。アンドレアはヘティスに感謝して、何度もお礼を言った。
既に日も暮れかかっており、二人は風呂に入り、食事を済ませた。

ヘティス
「ねぇ、アンちゃん」
エスメラルダ 
「アンちゃん、って・・・私?」
ヘティス
「アンドレアさんだと長くて言いにくいしw」
エスメラルダ 
「そうねw」

リラックスしたのか、はじめてアンドレアが微笑んだ。

ヘティス
「ヒーリング歴は何年なの?」
エスメラルダ
「えーとね、それがね、実は、まだ全然やったことないの」
「勢いだけで来てしまったのだけど、明日、ぶっつけ本番ね!」
ヘティス
「えええええ!ちょっとまってよ!」
(ど、どうしよう・・・)
エスメラルダ 
「私、魔物に襲われて死にかかってたところを、ある方に助けられて、その方はそれからしばらく村にとどまって、村の人の警護と治療をしてくれたの」
ヘティス
「ふむふむ」
(なんだか、お風呂とご飯でリラックスしたら、女子トークになってきたわね・・・)
エスメラルダ 
「最初はね、命を助けてもらったお礼にと思って、お弁当を毎日届けていたの。けど、気付いたら彼のこと好きになってしまっていて、会いたくてお弁当を持って行ってた・・・」
ヘティス
「いやーん、アンちゃん、健気ね~」
エスメラルダ 
「私ね、この髪の毛の色がコンプレックスで、子供の頃から男の子たちに白髪(しらが)のババアって言われてからかわれてて。だから小さい頃から私、自分の容姿に自信がなくて」
ヘティス
「ヒドイ話だわ!」
「てゆーか、アンちゃんのそのプラチナのような髪、とても綺麗よ。もちろん、美人だし」
(プラチナの髪・・・蓮也を思い出すなぁ)
エスメラルダ 
「ホント?」
「で、あの人も、私の髪が綺麗って言ってくれて・・・そのあたりから好きで好きで自分のオモイが止められなくなってしまって」
ヘティス
「てゆーか、小さい頃に男の子がそうやってちょっかい出してくるのは、アンちゃんの気をひこうとしてるのよ」
エスメラルダ 
「そうなの?」
ヘティス
「そうよ」
「私も目が緑色でしょ?中学校の時に男の子にいじめられたんだけど、後から聞くとどうも私のことに気があったみたいなの。男の子ってそんなもんよ」
エスメラルダ 
「そうなんだ」
ヘティス
「そうよ」
「それに、蒼き魔術師さんがアンちゃんの髪が綺麗だって言ったのは、きっと彼はアンちゃんに気があると思うわ!男の人って分かりにくいのよねぇ、あまり自分の気持ちを言わない人が多いからぁ」
「そうやって、間接的に言ってさぁ」
「本当は、アンちゃんのことが綺麗だって言いたかったのよ。・・・これは女の勘ね!」
(蓮也は私のことをどう思っているんだろう・・・)
エスメラルダ 
「・・・え、なんでわかったの?蒼き魔術師ソーマだって」
ヘティス
(あ、マズい・・・)
「えーと、だって警護できて治療もできる凄い人って言ったら彼しかいないわ!有名でしょ?彼」
エスメラルダ 
「まあ、そうね。けど、アナタ、鋭いわねぇ。ビックリしちゃったわ」
ヘティス
(こっちもビックリした~!)
エスメラルダ 
「アナタ、直感、鋭いから、彼が私に気があるって勘も当たっていると嬉しいな」
「けどね、彼、強いし、優しいし、かっこよかったから、村の女の子にモテモテで。だんだん、お弁当も渡せなくなってしまって。だから、ヒーラーになって彼の役に立てれば、って思ったの。そしたら、ここに来てたってわけ」
「ちょっと不純な動機よね?」
ヘティス
「そんなことないわ、アンちゃん!入り口はそれでいいの!結果として多くの人の役に立てればいいのよ!アナタならできる!」
エスメラルダ 
「・・・あ、ありがとう^^;」

ヘティスはエスメラルダの両肩に手をかけ、じっとみつめ、熱い思いを投げかける。

エスメラルダ 
「メーティスさんの手、とても暖かくて心地いい・・・。オオモノノヌシ様に認められただけあるわ。それに比べて私は素人だから自信ないな・・・」
ヘティス
「大丈夫!私が教えてあげるから!」
エスメラルダ 
「え、ホント?」
ヘティス
「うん、明日ぶっつけ本番だけど、今から徹夜で特訓よ!」
エスメラルダ 
「お願いします、メーティス先生!」
ヘティス
(あれ?私、先生の先生になっちゃった・・・?)

巡り合わせとは奇妙である。しかし、この奇妙な巡り合わせが未来に織り込まれているのかどうかは、今のところ、誰にもわからない。



【解説】
コンプレックスという言葉を使っているが、この場合、劣等コンプレックスである。
記紀神話の大物主は赤い丹塗り矢に姿を変えるが、本作品では赤いカンザシとした。
この時、蒼き魔術師は30歳前後、エスメラルダは20歳前後の設定である。ヘティスと蓮也の時代から50年程前の時代である。
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