天然イケメン騎士と可愛い小悪魔な俺の噛み合わない日々

浅倉喜織

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ビッチ(処女)、飲み屋で勇者と再会する

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 王都アディントンは、夜になっても眠らない。広い通りは旅行者や冒険者、商人で賑わい、軒を連ねる飲食店からは美味そうな匂いと共に、威勢の良い店員の声が聞こえてくる。
 人混みを縫うように歩き、お目当ての店を探した。
 俺の隣で、赤ちゃん使い魔が一人地図を持ってパタパタ飛んでいる。置いて来たはずなのに、こいつは勝手について来た。まぁ、一人だからいいか。

「あっち、あっち、あっちっち!」

 地図を眺めていた使い魔が、十字路を右に曲がる。こいつの道案内は七割は間違っているが、言う通りにしてやらないとギャンギャン泣き出す。仕方なく従って通りを曲がると、ネイサンが勤めている店の看板が見えた。残り三割を引き当てたか、褒めてやろう。
 扉を開けると喧騒が俺を出迎えた。テーブル席は満席。繁盛してやがる。

「いらっしゃ……あ! アシュリー様!」

 カウンターの内側で調理をしていた獣人が、俺を見つけて目を丸くした。ネイサンだ。相変わらず図体がでかい。俺の倍はある。かつてはがっちりとした甲冑に身を固めていたが、今はシャツとバンダナという軽装だ。他の店員たちとお揃いの黒いエプロンで手を拭き、カウンター席を勧めた。

「アシュリー様、本当に来てくださるとは思いませんでしたよ」
「部下が何をやってるか気になっただけだよ」

 ジョッキに酒を注ぎ、ネイサンはニコニコと人懐こく笑った。こいつ接客業向いてたんだな。
 渡された酒で喉を潤す。赤ちゃん使い魔は床に座りジュースをもらっていた。

「再就職できたんだな。ま、おめでとさん」
「ありがとうございます。アシュリー様は何をしてるんですか?」
「俺ぇ? 俺は騎士団長の屋敷で居候してるよ」
「騎士団長のところに? これはまたすごいところにいますねぇ」

 どうしてですか?とは聞かない。ネイサンは他人のことを根掘り葉掘り聞かないタイプだ。そこが気に入っていた。

「夜に飲みに来てよかったんですか? 居候なら、勝手に出歩くのも気を使うでしょう」
「今夜は勇者様歓迎の宴があるんだとよ。だから出歩いていいって言われたんだ」
「え? ゆ、勇者? 彼なら……そこにいますが」

 こいつ何言ってんだ。ネイサンは、俺の後ろに位置するテーブル席を指差した。振り返ると、冒険者風の若者たちが笑いながら酒を飲んでいるのが見えた。その中心にいる、黒い短髪に真っ青のマントを着けた男……見覚えがあった。
 魔王様を倒した勇者その人だったのだ。

「あ! て、てめぇ! この勇者バカ野郎!」

 よく分からない言葉を吐いてしまった。俺の声に勇者は顔を向ける。大きく目を見開いて、俺を指差した。

「あっ! お前、魔王軍の子連れビッチ!」
「やめろその言い方! 俺が男遊びが激しい人妻みてぇじゃねーか!」

 勇者は若者たちに軽く何かを言って、ジョッキ片手に俺の隣に座った。
 なんで当たり前のように隣に来るんだよクソが。

「久しぶりだなぁ。どう? 最近」
「どう? じゃねーよ。絶賛無職中だわ。てめぇのせいでな! お前、お城でパーティーしてんじゃねーのかよ」
「あー、パーティーね。俺ああいうの苦手でさ。抜けて来たんだわ。飯も酒も口に合わないし。こういうとこの方がいいんだよね」

 まぁ、それは分かる。ぐびりと酒で喉を潤し、ネイサンにつまみを注文した。

「庶民的な勇者様だな、おい。我らが魔王様を倒して、お姫様と結婚してるかと思ったら、また旅に出てるみてぇじゃん? どんだけお前旅が好きなんだよ」
「別に好きじゃねぇし。第一、お姫様と結婚とか無理だから。俺、元々は漁師の息子だからね? たまたま伝説の剣引っこ抜いて勇者やってただけだから」
「じゃあ網でも編んでろよ」
「それがさぁ! いやネイサンも聞いてくれよ。親父もおふくろも俺が勇者になって魔王倒してから浮かれちまってさ。漁業辞めて変な商売始めちまったんだよぉ。もう見てらんなくて、村出て来たってわけよ」

 どんな商売を?とネイサンが山鳥の燻製を俺に出しながら問う。こいつもう完全に飲み屋の店員だな。

「なんか人を集めて鍋やら包丁買わせて、会員になって友達紹介したらさらに金がもらえる……みたいな」
「やっべぇな、それ! 怪しさ満点じゃねーか!」
「それは変な商売ですねぇ」
「だろ? だろ? 普通に魚獲ってた方がいいっつーのにさぁ! マジ意味分かんねぇわ」

 俺たちにつられて、床に座っていた赤ちゃん使い魔もケタケタ笑っていた。憎き勇者のはずなのに、酒の席だからか普通に俺も会話してる。つまみを口に放り込み咀嚼しながら問い掛ける。

「それでぼっち旅かよ。ウケる。魔王様ボコった他の奴らはどうしたんだよ」
「可愛い顔して食いながらしゃべんなよ。他の奴らは普通に仕事してるよ。ってかさぁ! これも聞いてくれよ! いやマジ俺きついわぁってなったことあんだよ!」

 もう勇者は完全に飲み屋の親爺モードだ。めんどくせぇ客じゃん。それでもネイサンは笑顔で「どうしましたか?」と聞いてあげてる。ネイサン優しい、マジ聖人。

「俺のパーティに魔法使いいたの覚えてる?」
「あぁ、いましたね。若い娘でしょう? 私に炎魔法をぶちこんだ子ですね」
「あーいたいた。前髪に定規当ててナイフで切ったみてぇな子だろ?」
「そうそう。その子。俺さぁ、その子と結構いい感じだったわけよ。向こうもさ、勇者様のお嫁さんになったら私も幸せになれるかな、とか言ってさぁ。私には勇者様しかいないのとか。俺もその気になってたんだけど、そいつ魔王倒したらちゃっかり戦士とデキてやがったんだよ!」

 思わず酒を噴きそうになった。やべぇ、その女パーティクラッシャーじゃん。

「マジで!?」
「いやマジ。本当、マジで盛ってないから。俺と一緒になろうぜと言おうと思ってたのに、私には戦士様しかいないの、勇者様しつこくて怖いとか言い出してさぁ! 何これ俺悪役じゃんみたいな? 二股かよぉー! ってなったわ」
「それは災難でしたねぇ、勇者さんも」
「うっは! やべぇ、勇者の不幸で酒がうめぇ」

 他人の不幸は最高の肴になる。しかもそれが勇者となれば格別だ。性格が悪い?でも俺は可愛いから許される。可愛いは最強。
 ジョッキの中身を一気に飲み干し、二杯目を注文したのだった。
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