32 / 33
32 彼女の最後の言葉
しおりを挟む
スケッチブックの最終ページには、時々見る彼女の字が綴られていた。
横書きに字がびっしりと、そして全体的に文章が右上がりへ若干斜めに走る字。
『コウ君へ
これは、ふたご座流星群を見た日の次の日の夜に書いています。
これは遺書ってことでいいと思う。
とりあえず今日書いて、来月も生きてたらまた続けて書こうかな。あ、それって日記、じゃなくて月記みたいになるのかも。
そんな言葉があるか知らないけど。
ここで先におばあちゃんへ連絡。
おばあちゃん、このスケッチブックはコウ君に渡してね。おばあちゃんも読んでいいけど、コウ君に渡すのを忘れないでね。おばあちゃんに伝えるつもりだけど、忘れてたら困るので念のため。
さて、ここからはコウ君が読んでくれると信じて。
まずは御礼を。
幽霊のような私を
しまった、コウ君に幽霊は禁句だった。ごめんごめん。ボールペンで書いたから消せないや。
別に貶してるわけじゃないからね。コウ君はいろんなことができる人だから、怖いものが苦手、というのはギャップがあって、私は素敵だと思う。
ということで、言葉を変えます。幻のほうがいいよね。
では改めて。
幻のような私に付き合ってくれて、ありがとう。
余命一年、すでに幻の私は、肉体が終わりを迎える日も自分の名前でこの世を去れないことは分かってる。
それでも、少しだけでもサヤとしての自分を取り戻したいと思っていたから。
全てではないけれど、私はずいぶん自分を取り戻せたんじゃないかな。
コウ君のお陰だよ。
ありがとう。
コウ君と出会って、半年くらい?
短いようで長い、けれど、私にとっては人生で一番穏やかな半年でした。
家族の顔色を窺うばかりの私の人生は、私じゃないまま東京で過ごしたことが一番の苦しい日々でした。だから寿命が分かって、一番大好きなおばあちゃんが住む家に逃げることができて、私の心は解放された状態だったみたい。
カフェで初めてコウ君と出会った時、幽、じゃなくて、幻のような私を怖がるコウ君に興味を持ったの。私が私じゃなくて、幻であることを気づかれたのかも、とね。
そういうわけじゃない、というのはすぐに気づいたけど。でも、コウ君には本当の私の名前サヤで呼んでもらいたいなと思ったの。
私が少しでも自分を取り戻すために、コウ君は一役買ってくれるんじゃないかって。もし取り戻せなくても、コウ君はサヤと呼んでくれるから、呼んでもらっている間は私はサヤでいられる。
こんなことに巻き込んでしまって、少し罪悪感はあったの。
お兄さんを亡くしているコウ君には、余命のある私と過ごすことは残酷なのではないかって。また死と向き合うことになるから。
でも、コウ君は普通に接してくれた。私の寿命を知っても大げさに過保護になるでもなく、可哀想な顔をすることもなく、私を痛々しい目で見ることもなく。その普通が嬉しかった。
天国や地獄や死、なんて言葉は、余命が分かっている人間とは話題にもしないでしょ? 話題にするといけないことのような、不謹慎なような。
でも、コウ君は天国のお兄さんに会いたいって普通に話題にしてくれて、コウ君にはそういうことを話してもいいんだって。
あの頃は真剣に地獄に行きたいって悩んでいたから。
もちろん、今は天国に行きたいって切実に願ってる。だから、流れ星に願うことができて、ほっとしてるよ。
スケッチブックを左から見てくれた? お絵描き帳で練習して、上達したところをスケッチブックに描いてたんだ。なかなかレベルが上がってるでしょ。
コウ君をじっくり見て、コウ君の絵を描いて、家でも自分で描いたコウ君の絵を見て。
少しだけ、ほんの少しだけ、コウ君を好きになりかけてる自分がいたよ。あ、嫌な顔しないでね。あわ~い恋みたいなやつだよ。
コウ君は性格もいいからね! 一緒にいて楽しかったから、少しは恋も芽生えるってね! 私も人を好きって思える感情があったんだって、新しい自分を見つけられて得した気分。
だから、熱が高い時はコウ君に会いたくなかったの。だって私って酷い顔をしてると思うんだ。コウ君には元気な私だけを記憶に残してもらいたかったから。
