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最終章
118 虎の威を借る狐1
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リンケルト家に住み始めて一ヶ月以上経過した。ウィザー家の料理長も一緒に引っ越してきており、流雨がウィザー家用のキッチンも作ってくれているため、料理長はいつも腕を振るっている。そのため、流雨はリンケルト家ではなくウィザー家で普段は私と一緒に食事をすることにしている。ユリウスがいなくなって寂しがる私の相手をしてくれる流雨は優しい。
週に一度ではあるが、リンケルト家の公爵と姉オリヴィアとも夕食を共にしている。今のところ、何も問題はなく、仲良くできていると思う。
その日は天気のいい休日だった。昼からは流雨と外へデートに出かける予定だったが、午前中は私はのんびりと過ごそうと双子のヴィーとディーと研究室で楽しく話をしているときだった。ライナに、化粧品店に外国のエキュール帝国の商会が商談のために会って欲しいと来ていると、連絡をもらった。午前中なら時間があるため、私は商会と商談をすることにした。
流雨は午前中は仕事をしているため、流雨に話だけしていこうと流雨の執務室を訪ねた。ノックをして執務室を開けると、流雨が執務椅子に座り、執務机の前に立つアルベルトと話をしていた。
「るー君、ちょっとだけいい?」
「いいよ。おいで」
流雨に近づき、執務机を回って流雨の横に行き流雨が伸ばした手を握った。
「少しだけ出かけてくるね。昼には戻るから。化粧品店にエキュール帝国の商会の人が来ているみたいだから、少し話をしてくる」
「エキュール帝国の商会?」
「ザザ商会というところでね、いつもはユリウスが対応してくれていたんだけれど、担当の人には私も何度かは会ったことがあるの。たぶん、取引量を増やしたいとか、そういうことだと思う。うちは対応できないとは言っているんだけれどね、時々諦められないのか取引量の相談をされるの」
「……分かった。エマを連れて行くんだよ」
「うん」
流雨の頬にキスをして、踵を返そうとしたら、流雨に腕を引っ張られた。いつの間にか立ち上がった流雨が、私の唇にキスをした。
「……っるー君! アルベルトが見ているのに!」
「アルベルトしか見ていないよ」
真っ赤になる私に、流雨が笑みを返す。初めて流雨と唇にキスしてから、流雨は不意打ちでキスしてくることがある。せめて誰もいないところでしてくれないだろうか。アルベルトが生暖かい目で私たちを見ている。
恥ずかしいから逃げるように流雨の執務室を出た。流雨は元は日本人である。日本人は堂々とキスをしないのが普通だと思っていたのだが、流雨には当てはまらないようだ。帝国では恋人同士であれば人前でキスするのは一般的だけれど、私以上に流雨は帝国人に馴染んでいる。
エマを連れてリンケルト家の馬車にて私は我がウィザー家の化粧品店へ向かった。護衛のエマを流雨が付けてからというもの、死神業でも他のことでも、流雨はエマを必ず連れて歩くよう言った。
流雨と婚約したことが公になる前、ウィザー家の化粧品事業のライバル店のオーナー、ミルトマンと次男が問題を起こした件だが、流雨が調べたところ、次男と私を婚約させたらどうか、とミルトマンを焚きつけた者がいたのが分かった。ミルトマンの化粧品店で雇っている従業員は、低賃金で働き、ミルトマンの無理難題の締め付けもあったのか、従業員が逃げ出す事態が起きていたらしい。
従業員に対する怒りを、ミルトマンがクラブで酒を飲みながら言っていたところ、私が婚約者候補に逃げられているから、次男と結婚させて我が家の店と合併すれば、ミルトマンの店は大きくなるとか唆されたようだった。その唆した相手は、ミルトマンが酔っていたからか誰なのか定かではない。
それからというもの、流雨が心配して、私が出かける時だけでなく、誰かと会う時も必ずエマを連れて行くようにとのことで、エマと一緒にいるのもすっかり慣れてしまった。
ちなみにだ、ミルトマンは化粧品店以外にも事業はしているものの、化粧品店に限っては店が潰れることになった。私が次男に暴力を振るわれそうになったことが流雨を怒らせたようで、警察に突き出すだけでは済まなかったのだ。私に暴力を振るいそうになった、というだけでは、警察は厳重注意だけで済ます。だから流雨は裏から手を回したのだ。
流雨曰く、リンケルト家の力を使わずとも、叩けば埃の出るやり方で事業を営むミルトマンを追い込むのは簡単と、ミルトマンの化粧品店を客の来ない店に仕上げ、従業員の訴えなども新聞にリークし、あっという間に店は借金まみれで店じまいすることになった。流雨は化粧品店以外の店や事業は温情で潰さないでおく、と言っていたけれど、他の事業は繁盛しているとは言い難いため、温情になるのか不明である。
流雨はやりすぎではなかろうかと思うが、ミルトマンの化粧品店は、人体に毒性のある成分を使っていて、注意されていたにも関わらず使い続けていたようなので、仕方ないとも思っている。今後は心を改めて頑張ってほしい。
