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33 僕だけはずっと憶えている
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「なんだよ、これ……」
まさか、遺書なんて用意してるとは思わなかった。
遺書を読んでいる途中から涙が止まらない。
彼女らしい最後の言葉。
「う……ああああああああああああ!」
子供のように泣き喚いた。
実感してしまった。彼女が本当にこの世を去ったことを。この世界には、幻でさえ彼女がいなくなってしまったことを。
もっと生きていて欲しかった。
それが彼女にコントロールできたわけでないことは分かっていても。
最初は面倒だった。付き合いは短いのに振り回されて困惑した。
でも、振り回されるたびに気になって、まるで昔からの友達のように話しやすくて、兄にどこか似た彼女が気になってしかたなかった。
好きになりかけていた、なんて、それこそ僕の方だ。
余命僅かな彼女を好きになっても、彼女は迷惑だろうし、僕が辛くなるだけ。だから、その感情に蓋をして気づかないフリして目を背けていた。
それよりも、彼女に僕の気持ちを押し付けるよりも、彼女の心が穏やかでいてくれたら。少しでも一緒に過ごす時間が欲しかった。
短い時間だったけれど、彼女と過ごせてよかった。
僕の方こそ楽しかったんだ。
マイペースに絵を描いている僕と、一緒に絵を描いて冗談を言い合って、そんな普通のことが幸せだなんて、僕等は本当に気が合う。
それに、僕は振り回されるのも、今思えば意外と楽しかった。
彼女の望みを叶えられた。
兄には野球のことで役に立てなかったという思いがあったから、僕もまだ役に立てるのが嬉しかった。
同時に、そう遠くない未来に彼女を失うことも分かっているから苦しかった。
彼女の笑顔、冗談を言う顔、からかう顔、淡々と話す顔、泣き顔。
彼女の声。
わりと真面目で、気遣い屋。
僕は彼女のことを一生忘れない。
彼女の写真はない。
でも彼女を観察してたくさん彼女の絵を描いた。
明るく笑って、冗談を言う彼女を目と記憶に焼き付けたから。
だから、幻のような彼女を僕だけはずっと憶えている。
そして、彼女の言うように、八十年を僕なりに精一杯生きる。
彼女と兄の分まで、というのはおこがましいかもしれないけれど、マイペースに生きて思い出を作って、遠い未来に天国で話して聞かせるんだ。
僕の目標は、彼女のように『俺の人生、大満足』と最後に思えること。
もし、そう思えなくても、天国で僕の人生を話して聞かせるよ。
だけど、今日だけは泣いてもいいよね。
もう会えないなんて、寂しい。
もっと一緒の時間を過ごしたかった。
でも、ありがとう。ありがとう、僕と出会ってくれて。
もし、もう一度出会えるなら、失う苦しみを分かっていても、再び出会えることを願うよ。
幻でいいから、もう一度会いたい。そんなことを言っても、怖がりの僕を想って出てこないだろう。
だから、僕だけが憶えている彼女との日々を絵に描くよ。
そしたら、また会えるから。
彼女は僕の中の世界で生きている。
● ● ●
彼女が天国に旅立って一年が経過した。
彼女のいない世界は、今日も平常運転だ。
僕は高校三年生になり、受験の真っただ中。
絵やイラストに関係する仕事に就きたいけれど、両親と話し合った結果、マネジメントを学べる大学に行きたいと思っている。ただ絵を描くだけで将来食べていけないと困るから。大人って、考えることが色々とあるらしい。絵を描ける仕事にマネジメントを補助代わりに使っていければいいなと思っている。
受験中だけれど、勉強の合間に毎日少しだけ絵を描いていて、現在は初めて漫画を描いてる。亀のような進みだけど、受験だから仕方ない。
漫画には兄や彼女を登場人物として出している。
十二月二十一日。
彼女の命日であり、誕生日でもある。
この日、寒さで息が白くなる真夜中。
僕は両親と家の近くの野球の練習場へやってきた。『こぐま座流星群』を見るために。
本当は一人で行こうかとも思ったけれど、彼女がいなくなってたった一年で僕の怖がりが消えるわけがない。
仕方ないと思うんだ。だって真っ暗なんだから。木の隙間から誰か見てるんじゃないか、なんておどろおどろしい想像をしてしまうのが僕なんだから。
そんな僕を見て、彼女のニマニマとする顔が想像できてしまう。
言い訳をするなら、去年、両親と一緒に流星群を見て以降、両親も流星群を見ることにハマっているから、一緒に見に行くことは自然の流れということ。
今年は夏にも両親と流星群を見た。七夕の天の川も一緒に。
思い出すのは、君と過ごした日々。
今でも鮮明に憶えている。
君がいなくなって一年経ったけれど、きっと天国で兄と楽しく過ごしているだろう。
この一年だけでも、僕にはちょっと恥ずかしかった笑い話がある。今でも恥ずかしい出来事だけど、八十年、いや、七十九年後には、きっと笑い話にできるはず。
七十九年後に聞かせてあげるよ。
きっとあっという間だから。
空に流れる流星群と一緒に「楽しみにしてる」と彼女の声が聞こえた気がした。
おわり
------