複雑な乙女心ってやつだよ。
でも、全然気づかなかったでしょ? 長くて一年という私たちの関係を恋で終わらせたくなかったんだ。だって、二人でのんびりと絵を描いて話して、そんな時間がとてもキラキラしていて楽しかったから。
コウ君に絵を描いてもらうのも、本当に嬉しかった。
コウ君の目に映る私は、偽物じゃなくてサヤだから。
絵やイラストの中で、コウ君とお兄さんの仲に私も混ぜてくれて、まるで元から友達だったような疑似体験ができた気分だった。
コウ君は絵がとっても上手だから、漫画家やイラストレーターやアニメーター、活躍の場はたくさんあるね。もちろん、仕事ではなくて趣味でもいいと思う。
コウ君の絵は人を喜ばせることができる、素晴らしい技術だから。
写真が苦手な私にとって、絵という形で私を残してもらったことに感謝してる。
人は肉体ではなくて、忘れ去られた時が本当の死だと思うの。ただの持論だけどね。
だから、私だけでも本来の自分を思い出したかった。サヤという存在がいたことを忘れたくなかった。
でもコウ君と出会って、私という存在を知ってくれたコウ君にお願い。
幻の私だけど、記憶の片隅でいいから私を憶えていて。
そして八十年後、天国で会いましょう。
私はコウ君のお陰で天国に行けるから、先にお兄さんとおしゃべりして待ってるね。
お兄さんと一緒に、コウ君が八十年は天国に来ないように見張ってるから。
コウ君は長生きして。
学校に行って、絵を描いて、仕事に行ったりして、時には恋をして結婚して、子供や孫も生まれて、老後を楽しんで、たくさん人生を楽しんで思い出を作って来てください。
そして、八十年後に天国で会った時、思い出話をしてくれると嬉しい。
楽しいこととか、嬉しいこととか、辛かったこととか、失敗したこととか、穴があったら入りたいなんて恥ずかしいことなんかも、死んだ後なら時効だよね、話してくれるのを楽しみにしてる。
最後に。
幻のような私と過ごしてくれて、本当にありがとう。
コウ君と出会ってからの半年が人生で一番、私らしく過ごすことができたよ。
コウ君と一緒に絵を描いて、おしゃべりするのが本当に楽しかった。ああいう時間を私は求めてたんだね。
もうね、私の人生、大満足!
終わりよければ全てよし、だよ!
うーん、少し長く書きすぎちゃったかな。
今、気づいたけど、なんでか文字が斜めってる。最後の方で気づくなんて、おバカ。
そんなことも、ご愛敬ってことで。
来月も生きてたら、遺書第二弾を書きます!
もしかしたら日記のようになるかもだけど許して。
幻の友人沙夜より』
横書きに字がびっしりと、そして全体的に文章が右上がりへ若干斜めに走る字。
『コウ君へ
これは、ふたご座流星群を見た日の次の日の夜に書いています。
これは遺書ってことでいいと思う。
とりあえず今日書いて、来月も生きてたらまた続けて書こうかな。あ、それって日記、じゃなくて月記みたいになるのかも。
そんな言葉があるか知らないけど。
ここで先におばあちゃんへ連絡。
おばあちゃん、このスケッチブックはコウ君に渡してね。おばあちゃんも読んでいいけど、コウ君に渡すのを忘れないでね。おばあちゃんに伝えるつもりだけど、忘れてたら困るので念のため。
さて、ここからはコウ君が読んでくれると信じて。
まずは御礼を。
幽霊のような私を
しまった、コウ君に幽霊は禁句だった。ごめんごめん。ボールペンで書いたから消せないや。
別に貶してるわけじゃないからね。コウ君はいろんなことができる人だから、怖いものが苦手、というのはギャップがあって、私は素敵だと思う。
ということで、言葉を変えます。幻のほうがいいよね。
では改めて。
幻のような私に付き合ってくれて、ありがとう。
余命一年、すでに幻の私は、肉体が終わりを迎える日も自分の名前でこの世を去れないことは分かってる。
それでも、少しだけでもサヤとしての自分を取り戻したいと思っていたから。
全てではないけれど、私はずいぶん自分を取り戻せたんじゃないかな。
コウ君のお陰だよ。
ありがとう。
コウ君と出会って、半年くらい?
