118 / 132
最終章
118 虎の威を借る狐1
しおりを挟む
リンケルト家に住み始めて一ヶ月以上経過した。ウィザー家の料理長も一緒に引っ越してきており、流雨がウィザー家用のキッチンも作ってくれているため、料理長はいつも腕を振るっている。そのため、流雨はリンケルト家ではなくウィザー家で普段は私と一緒に食事をすることにしている。ユリウスがいなくなって寂しがる私の相手をしてくれる流雨は優しい。
週に一度ではあるが、リンケルト家の公爵と姉オリヴィアとも夕食を共にしている。今のところ、何も問題はなく、仲良くできていると思う。
その日は天気のいい休日だった。昼からは流雨と外へデートに出かける予定だったが、午前中は私はのんびりと過ごそうと双子のヴィーとディーと研究室で楽しく話をしているときだった。ライナに、化粧品店に外国のエキュール帝国の商会が商談のために会って欲しいと来ていると、連絡をもらった。午前中なら時間があるため、私は商会と商談をすることにした。
流雨は午前中は仕事をしているため、流雨に話だけしていこうと流雨の執務室を訪ねた。ノックをして執務室を開けると、流雨が執務椅子に座り、執務机の前に立つアルベルトと話をしていた。
「るー君、ちょっとだけいい?」
「いいよ。おいで」
流雨に近づき、執務机を回って流雨の横に行き流雨が伸ばした手を握った。
「少しだけ出かけてくるね。昼には戻るから。化粧品店にエキュール帝国の商会の人が来ているみたいだから、少し話をしてくる」
「エキュール帝国の商会?」
「ザザ商会というところでね、いつもはユリウスが対応してくれていたんだけれど、担当の人には私も何度かは会ったことがあるの。たぶん、取引量を増やしたいとか、そういうことだと思う。うちは対応できないとは言っているんだけれどね、時々諦められないのか取引量の相談をされるの」
「……分かった。エマを連れて行くんだよ」
「うん」
流雨の頬にキスをして、踵を返そうとしたら、流雨に腕を引っ張られた。いつの間にか立ち上がった流雨が、私の唇にキスをした。
「……っるー君! アルベルトが見ているのに!」
「アルベルトしか見ていないよ」
真っ赤になる私に、流雨が笑みを返す。初めて流雨と唇にキスしてから、流雨は不意打ちでキスしてくることがある。せめて誰もいないところでしてくれないだろうか。アルベルトが生暖かい目で私たちを見ている。
恥ずかしいから逃げるように流雨の執務室を出た。流雨は元は日本人である。日本人は堂々とキスをしないのが普通だと思っていたのだが、流雨には当てはまらないようだ。帝国では恋人同士であれば人前でキスするのは一般的だけれど、私以上に流雨は帝国人に馴染んでいる。
エマを連れてリンケルト家の馬車にて私は我がウィザー家の化粧品店へ向かった。護衛のエマを流雨が付けてからというもの、死神業でも他のことでも、流雨はエマを必ず連れて歩くよう言った。
流雨と婚約したことが公になる前、ウィザー家の化粧品事業のライバル店のオーナー、ミルトマンと次男が問題を起こした件だが、流雨が調べたところ、次男と私を婚約させたらどうか、とミルトマンを焚きつけた者がいたのが分かった。ミルトマンの化粧品店で雇っている従業員は、低賃金で働き、ミルトマンの無理難題の締め付けもあったのか、従業員が逃げ出す事態が起きていたらしい。
従業員に対する怒りを、ミルトマンがクラブで酒を飲みながら言っていたところ、私が婚約者候補に逃げられているから、次男と結婚させて我が家の店と合併すれば、ミルトマンの店は大きくなるとか唆されたようだった。その唆した相手は、ミルトマンが酔っていたからか誰なのか定かではない。
それからというもの、流雨が心配して、私が出かける時だけでなく、誰かと会う時も必ずエマを連れて行くようにとのことで、エマと一緒にいるのもすっかり慣れてしまった。
ちなみにだ、ミルトマンは化粧品店以外にも事業はしているものの、化粧品店に限っては店が潰れることになった。私が次男に暴力を振るわれそうになったことが流雨を怒らせたようで、警察に突き出すだけでは済まなかったのだ。私に暴力を振るいそうになった、というだけでは、警察は厳重注意だけで済ます。だから流雨は裏から手を回したのだ。
流雨曰く、リンケルト家の力を使わずとも、叩けば埃の出るやり方で事業を営むミルトマンを追い込むのは簡単と、ミルトマンの化粧品店を客の来ない店に仕上げ、従業員の訴えなども新聞にリークし、あっという間に店は借金まみれで店じまいすることになった。流雨は化粧品店以外の店や事業は温情で潰さないでおく、と言っていたけれど、他の事業は繁盛しているとは言い難いため、温情になるのか不明である。
流雨はやりすぎではなかろうかと思うが、ミルトマンの化粧品店は、人体に毒性のある成分を使っていて、注意されていたにも関わらず使い続けていたようなので、仕方ないとも思っている。今後は心を改めて頑張ってほしい。
とにかく、今後同じようなことがあれば心配するからと、もし変なことを言ってくる相手には、「私はルーウェン・ウォン・リンケルトの婚約者」だと流雨が言うように、とのことだった。それって、虎の威を借る狐では、と思ってしまうが、流雨が『使えるものは親でも使え』というから問題ない、というので、今後はそうすることにしている。
