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51,まんまとハマりまして
しおりを挟む「おかえりなさい、ロイ」
寝不足なのがあまりに心配だったのか、今日はレイに早くに帰されてしまった。逆らうことなんて出来るわけもないので大人しく馬車に乗り込み、屋敷に戻ってからは寝ていた。
だがロイスがそろそろ帰ると連絡が来たというので、わざわざ起き上がって玄関先まで迎えに行ったのだけれど。
帰って来たばかりの彼は俺を見るなり恐ろしい形相をして、腕を掴んできた。
「話があります」
「な、なに?」
使用人が目を丸くしてこちらを見ている。いつもなら出迎えてくれたことに喜びを隠さず、使用人の前でもキスをかましてくるような男だ。メイドたちの『何をしたんですか?』という視線がちょっとだけ痛い。
「私と結婚するんじゃなかったって、後悔してるって本当ですか」
「………は!?」
「しかも俺が妾を取ればいいと思っているそうですね。しかもあの人のことまだ忘れられず好きだとか」
話がややこしくて読めないが、脳裏にピンと浮かんだのはレイの顔だ。
(あっ………の、クソ王妃…ッ!!!!)
よくも部下とはいえ義兄を売ってくれたものだ。しかも、最後の方に言ってること。
「あの、レイ様から何を聞いたが知りませんが、」
「まだ会ってるのか!?」
あの人、がグランのことだとはすぐに分かった。何故あのクソ王妃が知っているかは置いておくとして、だ。
「ちょっと待ってください、落ち着いて。貴方も分かっているでしょう、グランとはもうただの友人です。それ以上でもそれ以下でもなければ、なったこともありません」
「………グラン……グラン・ユーシリア?」
「俺が今好きなのは貴方だし、それに結婚だってしてるのに…」
「まだ好きなんでしょう!?いつも城で見かけるたびに楽しそうに話して…!私が何も知らないと思って堂々と浮気なんて、」
「だから落ち着け!!」
思いっきり頭を殴ってしまったのはどうか許して頂きたい。なんなんだ、さっきから。何をどうしたら浮気だのなんだのという話になるのやら。
「レイ様の言ったことは大半は嘘です」
「結婚したこと後悔してるのは?」
「そ、れは………言葉の綾というか、恋人になってからすぐに籍を入れたので、もう少し時間をかけてもという意味で」
口から出まかせとはまさにこのことだ。考えもしなかったことがスラスラと出てくる。
「妾を取れというのは?」
「…俺は貴方の子を産めないから。別に貴方も俺じゃないと抱けないって訳じゃないんだし、」
「そうしたら自分も愛人を作って気ままに楽しく過ごせるのにって言ったらしいですね」
怒りを露わにするロイスに言いたい。たった今お前より怖い者ができた。この家のメイドたちだ。
「奥様、旦那様がどれほど奥様を愛してらっしゃるかお分かりにならないのですか!」
「私どもは旦那様に相応しいのは奥様だけと考えております!!」
いや、口々にそんなことを言われましても。
「言ってませんから。それ、レイ様の嘘です。…なんですか、それが本心の方が良かったですか?」
「そんなわけない!っ…けれど、グランのことが忘れられないというのは、本当ですか」
「だから嘘だって」
「じゃあ好きだったっていうのは?」
「………」
さすがに答えられません。だって嘘じゃないもん。けど、本当に吹っ切れた。あんな筋肉むきむき男に抱かれるなんてーーあ、割といいかも。………いやいやいや。
「レイ様から聞いたんですね。なんで俺の中で終わらせたことを知ってるかは知りませんが、愛してるのはこの先もずっと貴方一人だけですよ。…だからいつまでもそんなに怖い顔しないで、夕食にしましょう?」
「……不安なんだ。貴方がこの指輪を外してしまうことが、」
「外しませんから。ロイ、貴方ちょっとあの馬鹿王妃の言うこと信じすぎですよ」
「…すまない」
「早く着替えて。それで、早く休みましょう。俺にはついさっき朝イチでしなければならないことが出来ましたので。
あのクソ王妃、シメる。
「やだなぁ、そんな怒らないでよぅ」
きゃはきゃは☆と音がなりそうなくらい笑うレイに、ローレンはそれ以上怒る気力が湧いてこなかった。
「それで、なんでグランとのこと知ってるんですか?」
「グランって、グラン・ユーシリア?なんのこと?」
「…は?貴方が昨日、あの人に言ったんでしょう。俺が………昔、その…」
「………え、もしかしてユーシリアと恋仲だったの!?」
「違います!ただ俺の、」
「……いや、俺なにも言ってな………あー………」
明らかに心当たりのある反応に、目の前にどかりと座り込んでやる。無礼?構うものか。
「言え」
「……いや、本当に何も言ってないよ?ただちょこっと、そんなに初めての人が気になるなら『あの人のことまだ好きなの?』って聞いてみれば、とは…」
「……もうマジでアンタ消えろ」
「え、一応王妃なんだけど…」
「知るか」
まんまと引っかかった自分が情けない。
再度ため息をついて、ローレンはしばらく夫の機嫌をとる方法を模索するのだった。
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