短いようで長い、けれど、私にとっては人生で一番穏やかな半年でした。
家族の顔色を窺うばかりの私の人生は、私じゃないまま東京で過ごしたことが一番の苦しい日々でした。だから寿命が分かって、一番大好きなおばあちゃんが住む家に逃げることができて、私の心は解放された状態だったみたい。
カフェで初めてコウ君と出会った時、幽、じゃなくて、幻のような私を怖がるコウ君に興味を持ったの。私が私じゃなくて、幻であることを気づかれたのかも、とね。
そういうわけじゃない、というのはすぐに気づいたけど。でも、コウ君には本当の私の名前サヤで呼んでもらいたいなと思ったの。
私が少しでも自分を取り戻すために、コウ君は一役買ってくれるんじゃないかって。もし取り戻せなくても、コウ君はサヤと呼んでくれるから、呼んでもらっている間は私はサヤでいられる。
こんなことに巻き込んでしまって、少し罪悪感はあったの。
お兄さんを亡くしているコウ君には、余命のある私と過ごすことは残酷なのではないかって。また死と向き合うことになるから。
でも、コウ君は普通に接してくれた。私の寿命を知っても大げさに過保護になるでもなく、可哀想な顔をすることもなく、私を痛々しい目で見ることもなく。その普通が嬉しかった。
天国や地獄や死、なんて言葉は、余命が分かっている人間とは話題にもしないでしょ? 話題にするといけないことのような、不謹慎なような。
でも、コウ君は天国のお兄さんに会いたいって普通に話題にしてくれて、コウ君にはそういうことを話してもいいんだって。
あの頃は真剣に地獄に行きたいって悩んでいたから。
もちろん、今は天国に行きたいって切実に願ってる。だから、流れ星に願うことができて、ほっとしてるよ。
スケッチブックを左から見てくれた? お絵描き帳で練習して、上達したところをスケッチブックに描いてたんだ。なかなかレベルが上がってるでしょ。
コウ君をじっくり見て、コウ君の絵を描いて、家でも自分で描いたコウ君の絵を見て。
少しだけ、ほんの少しだけ、コウ君を好きになりかけてる自分がいたよ。あ、嫌な顔しないでね。あわ~い恋みたいなやつだよ。
コウ君は性格もいいからね! 一緒にいて楽しかったから、少しは恋も芽生えるってね! 私も人を好きって思える感情があったんだって、新しい自分を見つけられて得した気分。
だから、熱が高い時はコウ君に会いたくなかったの。だって私って酷い顔をしてると思うんだ。コウ君には元気な私だけを記憶に残してもらいたかったから。
複雑な乙女心ってやつだよ。
でも、全然気づかなかったでしょ? 長くて一年という私たちの関係を恋で終わらせたくなかったんだ。だって、二人でのんびりと絵を描いて話して、そんな時間がとてもキラキラしていて楽しかったから。
コウ君に絵を描いてもらうのも、本当に嬉しかった。
コウ君の目に映る私は、偽物じゃなくてサヤだから。
絵やイラストの中で、コウ君とお兄さんの仲に私も混ぜてくれて、まるで元から友達だったような疑似体験ができた気分だった。
コウ君は絵がとっても上手だから、漫画家やイラストレーターやアニメーター、活躍の場はたくさんあるね。もちろん、仕事ではなくて趣味でもいいと思う。
コウ君の絵は人を喜ばせることができる、素晴らしい技術だから。
写真が苦手な私にとって、絵という形で私を残してもらったことに感謝してる。
人は肉体ではなくて、忘れ去られた時が本当の死だと思うの。ただの持論だけどね。
だから、私だけでも本来の自分を思い出したかった。サヤという存在がいたことを忘れたくなかった。
でもコウ君と出会って、私という存在を知ってくれたコウ君にお願い。
幻の私だけど、記憶の片隅でいいから私を憶えていて。
そして八十年後、天国で会いましょう。
私はコウ君のお陰で天国に行けるから、先にお兄さんとおしゃべりして待ってるね。
お兄さんと一緒に、コウ君が八十年は天国に来ないように見張ってるから。
コウ君は長生きして。
学校に行って、絵を描いて、仕事に行ったりして、時には恋をして結婚して、子供や孫も生まれて、老後を楽しんで、たくさん人生を楽しんで思い出を作って来てください。
そして、八十年後に天国で会った時、思い出話をしてくれると嬉しい。
楽しいこととか、嬉しいこととか、辛かったこととか、失敗したこととか、穴があったら入りたいなんて恥ずかしいことなんかも、死んだ後なら時効だよね、話してくれるのを楽しみにしてる。
最後に。
幻のような私と過ごしてくれて、本当にありがとう。
コウ君と出会ってからの半年が人生で一番、私らしく過ごすことができたよ。
コウ君と一緒に絵を描いて、おしゃべりするのが本当に楽しかった。ああいう時間を私は求めてたんだね。
もうね、私の人生、大満足!
終わりよければ全てよし、だよ!
うーん、少し長く書きすぎちゃったかな。
今、気づいたけど、なんでか文字が斜めってる。最後の方で気づくなんて、おバカ。
そんなことも、ご愛敬ってことで。
来月も生きてたら、遺書第二弾を書きます!
もしかしたら日記のようになるかもだけど許して。
幻の友人沙夜より』
10
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる