その人、聖女じゃなくて聖女『モドキ』ですよ?~選んだのは殿下ですので、あとはお好きにどうぞ~

みなと

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奪ったのは、お前たち

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『ほれほれ、もっときちんと魔力をティアラに注ぎこまんか』

 ケタケタと楽しそうに嗤っているティアラに宿っていた神霊は、アルティナを無慈悲に見下ろしている。そして、床でのたうち回っているアルティナは、ぼとぼとと涙を零しながら、宙に浮いている神霊を見上げた。
 ようやくまともに姿を視界に入れたかもしれない、とアルティナは必死に吐き気を堪えながら口を開いた。

「なん、で……」
『ほう?』

 こんな状況で話せるのか、と神霊はピクリ、と眉を上げる。
 しかし、ティアラにはもっときちんと魔力を注ぎ込んでもらわなければいけないのだ。そうしないと、色々と不都合なことばかりが起こってしまうのだから。

『お前、もっと魔力を注がねば国を覆っている結界は崩壊するぞ?』
「え」
『ああそれから、神殿の聖樹も枯れてしまうやもしれんな』
「あの」
『あとは何が……ああそうじゃ、魔力充てん装置のストックも溜めておけ。ティアラと回路が繋がっておるのじゃから、これも筆頭聖女の業務じゃてな』

 あーっはっはっは!! と高笑いしている神霊は、当たり前のように告げて、ニタニタとアルティナを見下ろす。
 まさか、こんなにとんでもないことを、あの女はしていたのか、とアルティナが思ったところで遅い。

 筆頭聖女の業務は、言葉通り『多岐にわたっている』のだ。

 結界の維持。
 国のシンボルである、神殿の中庭に育っている聖樹へ魔力を注ぎ込み、枯れないように維持すること。
 万が一に備えての魔力充てん装置への、魔力のストック。
 そして魔物狩りへの同行と、負傷した兵士の治療。
 魔物狩りに行っていない時は、民への奉仕。

 ざっと上げてもこれらはあくまで、通常業務なのだ。
 魔力充てん装置へのストックは、筆頭聖女でなくとも問題はない。他にも聖女が居るのだから、彼女らにお願いすればそれで良いが、これまでやっていなかったことをいきなりやれ、と言われて誰がやるだろうか。
 なお、オフィーリアは聖女の皆さま方にとっても慕われていたので、体調不良の時などには変わってもらうことはできていたのだが、アルティナは?

「そ、んな」
『…………』

 またもや大大粒の涙をぼと、と零したアルティナに、神霊は顔をずい、と近づけた。

『できるんじゃろう?』

 なぁ、と更に念を押されてしまい、アルティナはそれでも気丈に頷いた。

「……できるわよ! あんな女にできて、私に出来ないわけないじゃないの!」

 ぜひゅー、ぜひゅー、と今にも死にそうな呼吸を繰り返しながら立ち上がって、きちんと座り直してまた魔力を注ぎ込もうと、ぐっと目を閉じるものの必死に歯を食いしばって耐えている。

「……リアって、あれを普通にこなしていたのよね?」
「神霊様ブーストもあったから、あの子」
「そもそも、オフィーリアは何で神霊様のお気に入りになったんだっけ?」

 アイシャ、デイジー、クローチェがこそこそと話していると、三人の元にルークが慌ただしく走ってくる。

「うげ」

 嫌そうな顔のクローチェが呟いたが、ルークは気付いているのかいないのか、ぜぇはぁと息を荒くしたまま口を開いた。

「おい……っ、あの、ティアラ、どうなって、いる!」
「はぁ?」

 ルークの問いかけに、遠慮なくクローチェが嫌そうな顔をして、ぎろりと睨みながら呆れたように言葉を紡いだ。

「どうなって、って……何で殿下はご存じないんです?」

 口調こそ丁寧だが、突き放すような声色に、ルークは『うぐ』と小さく悲鳴を上げる。

「し、知るわけ……」
「知っていないと、いけないはずでしょう? だって……あなた、一応、オフィーリアの婚約者でしたよねぇ?」
「……ぐ」

 オフィーリアの婚約者であれば、筆頭聖女の役割は知っていて当たり前。
 神殿にも同行しているはずだし、神官長の話だって二人で聞いていて、筆頭聖女の役割の説明は細かに聞いているし、忘れないようにルークに対してはとても入念に説明をしているはずなのだ。

