幻想神統記ロータジア(ハナツオモイ編)

静風

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発露の章

エウリュノメーの誕生

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遠い太古、ある国に、ヘミングという美しい王子がいた。
ある時、ヘミング王子は船で海を渡っていた。毎夜、王子は船上でバイオリンを弾いていた。
その美しい音色に誘われ、人魚の王女・アグネーテが毎夜、王子に知られずに、その音色を聴きに来る。月明かりに照らされた王子の姿を見て、アグネーテは彼に恋をした。

ある日、激しい嵐に遭い、王子の船は転覆してしまった。
王子は海に投げ出され、意識を失い、もう死を待つ状態であった。
しかし、アグネーテがやってきて、王子を助け、岸へとあげてやった。
そして、そこへ残酷の魔女クルーアルがやってくる。

クルーアル
「アグネーテや、お前はその男に恋をしているね。けど、お前は人間ではないから、それは叶わぬ恋だよ。そのお前の下半身には人魚の尻尾がついているだろ?けど、私が魔法でお前の下半身に人間の足をつけてやるよ」
アグネーテ
「どなたか存じませんが、親切な魔女様、ありがとうございます。どうか、あなたのその偉大な魔法で、私の下半身に人間の美しい御足をつけてくださいませ」
クルーアル
「けどね、それには条件があるんだよ。それはね、そのお前さんの美しい声を私におくれ。そうすれば、それを叶えてあげるよ。ただし、お前はしゃべれなくなってしまうかもしれないからね」
アグネーテ
「・・・わかりました」
クルーアル
「あと、この魔法はお前が王子を愛している間、ずっと続くよ。もしこの魔法を解きたかったら、このナイフで王子を殺すのだ。そうすれば魔法は解けるからね」
アグネーテ
(私が愛する美しい王子様を、私が殺すはずがありません。そして、もう元の人魚に戻らなければいいのです。大好きなお父様・お母さま・お姉さまには会えなくなるけど、私は・・・)

アグネーテは少し考えたが、恋をしてしまったハートの勢いは止められず、不退転の決意で魔女の魔法にかかることとした。魔女はアグネーテに魔法をかけると、満足して去って行った。そして、魔女の言うようにアグネーテは、その美しい声を失ってしまった。

やがて王子ヘミングが目を覚ます。

ヘミング
「ここは・・・」
アグネーテ
(・・・魔女様が言った通り声がでない。けど、王子様が助かってよかったわ)
ヘミング
「キミが助けてくれたのかい」

アグネーテはやさしく微笑みかける。

ヘミング
「キミはしゃべれないのかい、なんと可哀想に。すぐにお礼がしたい、ボクの城へ来て欲しいんだ」

アグネーテはうなずく。
王子はアグネーテを連れて城へと戻った。
王子はアグネーテの足形を取り、それにぴったりのガラスの靴をつくり、自らの愛を込めた。アグネーテはそのガラスの靴をたいそう気に入り、毎日、磨いては大切に履いていた。

やがて二人の恋は愛に変わり、結婚することとなった。
王子は名前がわからなかったので、アグネーテを「アグネス」と呼んだ。
アグネーテは、たまたま自分の名前と似ていたので、この名前を気に入った。

やがて二人の間には男の子が生まれた。
そして、数年後には、もう一人、身ごもった。

隣の国にはエンヴィーという王女がいた。エンヴィーは数年前、舞踏会でヘミング王子を見て、王子に恋をしていた。しかし、王子が結婚したことを知ると、ひどく嘆き、悲しみ、その結婚相手に嫉妬した。

王女エンヴィーはアグネーテが浮気をしているとヘミング王子の国に嘘の噂を流した。しかし、王子のアグネーテへの愛は強く、その噂を全く信じなかった。そこで、エンヴィーはアグネーテのガラスの靴を下部(しもべ)に命じて盗み出し、それが愛人の宅に忘れ去られていたという噂を流した。

王子は確認するために、そのガラスの靴を回収し、アグネーテに履かせた。すると、ガラスの靴はぴったりとアグネーテの足に入った。アグネーテは身の潔白を訴えたかったが、声が出ない。王子は悲嘆に暮れて、自室に篭り、アグネーテと会わなくなった。

