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襲ってしまったのは幼馴染み
しおりを挟むその日はバイトに行って、散々ミスをして、やけ酒を飲んで。その後のことはよく覚えていない。
ただ分かるのは。
「黒崎…?」
隣で寝ているのは、昨晩自分が襲ったであろう相手。いつもは絶対に自分の家に上げたりしなかったのに、と考えて気付く。この男は、俺の幼馴染みではないか?
「ーーおい、ちょ、待って、え?」
思考が停止しそうになるのを必死でフル回転させながら、男の顔を覗き込む。
(や、やっぱり黒崎だよな…?なん、で、黒崎が…)
酒を飲んだ。過去最高記録だろうということは、目の前のテーブルの上の空き缶の量で分かる。
「…黒崎、起きろ」
「ーーん」
昔と変わらず、目をつぶったまま起き上がった黒崎が目をこする。
「…とりあえず、おはよ」
「……おはよ」
返事が来たことに安堵しながら、黒崎の身体に目が行く。裸なのは多分、俺が脱がせたから。俺も裸だし。
「…いまなんじ」
おぼつかない足で立ち上がって床に落ちていた服を着る黒崎から目を背け、スマホを見る。
「…十一時」
「やっば。もう講義始まる。お前、もっと早くに起こせよ」
「はぁ!?」
起こしてやったのに、何だよその言いぐさ!!
「ったく、役に立たねーな」
「おっまえ…!」
こんなヤツ起こすんじゃなかった!!てか何でこんなヤツを家に入れたんだ、俺。
幼馴染みの腐れ縁といっても、コイツと俺は昔から馬が合わなかったーーというか、そもそもの価値観が違うのだ。両親同士が仲良いからといって、俺たちまで仲良くする必要はなかった。けれど幼稚園から大学までずっと同じで。
たまに代返をしてくれるのは感謝しているし、ノートを写させてくれるのも感謝している。
けれどやっぱりコイツは嫌いだ、った、のに。
「…あ、そうだ」
思い出したように黒崎が笑って言う。
「けっこー気持ち良かったぜ?」
にやりと笑ったアイツは、呆けた俺を残して家から出ていった。
「…マジかよ…」
俺のその呟きは、ゆっくりと宙に消えていった。
幼馴染みを襲ってしまうほど、俺は不自由していただろうか…?
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