最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~

猪本夜

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34 社交界デビュー

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 次の日、昼からパーティーの準備のために、体を磨いたり、化粧したり、髪をセットしてもらったりして、あっという間に夕方になった。

「旦那様」

 アカリエル別邸の玄関ホール、二階から階段を降りながら、執事と話をしていたルークに声を掛ける。

「……アリス」

 驚いた表情を浮かべたルークは、笑みを浮かべて私に手を伸ばした。その手を取りながら、一階の床を踏む。

「綺麗だ。……すごく、綺麗だ」
「ありがとうございます。旦那様も、とても素敵です」

 私など足元にも及ばないほど、パーティー服に身を包んだルークは麗しかった。昨日購入したサファイアのタイブローチもしていて、私のネックレスとお揃いだ。

 ルークは私から視線を外さないまま、私の指先にキスを落とす。そこかしこで、女性の使用人のうっとりした声が聞こえる。ルークは色気を振り撒きすぎだ。私もノックアウト寸前で、どうにか立っているという情けなさ。

「……やっぱり、今日は行くのを止めようか」
「……? どうしてですか?」
「このまま俺だけでアリスを愛でていたい――」
「さあ、出発しましょうか!」

 ルークを引っ張るように歩き出す。

「アリスと二人の方が俺は楽しいのに」
「今日は皇帝陛下への挨拶もあるのですよ! 出ないわけにはまいりませんわ!」

 時々ルークは本気か冗談か分からないことを言うから困る。

 私たちは馬車に乗り込み、出発した。

 皇宮の敷地は広い。皇宮の中の一つの豪華な宮殿に、次々と、今日のパーティーの参加者を乗せているであろう馬車が到着していく。

 アカリエル公爵家の紋章のある馬車が到着して、私とルークが降りると、一斉に視線が集まった。ルークは普段、パーティーには一人で参加していたという。愛人を連れて行く貴族もいるが、ルークはそういったことはしていなかったらしい。だからか、普段一人のはずのルークが、女性を連れているということが、きっと衝撃だったに違いない。

 ルークにエスコートされながら、私たちは会場入りした。
 今日は私の初顔出しということで、ルークが懇意にしている貴族と挨拶回りから始めた。そうこうしているうちに、皇帝夫妻が会場入りした。ルークは私を連れて、皇帝夫妻の元へ挨拶に行く。

「陛下」
「アカリエル公爵、公爵夫人、よく来てくれた」

 ルークに気づいた皇帝は、ルークと和やかに挨拶して、私に笑みを向けた。

 実は皇帝は、ルークより少し年上だが、ルークが通ったテイラー学園での親友にあたるらしい。前もって、今日のパーティーには、私を連れて行くことをルークは説明している、と言っていた。

 本来であれば、この国の貴族の令嬢は、十代のうちに皇帝に挨拶をするという、社交界デビューという儀式みたいなものがある。ただ、私は普通の令嬢ではなかったし、貧乏すぎて社交界デビューなんて夢のまた夢。この度、ルークの妻として紹介してもらうことを、簡易的な社交界デビューの場にしてもらう、とルークが皇帝に手を回してくれたのだ。

「お初にお目にかかります、皇帝陛下、皇妃陛下。ルーク・ル・アカリエルの妻、アリスでございます。この度は、ご招待いただきありがとうございます」
「公爵夫人、こちらこそ、ルークの夫人に会えて嬉しいよ。私がどれだけ紹介するように、とつついても、一向に連れてくる気配もなくてね。隠し立てするのが不思議だったのだが、今日納得した。これだけ美しい夫人を娶ったとなれば、ルークが他の目から隠したくなるのも分かる」
「……陛下」
「ははは、そう目を吊り上げるな。ルークにも、妻を愛しく思う気持ちを知ってくれて嬉しく思うよ」

 皇帝は皇妃を見て笑みを浮かべた。皇帝夫妻は、相思相愛なのが見てわかる。

「せっかくルークにも妻ができたんだ。そのうち、いつものところで会えることを楽しみにしている」

 皇帝への挨拶待ちをしている人がたくさんいるので、私たちはそこで皇帝夫妻とは別れた。これで私は簡易的な社交界デビューが済んだことになる。

「陛下がおっしゃられていた、いつものところとは?」
「ああ、それは――」

 ルークには、テイラー学園時代にできた親友が三人いる。皇帝、北公ダルディエ公爵、東公ラウ公爵である。三人ともすでに結婚していて、それぞれの妻を交えて、時々集まって気楽にお茶会や食事をしたりするらしい。次回から、その場に私も交えて交流を深めよう、ということのようだ。。なんだかすごいメンバーで緊張しかしない。

 皇帝の次は、すぐ近くにいた、ルークの親友の一人、ダルディエ公爵夫妻に挨拶した。

「本日、アカリエル公爵の夫人に会えると聞いていましたから、とても楽しみにしていました。わたくしのことは、ぜひフローリアとお呼びになって」

 ダルディエ公爵夫人は、柔らかくて優しい雰囲気で、話しやすそうな方だった。

「ありがとうございます、フローリア様。わたくしのことも、アリスと呼んでくださると嬉しいです」

 その後、もう一人の親友のラウ公爵夫妻も紹介してもらう。
 ルークの親友夫妻たちは、みな美男美女ばかりで、迫力がある。身分も上位の人たちばかりで、私なんて昔であれば、話しかけるなんて以ての外なのに、私にも優しく話してくれる、いい人たちばかりだった。

 その後も、他の貴族とも挨拶していく。

(この視線、久々だわ……)

 私とルークに集まる視線の内、嫉妬のような絡みつく視線が令嬢や夫人から刺さる。

 前世の兄の周りで、私はこういった視線によく絡まれた。私と兄は両親も同じ兄妹で、兄から雑な扱いを受ける、まったく羨ましくもない妹という存在に、なぜか集まる嫉妬の視線。原因は分かっていた。いろんな誘いが面倒になると、妹の面倒を見なくてはならないから、といい兄ぶって、妹を誘いの断りの理由に上げていた兄のせいである。

 あまり嬉しくない視線も浴びながら、社交界デビューの日をなんとか無事に終えるのだった。
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