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
まさか、遺書なんて用意してるとは思わなかった。
遺書を読んでいる途中から涙が止まらない。
彼女らしい最後の言葉。
「う……ああああああああああああ!」
子供のように泣き喚いた。
実感してしまった。彼女が本当にこの世を去ったことを。この世界には、幻でさえ彼女がいなくなってしまったことを。
もっと生きていて欲しかった。
それが彼女にコントロールできたわけでないことは分かっていても。
最初は面倒だった。付き合いは短いのに振り回されて困惑した。
でも、振り回されるたびに気になって、まるで昔からの友達のように話しやすくて、兄にどこか似た彼女が気になってしかたなかった。
好きになりかけていた、なんて、それこそ僕の方だ。
余命僅かな彼女を好きになっても、彼女は迷惑だろうし、僕が辛くなるだけ。だから、その感情に蓋をして気づかないフリして目を背けていた。
それよりも、彼女に僕の気持ちを押し付けるよりも、彼女の心が穏やかでいてくれたら。少しでも一緒に過ごす時間が欲しかった。
短い時間だったけれど、彼女と過ごせてよかった。
僕の方こそ楽しかったんだ。
マイペースに絵を描いている僕と、一緒に絵を描いて冗談を言い合って、そんな普通のことが幸せだなんて、僕等は本当に気が合う。
それに、僕は振り回されるのも、今思えば意外と楽しかった。
彼女の望みを叶えられた。
兄には野球のことで役に立てなかったという思いがあったから、僕もまだ役に立てるのが嬉しかった。
同時に、そう遠くない未来に彼女を失うことも分かっているから苦しかった。
彼女の笑顔、冗談を言う顔、からかう顔、淡々と話す顔、泣き顔。
彼女の声。
わりと真面目で、気遣い屋。
僕は彼女のことを一生忘れない。
彼女の写真はない。
でも彼女を観察してたくさん彼女の絵を描いた。
明るく笑って、冗談を言う彼女を目と記憶に焼き付けたから。
だから、幻のような彼女を僕だけはずっと憶えている。
そして、彼女の言うように、八十年を僕なりに精一杯生きる。
彼女と兄の分まで、というのはおこがましいかもしれないけれど、マイペースに生きて思い出を作って、遠い未来に天国で話して聞かせるんだ。
僕の目標は、彼女のように『俺の人生、大満足』と最後に思えること。
もし、そう思えなくても、天国で僕の人生を話して聞かせるよ。
だけど、今日だけは泣いてもいいよね。
もう会えないなんて、寂しい。
もっと一緒の時間を過ごしたかった。
でも、ありがとう。ありがとう、僕と出会ってくれて。
もし、もう一度出会えるなら、失う苦しみを分かっていても、再び出会えることを願うよ。
幻でいいから、もう一度会いたい。そんなことを言っても、怖がりの僕を想って出てこないだろう。
だから、僕だけが憶えている彼女との日々を絵に描くよ。
そしたら、また会えるから。
彼女は僕の中の世界で生きている。
● ● ●
彼女が天国に旅立って一年が経過した。
彼女のいない世界は、今日も平常運転だ。
僕は高校三年生になり、受験の真っただ中。
絵やイラストに関係する仕事に就きたいけれど、両親と話し合った結果、マネジメントを学べる大学に行きたいと思っている。ただ絵を描くだけで将来食べていけないと困るから。大人って、考えることが色々とあるらしい。絵を描ける仕事にマネジメントを補助代わりに使っていければいいなと思っている。
受験中だけれど、勉強の合間に毎日少しだけ絵を描いていて、現在は初めて漫画を描いてる。亀のような進みだけど、受験だから仕方ない。
漫画には兄や彼女を登場人物として出している。
十二月二十一日。
彼女の命日であり、誕生日でもある。
この日、寒さで息が白くなる真夜中。
僕は両親と家の近くの野球の練習場へやってきた。『こぐま座流星群』を見るために。
本当は一人で行こうかとも思ったけれど、彼女がいなくなってたった一年で僕の怖がりが消えるわけがない。
仕方ないと思うんだ。だって真っ暗なんだから。木の隙間から誰か見てるんじゃないか、なんておどろおどろしい想像をしてしまうのが僕なんだから。
そんな僕を見て、彼女のニマニマとする顔が想像できてしまう。
言い訳をするなら、去年、両親と一緒に流星群を見て以降、両親も流星群を見ることにハマっているから、一緒に見に行くことは自然の流れということ。
今年は夏にも両親と流星群を見た。七夕の天の川も一緒に。
思い出すのは、君と過ごした日々。
今でも鮮明に憶えている。
君がいなくなって一年経ったけれど、きっと天国で兄と楽しく過ごしているだろう。
この一年だけでも、僕にはちょっと恥ずかしかった笑い話がある。今でも恥ずかしい出来事だけど、八十年、いや、七十九年後には、きっと笑い話にできるはず。
七十九年後に聞かせてあげるよ。
きっとあっという間だから。
空に流れる流星群と一緒に「楽しみにしてる」と彼女の声が聞こえた気がした。
おわり
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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