幻想神統記ロータジア(ハナツオモイ編)

静風

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ハナツオモイの章

21.神の冷気

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ヘティス・蓮也・ヘパイトスの三人は七輪山の谷神(こくしん)にて、神の冷気のイニシエーションに挑戦することとした。



ヘティス
「さっき、蓮也をスキャンしたけど、肺の状態がよくないわ・・・」
「この前、宿舎の洗面器に血の跡が少しあったけど、あれは多分、肺からの吐血ね」
「そういえば、エスメラルダ先生は、肺を病む者は悲しみが原因としている、って言ってたわね・・・。蓮也の雰囲気見てるとそんな感じはするけど、彼は一体どんな悲しみを背負っているのかしら・・・」

ヘティスは、少し迷ったが、スマートグラスを取り出しロータジア滅亡のことを少し調べた。そこで気になるのが、やはりエウリディーチェという女性の存在であった。ヘティスはエウリディーチェのことを知りたくない、という思いもあったが、蓮也のことを知るために調べることとした。

ヘティス
「エウリディーチェは舞也との結婚式の日に邪神軍の襲来により死す・・・、か」
「この舞也ってのは、蓮也のお兄さんね。この人も一緒に死んじゃてる・・・」
「あれ・・・、けど、このエウリディーチェさんは生きてる・・・?どういうこと・・・?」

ヘティスのスマートグラスには、アトランティス遺跡から発掘されたロータジア王国の歴史データが入っている。そこには、エウリディーチェは死んでいないと記載されているのだ。

ヘティス
「えーと、エウリディーチェさんは、ゼイソンという魔法剣士によって仮死状態とされ王墓に安置される、ですって?その後、復活し、復活後、蓮也の死を知り、彼の後を追って死す、とあるわ・・・」
「この物語では、蓮也はサトゥルヌスに負けて死に、そしてエウリディーチェさんも後を追うのね・・・」



ヘティスは、蓮也にエウリディーチェが生きていることを告げるかどうか迷った。彼女がまだ地上に存在していることを知れば、蓮也は彼女の救出に向かうであろう。しかし、そうすれば未来を大きく変えてしまうことになるかもしれない。もう一つは、蓮也が自分の手の届かない存在になってしまう、とも思った。

ヘティス
(私は未来を変えるために来た。けど、良い形で変えないといけない。正しい心を持ち、正しい選択をしないと・・・)
「とりあえずお腹すいちゃった」
ヘパイトス
「ヘティスの血糖値が少し低下」
「栄養補給した方がいい」



ヘティスの首にはスマートチョーカーがついており、それで体温・心拍の他に血糖値もリアルタイムで測定し、そのデータは汎用性AIロボットであるヘパイトスに送られる。ヘパイトスは、それを元にヘティスのヘルスマネジメントを行っている。

ヘティス
「ねぇ、ヘパ」
「ナリッシュスティックを出して」
ヘパイトス
「了解」

ナリッシュスティックとは、ヘパイトスが3Dプリンターで作成した、シリアルとナッツとドライフルーツを混ぜて固めたスティック状の栄養補給食材である。

ヘティス
「あ~ん、も~、緑のものが入ってないじゃないの~」
ヘパイトス
「緑のものじゃわからない」
ヘティス
「“緑のもの”で学習して!」
「次からはドライベジタブルも入れてよね~。ほうれん草とかブロッコリーとか小松菜とかモロヘイヤとか」
ヘパイトス
「どれにするんだ」
ヘティス
「そんなのテキトーよ!」
ヘパイトス
「テキトーではわからない」

「テキトー」と言う言葉は人間には便利だが、ロボットには通じないようである。

ヘティス
「あーん、お腹すいてイライラしてきた!とにかく、今言ったの全部いれて!割合は20%くらい!」
ヘパイトス
「了解」
ヘティス
「とりあえず、これを食べたら祈りのモードに入るわ」

その頃、蓮也は神の冷気の中に身を置いていた。
蓮也は剣を抜き、それを地面に突き刺し、仁王立ちする形で立ち込める厳しい冷気に耐えていた。
足の裏の湧泉穴から、大地の暖かいエネルギーを吸い上げ、そのエネルギーで身体内部を温養しつつ、火属性魔法のバリアで外気を防ぐ。



蓮也
「火属性バリアは全開で張り巡らしているが、それでも冷気が浸透してくるは・・・」
「これが、エスメラルダが言う“神の冷気による禊(みそぎ)”か・・・」

しばらく蓮也はその場で耐えていたが、吹雪と冷気は更に強くなり、それはまるで神が蓮也に試練を与えているようであった。それなりの高いレベルの魔法を継続的に使用しているため、エネルギーも徐々に低下しつつある状態であった。

蓮也
「意識が朦朧(もうろう)としてくる・・・。神は俺に何を与えようとしているのだ・・・」

蓮也は意識が薄れゆく中で、走馬灯のようなものを見た。そして、自分が何のために生きるのかを考えた。そこで浮かんできたのは、兄・舞也とエウリディーチェの姿であった。そして、それを自分から奪った者たちの存在であった。



