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発露の章

修行と遊び

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ヘティスはメーティスと名前を変え、過去のエスメラルダに会い、彼女にヒーリングを教授することになった。それはオオタネコが設定する入門試験をパスするためであった。

明け方、既にエスメラルダは起床しており、ヘティスが教えたヒーリングの技術の反復練習をしていた。
ヘティスは朝が弱い方だが、この日は緊張感のせいか、早めに起きた。

エスメラルダ
「メーティス先生、不安です」
ヘティス
「大丈夫よ、教えることは全て教えたわ!後は自分の力を信じるの!」
(てゆーか、全部エスメラルダ先生に教えてもらったことを、そのまま教えてるんだけど・・・)
エスメラルダ
「メーティス先生の師・深緑のヒーラーというお方、教え方もとても上手だったんでしょうね。もう亡くなっているから会えないのが残念だけど、とても尊敬するわ」
ヘティス
(その素晴らしい方って、アナタのことよ~って言いたくなるわ~!私を通して自分自身を尊敬する、自分を尊敬できるって素晴らしいわ!)
エスメラルダ 
「けど、やっぱりちょっと自信ないな・・・ぶっつけ本番、チャンスは一回よね」

エスメラルダの手が緊張で少し震えている。

ヘティスは自分の薬指から指輪を外し、エスメラルダの掌に入れ、両手で彼女の手を握り締めた。

ヘティス
「これをあげるから、自信持って!」

エスメラルダが手の中を覗くと、不思議な光を放つ宝石がついた指輪であった。

エスメラルダ 
「これは・・・」
ヘティス
「これも私が深緑のヒーラーからもらった神聖力を高める魔法の指輪よ!」
「これをつけてヒーリングすれば、きっと試験はパスするから!」
エスメラルダ 
「けど、こんなに大切なものをいただくわけには・・・。あ、カンザシもお返しします・・・」
ヘティス
「いいの、返さなくって。だって、試験パスしたいんでしょ?」
(これ返されちゃ、未来が変わっちゃうのよね)
エスメラルダ 
「そうですが・・・」
ヘティス
「それと、これはメーティス先生との約束よ。このカンザシと指輪はアナタが70歳になるまで身につけておくこと。その年齢を超えたら、どこかに預けて、因縁魔法をかけて、縁ある弟子を導くこと。縁あり、これを授かった弟子にヒーリングを教えること、いい?」
(こんな感じの設定で未来に織り込まれるのかな?)
エスメラルダ 
「わかりました、メーティス先生!」

そして、試験が開始された。
エスメラルダはヘティスが伝えた通りにヒーリングを行った。すると、患者は元気と健康を取り戻す。患者は喜んで帰って行った。

オオタネコ
「にゃ、にゃ、にゃ、にゃんと!」
「二人とも、合格にゃーん!」
「さすが、オオモノノヌシに縁ある者たちにゃーん」
ヘティス
(やったー!)

二人は入門を許された。
そして、すぐにオオタネコの助手として臨床に立ち会った。
オオタネコの治療はとても不思議で、神聖文字と呼ばれる太古の文字を符に書き、それを患部に置き、神聖語を唱えつつエネルギーを手や杖から発し、治療していくものである。
符や杖はいくつか用意してあり、それを組み合わせて治療をする。そして、病が特殊な場合や重篤な場合は、その場で符に神聖文字を記して治療する。

オオタネコ
「あっちのお札をとるにゃ」
ヘティス
「はい!」
オオタネコ
「今度はあっちの杖にゃ」
エスメラルダ 
「はい!」

そして、1日が終了する。

ヘティス
「あ~、疲れた~」
エスメラルダ 
「ホント、ヘトヘトよ~」
ヘティス
「アンちゃん、あの先生のやってること、意味わかった?」
エスメラルダ 
「全然、わかんないわ」
ヘティス
「じゃ、仕事も終わったところだし、お給料がわりに教えてもらいましょうw」

ということで、ヘティスはヒーリングをオオタネコに教授してもらうように頼んだ。

オオタネコ
「わかったにゃん、その前に遊んでくれにゃ」
ヘティス
「遊ぶのぉ?」
オオタネコ
「遊ぶにゃ」
ヘティス
「どうする?アンちゃん・・・」
エスメラルダ 
「そうね・・・どうしましょう」
オオタネコ
「遊んでくれないならもう教えんにゃ」
エスメラルダ 
「ネコ様~、遊びましょ~」
オオタネコ
「ノリいいにゃ、遊ぶにゃ」
エスメラルダ 
「はい、ねこじゃらしですよ~」
「ネコ様、触れますかぁ~?」
オオタネコ
「これはなかなか高度な遊びにゃ!」
ヘティス
(アンちゃん、先生の扱い上手かも・・・w)

来る日も来る日も、このように仕事とオオタネコの言う「遊び」を繰り返していた。
ヘティスは、こんなことで大丈夫なのか、時間の浪費ではないかと思い始めていたが、エスメラルダのチャクラをみると、最初会った時よりもかなり開いて来ていた。
遊ぶことで、オオタネコのエネルギーシステムと感応し、エスメラルダのエネルギーシステムも高まっているのではないか、とヘティスは感じた。

【解説】
技術を習うだけが修行ではない。
著者は武術の修行者経験者であるが、内弟子と通い弟子では内弟子の方が技術習得率が高い。それは師と過ごすというのみで、暗黙知的な情報交換が行われている可能性があるからだ。生命体同士は空間を同じくするだけで、その情報を交換し合う。例えば、女性同士が一緒にくらすと、その生理の周期が同じになったりと、生命は感応し同期し出すのである。
ちなみに笑うと身体が同期するという研究がある。ここでは、遊ぶことで同期する、という設定にした。
ラポールとは、心理学の概念で、フランス語で「橋をかける」という意味であり、転じて、セラピストとクライエントとの心が通い合うという意味である。ここではオオタネコとヘティスたちのチャクラが感応し、エネルギー回路ができ、それがオオタネコのレベルに引き上げられるような設定にしてみた。

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