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しおりを挟む「俺、お前のこと好きなんだけど」
珍しく長続きした彼女と別れた直後、彼は真っ直ぐに自分の目を見てそう言った。
「…なに言ってんの急に。俺男だよ?」
「そんなんずっと悩んだし分かってるっての。…仕方ねぇだろ、…アイツにもホモ野郎って殴られたし」
「アイツって…」
恐らく元カノだろうと思った。校内ですれ違うたびに睨むように見られていたのは気のせいではなかったようだ。
「…俺は、」
「ストップ。今すぐ付き合えってわけじゃねぇから。取り敢えずは今まで通り普通に友達みたいでいいし。俺、お前が考えてくれるまで待つから」
そんな必要はなかった。もうずっと俺は京司のことを好きだったし、本当ならすぐにでも付き合いたかった。
それをしなかったのは、彼の気持ちを疑っていたからだ。
真っ赤になった耳を見て、嘘をついているなんてあり得ないと分かっていたはずなのに。
(…なんで今更こんな夢)
脳裏に浮かんだ高校時代の彼の横顔が消えない。カーテンを開けると空は曇っているし、なんだか嫌な気分だった。
「亮一?」
隣にいなかった恋人の姿を探してリビングへ行くが姿が見えない。まさかと思ってベランダを覗くと、サンダルを履いてタバコを咥えた亮一の姿が見えた。
「何やってんの、風邪引くよ」
「藍。おはよ」
「タバコ吸いたくなったら換気扇の下でって言ったじゃん。なんでベランダに」
「部屋に匂いつくだろ。こんな朝からお隣さんも洗濯物干さねぇだろうし」
偶にタバコを吸っているのは見かけていたが、その最中に話しかけるのは初めてだ。
「ヘビースモーカーってわけじゃないし、気にしなくても」
「気にするよ。お前にこんな匂いつけたくないもん」
「…なにそれ」
フッと笑うと亮一が目を細めた。なんだかその様子に違和感を覚えて、気が付けば言葉を発していた。
「亮一、どうしたの?」
「……なにが?」
「何かあった?」
「別に何もないけど」
へらりと笑った彼を見て、嘘だと思った。絶対に何かある。そして言わないということは、きっと俺が何かをしでかしたのだろう。
「言ってよ」
「何もないって」
「亮一」
「何もないって言ってるだろ?いいから、朝飯作ろう」
それ以上は聞かせてくれない亮一にふと、夢の中に出てきた懐かしい記憶が蘇る。
「……京司…?」
ポツリと呟いた俺の言葉にピクリと肩が揺れた。嫌な予感が的中した驚きと焦りが脳内を支配する。
「亮一、俺、ごめ…」
「朝飯。どうする?」
謝罪の言葉を遮られ、あくまで笑顔で尋ねてくる亮一はもう触れたくないようだった。
「…トーストと卵、焼くね…」
「あぁ。じゃあ俺は適当に野菜切るよ」
思ったことは言って欲しい。そう思う一方で、どの口がそれを言えるのだろうかと笑いそうになってしまった。
どれほど離れても、どれほど時間が経っても、亮一のことを好きになっても。結局はアイツを完全に消すことが出来ない自分がもどかしくて仕方なかった。
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