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ハナツオモイの章

26.エレウシスの秘儀

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蓮也とヘティスは冥界へと行くために、ツクヨミからエレウシスの秘儀を受けることとなった。
冥界への儀式が始まると、侍女たちは音楽を奏で出す。そして、よい香りのお香が焚かれ、気分がよくなっていき、ヘティスたちは深い瞑想状態へと導かれていく。そこへツクヨミが不思議な抑揚のマントラを唱え出す。
数十分もすると、身体が軽くなり、浮遊した感覚が出てくる。



ツクヨミ
「・・・霊体解除、終了」
「二人とも、目を開けるがよい」
ヘティス
「えっ・・・」
蓮也
「・・・これは」



二人が目を開けると、その眼下に自分たちが瞑想している姿が見える。そして、自分たちの身体は透明な霊体になっており、空間に浮遊している。

ヘティス
「不思議な感覚・・・」
ツクヨミ
「これが、霊体が重力から解放された本来の感覚なのだ」
ヘティス
「・・・そう言えば身体が軽いわ」
ツクヨミ
「今の身体がエーテル体の状態だ。冥界に行くには、そのエーテル体を脱ぎ捨ててアストラル体とならねばならない」
ヘティス
「なんか蛇が脱皮するみたいねw」
ツクヨミ
「あの侍女たちを見よ。彼女らの背後に薄らとあるエネルギー体がエーテル体だ」
ヘティス
「へぇー、ホントだ」
「・・・あれ!?あの子のエーテル体とあの子のエーテル体が抜け出して抱き合ってる・・・。逆に、喧嘩してるのもいるし・・・」
ツクヨミ
「エーテル体は無意識に作用する。だから、彼女らがどのような行動を取るか、もしくは既に取っているかがわかるのだ。もちろん、私のように修行によってエーテル体やアストラル体をコントロールできる者もいる」
ヘティス
「そうなんだ・・・、何かわかっちゃうって怖いわ・・・」
「けど、とりあえず霊体だけど服はちゃんと着てるみたいだし、すっぽんぽんじゃなくってよかった・・・w」
ツクヨミ
「霊体は生前のイメージが関係する。無意識にある心像が霊体に反映するのだ」
ヘティス
「なるほどね~、私はこちらの世界に来て、この服のイメージが潜在意識に定着しているのね」
ツクヨミ
「そして、冥府も多くの人間のイメージが集合したものだ。各文明で読み聞かせられた物語により、人々の無意識が作り出すのがあの世の世界なのだ」
ヘティス
「てことは、あの世ってのは、イメージで世界が変化するし、自分の良いと思う世界を創り出すことができるのね!」
ツクヨミ
「まあ、そういうことだ。しかし、一人が創り出す力は微々たるものだ。その創造力を養うのが、この世での修行なのだ」
ヘティス
「てことは、この世にやってくるのは、理想のあの世をつくるための修行の場なの?」
ツクヨミ
「というのが我々の教義だ」
「帰って来たらお主たちも我が教団に入信するとよいだろう」
ヘティス
(ここ、宗教団体だったのねw)
「そ、そうね・・・。考えとくわ・・・w」
ツクヨミ
「さあ、二人とも、そのエーテル体の状態で、更に瞑想を深めよ」

瞑想の中で瞑想をする。
冥界へ行くには、そうしたフラクタルな世界を体験する。

ヘティス
(私の中に私がいて、それがエーテル体で、その私の中に更に私がいて、それがアストラル体?どっかの国のマトリョーシカっていうお人形さんみたい・・・)

再びツクヨミがマントラを唱えると、今度は、意識がクリアな感覚になった。そして上下左右前後が消える不思議な感覚になった。

ツクヨミ
「アストラル投射、終了」
「さあ、再び目を開けよ」

二人が目を開けると、今度は真っ暗な世界に佇(たたず)んでいた。そして、遠くに星々が煌めいている。

ヘティス
「ここは宇宙空間?お星様が一杯で綺麗・・・」
ツクヨミ
「そうではない。ここは冥府の一歩手前だ。遠くの光は星ではなく、魂たちの発するエネルギーだ」
ヘティス
「そう言われてみれば、少し輝き方が違う気も・・・」
ツクヨミ
「今から地上へ向かう魂は強い輝きを放ち、去って行く魂は輝きを失っている。その魂の輝きというエネルギーを補充しにいくのがあの世と言う世界だ。エネルギーに満ちた世界、別名、常世とも言う」
ヘティス
「魂にも充電が必要なのね。それが切れると死ぬってことかしら」
ツクヨミ
「そういうことだ」
「さて、私の案内はここまでだ。ここからオーラと光を感じる方向へと進むがよい。お前たちのレベルならわかるはずだ。三日後に迎えにくる。ただし、ハーデスには関わるな。お前たちが敵(かな)う相手ではない」

そうツクヨミは言うと、光とともに消えていった。

蓮也
「よし、行くぞ」
ヘティス
「うん」

二人はツクヨミが言ったように、強いオーラと光が感じられる方向へと進んだ。進む方向は、上下なのか、前後なのか、方向感覚はまったくわからなかった。この次元では、上下左右前後というものはなく、基準は目的とする光とオーラである。
巨大なオーラは冥府から来るものであり、光は太陽のような輝きではなく、月の光のように恍惚としたものであった。
その恍惚とした光のトンネルを二人は抜けて行くと、空間の雰囲気が変わり、再び、重力のようなものを感じた。