アグネーテは死んでしまいたいと思い、ある日の夜、最初に王子と会った海辺へとやってきた。
すると、アグネーテの姉たちが海からやってきて、アグネーテに話しかける。


「可哀想なアグネーテや。あの残酷な魔女の魔法は三年以内に解かないと、お前は悪い魔物になって人を殺しだすわよ。そうならないためにも、あの王子の愛をやめるか、王子を殺しておしまいなさい。その三年が明日に迫っている。今日の夜12時の鐘が鳴ったらおしまいだからね。だから、今夜、やっておしまいさなさい」
アグネーテ
(私を思ってくれるお姉様。ありがとうございます。しかし、私は王子を今も愛しており、この心に変わりはございません。しかし、魔物になる気もございません。では、私はどうすればよろしいの?)

声を失ったアグネーテは目で姉たちに訴えるしかなかった。そして、姉たちは海へと去って行った。

アグネーテは自分の中で魔物の心を感じていた。その魔物と戦おうと思ったが、それは無理だと悟り、その魔女からもらったナイフで自身の胸を突き刺した。アグネーテはその場に倒れ伏せ、意識が朦朧としてくる。

アグネーテ
(これであの方との愛は果たせました。けど、私の心残りは、このお腹の子の命です。だれか、この子を助けてくださいませ・・・)

その頃、七輪山にオオタネコという祝由師が住んでいた。
オオタネコは、寝床についてウトウトとしていると、呼びかける声が聞こえてきた。



オオタネコ
「ネコを呼ぶのは誰にゃーん?」
アグネーテ
(親切なお方、私はアグネーテと申します。助けてください。)
オオタネコ
(わかったにゃん。今、式神(しきがみ)を出して、そっちにいくにゃ)

オオタネコは自身の分身として式神を出し、その声のする方へと瞬間移動した。
すると、そこには胸にナイフを突き刺した美しい女性が海辺で倒れていた。

オオタネコ
「にゃ・・・!これは大変にゃん・・・!」
アグネーテ
(私はどうなってもかまいません。しかし、このお腹の子を助けてくださいませんか)
オオタネコ
「それはネコでも無理にゃ。けど、その子の霊魂のうち、魂は無理かもしれにゃいけど、霊は連れていけるかもしれにゃいにゃ」
アグネーテ
(・・・どうか、私の子を、お願いします)

オオタネコが子供の霊を取り出すと、間も無くアグネーテは息を引き取った。
オオタネコの式神は、子供の霊を連れて、すぐに七輪山に戻ると、オオタネコの本体は目を覚まし、すぐに家にある粘土を集めて泥人形を作った。そして、そのアグネーテの子の霊を泥人形に入れると、その泥人形は美しい女性のゴーレムとなった。オオタネコはこの美しい女性ゴーレムに「エウリュノメー」という名前をつけた。



エウリュノメー 
「・・・お母様。アナタは私のお母様ですか?」
オオタネコ
「ネコはお母様じゃにゃいにゃ、ネコはネコにゃ」
エウリュノメー 
「では、ネコ様、よろしくお願いします」
オオタネコ
「お前は物わかりがいいにゃ。よろしくにゃ」

こうしてエウリュノメーはオオタネコに可愛がられ育ち、エウリュノメーもオオタネコの仕事の手伝いをよくした。

アグネーテの魂は、あの世に行く前にヘミング王子に最後の別れを言った。

アグネーテ
(私の愛しい王子様。私の分まで生きてください。そして、私たちの息子をよろしくお願いします・・・。私は、あの世でアナタたちを見守っております・・・。短い間でしたが、この私に幸せな日々を与えてくださり、ありがとうございました)

落胆して自室に篭っていたヘミングは、その声が聞こえた気がし、思い直すこととした。

ヘミング
(どのようなことがあっても、私が彼女を信じてあげればよいのではないか・・・。彼女はそのような人でないことは、私が一番よく知っているではないか。むしろ、私が信じてあげなければ、誰が彼女を信じてあげられるのだろうか)

そう思って自室から出てアグネーテを探したのだが、どこにも彼女の姿がない。すぐに彼女と出会った海のある場所へ行くと、息絶えた彼女が倒れていた。王子は冷たくなったアグネーテの亡骸に触れ、いつまでも涙した。

それからしばらくして、ヘミング王子は「フィデース(信頼)」という名前に改名し、誰かを信じることの大切さを胸に刻み込み、生きていくこととしたのであった。

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