とにかく、今後同じようなことがあれば心配するからと、もし変なことを言ってくる相手には、「私はルーウェン・ウォン・リンケルトの婚約者」だと流雨が言うように、とのことだった。それって、虎の威を借る狐では、と思ってしまうが、流雨が『使えるものは親でも使え』というから問題ない、というので、今後はそうすることにしている。
週に一度ではあるが、リンケルト家の公爵と姉オリヴィアとも夕食を共にしている。今のところ、何も問題はなく、仲良くできていると思う。
その日は天気のいい休日だった。昼からは流雨と外へデートに出かける予定だったが、午前中は私はのんびりと過ごそうと双子のヴィーとディーと研究室で楽しく話をしているときだった。ライナに、化粧品店に外国のエキュール帝国の商会が商談のために会って欲しいと来ていると、連絡をもらった。午前中なら時間があるため、私は商会と商談をすることにした。
流雨は午前中は仕事をしているため、流雨に話だけしていこうと流雨の執務室を訪ねた。ノックをして執務室を開けると、流雨が執務椅子に座り、執務机の前に立つアルベルトと話をしていた。
「るー君、ちょっとだけいい?」
「いいよ。おいで」
流雨に近づき、執務机を回って流雨の横に行き流雨が伸ばした手を握った。
「少しだけ出かけてくるね。昼には戻るから。化粧品店にエキュール帝国の商会の人が来ているみたいだから、少し話をしてくる」
「エキュール帝国の商会?」
「ザザ商会というところでね、いつもはユリウスが対応してくれていたんだけれど、担当の人には私も何度かは会ったことがあるの。たぶん、取引量を増やしたいとか、そういうことだと思う。うちは対応できないとは言っているんだけれどね、時々諦められないのか取引量の相談をされるの」
「……分かった。エマを連れて行くんだよ」
「うん」
流雨の頬にキスをして、踵を返そうとしたら、流雨に腕を引っ張られた。いつの間にか立ち上がった流雨が、私の唇にキスをした。
「……っるー君! アルベルトが見ているのに!」
「アルベルトしか見ていないよ」
真っ赤になる私に、流雨が笑みを返す。初めて流雨と唇にキスしてから、流雨は不意打ちでキスしてくることがある。せめて誰もいないところでしてくれないだろうか。アルベルトが生暖かい目で私たちを見ている。
恥ずかしいから逃げるように流雨の執務室を出た。流雨は元は日本人である。日本人は堂々とキスをしないのが普通だと思っていたのだが、流雨には当てはまらないようだ。帝国では恋人同士であれば人前でキスするのは一般的だけれど、私以上に流雨は帝国人に馴染んでいる。
エマを連れてリンケルト家の馬車にて私は我がウィザー家の化粧品店へ向かった。護衛のエマを流雨が付けてからというもの、死神業でも他のことでも、流雨はエマを必ず連れて歩くよう言った。
流雨と婚約したことが公になる前、ウィザー家の化粧品事業のライバル店のオーナー、ミルトマンと次男が問題を起こした件だが、流雨が調べたところ、次男と私を婚約させたらどうか、とミルトマンを焚きつけた者がいたのが分かった。ミルトマンの化粧品店で雇っている従業員は、低賃金で働き、ミルトマンの無理難題の締め付けもあったのか、従業員が逃げ出す事態が起きていたらしい。
従業員に対する怒りを、ミルトマンがクラブで酒を飲みながら言っていたところ、私が婚約者候補に逃げられているから、次男と結婚させて我が家の店と合併すれば、ミルトマンの店は大きくなるとか唆されたようだった。その唆した相手は、ミルトマンが酔っていたからか誰なのか定かではない。
それからというもの、流雨が心配して、私が出かける時だけでなく、誰かと会う時も必ずエマを連れて行くようにとのことで、エマと一緒にいるのもすっかり慣れてしまった。
ちなみにだ、ミルトマンは化粧品店以外にも事業はしているものの、化粧品店に限っては店が潰れることになった。私が次男に暴力を振るわれそうになったことが流雨を怒らせたようで、警察に突き出すだけでは済まなかったのだ。私に暴力を振るいそうになった、というだけでは、警察は厳重注意だけで済ます。だから流雨は裏から手を回したのだ。
流雨曰く、リンケルト家の力を使わずとも、叩けば埃の出るやり方で事業を営むミルトマンを追い込むのは簡単と、ミルトマンの化粧品店を客の来ない店に仕上げ、従業員の訴えなども新聞にリークし、あっという間に店は借金まみれで店じまいすることになった。流雨は化粧品店以外の店や事業は温情で潰さないでおく、と言っていたけれど、他の事業は繁盛しているとは言い難いため、温情になるのか不明である。
流雨はやりすぎではなかろうかと思うが、ミルトマンの化粧品店は、人体に毒性のある成分を使っていて、注意されていたにも関わらず使い続けていたようなので、仕方ないとも思っている。今後は心を改めて頑張ってほしい。
とにかく、今後同じようなことがあれば心配するからと、もし変なことを言ってくる相手には、「私はルーウェン・ウォン・リンケルトの婚約者」だと流雨が言うように、とのことだった。それって、虎の威を借る狐では、と思ってしまうが、流雨が『使えるものは親でも使え』というから問題ない、というので、今後はそうすることにしている。
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