「まさか……聞いていなかった、とか?」

 ここぞとばかりに、クローチェは畳みかけるように問いかければ、図星のルークは表情を強張らせてしまった。全くもってその通りだから、何も言えない、というのが本当のところなのだが、はいそうです、なんて言えるわけもない。
 王太子としての責務、オフィーリアの婚約者としての役割を放棄しているとみなされても仕方がない。

「……お話し中、失礼。殿下、オフィーリアはあの神霊様にとぉってもお気に入りだったから、通常よりも高い効果が得られていた、っていう訳なんです。だからといって、オフィーリアが努力をしていなかった、とかいうわけではございませんので、悪しからず」

 ほほほ、と笑うアイシャは、『オフィーリアが神霊様に気に入られている』というところに敏感に反応したルークに反論させないようにと、特大の釘をぶっさしておいた。
 案の定、ルークはオフィーリアの特別待遇について突きたかったようだが、そんなことはさせる訳はない。そのあたり、アイシャもクローチェも一切の抜け目はないのだ。

「し、しかし……オフィーリアは……」
「ずるい、だなんて言いませんわよねぇ? だって、あなたの新しい婚約者様……できるんでしょう? 筆頭聖女のお役目」

 自ら『できる』と言ってしまった以上、言葉を取り消すことなんてできやしない。
 アルティナは、己の発言の責任を取る必要があるし、ルークだって婚約破棄宣言をした挙句に、生徒たちの前ででかでかとオフィーリアの筆頭聖女解任を告げた挙句、婚約破棄を申し伝えたことに関しての責任を取らなければいけない。

「……リアから、奪ったのはお前たちなんだからな」

 冷たい声で告げてくるクローチェの迫力、そして会場を大きく見渡せば、ルークとアルティナに注がれている視線の数々。

「……何で、だよ」

 今更顔色をどれだけ青くしたとしても、過去に戻れるわけではない。
 アルティナの現状を見た人々は、きっとこう感じているだろう。今まで当たり前だった平穏は、きっと崩れ去ってしまうのでは、と。

「ああでも」

 重たい空気が隅々まで張り詰めようとしたところで、アイシャは場違いなほどににこやかに微笑んだ。

「殿下、あなたからの婚約破棄については、オフィーリアはきっと喜んでいるに違いありません」
「いや、あれは演技で」
「どうしてそう思うのです?」

 微笑んでいるというのに、目の奥には底知れぬ怒りが見えていた。
 会場の生徒たちも、アイシャの笑顔が見えていないながらも、底冷えするような雰囲気に気おされているのか、誰も口をはさむことなく、そのまま皆揃って大人しく聞いていた。

「オフィーリアは、殿下のことなんて心から何とも思っておりません、少しでも思っているならば、婚約破棄など応じる訳はないというのに」

 第三者に言われて、ようやく少しだけ現実を認識したらしいルークは、横目でアルティナを盗み見た。

「……っ」
「るーく、さま」

 ぼろぼろと泣き崩れているアルティナに、自信満々な影はどこにもない。
 ただ、魔力をほぼ吸い尽くされてしまったらしく、真っ青な顔色で縋る様にルークのことを見つめ、助けてくれと手を伸ばしてきている姿が、そこにはあった。

『……フン、まぁ……こんなもんかの。覚えておくが良い、これは毎日続くのじゃからな』

 ひとしきり高笑いをした神霊は、するりとティアラの宝石の中に入っていった。
 会場にいるほぼ全員は、きっと皆揃ってこう思ったことだろう。

 オフィーリアは、あの地獄のような行為を、筆頭聖女になってからずっと行ってきた、色んな意味での『規格外』だったのだ、と。
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