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ハナツオモイの章
24.冥界序説
しおりを挟む二人はフラワリングビレッジの宿舎に戻ることとした。
ここで次の行動を決めるにあたって、サトゥルヌスを封印した経験者である五行英雄の一人、エスメラルダの助言があった方がよいと考えたからである。
蓮也は魔力と潜在系エネルギーを使い切ったため疲弊していた。ヘティスも神聖力を使い切っていた。そのため、帰ったその日は、二人とも疲労の回復のために休んだ。
それと、蓮也は諜報部隊長・モローの部下、バッシアから各地の様子の報告を聞いた。
バッシア
「・・・ということです」
蓮也
「わかった。ご苦労であった。引き続き、調査を続けてくれ」
バッシア
「ははっ!」
ヘティス
(この人もモローさんと同じで、窓から入って来て、窓から去って行ったわ・・・w)
夜、風呂と食事を済ませた二人は、お茶を飲んでくつろいでいた。
ヘティスは気がかりなことが一つあった。
未来から来たヘティスは、既存のロータジア史を知っている。そこには、蓮也の恋人であるエウリディーチェは死んではいないと言うことが書かれているのである。このことを蓮也に知らせた場合、恐らく蓮也は彼女の救出に向かうであろう、しかし、それは未来を変えてしまうことになるのであり、それは良い選択なのか、それとも悪い選択なのか、とヘティスは思うのであった。
ヘティス
(ここで私が彼女のことを言えば、織り込まれていない時空が発生してしまう)
(通常の場合、言わなくていいし、言わない方が無難なのだけど・・・)
(けど、それは一人の女性の命を見殺しにすることになる・・・)
(それと、エウリディーチェさんの蘇生がサトゥルヌスを倒す場合、何か関係するかどうか。それをしない場合、その時間と労力というリソースを別にかけた方がいいかどうか・・・)
しかし、ヘティスは思った。こうした場合、その人が何かに役に立つかどうかという利害関係、功利主義で考えるべきではない、と。
ヘティスはお茶を飲みながら、そんなことを考えていた。
ヘティスの膝の上にはネコのキキがいて、足下には犬のブーバがすり寄って来ている。
人間にとっての正しい行動原理とは何であろう。
それは、その人にとっての根底にある真理を感じる感覚である。そうした自分の根底にあるものに立ち戻って考えなくては、良い未来は開けないとヘティスは思った。
しかし、ヘティスにも我欲はある。それは、思春期の少女にとっては当然のことである。エウリディーチェのことを言ってしまえば、蓮也が自分の手の届かないところへ行ってしまう、と言う考えもあった。彼を自分に振り向かせたい、と思っていた。しかし、もし正しくないプロセスでそれを行うのであるならば、それは私を生きているのではない、とも思えた。
部屋の片隅には、ヘパイトスがスリープモードで蹲っている。膝の上にはキキ、足下にはブーバがいて、目の前には蓮也がいて、ゆったりとお茶を飲んで過ごしている。この時間がヘティスはとても幸せに感じた。
ヘティスは、自分の胸に手を当てると、ハートが綺麗なグリーンになっているのを感じた。
ヘティス
(パパも友達もいない、よくわからない世界に来てしまったけど、この一時(ひととき)は何か幸せだわ・・・)
(幸せ・・・、か)
(より多くの人が長い期間幸せになる、自分も含めたみんなの幸せを考える・・・)
(私だけの幸せは、私だけが決めればいいけど、私が本当に望むのは、それじゃない気がする・・・)
そんなことをヘティスは思っていた。
そして、ヘティスは口を開いた。
ヘティス
「・・・ねぇ、蓮也」
蓮也
「なんだ」
ヘティス
「エウリディーチェさんは生きているの・・・」
蓮也は少し驚いた様子であったが、すぐに元の表情に戻り、こう言った。
蓮也
「いや、それはない。モローの報告では、エウリディーチェの遺体が王墓に安置されたことが確認されているからな」
ヘティス
「私の未来の記録では、こうなの。エウリディーチェさんは、ゼイソンという魔法剣士によって仮死状態になっているだけなの。そして、その後に蘇生するんだけど、その頃には蓮也は、もう、この世にいないため、彼女も後を追って・・・、ってなってるの」
蓮也