蓮也
「俺はここで死ぬわけにはいかない。兄上、エウリディーチェ、俺に力を貸してくれ・・・!」

すると、臍下丹田に陽気が発生し、その陽気が全身を駆け巡った。

蓮也
「こ、この感覚は・・・」

蓮也は子供の頃、教育係のゼイソンに言われたことを思い出した。



ゼイソン
「若は眉間のアジュナーチャクラが強すぎて、エネルギーが全てそちらに持っていかれるので、全身のエネルギーバランスを崩してしまいがちです」
蓮也
「そうなのか?俺にはよくわからない」
ゼイソン
「それと、胸のエネルギーが足りませぬな。胸の病にはお気をつけくだされ」
蓮也
「で、どうすればいいのだ、爺」
ゼイソン
「臍下丹田に集中しなされ。そこでしっかりと呼吸するのです。そして、そこに陽気を発生させ、それを全身の経絡に巡らすのです」
蓮也
「ん~、よくわかんないや」
ゼイソン
「まあ、そのうちわかりまするw」

全てが凍りつく極寒の地に身を置くことで、無意識に蓮也はゼイソンの言った通りにしていた。そして、蓮也の恒常性維持機能・ホメオスタシスが作動し、増血が骨髄増血から原始的な腸増血へとシフトしたのである。そして、その丹田の気血が全身の経絡を一気に解放していく。
蓮也が自己の体内に新しいシステムを獲得すると、風が穏やかになり、冷気が和らぎ、目の前に巨大な白い竜が現れた。

オオモノノヌシ
「我こそはオオモノノヌシ、この山の主である」
蓮也
「これが・・・、オオモノノヌシ」

この巨大な白龍から神々しいエネルギーを蓮也は感じ取った。

オオモノノヌシ
「よくぞ、ここまで耐え抜いた。褒めてやろう」
「我は心正しき者に力を授ける者なり」
「お前は何のために生きようとするのだ?」

理想の世界を創るために、蓮也は今まで戦い、パドマリアを治めてきた。しかし、その全てを虚しく失った。それ以来、何のために生きるか、ということを考えることはなかった。もしくは、できなかったと言っていい。そして、改めて考えようとした時に、瞬間的に出てきた感情を口にした。

蓮也
「俺の全てを奪ったサトゥルヌスを倒すためだ!俺がサトゥルヌスを八つ裂きにし、奴を地獄の底に突き落としてやる!二度とこの世に戻って来ぬようにだ!」
オオモノノヌシ
「その心境が正しいものであるならば、あの永久凍結の滝が破壊できるはずだ」
蓮也
「氷を砕くなど造作もないこと」

蓮也は剣を地面から抜き、構えた。

蓮也
「エンチャント・ウインド!」

そして、剣を水平に薙ぎ払う。

蓮也
「疾風波!」

鋭い空気圧が剣から放たれる。
永久凍結の滝に命中すると爆音が上がった。
しかし、凍った滝には傷一つつくことはない。

蓮也
「何・・・!手応えはあったはずだが・・・!」
オオモノノヌシ
「お前は心の使い方が間違っておる。心の使い方を間違う者に力を与えることはできぬ」
蓮也
「なんだと?俺の言うことのどこが間違っているというのだ!悪事を働く者は地獄に落ちて当然であり、この手で突き落とすのは正義であろう!」
オオモノノヌシ
「恨みからは間違った破壊しか起こらない。そして、その程度の威力しか発揮できない。それをこの谷神が物語っているのだ」
蓮也
「恨みを晴らして何が悪い。やられたらやり返すのが当然であろう。それが、何が間違っていると言うのだ!」
オオモノノヌシ
「私はそのような心の持ち主とこれ以上話そうとは思わない。ここを立ち去るがよい。貧しい心の持ち主よ」

オオモノノヌシがそう言うと、再び吹雪となり、強い冷気が立ち込めた。
蓮也は再び火属性バリアを張り巡らそうとするた、今度の冷気は今まで以上に強く、バリアを侵食して来る。

蓮也
「まずい・・・!」

蓮也は冷気を吸い込むと、それが肺にダメージを与え、それと同時に吐血した。
真っ白な雪の上に真っ赤な血が染まっていく。
蓮也は、膝を屈し、立てた剣にしがみ付くようにして、何とか身体を倒れないように保った。

蓮也
「・・・俺は、ここで終わるのか。兄上、エウリディーチェ、ゆるしてくれ・・・」

その頃、ヘティスは小屋の中で祈り続けていた。
そのヘティスの祈りは、蓮也へと通じるのであろうか。



【解説】
<禊(みそぎ)>
神道系の修行で禊(みそぎ)をやったことがある者は経験するが、冬場に冷たい水の中や滝に打たれてしばらくすると、身体が逆に暖かくなる現象がある。身体の本来あるシステムが、こうした修行によって作動しはじめるのである。
もう一つは、精神状態が無念夢想になるため、雑念・妄想という心の垢を削ぐための、精神面の禊でもある。
<臍下丹田と陽気>
臍下三寸の関元穴、その体表より奥を丹田とする。道術では呼吸によって陽気を発生させるが、本作品では禊によって陽気を発生させている。この陽気を任脈・督脈に巡らすことを小周天と言うが、経絡に巡らすこともある。ここでは蓮也の根本的な身体システム改善のために、この修行が設定されている。それによってサトゥルヌスを倒す確率が上がるのではないか、とヘティスは考えている。
<リフレクション>
人間は死を意識すると走馬灯を見ると言う。これは、そうした極限状態になると、過去の記憶から、どの記憶が生存に役立つかを脳が高速検索するため起こる現象である。ここでは、過去のゼイソンの教えの記憶がそれである。
<間違ったマインド>
「怒り」というマインドは自己を滅ぼす。怒ると副腎髄質からアドレナリンという物質が分泌される。これは緊急用のシステムとして生物に存在するのであるが、これを継続的にしていくと、その人の身を滅ぼすこととなる。それをオオモノノヌシは、間違った心の使い方である、と言うのだ。




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