週に一度ではあるが、リンケルト家の公爵と姉オリヴィアとも夕食を共にしている。今のところ、何も問題はなく、仲良くできていると思う。
その日は天気のいい休日だった。昼からは流雨と外へデートに出かける予定だったが、午前中は私はのんびりと過ごそうと双子のヴィーとディーと研究室で楽しく話をしているときだった。ライナに、化粧品店に外国のエキュール帝国の商会が商談のために会って欲しいと来ていると、連絡をもらった。午前中なら時間があるため、私は商会と商談をすることにした。
流雨は午前中は仕事をしているため、流雨に話だけしていこうと流雨の執務室を訪ねた。ノックをして執務室を開けると、流雨が執務椅子に座り、執務机の前に立つアルベルトと話をしていた。
「るー君、ちょっとだけいい?」
「いいよ。おいで」
流雨に近づき、執務机を回って流雨の横に行き流雨が伸ばした手を握った。
「少しだけ出かけてくるね。昼には戻るから。化粧品店にエキュール帝国の商会の人が来ているみたいだから、少し話をしてくる」
「エキュール帝国の商会?」
「ザザ商会というところでね、いつもはユリウスが対応してくれていたんだけれど、担当の人には私も何度かは会ったことがあるの。たぶん、取引量を増やしたいとか、そういうことだと思う。うちは対応できないとは言っているんだけれどね、時々諦められないのか取引量の相談をされるの」
「……分かった。エマを連れて行くんだよ」
「うん」
流雨の頬にキスをして、踵を返そうとしたら、流雨に腕を引っ張られた。いつの間にか立ち上がった流雨が、私の唇にキスをした。
「……っるー君! アルベルトが見ているのに!」
「アルベルトしか見ていないよ」
真っ赤になる私に、流雨が笑みを返す。初めて流雨と唇にキスしてから、流雨は不意打ちでキスしてくることがある。せめて誰もいないところでしてくれないだろうか。アルベルトが生暖かい目で私たちを見ている。
恥ずかしいから逃げるように流雨の執務室を出た。流雨は元は日本人である。日本人は堂々とキスをしないのが普通だと思っていたのだが、流雨には当てはまらないようだ。帝国では恋人同士であれば人前でキスするのは一般的だけれど、私以上に流雨は帝国人に馴染んでいる。
エマを連れてリンケルト家の馬車にて私は我がウィザー家の化粧品店へ向かった。護衛のエマを流雨が付けてからというもの、死神業でも他のことでも、流雨はエマを必ず連れて歩くよう言った。
流雨と婚約したことが公になる前、ウィザー家の化粧品事業のライバル店のオーナー、ミルトマンと次男が問題を起こした件だが、流雨が調べたところ、次男と私を婚約させたらどうか、とミルトマンを焚きつけた者がいたのが分かった。ミルトマンの化粧品店で雇っている従業員は、低賃金で働き、ミルトマンの無理難題の締め付けもあったのか、従業員が逃げ出す事態が起きていたらしい。
従業員に対する怒りを、ミルトマンがクラブで酒を飲みながら言っていたところ、私が婚約者候補に逃げられているから、次男と結婚させて我が家の店と合併すれば、ミルトマンの店は大きくなるとか唆されたようだった。その唆した相手は、ミルトマンが酔っていたからか誰なのか定かではない。
それからというもの、流雨が心配して、私が出かける時だけでなく、誰かと会う時も必ずエマを連れて行くようにとのことで、エマと一緒にいるのもすっかり慣れてしまった。
ちなみにだ、ミルトマンは化粧品店以外にも事業はしているものの、化粧品店に限っては店が潰れることになった。私が次男に暴力を振るわれそうになったことが流雨を怒らせたようで、警察に突き出すだけでは済まなかったのだ。私に暴力を振るいそうになった、というだけでは、警察は厳重注意だけで済ます。だから流雨は裏から手を回したのだ。
流雨曰く、リンケルト家の力を使わずとも、叩けば埃の出るやり方で事業を営むミルトマンを追い込むのは簡単と、ミルトマンの化粧品店を客の来ない店に仕上げ、従業員の訴えなども新聞にリークし、あっという間に店は借金まみれで店じまいすることになった。流雨は化粧品店以外の店や事業は温情で潰さないでおく、と言っていたけれど、他の事業は繁盛しているとは言い難いため、温情になるのか不明である。
流雨はやりすぎではなかろうかと思うが、ミルトマンの化粧品店は、人体に毒性のある成分を使っていて、注意されていたにも関わらず使い続けていたようなので、仕方ないとも思っている。今後は心を改めて頑張ってほしい。
とにかく、今後同じようなことがあれば心配するからと、もし変なことを言ってくる相手には、「私はルーウェン・ウォン・リンケルトの婚約者」だと流雨が言うように、とのことだった。それって、虎の威を借る狐では、と思ってしまうが、流雨が『使えるものは親でも使え』というから問題ない、というので、今後はそうすることにしている。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる