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しおりを挟む一言目に、自分の名前を呼ばれた。
『…藍、だよな?』
懐かしい声に笑いが漏れてしまう。
声のトーンで、本当に記憶が戻ったのだなと分かってしまった。
「…やっほー京司、久しぶり。…記憶回復おめでとう?なんちゃって(笑)」
『……会いたい』
真剣な声に、最後に言われた罵倒の言葉が脳裏によみがえる。
「…どうして?もう終わったはずだろ」
『あれは記憶がなかったから…!』
「京司さ、今どうしてるの?」
『え…』
「俺、いま大学生なんだけど。京司は途中で転校しただろ?大学行ったの?」
『…大学には行ってる。そんで、今お前の実家の近くにいるんだけど』
「は?」
京司が転校したのは四国。藍の実家は東京だ。
「…どういうこと?」
『会いたいって言っただろ。お前、まだ実家にいるのか?』
確かに今の家も東京だ。実家のすぐ近くのマンションだけれど。
「…実家にはいないよ。俺ね、いま恋人と同棲してんの」
『・・・』
しばらくの沈黙のあと、はぁ?と声が聞こえた。
『お前、恋人ってどういうことだよ!!』
「そのままの意味。…ねぇ、最後に会ってから何年経ったと思ってるの?」
罵倒されながらも側にいた、あの半年間。それはもう三年以上も前の話。
「京司の中の時間は止まってても、俺の中の時間はとっくに過ぎてるよ」
『はぁ!?』
「終わらしてくれって言ったのは京司なのに、どうしたの?まさか今さら、…本当に今さら、後悔してるなんて…言わないよね?」
『藍!』
「…京司も、もう少し早く思い出したら良かったのにね?」
あともう少し、早ければ。あとちょっと、ほんの少しでも早ければ。そうしたらきっと、俺は京司の元へ走っていたのに。
「…そろそろ帰らないと」
目の前の自販機でコーラを買い、「じゃあね」と告げようとすると。
『待てよ!』
電話口で叫ばれた。
「…なに?」
『恋人って、誰だよ。まさか俺の知ってるヤツじゃ…』
本当は言わない方がいいのだと分かっている。それでも言ってしまうのは、今の京司は俺を愛していると分かるからだ。思い出したのなら尚更。だから、少しでもあの時の俺の苦しみを、ほんの少しでも味わって貰いたかった。
「…亮一だよ」
『……は…?』
「亮一と付き合ったの、京司と別れて割とすぐ。だから、もう何年だろ?結構経つね。同棲してるのも、亮一だよ」
『…おい、なんでだよ?』
「なにが?」
『なんでよりにもよって亮一なんだよ!どうせお前のことだ、簡単にほだされたんだろ!ちょっと優しくされたぐらいで乗り換えやがって!』
あぁ、そういえばコイツ、こんなヤツだった。
「どうとでもお好きにどうぞ。俺は亮一のこと愛してるし、亮一も俺のこと愛してくれてる。…思い出すの、遅すぎたね?」
待てよと聞こえたけれど、気にせずに切った。その後は着信拒否してズボンのポケットに携帯を突っ込んだ。
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