「ゼイソン・・・、爺が、エウリディーチェを魔法によって仮死状態にしたとうことか。多分、爺ならそれが可能だ。そして解除も可能ははず。ということは、エウリディーチェ は生きているということであり、ゼイソンを探せばいいということだ」
蓮也の声が少し高揚している、それをヘティスは感じた。
そして、何となく悲しくもあった。
ヘティス
「そのゼイソンの項が、原本のページの紛失か何かで書かれていないの」
蓮也
「王国最強と言われたゼイソンならそう簡単に破れまい。恐らく兵をまとめて、どこかで生きているはずだ」
ヘティス
(このゼイソンって人もトンデモ級の人なのね・・・w)
この蓮也が高く評価するゼイソンという老剣士は、どのような人なのだろうとヘティスは思った。
蓮也
「モローの部下の報告では、ロータジア城は占領されておらず廃虚の状態になっている。だからすぐにでもエウリディーチェの救出は可能だ。しかし、蘇生するには、ゼイソンと同等レベルのリザレクションが必要になる」
ヘティス
「それなら、エスメラルダ先生ならできるかも・・・」
蓮也
「やはり、ここは再び彼女の力を借りるしかないな」
二人は次の日、エスメラルダの治療院を朝早くに訪れ、そして、そのことを話した。
エスメラルダ
「ゼイソン・・・、名前は聞いたことあるわ。ロータジア王国最高位の騎士であり、魔法の力も一流であると噂されている。その方の魔法コードがどれくらいのレベルで、それを私が解読できるかによるわね。後、リザレクションには私の生命力も必要なので、私の命がどこまで持つかにもよります」
蓮也
「いや、貴方の命を削る話ではない。それならゼイソンを探すまでだ」
ヘティス
「けど、ゼイソンは存命であるかはわからないのが現状よ」
エスメラルダ
「もう一つ方法があるわ」
蓮也
「・・・それは何だ」
エスメラルダ
「冥界へ行き、その彼女の霊を探し出し、それを現世に導き戻すのよ」
ヘティス
「そんなことが可能なんですか?」
エスメラルダ
「完全に死んでしまった霊魂を呼び戻すのは不可能だと思うけど、仮死状態であるなら、地獄も天国も行っていないはずだから、まず冥府にとどまるはずよ」
蓮也
「で、冥界へはどのように行くのだ」
エスメラルダ
「エレウシスの秘儀を用いることで冥界の門は開くわ」
蓮也
「・・・エレウシスの秘儀」
エスメラルダ
「このムーガイアには、エレウシスの秘儀によって冥界へ導くことができる者たちが何名かいると聞きます。その一人が月の祠(ほこらに)にいるツクヨミと言う者です。噂では不死であると言われている謎の人物です」
ヘティス
「不死ってことは死なないってことよね・・・。そんな人、本当にいるのかしら・・・」
蓮也
「俺は冥界へ行く」
エスメラルダ
「冥界、黄泉、根の国、ヴァルハラ、言い方は色々とあるけど、恐ろしいところよ。生きて帰ってこれる保証はないわ。それでも行くならお行きなさい」
ヘティス
「そう言えば、この前、蓮也は瞑想の中でわかんかなかったかもしれないけど、村を襲った奴が言ってたわ。冥界王ハーデスがサトゥルヌスに力をかしている、と」
エスメラルダ
「あの時のアスモデウスのオーラは、かつてのものよりも巨大で、確かに冥界のオーラを感じたわ」
蓮也
「なるほど、俺も瞑想の中で何か感じていたが、アスモデウス、多分、そいつが俺の腕を麻痺させた奴だ。また、その借りは倍返しにしてやる」
「そして、エウリディーチェ救出のついでに、そのハーデスに話をつけてくるとするか。もし、話が通じなければ、力づくで、そのハーデスにわからせてやる」
ヘティス
「蓮也、アンタ、その自信、どこから湧いてくるの?冥界に行ったことないんでしょ?」
蓮也
「自信がないよりもあった方が目的は達成しやすくなるだろう。ただ、それだけだ」
エスメラルダ
「私がアスモデウスから間接的に感じたハーデスのオーラはとても強大なものです。くれぐれも気をつけて」
蓮也は普段、表情を見せず、何か影すら感じさせるが、それとは対照的に、常に自信に満ちた彼に捉え所のなさを最初は感じた。そして、自信家と言うよりも、むしろ合理主義者である、と本人は言っている。しかし、どの姿の蓮也も、それは蓮也であり、ヘティスは徐々にそれらを理解し、受け入れつつあった。
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