ヘティス
「きゃあ・・・!」

二人の身体は急に落下した。
蓮也はヘティスの身体を抱きかかえ、地面へと着地した。

ヘティス
「あ、ありがとう・・・」
蓮也
「ああ」
「それより、ここが冥界なのだろうか」
ヘティス
「地面があるわね。殺風景で岩ばっかだけど・・・」
「・・・みんな、こういうイメージをあの世に描いているのかしら」

しばらく進むと言葉では表現することができないような大きさの岩で囲まれた空間があり、その岩の壁には無数の穴が開いている。そこへは人が入ったり出て来たりしている。

ヘティス
「エスメラルダ先生が言ってたわ。これがミリオンゲート。冥府に行くには、この100万あるとされる穴の中から一つしか通じるところがないそうよ」
蓮也
「さて、どこから行くかな」
ヘティス
「私、運は結構いい方なんだけど、今回は全然自信ないわ・・・w」

そこへ何かが近づいてきた。

声1
「ハアーイ!そこのキミたち!」
声2
「冥界へ、ようこそ~!」

二人のキューピットであった。
年齢は10~13歳くらいの子供であり、背中に羽が生え、空中を浮遊している。

ヘティス
(・・・何か変なの来たw)
「アナタたちは誰・・・?」
エロス
「ボクはエロスって言うんだ」
タナトス
「オレはタナトスって言うんだ」
エロス
「ボクたちは冥界の案内人さ」
タナトス
「だから案内はオレたちにまかせてくれよ」
ヘティス
「そー言えば、エスメラルダ先生は、ミリオンゲートを通過するには、ガイドが必要だって言ったけど、ガイドってこの子たちなのかしら?」
「けど、こんな子供で大丈夫なのかしら?」
エロス
「失敬な!ボクはキミよりも年上だよ!だって100万歳だからね!」
タナトス
「あれ?100万500歳じゃなかったっけ?」
エロス
「500歳くらいは誤差だろ?そんなのもう数えてないよ!」
タナトス
「そうだな、誤差だな!」
ヘティス
(どーみても子供だし、話し方も子供っぽいし・・・w)
「ふーん、じゃあ、キミたちに案内してもらおうかしらw」
蓮也
「何者かよくわからない者に案内されたいとは思わない。俺は俺がよいと思った道をゆく」

と言って蓮也は歩き出した。

ヘティス
「え~、蓮也~、待ってよ~!」

二人は、100万ある中の一つのゲートに入ってみた。
通路の両脇には一応ランプがあるが、通路は薄暗い。
奥まで進むと、小さな部屋がある。

ヘティス
「キャァ!」

地面には無数の屍(しかばね)が転がっている。

エロス
「みんな、ここで死んじゃうんだ」
タナトス
「オレたちの案内がないからな」
エロス
「ボクたちが案内することなんて滅多にないし、超ラッキーなのに」
タナトス
「だよなぁ。せっかくのチャンスなのに」
ヘティス
「あれ、ここってあの世か、あの世に近いところなんでしょ?それなのに死んじゃうの?」
エロス
「そりゃ、あの世でも死ぬさ」
タナトス
「再び死ぬって書いて“再死”って言うんだぜ」
ヘティス
「で、あの世で死ぬとどうなるの?」
エロス
「再死すると輪廻するのさ」
ヘティス
「輪廻って、生まれ変わるってことよね」
タナトス
「煩悩のあるものは生まれ変わるのさ」
エロス
「ミリオンゲートを通るのを諦めると、気力が抜けて再死になるから気をつけて!」
タナトス
「こんなところで再死するとヤバイからな。冥府でエネルギーを充電しないまま輪廻すると、人生最悪になるから気をつけた方がいいぞ!」
ヘティス
(ここで私たちが輪廻しちゃうと歴史が変わってしまうわ・・・。何とかしないと)

蓮也とヘティスは何度もミリオンゲートにトライしたが、全て行き止まりであった。

ヘティス
「はぁ、はぁ・・・、あの世でも疲れたりするのね・・・」
蓮也
「そのようだな」
ヘティス
「も~、限界だわ・・・!」
「蓮也、次は私がどのゲートを通るか決めるわ!w」
蓮也
「わかった、やってみろ」

ヘティスは胸に手を当て、自分のハートに聞いてみた。

ヘティス
(ハートって花びらみたいなのが二枚だけど、今日は何か四枚に感じるわ)
(・・・これって四葉のクローバーみたい)
(そっか、これが幸運のエネルギーよ!)

ヘティスのグリーンハートは光を発し、一つのゲートを指し示した。

ヘティス
「あのゲートよ!」
エロス
「あー、あのゲートは!」
タナトス
「うー、あのゲートは!」

ヘティスと蓮也はゲートを進むと、今度は、通路がどこまでも繋がっていた。
そして、そこを抜けると、薄暗く霧がかった異様なエネルギーが満ちた世界へと出た。天井は空だが、暗雲が覆っており、光は一切存在しない。

エロス
「キミ、すごいね!」
タナトス
「一発で当てるとは何者なんだ?」
ヘティス
「私はグリーンハーティス!」
「だから、私、超運いいのよw」
(そっか、私が運がいいのは、このグリーンハートの導きに従っていたからなのねw)
エロス
「この霧の向こうが冥府だよ!」
タナトス
「あと少しで冥府だな~!」

ヘティスは、常に自分は運がいい人間だと思っていた。その運の良さは、自分の心に素直であることであり、その心の自然な働きに身を任せることで発揮されるのだと思った。
ところで、このエロスとタナトスというキューピットは何者なのだろうか。そして、ヘティスと蓮也は冥府へとたどり着けるのだろうか。

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