【完結】幻のような君を僕だけはずっと憶えている

猪本夜

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06 彼女と兄の共通点

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 日曜日の朝八時。
 この日はロープウェー日和とでも言うのか。金曜日晴れ、土曜日大雨、と続いて日曜日は晴れだった。彼女は晴れ女に違いない。

 僕等はカフェ『桜ヶ丘珈琲』の前で待ち合わせをしていた。カフェはモーニングもあって七時半開店なので開いていたが、この日は店に入らずに外で彼女を待つ。
 正直、土日祝日は十時ごろまで寝ると決めている僕は不本意だけど、彼女と約束してしまったので朝七時には起きて準備した僕って偉い。

 彼女は八時ちょうどに現れた。表情はニコニコと機嫌が良い様子で軽やかに手をふって近寄って来た。
 今日の彼女は薄黄色のワンピースに薄手のパーカー、キャップの帽子にスニーカーと先日持っていた小さいリュックでオシャレな都会っ子に見える。
 対して、いつも彼女の前で制服の僕は、ジーパンに白いTシャツにキャップの帽子と私服は普通。

「コウ君、おはよ~。朝から会うのって新鮮だね~」
「おはよ。サヤの計画通りの時間だと思うんだけどね。とりあえず、バスの時間があるから行こうか」
「うん」

 新鮮、というほど彼女と会った回数は少ないのだが、彼女の気安さはずっと仲良かった子のようだ。人見知り気味の僕には珍しく一緒にいて気疲れすることがない。

 『桜ヶ丘展望台前』のバス停からバスに乗って、まずは最寄り駅へ。そこからさらにバスに乗り換えた。

 駅までのバスの中では、彼女は楽しそうに景色を見ていたけれど、駅から目的地ロープウェーまでのバスではだんだんと顔色が悪くなっていく。

「……ねぇ、顔が青いんだけど大丈夫?」
「私って乗り物酔いするんだったぁ。忘れてた」
「えー……俺に寄りかかっていいよ。目を瞑ってたら?」
「うん……」

 病気の方で体調が悪いのかと思いきや、乗り物酔いだった。
 ほっとした、というのはおかしいかもしれないが、病気の方ではなくて安堵した。
 バスって匂いとか揺れが気持ち悪くなるのは分かる気がする。乗り物酔いは仕方がない。

 彼女に肩を貸し、バスに揺れてロープウェー近くのバス停で降りた。バスを降りた途端、彼女は持ってきたペットボトルのお茶を一気飲み。

「やばかったー! 一個目のバスは何ともなかったのに!」

 彼女はまだ青い顔ながらも元気は戻って来たようだ。

「今のバス、新車っぽかったからね。新車の匂いが酔いを誘ったのかも」
「帰りはぜひとも旧車にしよう」
「同意」
「あ! ほら、もうロープウェー動いてるよ! 早く行こうよ!」
「うん。ロープウェーは逃げないよ」

 現在十時過ぎ。
 ここのロープウェーは遊園地に隣接されたような場所にある。道路から見える遊園地もすでに開園しているようだった。
 ロープウェー乗り場まで歩いて向かう。

「今更だけど、遊園地の方は入らなくていいの?」
「うん、いいかな。東京で夢の国には何度も行ったし、この遊園地も一度来たことあるから」

 ちゃんとは聞いてはいないけれど、彼女は祖母宅へ来る前は東京に住んでいたんだろうな、と予想する。

「遊園地に来たことあるのに、ロープウェーは乗らなかったんだ」
「ほら、家族の中にロープウェー怖いから乗りたくない、って人がいたら、全員乗るのを諦めるでしょ? そんな感じ。遊園地の方は家族が乗りたくない乗り物なら見学してもらって、一人だけ乗ることもできたんだけどねー。ロープウェーは遠くまで行くから、一人で行ったら駄目って言われちゃったんだ」
「なるほど」

 それは分かる気がする。兄弟で絶叫系の好き嫌いが分かれたりするし、実際に僕も小さいころに兄と父がお化け屋敷に入りたいと言って、母と外で待ってた覚えがある。

 ロープウェー乗り場でチケットを買う。ロープウェーの向こう岸にはオルゴールミュージアムがあるらしく、そこの入館とロープウェーの往復がセットになっているものを買った。

 ちなみに、奢るよ、と言っていた彼女の言葉は丁重にお断りした。僕の主義に反するから。僕自身欲しいものというのが少ないので、毎月のお小遣いが余ってる。こういう時こそ散財するのだ。

 そしてロープウェーに乗り込む。
 動き出したロープウェーは向こう岸の終着駅へ向かっていく。

「わ~、結構スピードが早い……! 遊園地が上から見えるんだね」
「遊園地にいる人が小さく見える。……あ、遊覧船」
「本当だ。湖の上を走るロープウェーなんて、なかなかないよねぇ。空中散歩いいね」
「あ、あっちから反対側のロープウェーが来てる」
「え、すれ違う? ――わっ、すれ違うの一瞬!」

 二台のロープウェーがすれ違うのを見ながら、あっという間に向こう岸に到着した。
 小さい頃に乗ったっきりだったので、久しぶりのロープウェーは楽しい。確かにこんなんだったな、と昔の記憶も思い出す。

「眺め良かった~。往復だから帰りも楽しめるね」
「うん」

 ロープウェーを降りて、駅を乗客の流れに乗って進む。

「ねぇねぇ、上に展望台があるって。行ってみようよ」
「いいよ」

 オルゴールミュージアムに行く前に展望台への階段を登る。その先は、ロープウェーの駅周辺をぐるりと確認できる眺めの良い場所だった。

「「お~」」

 彼女と歓声が重なって互いに笑ってから、展望台をぐるりと歩く。

「遊園地発見」

 一人でじゃんじゃん進んでいく彼女を横目に、僕は僕でスマホを取り出して景色の写真を撮る。写真を撮りつつゆっくり進んでいると、僕がスマホを向けた方から彼女が歩いて来た。ついでに彼女も撮ろうとしていると、彼女は自分の顔を自分の手で隠す。

 ――パシャッ

「あ~、撮っちゃった?」

 彼女は僕の横に来てスマホを覗き込んだ。

「撮ったけど、顔はサヤが隠したから写ってない」
「良かった~。消して消して~。私、写真好きじゃないから」
「……分かった」

 彼女が嫌がるなら無理に撮ろうと思わないし、消せと言われれば消すことに否やはない。彼女の手で隠れた彼女の画像を削除する。

「……サヤも撮られるの嫌いなんだね」
「……え?」
「兄ちゃんも病気になってからは撮られたくないって言ってた」

 思わず、彼女と兄の共通点を見つけてしまった。
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